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古戦場

 広がる荒野ははじめて目をあけて見たこの世界の風景に似ている。

 違いは赤茶けた砂っぽい地面に黒い炭と妙に尖った砕けた骨とへしゃげた武器が散乱していること。持ち主をなくした古物を拾い売る拾い屋が「落ちてるモノには気をつけろ」と古戦場と呼ばれる荒野に出る前に忠告してくれた。生き血を吸った武器に精霊や悪霊が宿り使い手を選ぶのだという。それはわかりきった事なのだと息を吐く赤毛の神官はこの近道を選んだ。

 もう少し拾い屋の話を聞きたかったと思いながらも俺に今の旅の仲間から外れる気はなかった。

 赤毛の神官が砂埃除けにかぶっているマントをはたく。二人分のマントを使い、簡易テントを張ることにも慣れた。

 特に便利な魔法を使えない俺は率先して焚火の燃料になる物を探しにいく。

 武器だった金属が多いが、朽ちて乾いた枝や燃えそうなガラクタはいくらでもあった。

「本、かな?」

 一頁、一頁が分厚いもとは本だと思われる束は触れると簡単に解けていった。内容は残念ながら読めない。

 束の中にきらりと光るものがあった。

 十五センチくらいだろうか。小刀やカッターのような持ちやすい棒だ。埃を払えば埋め込まれた宝石を囲むように模様が刻まれていた。


「あー、ぼろぼろだな」


 宝石はヒビ割れ、欠けているように見える。

 つい、手に取ってしまった。

 ひゅっとなにかが抜けていく感覚。この感覚は知っている。魔力が抜ける感覚だ。魔力が吸われていると、気がついた瞬間手をはなそうと意識する。が、抵抗を感じた。


「なんで!?」


 声を合図にしたかのように魔力の奪取はおわった。ヒビ割れているように見えた宝石が綺麗に艶やかだ。置いていこうと思えないのは思考誘導だろうか? こわいと認識すると宥めるような伺うようななにかを感じる。


「これが付喪神付きの武器、知性ある武器って奴か?」


 つまり、俺はとり憑かれたのだろう。

 死なないように加減された気もするし。ただ、魔力が奪われたのが痛いなぁと思う。燃やすものとその小さな武器を持って運ぶ。

 所有する収納袋に入れるべきか、背負い袋にコップと一緒に吊るすべきか少し悩む。意志があるのなら置いていくのは偲びなかった。


「おかえり」


 小さな火。だれかが魔法で出した水が鍋の中で小さな泡をはいている。


「おう。燃やすもの拾ってきた」


 小さな燃料と魔力で燃えていた火に木片や枯れ枝をつっこむ。慣れないうちはやたら煙を出させて火を消したのは忘れておきたい。

 器用に肉片を削り、手前の集落で交渉したパンのようなものも同じように削っていく手際はすごいなと感心する。

 あまり目立つようなことではないけれど、飯を食わないと腹が減るので料理ができるのはすごいことだと思う。


「うん。ありがと」

「えー、ただの分担だろ」


 それに彼女に料理をやる気だして欲しくないし。

 旅の仲間は俺を含めて男女二人の四人組。いうなれば主人公はその高校生女子だ。もう一人は現地の人で案内人。俺は旅をしたかった別口便乗組。彼は彼女と一緒にきた彼女の想い人で異世界トリップ二度目というちょっと特殊なにーちゃん。イラッとすることは多いけど、彼女らの毒より俺には気楽だった。


「できることをやる。それでいいだろ」


 火の扱いは調理者任せがいいだろうと焚き火の燃料追加に拾った束を差し出すと、「童話だね」とパラリとめくる。


「読めるんだ」


 少し驚いた。


「うん。前の時に色々よくしてもらって」


 残念ながら会話に不自由はないけれど、こちらの文字はほぼ読めない俺としては結構羨ましい。

 いくつか言語はあって読めるのはごく一部なのだと、残念ながら書けないしとよくわからない主張をされた。いいじゃん。別に。読めるんなら。


 笹原由貴。

 彼は俺より年上だけど、俺よりどこか頼りない。よろず屋と呼ばれる面倒見のいい仲介屋の家でしばし寝食をともにした仲だ。

 イラつくし、もどかしいけど、見ていて面白くない訳じゃない。

 俺に勢いで怒鳴られてても一時間後にはけろっとしてる。時には本気で忘れてる。あと、たまに俺の名前忘れてるだろってことがある。まぁ、そんなにーちゃんなのだ。

 対人にびびって怯えている姿は別に俺に原因があるのではなく、誰に対してもうまく距離がとれないだけ。

 慣れてきゃいいだろと言うとヒロインちゃんは必要以上の勢いで俺に敵意をむきだす。にーちゃんに負担かけるなって怒るんだけど、なんつーか慣れるのは対応できる俺なんだけどねって思う。ま、言わねーけど。

 うっとーしいけど、それが楽しくもあるんだよな。ついでに一番負担かけてるのはヒロインちゃんだ。


 ヒロインちゃんが受信する神託で行くべき方向は決まる。それは比較的安全な道行きで戦闘力を持たない俺やにーちゃんには助かることだ。女性陣に守られてることに多少の引け目はあるけど、向き不向きだ。

 つまらない思考に囚われるのを中断して息を吐き導石をいつものようにつくる。

 一日に作れる数は増えてきたと言ってもまだ調子が良くて十を越えるくらい。一日に移動する距離が多くなるとあっという間に足らなくなる。先日まで集落に居たから予備はあるとはいえ油断できない。

 旅に出るとよろず屋の家も師匠と暮らした洞窟すら懐かしい。

 夕暮れの空に大きな影が見える。

 この古戦場跡を抜けるのにどのくらいかかるんだろうか?



診断メーカーから

出逢った場所は古戦場でした。

貴方だけの相棒、どうか大切にして下さいね。

#診断メーカー

shindanmaker.com/809156

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