3話 友達師匠と馬鹿正直 ③
************** Masaki.C
――保健室――
あぁ、俺はあの時失神したんだな。
保健室で目覚めてからしばらく経った。
窓から赤く染まった空が見えたが、明るさは保ったまま。
ぼんやりとした意識のまま左手を上げ、視界に入った防水時計は俺が1時間ほど寝ていた事を告げる。
ようやく、正確な時刻を確認しようとする程度には思考回路も回復したようだ。
最初に写った景色は白天井。これで動転しない方がおかしい。
どうやら捨てられた後、どこぞの神様にでも運んで頂いたようでリノリウムの廊下ではなく、ふかふかのベッドでお目覚めだったのだ。
幸いにも身体の自由は効くようで、慌てふためくのも容易かった。
投棄した本人がわざわざ運ぶとは考えにくい。
あのクソ力なら可能かもしれんが……。
おそらく、偶然ふらっと通りかかった生徒にでも拾われたんだろう。
一体だれが?
正直誰であってもいいんだが……特定はしておきたい。
俺にだって素直に礼を言いたくなる瞬間はある。
だが、周りを見渡しても誰も居ない状況下では、ヒントすら貰えそうになかった。
また謎かよ。
この世は謎のバーゲンセール中なのだろうか。
ただでさえ新しい謎がゴロゴロ降ってきて困惑する俺に対し、おまけにもう1つ謎のプレゼントだ。
7月生まれの俺としては、まだプレゼントの受付を開始していない。
それに頭を使うプレゼントは好きじゃない。
次からは模範解答とセットでのみ受け付けると明記しておこう。
ベッドから起き上がった今の悩みは、頭と背中、それから喉の痛みだ。
どういう訳か、起きた時には既に痛みなんて全く感じなかった。
「あぁー。ぁー……」
そのくせ声がキモい。
痛みは無くとも身体にしっかり傷を残していたようで、自分でも疑うほどにガラガラとした音が聞こえた。
いつぞや、カラオケオール翌日の万里がこんな感じだったな……。
イジり材料が増えて喜ぶであろう奴らの事はさておき。
いや、さておきじゃない。
あいつら……今どこにいるんだ?
状況把握に手一杯で忘れていたが、友則と万里の姿が見えない。
昇降口を出る2人を見送ったが、あいつらの事だ。
どこかで見ているものだと思っていたが、ここに居ないなら本当にあのまま帰ったということだろう。
べつに、寂しくは無い。
ハンガーに掛かっていたブレザーを羽織る。
ベッド横に設置されていたカゴの中には型崩れした俺のカバンが1つ。
何か盗られたということもなさそうだ。
誰も居ないならここに居ても仕方がない。
俺は足早に退散した。
住宅街を歩く。
少し肌寒い風に当たったことで、俺の頭はより冷静になっていた。
今考えても、解からないことは解からないのだ。
――どう? お前の脳は震えたかしら?
こういうのはあいつら交えてだな。
こう見えて俺は学習するのだ。
竹林が放った謎を俺1人で解決するのは難しいだろう。
だからといって放置していてはやがて膨らみ、結果としてあいつらが笑う。
明日の昼、いや。
今日だ。夜にでも話す。
方針が決まれば、まずスケジュール調整だ。
万里はあのまま帰っていたのなら、今頃は店の手伝いだろう。
売れ残りを捌いているはずだ。通話に応答するとは考えづらい。
そっちはメッセを入れておくとして。もう1人は……暇してるだろう。
どうせ家でのんびりだろうな。
俺は発信ボタンを押した。
……全っ然出ねえ。
ジト目で待つこと数コール。
声が聞こえたのは自宅への通り道、商店街に入った頃だった。
『や、やぁ政希さん』
ようやく聞こえた声と共に、妙にかしこまった口調は取り込み中な雰囲気も伝わってきた。
風の音もうっすら聞こえる。
外出中のようだ。
「友則……今どこだ?」
『えっと商店街だけど……政希だよね?』
「ああ」
近いな。
その後は案の定、声に関してイジられた。
どうしてこうなったか経緯の説明は1度で済ませたい。
万里にも同時に話したい。
その方が得ることも多いだろう。
夜の予定を聞こうとしたがその前に。
なぜ商店街にいるのかと問えば、いらん嘘が返ってきた。
電話越しだと脳は震えない。
だから正確には嘘確定ではない。
直接話すよりも得られる情報量が少ないからな。
なら直接会えばいい。
この町の商店街は言うほど大きくも無い。
適当に電話を間延びさせつつあたりを見渡せば、犬を連れた短髪を見つけるなんて造作もなかった。
聞けば『大人竹林』なるものを見たという。
偶然見かけた姿のせいで取り込み中だったようだ。
アホか。
俺からすればあり得ない。実現不可能なのだ。
このお子様はテンパる事で手一杯だったらしく気づいていないようだが。
幸いにも本屋前にはメンズが2人。
今のうちにハッキリさせておくが吉だろう。
「こっちは万里交える前に、2人で解決しないとな……。
友則、俺とじゃんけんをしろ」
「……え?」
「負けた方が大人になれ」
「え!?」
「あいつの無実を証明してやるよ」
大人になろうとした事もないこいつは知らんのだ。
この本屋で大人になろうとしたらどうなるのか。
身をもって味わってもらおう。
百聞は一見に如かず、だ。
「いくぞー、そーれじゃんけん」
「ままままま待って政希! 心の準備がががが」
「ぽん」
焦った時、人は無意識に出し慣れてる手を出す。
友則の場合は「パー」だ。
汗まみれの顔を眺めるのはめちゃくちゃ気分が良かった。
3年ぶりの仕返しである。
という訳で、俺は犬を預かり本屋の外から大人井さんの帰りを待つ。
挙動不審な大人井さんは本屋に入り、逆L字になっている店内を真っ直ぐ奥へ。
レジ手前で右折。その先はお目当てのゾーン。
曲がると同時に俺からは死角に入る。
……ようやく気づいたみたいだな。
赤面大人井さんは早足で帰ってきた。
誠に残念ながら、手には何も持っていない。
「外から見えないじゃないか!!」
「うるせーよ」
帰宅するリーマンや、主婦層。数多の視線が友則の怒鳴り声に集中した。
気づかないお前が悪い。
「本屋なら当然ジャンルごとに置き場所が違う。この本屋の場合大人になるには死角に入る必要がある。
友則が外から見ることは絶対に出来ないんだよ」
「だったら先にそれを説明してくれてもいいじゃないかあああ!!」
「キャンキャン!」
視線の集中を犬にまで指摘される始末。
無駄に広い視野もかなり狭まっているようだ。
犬の声でようやく落ち着きを取り戻し始めた友則だが、本来見たものを思い出すにはまだ時間が必要のようだ。
「そんなことより、確かめる事があるだろ」
「そんなことって……。なにさ確かめることって?」
「友則、見たんだろ? 竹林が躊躇するところを」
「うん、みたよ」
見た事自体は脳も震えていないし、俺も疑っていない。
であれば。
「友則、もう一度本屋に行ってこい」
「もう一度!? 何しに……」
「お前が見た竹林と同じ動作をして来るんだ」
「……!」
友則が見た光景は、決して大人になろうとしている竹林ではない。
とある本を買おうか悩む少女の姿だ。
同じ動作をすればどんな本を買おうとしていたのかハッキリする。
命令の意図を理解した友則は再度本屋に入っていった。
中へ入り途中で左折。
壁まで進んで手を伸ばす。
伸ばした手は止まり、身体も固まった。
友則は錆ついた機械のように、ギリギリと軋ませながら首をこちらに向ける。
そして手招き。
本の特定に成功したらしく、俺に見せたいらしい。
……いや犬どうすんだよ。
とりあえず、その辺の手すりに犬を繋いだ。
逃げはしないだろう。
つか、逃げても知らん。
急ぎ手招きに従い友則の元へ向かった。
「これ……これだよ……竹林さんが買おうとしていた本……」
「……嘘だろ」
人形化解除して俺を絞め捨ててから1時間半。
その間に再度人形化となったとは考えにくい。
学校からここまで人目が多すぎる。
友則が見た竹林も人形化ではないだろう。
なら……これは絶対おかしい……!
自ら進んで人形化となり、本心を隠す人物。
そんな、“人と接触を拒む奴”が求める書籍は……。
『友達の作り方 ~入門編~』であった。
次回
8/5 ③.5
8/6 ④
久々の連日投稿!
19時更新ですー✌︎('ω'✌︎ )
おたのしみに!




