実験をしよう
服用の図布を練るのはひと段落させて導石を練る。地形変動時の対策のために三つ同範囲に埋めると説明を受けたけれど、単品で埋めた場合道を繋げるリンクには問題ないけれど、情報の精度が劣化する。俺の流す魔力では出力を出せないということだろうか?
師匠などは間違いなく豊富過ぎる魔力で俺とはまるで違う世界を見てる。つまり最低三つの導石を同範囲に埋める作業は俺にとって必須になる。原因としては古い導石の残存魔力にもよりそうだけど推測でしかない。
つまり三つは必須で、もしかしたら四つ置いたら精度が上がったりするのだろうか?
推奨されないのは効率が悪いからだとはわかる。少し考えてこの古戦場にいる間に実験をしようと決めた。
朝の仮眠からこっち作った導石は六つ。野営地にはすでに四つ導石を埋めてある。先日までは古戦場の外周を埋めていくように導石を配置していた。それぞれの位置に三つも配置していないせいなのかリンクする距離が短くも感じている。だから今回はすでに配置した場所に導石を足していくことにした。
にーちゃんに朝食を配膳されて汁物と薄く削いだ肉を炙ったものを咀嚼しつつ、野営に必要な食材資材がありそうな場所をミルドレッド女史とヒロインと打ち合わせる。(ついでに俺の予定の報告)
精度を上げる実験をすると言ったら「してなかったの?」「基本を見習い時点で省略するのは感心しませんよ」と落とされた。ちらっと見たにーちゃんは汁物の鍋を横に置き、お茶用の小鍋をかまどにのせていた。水は魔法で出せるのでとても便利だ。この古戦場に水場らしい水場はないのだから。
「事前に周囲の地形がわかるってすごいと思うけどなぁ」
図布にひろがった地図に「わぁ、昨日より細かいね」と俺以上に嬉しそうに笑うので、頼りないにーちゃんだけどそれだけで安全確保に努力しようと思える不思議さだ。
ちゃんと考えると食事や汗を拭うために布を濡らすお湯も、それを浄化する浄化魔法も一番手際よくしてくれるのはにーちゃんなのである。ヒロインの浄化魔法はしっかりしているけど、自分とにーちゃん以外に対しては出来栄えが物損がある方向で荒いのである。
ミルドレッド女史は対象自分でないと無理らしい。できるのは回復魔法と、特に攻撃魔法が主体なせいで。
俺は地図魔法しか使えないしな。わかっていてそれでもいいとしたけれど、わかっていなかった自分が見えてきたような気もする。後悔はしてないし、もうしばらくは彼らの旅に同行する事でこの世界での生きのびる知識を入手……できるのかな。と少し不安になった。
いざとなったら温泉宿の誰かを呼んでみよう。もしかしたら助言もらえるかも知れない。
それもこれも今の現状できっちり努力して試した後のことだ。いっそもっと早く連絡しろと叱られる方が安心できる。
深呼吸して野営地から踏み出す。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
留守番をするにーちゃんがヘラヘラと軽い感じで手を振る。即座にヒロインが彼に飛びついて欲しいものを聞き出そうと質問責めにしはじめている。
その様子を見ていると「あーあ」という感じの微妙な笑いがこぼれかける。なんのための深呼吸か。
「うっし! 行くか」
夕暮れまでには戻ってきて仮眠を取らないと夜の除霊会が辛過ぎる。
自分が設置した導石の在り処はなんとなくわかるので道は迷わない。導石から読み取った情報も意識しておけば図布を広げなくても脳内にイメージが浮かぶ地図で確認できる。
これは前にはまだ出来なかった事だ。
これが地図職人として普通なのか師匠やケトムに確認をとりたいと思うけれど、二人とも何処にいるかわからない。せめて別の地図職人に会いたいと思うがこれもまた難しい。
リンクの距離と情報精度の関係性を確認したいのにな。この実地実験が正解かどうかもわからない。




