俺は地図職人
魔力を織りあげて編んだ図布を腕輪になった奴の本体に編みつけていく。まさか図布をこんなことに使うハメになるなんて思ってもいなかった。素の白ではあまりにも心許ない気がして墨色にしたら、したら、後悔した。
明るい色か。明るい色がいいのか!
どピンクとか!
蛍光ピンクを身につけているデカ娘を思い浮かべて後悔した。ピンクはダメだ。
図布を染色する。地図を描くのではなく色を染める。情報のイメージを地図に描くのだからそれと無関係に色もさせるはずだと試行錯誤してみれば色のイメージを強く持てばできるとわかれた。
白いパレットに垂らすカーマインレッドの絵の具。それは遠縁のおじさんが内緒だと言ってくれた古ぼけた木箱に入った真新しい絵の具セット。どの色も綺麗だった。カタカナで書かれたカーマインという名前の赤。
もらった木箱の中には絵の具のしみいっぱいで不思議なにおい。それはもう魔法の箱だった。汚れてボロっちいけれどちゃんと機能する木箱。パチンと留める金具。新しくないことがどうしてか嬉しかった。
あれはどこにしまい込んだんだろうか? 探しようもない遠さに息がつまりそうになる。
墨色の図布に赤いカーマイン色の花弁が散った。
『魔力切れですわ。エン、そこまでで』
「ソナー」
露出娘の声に俺は名付けたその名をこぼした。
呼び名は『聖槍・二十五番』と名乗った武具精霊に俺はソナーと名付けた。そこからより懐かれた気がする。
具現出現した彼女の肌色露出は少し減ったが、ピタリと肌にはりつき布の質感のむこうに肌の質感を透かし見せてくる赤い花弁柄の黒水着(谷間と腹は肌色露出)。多少は隠れたけどな!
古戦場の地下迷宮を浄化したいという暴挙をソナーは望み、ミルドレッド女史とヒロインちゃんはものすごく賛同した。見ててなにか裏があるんじゃないかと思うほどの勢いで。
夜間は死霊系魔物の浄化、昼は食材用の狩りと迷宮に入る用の保存食造りにあてられている。俺は導石作りにもあてている。
動きは少ないと言えるが、ソナーの望みである浄化には俺の多くない魔力が多めに投入される。それはつまり導石の在庫が増やせないということだった。
俺のやりたいことは地図作りである。
中断の声かけは有難い。だが!
「今夜は浄化に参加しないから!」
『なぜですの!?』
ソナーはぶるんとみつあみおさげを揺らして詰め寄ってきた。
圧迫感がキツい。
「魔力が溜まらず導石が作れないからだ!俺は浄化師じゃなくて地図職人なんだよ!」
『戦う地図職人。好いと思いますわ』
不思議そうに首を傾げられても困るんだよ。だから、必要なものを作る魔力が残らないし回復しないから無理だって言ってるんだけどなぁ!
分断される睡眠時間でいろいろと回復してはいるのだが、どこかにぶい疲れが残っている気がして仕方がないのだ。張りつくような疲労感が導石を作る阻害になっている。
そう説明すると、ミルドレッド女史が鼻で笑った。
「それはまだ疲労感が残っているべきだという先入観からの不調ねぇ。魔力回復剤と疲労回復効果を付与した結界の効果は三年間の連続儀式も可能にするから。つまり、貴方が向き合うべきは自身の先入観と迷いということね」
三年!?
そんな連続儀式あんの!?
というか、そんな結界だったなんて聞いてないし。
『エン! 魔力量はワタクシ、エン以上に理解しております。図布より石の方が必要魔力も低いです。ワタクシの衣装を優先なさる必要はありませんわ!』
俺のためとばかりに告げられるが露出反対である。
結局、この夜もソナーに好き勝手使われて死霊退治だった。
あとたぶん、筋肉痛も原因だと気がついた。
体の主導権を武器に預けると翌朝楽だった。なんていうか、苛だたしい。俺の体は俺のものだ。




