3話 友達師匠と馬鹿正直 ④
************** Banri.K
――木下家――
モニターが3つ並ぶ部屋。
蛍光灯くんが勤務中なくらいにお外はまっくら。
わたしはまだまだ明るいぞっ!
パパが買ってくれたLED搭載パソコンくらいには明るい。
ビッカビカに光るファンを唸らせつつ働くパソコンちゃんが、わたしの部屋にやってきて2ヶ月。
初めは電源ボタンの位置すらわからなかったけれど。
今では『シャットダウン』の意味を理解するくらいには成長したのだ。
さーて、今日も元気に締めますかぁ!
「はーいっ、今日はここまでぇ!
今日も明日も明後日も!
みんなでケモミミライフ満喫しよーねえ!
ばいばーいっ!」
手を振るわたしに連動し、画面の中でケモミミが手を振っている。
っはぁ~かわいいなぁ……。
どうしてわたしには生えていないんだろうと本気で思い悩むくらいかわいい。
1日中耳からしっぽまでモフモフしたい。もし可能なら大好きな食事を我慢したっていい。
むしろケモミミっ子にわたしがご飯食べさせたい。
ケモミミと言ってもネコ耳ウサ耳いろいろあるけれど、わたしの一押しはキツネだ!
初めて見たのは8歳の時、テレビで体操を踊るケモミミが…………。
…………という経緯があって、わたしは元気にパン屋の娘をしているのだっ!
おっとっと、忘れるところだった。
慌てて赤丸ボタンをクリック。
《――この放送は終了しました――》
「っぁ~、今日も楽しかったなぁ」
装備品を一通り外し、デスクチェアに勢いよく座った。
反動でクルクル回るイスの上で手足を伸ばし、全力で脱力。
一仕事終えてダラーンと身体を休めるこの瞬間が、わたしは結構すき。
わたしがやりたいように歌ったり踊ったりお話したりする事で、人と人とが繋がる。
それはわたしにとって、とってもうれしいこと。幸せなこと。
インターネットが発達した世代に生まれて本当によかった。
女の子らしい部屋じゃなくなっちゃったかもだけど……。
白ラグの上にゴロリと転がる物体を見ながらボヤく。
大体はパパが用意してくれた名前も知らない機械たちのせい。
足元に転がる2つのマシーンは最近覚えた。
どっちかがモデムでどっちかがルーターらしい。
あとはわからない。
「んーま、楽しいからいっかぁ!」
疲労と共に満足感を抱きつつ壁をかるーく蹴って、ゴロゴロとチェアごと移動。
目的地はエアコン直下。
空調管理の行き届いた室内とはいえ、動き回っていてはさすがに暑い。
目的地に到着し、風に当たりながら欲望をそのまま言葉にした。
「ぅあ゛っづぅううぅぅういよぉおおぉぉおお!」
時間とかキンジョメイワクとか、いろいろすっ飛ばして叫んだ。
わたしは正直に生きるのだ!
ひんやりとした風がわたしを包む。
汗も一緒に冷やされ心地いい。
叫んだのはただ暑かっただけじゃないけれど。
こうみえて、最近いろいろあって疲れているのだ。
だらだら休む心地よさが溜まった疲労をより実感させる。
このまま寝ちゃいそう……。
力を抜いた身体に釣られ瞼が落ちる。
大事な約束がこのあとあるから、このまま眠る訳にいかないけれど。
そろそろかな、マッキー。
直後、スマホから大音量で流れる『気の利いたサンバ1』。
思わず身体が跳ね上がり「んひゃぁあ!」と叫んでしまった。
わたしの着信音だ。マナーモードになっていなかったみたい。
うぅー心臓にわるい。
けれど、振動音のみだったらあのまま眠っていたかもしれないので良しとする。
再び壁を蹴りデスクに戻った。
画面に写る呼び出し相手は『まさきんぐ』。
ドンピシャなタイミングですな。
予想を立てたりするけれど、実際に的中すると自分でもビックリ。
最近、直感の効きが増してる気がする……。
たまたまかもしれないけれど。
華ちゃん相手には全く通じなかったりもするし……。
気分屋さんな直感は置いといて、これ以上待たせる前に通話に出ておくとしよう。
ペシペシと顔を叩き、悩みが出ないように元気な声で呼び出しに応じた。
「やほやほマッキー。待ってたよー!」
『ああ。万里、今大丈夫か?』
「ぇ……マッキーきもちわるっ!! なにその声!?」
『…………』
悩みが吹き飛んだ。
きもちわるい!
キモいじゃなくて、きもちわるい!
聞いたことないよこんな声!
『……お前も一時期この声だったからな』
「マッキー嘘よくない! 朝までカラオケでちょっとだけ声がカサった事はあるけど、ここまでじゃないもん!」
『……まぁ、自分で聴いてる声と他人に聴こえる声は違うとは言うが……』
「難しい話して誤魔化してもダメ!」
『あ、はい。もうそれでいいです』
「わかればよろしい!」
大人しくなったマッキーはトモくんも呼んでグループ通話に切り替えるそう。
やり方は知らないので任せる事にした!
無駄な知識は取り入れないことにしてるのだっ。
説明されても理解出来ないのが悲しいってこともあるけれど……。
でもバカじゃないからセーーーフ!
さてさて。
ピローンという音と共に準備完了のお知らせが届いた。
一度耳から離して画面を見てみると、焼きそばパンとマイケルくんと7歳児のアイコンが並んでいた。
トモくんも揃ったみたい。
「やほやほートモくん! 足元悪い中ご機嫌うるわしゅー?」
『やあ万里。それ、電話で言う言葉じゃないとおもうよ………?』
『友則、すまんな呼び出して』
『全然大丈夫だよ。それより、僕が生還してることをもっと喜んだらどうだい?』
『……。』
「……や、やったーー!」
全然解かってないけど喜んでおこう。
ニッコニコで帰ってから何があったんだろう……。
本屋さんで『友達の作り方』っていう本を買おうか悩んでた場面を目撃したのは聞いたけど……。
『万里、知らないなら喜ばなくていいぞ』
「わかんないけど喜んじゃった。トモくん死にそうなことでもあったの?」
『な、なんでもないよ? 二刀流なんて見てないよ?』
「ふむー?」
二刀流ってなんだろう。
首をひねると同時にわたしには気になることがあった。
直感さんだ。
電話越しだと直感は仕事放棄みたいで、2人の言葉から拾えそうなことはなかった。
うーん、モドカシイ。
いつもならいちいち聞かなくてもわかるのに。
『……そろそろ話をしてもいいか?』
「あ、ごめんマッキー。お願いしまぁすっ!」
『僕も待ってたよ政希の話。で、どうだったんだい?』
わたしとトモくんで背中を押したあとの話。
マッキーは華ちゃんと会話をして確かめた。
嫌われているのかどうか。
トモくんからの密告でそこまではわたしも知っている。
『俺から話す前に、2人に聞いておきたい事がある』
「ほ?」
まだ勿体ぶるのかな。
こういうのは早めに話さないとツラくなっちゃうんだぞ。
『今後についてだ。万里は竹林と友達になりたい。でいいんだよな?』
「ん? もちろんっ。って言っても今は華ちゃん待ちだけど……」
昨日保健室で友達になれたと思ったけれど。
約束を守って今日は一言も話せなかった。
次話せるのはいつなんだろう……。
『友則はどうだ。お前も竹林と友達になりたいか?』
『うん、そうだね。今日初めて別人竹林さんをしっかり見たけど、気持ちは変わってないよ』
『そうか』
しばらく沈黙が続いた。
あれれ。
ココロノジュンビ中なのかもしれない。
マッキーも友達になりたいってすんなり言えばいいのに。
わたしから「マッキーもでしょ?」と聞いた方がいいのかな。
問いを振ろうと口を開けた瞬間、ようやくマッキーは話し始めた。
『悪いな2人共。俺は竹林と仲良くする気はない』
「えっ!?」
チェアに預けていた上半身が反射で飛び起きた。
聞き間違いを疑うのはわたし1人ではなかった。
『冗談だろ政希!?』
『俺は本気だ』
「そんな……」
荒げる声も落ち込む声も寄せ付けない。
そこには強く明確な意思があった。
「理由……話してくれるんだよね?」
『ああ。1から10まで話してやる』
それからマッキーが体験した話を聞いた。
面識もない人から嫌われていた話。
新しく沸いたいくつもの謎の話。
知るはずのないマッキーの能力を知っていた話。
別の説も出てこない。
笑い転げる事も出来ずに話を聞いていた。
気付けばわたしもトモくんも、相づちすら打てなくなっていた。
次回
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19時更新ですー!
おたのしみに!




