表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

古戦場跡での野営準備

 通常は一ヶ所に三つ配置して埋める導石。

 ただ、今回はこの野営地と拾い物をした辺りと少し迂回した場所にひとつづつ配置して埋めてみた。範囲としては余裕で同一範囲ともいえるが、ひとつが破損した場合他方とのリンク切れを起こす可能性が高いと言われている方法だ。

 この野営地は前に埋めた導石との共鳴範囲に入っているはず。入っていなければ薪集めを兼ねて少し戻って埋めなくてはいけない。

 そんなことを考えながら呼吸を整え、図布を広げる。

 図布の端に手をのせて導石とリンク。情報を吸い上げ、図布に転写する。まずは広域。朝出た集落までの道は回収できる。タフトから人形の家までの移動は距離があり過ぎて地図に載らない上に人形の家から古神の入江と呼ばれる湖までは地下河川を移動したために位置関係が一切不明になってしまった。

 タフトにも師匠達と過ごした洞窟にも事実上帰る手段がなくなった状況だ。せめて、トラジェでもと思うが、それも遠い。というか場所がわからない。いつか地図は繋げることができるだろうか?

 朝から昼過ぎの今までの時間で思ったより距離を歩いていなかったらしく壊れかけた街道と古戦場跡の一部が地図に足された。新しい埋めた導石を起点に他の地図職人が埋めたらしい古い導石の反応がいくつかある。それでも、この古戦場跡を覆い尽くしてはいないようだった。

 反響から地下迷宮があり、死霊系の闇生物が存在するというデータがとれた。迷宮の入り口は導石の反響範囲には見つからない。

 観察されることに反発を覚える何かがいるのか、浮かぶ情報はところどころノイズが混じっていた。


「お疲れ様。エン」


 柔らかで無関心な女性の声。

 赤毛で旅装束の女性神官、ミルドレッドが夕食の取り分であろうカップを差し出してきた。その視線は地図を見下ろしている。

 地図から手をはなしてカップを受け取る。

 カップ越しに伝わる温もりにホッとした。さしこまれた木匙を使って肉粥を味わう。固焼きのパンは干し肉汁を吸って旨い。干し肉だけでも辛いし、かたいしパンだけでもかたくて口の中の水分を持っていかれる。集中したあとなんかにはもう最悪だ。だから、それを回避できるにーちゃんには感謝しかないのだ。

 人心地ついて息を吐く。

 ミルドレッドが地図を辿っていた。

 集落には彼らが呼称していた名前が浮かんでいるからわかるはずだ。


「エン、この施設への入り口はわかるかしら?」


 俺も気には、なるけどね。


「この古戦場跡すら覆えないからなぁ。あといくつか埋めたらなんとかなるかもだけどさ」


 阻害が入っていてもある程度はなんとかなることが多いのだ。だけどミルドレッドは使える導石の在庫が常にギリギリだと知っている。


「そう。ではこの古戦場跡で風雨を凌げそうな場所は?」


 薪を拾いに行った範囲にはなかった。あったのは燃え落ちた残骸。


「そう。では明日の午前中は私が見に行きます。その間に石を増やしてくださいね」


 沈黙に答えを見出したミルドレッドは結論を告げてテントの方へと向かう。

 ふぅと呼吸を整えて地図を見下ろす。大雑把な広域地図。この古戦場跡は広いことがわかる。多分、一日や二日では抜けきれないのだと思う。


「雨は降らないわ」


 入れ替わるようにやってきたのは女子高生。黒のポニテに気軽に着こなすこちらの服はシンプルな無地だけど金属アクセサリーや重ねる布で華やかだ。


「だから、外で寝てね。結界は張っておくから」


 にこりと笑う彼女はおそらく拒否を受け付けない。

 かまわないと手を振ると彼女は遠ざかることなく、地図を見下ろす。


「狩りやすい動物はいる?」


 俺は古戦場跡付近をズームさせる。熊梟や猪、烏、適当に生物はいるようだった。


「いるわね。いってくる」


 パンと手を打って駆け出す彼女に迷いはない。

 旅の仲間、女性陣が攻撃力過多で好戦的なのである。


「行ってらっしゃい」



 図布をしまい、火のそばに行くとにーちゃんがにこりと笑う。心細かったんだろうかと思わせる笑顔だ。

 鍋の中には道中摘んだ香草がコトコトと煮詰められている。

 青臭い気もするが砂っぽい乾いた空気よりは居心地が良かった。


「ごはん、足りた?」


 カップを回収し、魔法で綺麗にする。地図作成魔法に特化した俺には使えない魔法だ。


「ん。満腹になっても集中できないし、ちょうどいいかと思ってる」

「うん。よかった」


 へろりと笑ってカップに香草の煮汁を入れて魔法で冷やして渡してくれた。どこか酸味と塩っぽさが強く飲みやすかった。


「集中し過ぎて水分とり忘れそうだから」


 あっという間に飲み干してしまったカップの中には溶けてない氷の塊がてらてらと深い緑にきらめいている。

 もうひと掬い煮汁をもらって今度はゆっくりとすする。苦い。


「それ、持ってた? キレイだね」


 ためらいながら指で示されたのは拾った棒だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ