慰安旅行中
「神様はね、乗り越えられる試練しか与えないんだよ。だから、他の人の試練を奪っちゃいけないんだよ。それは、その人用の試練だから他の人がやれば、楽すぎたり、乗り越えられなかったりするから」
コオリイヌと呼ばれている少年が果汁をフローズンにしながら語る。
「コオリイヌ、地図作りの弟子が困ってるぞ」
ヌマヘビと呼ばれている青年がけらけらと笑って注意する。
「神様っつーか宗教は結構コワイから気をつけろよ。関わる時は」
注意を受けて慌てるコオリイヌをなだめながらヌマヘビが忠告をくれる。
「宗教」
「ああ。この世界では『神の力』っつーのが作用するんだ。魔のモノの力以外にもな。魔のモノの大半が人の負の感情を好むように、人の信仰を活動源にしている存在がいるんだよ」
「あんなの神様じゃないよぅ」
「コオリイヌ、信仰は自由だぞ」
たしなめられてコオリイヌはぺろっと舌を出してから黙る。
そのままヌマヘビが魔のモノを神として信仰するケースもあると教えてくれる。
「彼奴らも『神』と呼ばれかねない存在だな」
そっと促される視線を辿れば、師匠と『森』の戦闘中だった。
「一、晩中?」
あぜんとした俺の反応が面白かったのか、コオリイヌが果汁を差し出しながら笑う。
「早ければ、三日くらいで落ち着くよー」
昨日とは柄の違う着物の裾を捌きながら女将さんが寄ってくる。
「おはようございます。エン様。こちらにお膳準備いたしますわね」
どうぞ、観戦しながら寛いでくださいと言われてとまどう。
必要以上に構われて厚遇を受けている気がする。
「身だしなみ気になるなら、川風呂からなら観戦できるよ!」
お風呂入りながら観戦かつ朝飯!?
朝飯と風呂は別枠希望!
「なんで、親切にしてくれるんだ?」
迷い客は珍しくないって聞いている。
俺に何か役割があるわけでもない。
同情されてるのか?
何もできない迷い客として。
言葉なく視線が泳ぐのが居ごこち悪い。
「面白いから?」
「地図作りの弟子だし?」
「まあ、同じ迷い客仲間だし?」
「旨そうだ……ぎゃんっ!」
「地図見んの好きなんだ。職人の個性が出るから!」
今、なんか、旨そう……って?
「一番は面白いかな。あと、地図作りに気分転換に雑学突っ込んどいてくれって頼まれてる。雑学聞く気あるならみんな話すの好きだし、エンの話しももちろん聞きたいね」
ヌマヘビが総合意見をまとめて伝えてくれた。
旨そうって、誰か言ってなかったっけ?
「朝御膳ですわ」
深緑の布地に包まれた板が石の上にわたされてその上に座布団とお膳。緋色の日傘が広げられた。
ここは布も緋色じゃねぇの?
準備されている黒光りするお膳の上に並べられている食事。
五目御飯。焼き魚。野菜の揚げ物に竹ザルに入った豆腐。茄子っぽい漬物。油揚げと青葉の味噌汁。
味は昨夜食って夢の味と知っている。
俺は泣きそうになりながら朝飯にありついた。
「あ。ケトムはどこ?」
「お嬢さんは美容コースですわ」
女将さんがにっこり教えてくれた。
あ。
これは追求してはいけないヤツだ。




