再びのタフト
一番の荷物は固定化した図布を入れる特製の筒。収納袋に入れると劣化するから邪魔でも保持。ケトムは収納して毎回補修してるらしいが俺にはそこまで魔力余剰がない。
筒の上下には補助具でもある導石が呪術式をもって配置されている。らしい。俺にはよく理解できない呪術式で説明は『そういうもの』だとすっ飛ばされた。小さな収納スペースがあって魔力を込めた導石が入れられるようになっている。
出発までに作り出した導石は二十五個。
一回に使う正規数は三。
道沿いは他の地図職人が導石を設置しているので使用数は少ない一〜二個でもなんとかなると説明を受けた。
表でケトムによる実地演習。
師匠が無理矢理作った導石の空白地帯。
導石からどれほどの範囲の情報を受け取れるか、他の導石からどれほど情報を受け取れるかの練習。
はじめは視認範囲しか地図に反映させられなかった。
それでも、反映させられた喜びは半端なかった。
繰り返しの訓練でなんとか歩行一時間分の距離を反映させられるようになった。
嬉しくて楽しくて不味い魔力回復薬も気にせず飲めた。少しずつ反映範囲が増えていく。
自分以外が配置した導石がある場所は拾いやすく感じると師やケトムに告げると、
「タフトまでの道中は自分の拾える範囲ごとにひとつ導石を仕込め。別れ道には十中八九、他の職人も導石を仕込んでるから少し進んだところに配置しろ。タフトから出た後は必ず一箇所につき三個配置すること。変動で導石が壊れる事も流れることもあるからな」
「移動前には多めに導石を準備しておかないと連続地図が作れないぞ」
導石と導石は共鳴しあい職人が受け取れる範囲で図布に反映させられる。
大陸地図が描けるようになれば一人前で、旅する地図職人は空白地を埋めようと旅を進めるらしい。
どうせなら自分の導石で完成させたいのは夢かもしれない。
あと、適当な距離に自分の導石がないと共鳴がし難いという問題もあるとケトムが教えてくれた。
師匠は他人の導石でも簡単に共鳴させるため、問題視していないだけらしい。
ただ、問題は俺が現在一日に作り出せる導石は三個から四個。
つまり一日の移動距離は徒歩一時間の距離に限られるのである。
あんまりにも問題外だよな!
隠れ家からタフトまではケトムが送ってくれた。
タフトに着くまで三日。
よろず屋の事務所までたどり着いた時に残っている導石は(一箇所に一個しか使ってないのにも関わらず)五個まで減っていた。
水に沈んだ街の水路を舟が行く。
「再び師に出会うまでに自ら満足できる地図を成すがいい」
ケトムの言葉に頷く。
「……師のことだから気が向けば即、エンに会いに飛んで行くだろう。なるべくは止めるが」
「ありがとう。ケトム」
正直、旅立ちの前に「よぉ!」なんて来られても困る。
「雨季の間に導石をしっかり作っておく事だ」
出迎えてくれたよろず屋に手紙を渡すとケトムはその舟で引き返していった。
「地図職人としての技術は手に入れることが出来たのか?」
「もちろん!」
最低ラインだけどね。




