よろず屋
「話はちゃんと聞きたいんだがな、他にも客がいてバタついてるんだ。悪いな」
青い髪を掻き上げてよろず屋がため息。
薄暗い廊下を歩いて案内されたのは書庫だった。
辞典図鑑クラスの分厚い本がところ狭しと詰められている。
「瞑想も読書もできるから、文字の説明は受けた?」
「文字はまだ……」
「そっか。なんか、考えるかぁ」
バタついてる間、手間をかけるなって事なんだろうと思いつつ導石の生成準備をする。
呼吸を整えて、なにかを包む形にした手の中に光を詰める感覚。
必要な要素をひとつひとつ。
外側。音や温度を拾う感覚。情報を集積分析する機能。魔力の流れを読み取る力。それは植物なのか、動物なのか、行動習性のサンプリング機能。
ひとつひとつ増やして、それを伝える感覚に同じ導石同士の情報共有共鳴機能。
思いついた機能は増やしていく。
集積された機能が一定を満たせば、そこに導石は生成されている。
共有共鳴機能は意図して織り込まないと発動しない。
俺がそれに気がついたのはケトムからは共鳴情報共有が出来たのに、俺からはできなかったからだ。
情報を得る集めることを考えたら、少しは繋がり、他の導石の情報を得て、かつ、活用、リンクするという意志を織り込めばあっさりとケトムの導石と共鳴した。
ケトム、無意識にやってんのかよ。
いや、地図を作る常識の大前提は違うんだから、俺がもっと色々織り込めばいいだけのはずだ。まだ、スカスカらしいし。
よろず屋が様子を見にきたのはふたつめの魔力回復薬を口に放り込んだタイミングだった。
「夕食にしよう」
案内された応接室には赤毛の女が待っていた。
直線的な白い衣装。それでも胸の膨らみが少し目を引く。
直視し過ぎないように視線を移す。テーブルにはすでに食事が並べられている。果物とパンと焼いてソースを絡めた肉。
「こんばんは」
柔らかく女が声をかけてきた。
「こんばんは」
胸元に視線を送らないように俺も挨拶を返す。
「ミルドレッド、こっちはマドカちゃん。マドカちゃん、こっちはミルドレッド、神殿に仕えている不良神官な」
「誰が不良よ」
「マドカじゃなくてエンです!」
にやにや笑うよろず屋に俺と赤毛のミルドレッドは顔を見合わせた。
「ミルドレッドよ」
「エンです。はじめまして」
あらためて自分で名乗りながら食事にする。
「果物と魚なのね」
「簡単。新鮮。安い。大事だと思わないか?」
ミルドレッドの言葉によろず屋が笑う。
「調理されたものに不満はないわ」
ツンとしたミルドレッド。
言葉と態度からも二人の仲の良さは知れる。
魚と言われた肉は噛み応えのあり、じゅわりと広がる味はポークウィンナーを思わせた。ん、ソースの味だろうか?
「つまり、エンも客という訳ね」
グラスに注がれたアルコールと思わしき飲み物に口をつけつつ、赤毛美女が首を傾ける。
「そ。会話言語と軽い交流手段はクリア。自活しうる技術は地図職人として成功すれば問題ないだろうから、優良な客と言えるかな。あと、もう少し予備知識はあるべきだけど、雨季が終わるまでになんとか誤魔化しが効くようになると思うな」
優良と評されたのはうれしいけど、なにを誤魔化されるんだ!?
食器の片付けを手伝い、浴室の使用を促される。
「ウチに浴室があるのは珍しいんだけどな。ある設備は利用するもんだから」
この世界の廊下は暗く覚えさせないことが普通なんだろうかと思うようなつくりだ。
ところどころに魔法灯板と呼ばれている照明が垂れさがる布に光沢を加えていた。




