息ぬき
久々に出た外の陽射しは眩しかった。
導石と自分の魔力をリンクさせる術は教わった。
手の中で淡い輝きを放つ石を握りこむ。
この石が周囲の情報を拾い集めるらしい。それを回収して図布に映す。それが地図職人の仕事だ。
一回目は情報を受け取った瞬間、意識が飛んだ。
情報を受けとって図布に展開するまでに何度繰り返したかわからない。
師匠の補助の中やってそれだ。
「しかたないな。気分変えるか」
引っ掴まれて担がれた。ケトムが駆け寄ってきたのは覚えてる。
目が覚めたのは和室の布団の中だった。
「は?」
畳にふすま。うっすら開いた障子の向こうにはなんか、縁側があって、池。生け垣が視界を狭くしている。
「起きたか。露天行くか?」
は?
ふすまを開けて入ってきた師匠は物分りの悪い俺に苛立ったのか、舌打ちをした。
いや、状況さすがについていけねーよ?
和服な師匠って違和感だよ!?
「風呂だよ風呂」
露天で風呂?
露天風呂!?
「地図作り、状況教えてやれよ」
師匠の後ろからのほんとした印象の男が笑いかけてきた。師匠よりちょっとだけ小柄で細身の印象。それでもデカイけど。
「ようこそ、我が温泉宿へ。のんびり疲れを癒していってね。夕食までご自由に」
「泥風呂とか、氷結風呂とかあってなかなか楽しいぞ!」
宿の人の穏やかな挨拶に興奮気味に師匠が言葉をかぶせる。
「人は氷結風呂とか溶岩風呂とかには入れねぇよ。死んじまうだろうが!」
がすっと勢いのいい音が響いて師匠が少し前のめる。
ああ、師匠やこの宿の人は入れるんだ。
「ここはオレの支配地だから地図は作れない。その分、気楽に過ごすといいよ」
「あ、コイツまでそこまでいってねぇから」
師匠と宿の人の会話は非常に漫才じみたものがあった。
そして、状況の説明は後でケトムに聞いた。浮かれた師匠はあてにできなかったのだ。
師匠の気分転換らしい。
どこか和風の建築を取り入れた山の温泉はところどころふざけていた。
本気で氷結風呂とか溶岩風呂があるのだ。溶解風呂とかも!(師匠、迷わずザブザブと入っていった)
河原に穴を掘って入るタイプの温泉もあって、どこの遊戯場だという勢い。
川にはたてがみのある蛇のような管理人(自称)がいて風呂を掘ってくれたり、湯着の置き場説明をしてくれたり、冷えた飲み物を出してくれたりした。
逗留客は珍しいらしい。
そして、目の前で「夕食の食材は任せろ!」と巨大魚との格闘。
カジキマグロっぽいけど、ここ川だよな!?
「楽しかったか?」
部屋に戻れば先に戻っていたらしい師匠が陶器の椀でぐいぐい呑んでた。
「おかえりなさいませ。お食事にいたしましょうね」
師匠に酒を注いでいた女性がにこりと笑う。
金色の髪を複雑に編み上げてモノトーンの着物がすごく映える美人だった。
「女将、エンには酒入れんなよ」
「承知しておりますわ」
そのあとは宴会だった。




