表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧:竹林華は俺だけを嫌っている  作者: 宇佐美ゆーすけ
第1話 竹林華という女
5/30

1話 竹林華という女 ⑤



挿絵(By みてみん)



 屋上に生徒が好き放題入れる学校。

 そんな学校があるなら教えてほしい。

 ほとんどの学校で立ち入り禁止区域に指定されている聖域。

 屋上とはそういうモノだ。


 ここ影鳥高校も例外なく、屋上へ生徒の立ち入りを禁じている。

 なぜ俺たちは立ち入り禁止されている空間に向かっているのかと言うと、俺がクラス委員だから。これが答えになる。

 クラス委員は、雑務用に屋上のカギを持っている。

 俺は慣れた手つきで鍵を開け友人2名を屋上に招待すると、すぐに鍵をかけ直した。


 屋上に出ると、朝あれだけ俺の行く手を遮っていた雨風が跡形もなく、雲の切れ目から顔を出した太陽はコンクリートに残った水たまりを光らせていた。

 

 万里は、以前に「ごはん食べる時あったら便利じゃん?」と、屋上の倉庫に忍ばせておいた簡易テーブルを慣れた手つきで広げる。

 3人が座る。ただの昼食会ではない。答え合わせだ。

 竹林華。

 こいつの話をしよう。


 雨が止んだ後の屋上は、1年ぶりにやってくる『夏』が、どういうモノだったか思い出させる。

 うっとうしい蒸し暑さが俺の体を包んでいた。

 そんな中、最初に口を開いたのは、友則だった。


「今日の2人は、らしくなかったんじゃない?」


 友則はあまり顔に表情を出さない。

 だが、その顔には怒りがにじみ出ていた。


「友則、お前は竹林をおかしいと思わなかったのか?」

「何もおかしい事なんて無かったよ。僕は見ていたからね」


 友則は見ていた。おそらく、俺や万里が知らない、気付きもしなかった、気にも留めなかった事ですら、友則は見ていたであろう。

 俺は竹林が普通ではないと気付いた。だが、現状で竹林の異常さを上手く説明出来ないもどかしさ。そんなモノが俺を苦しめた。隣から声がする。


「――おかしいよ。華ちゃんは、ぜったいおかしい」


 その声は少し震えていた。

 見ると目には潤いがあり、今にも泣き出しそうな万里が自身の唇を嚙みしめていた。


「じゃあ僕に教えてよ。竹林さんが何をしたっていうんだい?」

「竹林は何もしてないぞ。だからこそ、異常なんだ」

「うん、そうだね。華ちゃんには、なにもなかったの」


 万里は俺の意見に同調した。だが、俺の感じたソレとは少しニュアンスがズレていた。


 なにも……ない?どういうことだ万里。

 友則の“らしくない”も少し引っ掛かる。

 俺が竹林の嘘を見破れなかった、という事もない。

 あいつは基本嘘を付かない。嘘みたいな言動でも、だ。

 友則の発言とも、俺はズレを感じた。


「なんだか、2人の言ってる事が僕には良く分からないよ。ちょっとズレてるというか……」


友則の言葉は、万里の直感を刺激した。


「ねえ、わたしの話を聞いて。たぶん、何か見えてくると思うの」


 少女は話す。小さなクチから吐き出したのは、大きな恐怖だった。

 恐怖を伝えようとした少女の声は震え、堪えていた涙は溢れ出す。

 それでも少女は話し続けた。


 ――自身が体験した人形劇。心を持たない彼女の話を。


「心が、からっぽ……」


 少女は最初から気付いていた。

 舞台の幕が開いた瞬間、初めて言葉を交わしたその瞬間から。

 それでも、少女は舞台を降りなかった。彼女が人間だと証明するために。

 自分の力こそが、偽りであると証明するために。少女は劇を続けていた。

 だが、少女が手を尽くせば尽くすほど、彼女が人形である事を明るみにした。


 万策尽きた少女は、1人考えた。そして、何も思い浮かぶ事はなかった。

 最後の望みを少女は友人に託した。涙を流しながら。

 まだ舞台の幕は降りていない――。


「嘘……だよね?万里、僕にはちょっと信じられないというか」

「本当だぞ」


 友則にとって、万里の話は受け入れがたいものだったのだろう。

 仕入れた情報は人一倍多い友則だが、嘘か本当か見抜く力は無いのだ。

 だが、それを見抜くのは俺の仕事だ。

 俺は脳が震えなかった事実を伝えた。


……俺だって、この脳に震えてくれと頼んださ。


「知らなかったよ。そんな事があったなんて」


 友則は新たに手に入れてしまった情報を、自分が見たものと照らし合わせているようだった。

 ブツブツとなにかを呟きながら、穴が無いか探っている。


「でも、わたしも1つわかんない事があって」


 モヤモヤと引っ掛かっているモノがあったらしい万里に「話してくれ」と頼んだ。


「一瞬だけ、あんまり怖いなって思わなかった瞬間があったの」


 劇の途中、少女は彼女と共に旅に出る。

 出立の時、少女は彼女の笑顔を見た。


「あの時、わたしの事『万里ちゃん』って呼んだの。あの瞬間だけは、不思議と怖さとか、感じかなったんだ」

「ん! そういう事か!」


 声を荒げたのは友則だった。

 考え込んでいたくせに、突然ガバっと顔を上げるのは心臓に悪い。


「トモくん、なにかわかったの?」

「少しだけね。でも、いづれ大きな1歩になると思うよ」


――万里ちゃん。


 劇のワンシーンで少女は彼女に、そう呼ばれた。


「その場面は僕も見ていた。1つ後ろに座っている僕からも、あの笑顔はよく見えたよ」

 俺が固まっていた瞬間。友則はシーンの感想を話す。

「あの時の竹林さん、僕には別人みたいに見えたんだ」


 思い返すと、俺も同じであった。

 あの一瞬は不思議と、吸い込まれるように竹林の笑顔を俺は見入っていた。


「竹林さんが別人に見えた瞬間はもう1回あった。早退した時、とても苦しそうだったんだ」

「そんな苦しそうな顔をしていたか?むしろ穏やかな顔してたと思うぞ」


 竹林が早退する時、俺は横目で見送っていた。

 俺が記憶違いをしていなければ、特に変わった様子はなかった。

 本当に帰りたかったから帰った。俺はそれくらいしか思っていなかった。


「僕が言ってるのは、教室じゃないよ。校門での話だよ」



 観察の天才。

 こいつはやっぱりホンモノだ。



「万里はいなかったから知らないと思うんだけど、竹林さん早退したんだ。不思議だったよ本当に」


 特に何も感じ取れなかった俺は、食い入るように友則の話を聞く。


「早退を申し出て、歩いて竹林さんは教室を出たんだ。その後、校門から走って行った。とても苦しそうな顔をしていたんだ。一瞬、本当に別人なのかと思ったよ」



……繋がった。


 万里の直感。

 友則の観察。

 俺の見破った嘘。


 全てが繋がり新しいモノが見えた俺は、笑っていた。

 分かってしまえば、単純な仕掛けであった。


 まだ全てを知るには、ピースが足りない。

 だが、3つのピースをはめ込むと、パズルの輪郭くらいは見えた。

 突然笑い出した2人の不安を取り除くために、俺は話し始める。



「よかったな万里、友則。竹林はちゃんと人間だぞ」






本文修正履歴

2020/06/30 視点切り替えの際キャラネーム追加

2020/07/21 外見描写追加・分割

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ツイッターから参りました。 テンポの良い展開で面白かったです。
2020/06/30 20:46 退会済み
管理
[良い点] キャラの一人一人の個性がとても良いです!学園もののラノベと思いきや、どんどん読み進めたくなる謎や解明されていく展開にも引き込まれていきました [気になる点] 処女作ということで、文章の粗さ…
2020/06/15 20:05 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ