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空気は読まないのが正解

「ああ、コレね。燃やすものを集めている時に見つけたんだ」


 握って軽く手首を振る。

 ギュイッと音がして一瞬、前方に体を持っていかれかけた。


「すごいね」


 のほほんとしたにーちゃんの声にあぜんとした意識が戻ってくる。

 俺の身長よりありそうな長さの先、きらめく刃が先端に付いている。少しわん曲した片手より大きく半透明な刃にはなにか刻み込まれている。

 というか、なんでいきなり伸びた!?

 次の瞬間、背からの圧力で視界に地面が広がった。


「おにいちゃんに切っ先むけるなんてどういうつもりかしら?」


 ヒロイン!!

 暴力ヒロインは恋愛対象にだけ過激なんじゃないのかよ!?

 主にそれ以外に厳しいのがこの女だ。


「の、のぞみちゃん、エンくんは僕に見せてくれようとして、ね?」


 ゆっくりと自信なげに俺に首を傾げてみせる。いや、俺も対応できねーから。驚いてて。


「振ったら伸びたんだよ。にーちゃんにケガはない、よな?」

「あ、うん。ケガはしてないよ。びっくりしたけど」


 確信がもてなくなって不安になればにーちゃんが慌てて答えてくれた。


「だから、どけよ。重い!」


 ずしっと背中にかかる重圧が増えた。瞬間で体重増加だと!?


「あーら。ごめんなさい。重くってぇ」


 嫌味たっぷりに声が移動する。まだ、重いだと!?


「わぁ。猪、ぽいものだね!」


 スゴいとにーちゃんが嬉声をあげる。


「あら、ノゾミ、おかえりなさい。血抜きはした?」

「え、まだ、かな」


 このヒロイン、狩ってはくるが、解体は苦手である。ちなみに俺も解体シーンは遠慮したい。


「そ。エン、あまりそれを弄っていると魔力が足りなくて導石作れなくなるんじゃないかしら?」


 テントから出てきたミルドレッドがそんなことを言いながら魔法を使って処理をはじめたのだろう。重さが消えた。

 は?

 あ!

 そういえば、こいつに魔力吸われたんだった!


「え。困る!」


 導石作れないじゃないか!


「そう。困るのよ。切り上げてそっちに集中してちょうだい」


 持っていてはいけない物として手放そうとした俺に反応したのか、しゅるりと小さな棒状に戻った。折ったカッターの刃をつけた鉛筆のようだ。なんとなく手放せない感覚を受けて俺はそれを収納袋に放り込んだ。手放さないけれど、魔力を奪われるのはとても困る。

 で、この場で解体がはじまりそうなので、俺は導石を作ると言って裏に逃げた。

 内臓系が披露される光景に前回耐えられなかったので二度目はごめんである。不思議そうににーちゃんが慣れるよって言うが、あまり慣れたくない。


 匂いは魔法で封じるのかして流れてはこない。視線を向ければ見える場所だ。魔法万歳と思いながら呼吸を整える。導石を作る。それに意識を集中する。

 地理的生物的情報収集蓄積他の導石との情報魔力交換。有毒物質の判別判定。ただしこれは俺仕様の有毒判定。他の導石に導入されている仕様の調査。それだけ詰め込んでいるとくらりと目眩を覚える。

 目をあければ手のひらの上には四つの導石。予定よりふたつ少ない。

 少しは魔力量増えているはずなんだけどな。

 魔力はゆっくり過ごせばじわりと回復していく。一気に回復させるにはクソ不味い泥水のようなお茶がある。炊くのに時間がかかるけどな。

 あー、こいつのせいか。

 視界の端に鉛筆程のサイズになった拾い物。袋に入れたよな?

 手を伸ばせばぐにゅりと形状が変わった。

 手首に絡みついた拾い物……。


「外れねぇ!?」

「エンくん、お肉焼けたよぉ」


 空気を読めないにーちゃんの声にフッと脱力する。あー、とり憑かれている自覚が薄かった俺が悪いのかねぇ。

 とりあえず、肉を食いにいこう。


「今、行く!」


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