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買い物

 その夜中のうちに水没都市のよろず屋から出た。

 夜とはいえ、街中は人通りは多く、ケトムが手を引いてくれる。

 人通りが多い理由は「もうじき雨季で街が沈むから」だとか。

 石畳の道は人が踏んだゴミで溢れてる。ガラクタ売り、何の肉かわからない焼肉売り。キラキラした店の照明は色とりどりのランプ。布に巻きとめられた金属に光を反射させている。街は明るく賑やかだった。

「流動期の影響?」

 聞けば、師匠が肉と酒壺を担ぎながら振り返る。いつの間に買ったのだろう。

「この水没都市は安定してるからな。この辺り固有の季節性ものだ」

 季節性なんだ。って、固有?

「この辺りには力の強い固定可能者が多いってことさ。ケトム、生活用品テキトーに揃えておけ。しばらく街には近寄らん」

「わかりました。お師様。エン、行くぞ」

 面倒そうに会話を切った師匠の言葉に従うケトムは慣れたふうに街を買い物へと練り歩く。歓楽街より市場だとばかりに。

 木製のカップ。皮布。薄めの布。大判の布。細い紐に縄。とりあえず、大量の布が袋に詰められていく。そして、着替え。専用のナイフ。金属の串が数本。鍋と鉄板。あと雑貨を大量。

「エン、この布を巻け」

 手振りを見て、手渡された布を見下ろす。

 深い緑に染められたそれはマントのようだった。

「おー。かっけー!」

 身に着けようとして、動きが止まった。

「エン?」

「ケトム、どっちが上?」

 とゆうかデカすぎて扱えなかった。

「……はじめてか?」

「はじめてです。教えてください」

 様子を遠巻きに見ている店の人が笑っていた。

 ケトムと店の人のアドバイスで巻きつけてもらったマントは意外と重かった。

「夜具としても使うから」

 寝床をまとって歩く。気分はでんでん虫?

 店の人がすすめてくれたので買ったベルトや紐で動きやすく調節する。この重さは慣れるしかなさそうだった。皮布の靴も勧められた。資金が不安だったがケトムが必須物として購入を決めてきた。

 店の人が笑顔で紐と端切れをオマケしてくれた。

 それから次は食材の買い込みだった。

「狩りもするが、狩った肉や実がすぐに食べられるとも限らんから」

 そう言ってブロック状の肉塊や袋を買い込んでいく。

 色とりどりの野菜だか果物だかは見なれない色目で食欲をそそらない。

 赤くは見えないから無害なんだろう。

 少しは母親の手伝いをしとくべきだったかとシブい気分になる。

 買い物荷物はケトムと俺の荷物袋にわけて納められた。万が一はぐれても生き延びれるように。

 買い物を終えて街を出ると師匠が待っていた。

 街からのびる道は二車線道路くらいの幅が最初はあった。

 進めば丈の短い草や横の木の根が道を狭めていく。使われていない道のように。

 振り返っても街の影が見えなくなった頃、師匠が森に足を踏み入れた。

 折れる枝の音。ぷんっと広がる青い匂い。

 木や草の放つ匂いが青く鼻につく。

 街の匂いがかき消されていくような気分だった。

 害獣や魔物に遭遇することなく夜明けまで歩く。こんなに歩くのはこの世界に迷い込んだ当日以来だと思う。

 本当に魔物や害獣って居るのかとすら疑ってしまう。

「エン、大丈夫か?」

 ケトムが問いかけてくる。

 大丈夫と答えたい。

 だけど、無理だった。

「も、無理」

 せめて、あともう少しとか、情報をください。

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