不本意な実戦!
肉を食って回復した魔力でもう少し導石を作り、体を動かす。師匠は体力馬鹿だったから基礎体力だけは上がった。ただ、持続させなければ意味はないと言われてもいるんだけど、そうなんだけど、師匠みたいに毎回気絶させては即回復させるスパルタ相手はおらず必然的に練度の劣る訓練になるんだよな。回復できないし。しっかりとした準備体操。伸ばす筋を意識する。せめてそのぐらいは続ける。まぁ怠けているんだとは自覚がないわけじゃない。
で、寝る前にまた導石を作る。
野盗避けと魔物避けの結界をミルドレッドとヒロインが構築する。
にーちゃんと俺は焚き火のそばでマントと毛布をかぶる。火が消えないように番をするのも役割だ。
にーちゃんはバラした肉になにか魔法をかけながら処理をしている。昨夜は集落で寝れた。今日はなにかあれば反応できればいいと思いながら意識を手放した。
パチリパチリと爆ぜる音は小さく、漂う空気は煮詰められた香草の甘さを含む青臭さ、ぼんやり見つめる炎は赤々とはぜている。折ってある枝を足せば火の粉が踊る。手首がチリチリと痛む。そこには見覚えの薄いリングが揺れている。手首がなにか先にいく。体の自由がきかない。叫びたくとも声も出ない。にーちゃんは寝ている。勝手に起こさないように気遣いをもって体が結界の境へと進む。
声をあげたい。体を止めたい。結界の境をくぐったのかパチンと空気が変わった。一気に汗が吹きだす感覚で身がすく……、いや自由にならない体はただ前進する。
付喪神つーか、呪われた武器かよ!
シュンッと伸びた武器が強制的に握らされる。振り回される体がようやく一部戻ってきた。手ははなれな……はなせる状況ではなかった。
たたらを踏んで周囲を見回す。
そこにいたのはぬべりとたつしゃれこうべ。腐敗臭を放つけだもの。槍はむかってくる魔物に狙いを定めて俺を振り回す。勢いよく短い刀身が魔物のしゃれこうべを切り落とす。リンッと音を立てて灰が散った。
たったんっとつま先が大地を掠める。腕に持っていかれる。だから、意識して地面を蹴り勢いをのせる。
こいつらは師匠よりずっと弱い。
外見がおぞましい分、身が引けるが対応できなくはないような気になる。
気のせいだけどな!
「そろそろ魔力欠乏になるから引っ込んでなさい。エン」
案内役であり、一番の保護者役たる神官の言葉に槍が暴挙を緩めた。どうやら魔力を食って動いていたらしい。
小さな音を立てて手首に巻きつく槍。
俺は結界をはってある焚き火を目指す。魔物達の動きがそれほど機敏でないのは救いだったと言える。
騒ぎの夜をこえて朝目覚めた俺を待っていたのは筋肉痛だった。
びっしびしに痛い。振り回され踏み込んでの繰り返しは師匠からはなれて怠けた体にやたらめったらなダメージを残していた。
「昨夜は削ってくれて助かったけど、エン、あなたは地図職人で戦いは本分じゃないのよ。自衛は大事だけど、本分をおかす行動は熟慮なさい」
ミルドレッド女史の言葉に俺は反論しようもなかった。昼過ぎにミルドレッド女史が見つけてきた古い小屋に移動した。がらんとしたそこはかつての倉庫のようなものに思えた。
軋む体を無理に伸ばして息を吐く。
そして腕にはまった付喪神に意識をむける。
「知性ある武器のようね。ウチの教義には関連情報はなかったけれど、そういうものはきちんと契約を結ばないと危険が伴うわ」
そのくらいの知識はあるわと注意されても俺はちょっと困惑する。
「やり方をご存知で?」
嫌味っぽい問いになった気がする。そんな俺の拗ねた気持ちを気に留めることもなく、赤い波打つ髪が揺れた。
「知らないわね。私には縁がないから。よろず屋なら知ってたかもね」
遠いよな。今。
俺の不信の眼差しにミルドレッド女史は何か思いついたとばかりににこりと笑った。
「よくある手段が血を与える。魔力を与える。誓約をするよ。試してみてはどうかしら? 死霊を祓う退魔の宝剣のようだし、試してみても損はないんじゃないかしら?」
「実例を見たいだけだったり?」
「それも、少しあるわ。でもね、その武器はエンを使用者と定めていると思うの。あとは上下関係だけでしょ」
俺の覚悟じゃなくて上下関係かよ!
俺が下になることもあるのかよ!?
「知性ある武器は種類によるのよ。機能的な知性か、武器である知的生命か、武器に閉じ込められた個人か、自然発生した精霊か。ってね」
対人関係と同じなのよとにこやかに告げられて反論が消えた。
固執され体の自由を奪われている時点で俺の立場かなり低くないか?




