表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/51

魔力

 探索者(トレジャーハンター)だと言うシーファ。

 魔導師組合のクレメンテにユークス。

 互助会のマーベット。

 地図職人のケトム。

 色々と彼らは教えてくれる。

 きっと永続的な付き合いじゃない。それでも出会えた優しいヒト達。


「地図を構築するには情報の集積が重要で、集積、測定するためのモノを導石(しるべいし)と言う。これだな」

 ケトムに見せられたのはビー玉サイズの水晶体だった。

「コレに導石として足るだけの魔力で術式を組み上げ大地に埋める。自分で魔力を組んだ導石は魔力反響を感じ取りやすい。自分の魔力は読み取り易い」


 魔力反響?


「どう説明すればイイかな。世界には独自に魔力流が存在する。生きたモノの個々が発する魔力。混じり合った奔流。魔力は乱反射し、世界に満ちている」

 む、難しい。

「その魔力の質と波長を拾い集め理解し地図を構築する。つまり世界の情報を拾い上げ視覚化する。それが地図職人の在り方だ」

 くるりと指先で弄ばれる水晶体。

 ケトムの視線が揺らぐ。うまく繋げられないのか、説明に悩んでくれている。

導石(しるべいし)

 呟き、水晶体を握りこむ。

「そうだ。以前、師に聞いた言葉がある。異界よりの迷い客が残したものだと」


 え?

 迷い客の言葉?


「その迷い客もエンのように地図に興味を持ったらしい。そして、情報を集積する様を説明されて、『魚群探知機』のようだ。と言ったらしい。『音波探知機』とかな。しかし、あくまで魔力情報を集積しているのであって、音も魚も探知するものの一つに過ぎないのだがなぁ」

 理解できなげに呟くケトム。

 だけど、こっちはなんとなくストンと落ちた。

 仕組みこそ理解できないけれどイメージがわかった気がする。ニュースや特番で見ることのある魚影を探っているシーン。海底探査するゲームとかが脳裏をよぎる。そんな感じかと、わかったんじゃなくて難易度が少し下がった印象。


「わかりにくい説明ですまない」


 ケトムの声にたぶん、困ったような印象が感じられる。

「えっと、ちゃんと理解できたわけじゃないけど、なんとなく、難易度下がった感じです」

「……なぜだ?」

 ケトムの眼差しにはしっかり理解できる困惑が揺らいでいた。自分が理解できていないたとえ話に納得を示されての困惑だろうか?

「ソナーみたいなものかなぁと」

「ソナー?」

 なんとなくの知識しかない。うまく説明ができない。

「俺の世界には魔力ってものがなくてそのかわりに発展、発達? したのが技術。いや、俺も詳しくないんだけどさ」

 どう説明したら少しでも伝わるんだろうか?

「音の跳ね返る速さで測定結果を出すんだったっけなぁ?」

 披露できるのは曖昧な記憶がもたらす曖昧な知識。

 じっと見られている。


「崖っぷちで小石落として、その下までの距離を計るようなもんだな」


 おお。それだ。たぶん。


 声の方を見ればシーファがいた。

「そんな測り方するんだ?」

「ん? ああ。井戸とかな。本当に水があるかとか調べるのに使ったりするな」

 聞けば、答えながら持っていた皮包みを開いて、串焼きの肉を差し出してくる。

 赤黒くは見えない。つまり毒性はない。

 かぶりつけば、舌の上でとろける甘辛さ。

 ケトムも受け取りかぶりついている。

 串焼きを咀嚼しながらじっとシーファに視線を送り、嚥下してから呟く。

「その手法は理解できる。魔力の扱いを不得手とする者による測量法」

「そそ。固定地なら魔力測定じゃなくとも計測できないわけじゃないからな。そりゃ、地図職人の地図には敵わないけれどな」

 シーファは軽い口調で平面だし〜と小さく続け、皮包みに残ったタレをペロリと舐めとる。


「ケトム。その複写図を族長に譲ってもかまわないか?」

「譲るのは問題ない。導石を配置するコトは?」

「ああ、許可は出たよ。イイってさ」


 ほんの少し色の薄い地図をケトムはシーファに手渡し、地面を見下ろす。

「そうか。ではこの地点に配置しよう」


 ケトムは持っていた導石にもう二つほど、足す。

「導石は三つセットで配置。理由は変動があった時に関連性(リンク)が切れてしまわないようにだ」

 地形が変わった時の対策かな?

 キラキラと輝く導石(しるべいし)

「導石同士は共鳴する。共鳴の距離は蓄積魔力に準じる。……興味はあるか?」

「聞きたいです」

 不要な説明かと思われて話をしてもらえなくなる前に慌てて、聞きたいと意思を伝える。仕草が意味するところが日本人と違うらしいコトを感じる。

 視線を逸らさず見つめてくるコトが多い。

 ただ、夢中に語る時は空想上の地図をイメージしているのか、視線は何処か遠い。

「蓄積魔力は地図職人が地図をおこすために魔力を流す。その時に蓄積される。だから個人の魔力容量は重要な問題になる。確かに、導石自体が周囲の魔力を吸収するコトも出来るが周囲からの魔力だけを吸収した導石には魔力干渉がしにくいという特性が発生する」


 え?

 

 地図職人には魔力が必要。

 導石は三つセット。

 導石に周囲魔力ばかりだと地図を構築しにくい?

 導石にはリンクがある。

 リンクってなんだ!?



「だから、自分で魔力を注いだ導石を支点にして共鳴波状の情報集積を行う。その時に、自分の魔力の残滓のある導石があればより少ない魔力で共鳴をおこせる」


 そう言ってポンッと導石を地面に埋め込んでいく。



構築ゼ・ナン



 言葉と共に三点を結ぶ光線が煌く。



定着セ・タナ


 ひらりと広げられる専用図布。


 響き渡る金属音。


 新緑の香り。甘い花の香。


 浮かび上がる大樹の幻。

 垣間見えるのは人の動く気配。


 その気配がすごく、こわかった。


 それでも、


 描かれる地図にやっぱり心惹かれて仕方がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ