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理解にはまだ至らない

 温泉宿にいたのは三日くらいだったと思う。

 その間に俺はこの世界のことを、クレメンテ達とは少し違う視線からの説明を受ける。

 コオリイヌはこの世界におりた時、そこにあった街を凍りつかせ何度となく組まれた討伐隊をやっぱり凍り付かせて寂しい思いをしてた時に『森』に招かれたとか、カワヘビは人によって召喚され、使役されたがその枷は脆く暴走。はじめは『森』の兄弟である『砂』のところにいたが入れ替わりの激しい場所だったので、『森』の声かけに従って『森』の元に居座っているとか。

 どちらかというと、特殊な例のような気がしたけれど、それはそれで珍しくもない事案らしい。(少なくとも互助会とは無縁そうだってこぼせば、『ここが互助会のようなものだ』とも笑われた。でも納得)

 ヌマヘビの話によると、ヒドラは多方面において向学心が高く、拘り方も尋常ではない。それが最も向く方向性は生存、つまりは戦闘力に比重の大きい種族らしい。複数ある首ごとに特殊能力があることが多く、少なくとも一本から二本は回復生存系に特化しているらしい。(まずつぶすのならその再生首を落としてからでなければ倒すのは至難の行為だとか)

 あれ?

 なんでヒドラの退治法の話になってるの?

 まぁ、早い話が退治不能に近い多頭ヒドラ(圧倒的戦力が必要って話らしい)が守護してる土地だと安全に生き方を学べて、戦闘欲求も満たされる(戦いたいのか!?)楽園らしい。

 それでも、楽園論以外にもふらっと旅をして世間を知っている者もいるらしく、対人関係には気をつけろだとか、その場で権力のあるやつを見抜くようにしろだとか、マジ困ったら呼べだとか、早い話、甘やかされた。

 自分が特別じゃないことに腐った時間や迷った時間がばかみたいに無駄に思えてまた腐る。

 もう、こうなってくると腐って立ち直ってって繰り返していくことだけが俺の目的かって錯覚しそうなぐらい。

 そうこぼした俺に向けられたヌマヘビの眼差しはやわらかかった。

「子供はそうやってひとつを何度も繰り返していくもんだよ。知って触れて失敗して何とかこなして、乗り越えて過信して躓いて理解した気になって迷って、それからふっとわかる日が来るんだ。わかった時には躓いて凹んで悔やんだ時のことを忘れてることが多いけどね。今、地図作りの弟子は『わからなきゃいけない』と自分に言い聞かせることで分かろうとしてるんだよ。たぶん、どこかで解りたくないんだと思うな」

 どろりとしたほんのり暖かな泥沼。

 ヌマヘビの泥風呂は屋外の沼だった。

 ひたすら美肌効果を解説されたけれど、右から左に聞き流した。


 滞在中、学んだことは多いと思う。


 魔力の感じ方や操り方。多様な理解の仕方を披露されて、パンクしかけつつも感じられるようになった。

 ひとつずつ。

 進んでいけると思えた。



 一番良かったと思えたことは、何気なく伝えられた「特別ではないありふれた事象であれ、出会えて関わって好意がそこに抱けたのだから、エンは特別だ」という、森の言葉だろうか?

 それとも「いい弟子だろう。羨ましいか」とか、弟子だとも思ってたかどうだか怪しい師匠の発言だろうか?


「さぁ、隠れ家に帰って修行再開だ」

 師匠の言葉に俺は迷うことなく返事をした。

「はい!」

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