表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧:竹林華は俺だけを嫌っている  作者: 宇佐美ゆーすけ
第3話 友達師匠と馬鹿正直
17/30

3話 友達師匠と馬鹿正直 ②



挿絵(By みてみん)


――商店街――



 夕日が差し込む商店街を、僕はマイケルと共に歩く。

 万里と別れた帰宅後、ここ数日は雨で散歩に行けなかったマイケルを連れ出したのだ。

 ウキウキは人の行動力を上げると聞くけれど、どうやら本当みたいだね。


「キャンキャン!」

「お、どうしたのマイケル。今日はそっちの道に行きたいのかい?」

「キャーン!」

「よし、いいよ! 今日は遠回りコースだ!」


 たまにはいいよね、こういうのも。

 嬉しそうに尻尾を振るマイケルを見ながら余韻に浸っていた。

 いつもの散歩では通らない、本屋さんの前を通ったのはその時だった。


「ごめんマイケル。ちょっとストップ」

「キャン?」

 

 ガラス貼りの入り口から店内はよく見えた。

 古びた外見に、いつもガラガラな店内からは閉店セール秒読みであることが伝わってくる。

 でも、その店内に見知った人がいた。


 あれ、竹林さんだ。どうしてこんなところに?


 ここじゃなくて、駅前にある大きな本屋の方が品ぞろえだっていいはずなのに。

 不思議に思ったのは、竹林さんが古びた本屋に居る事だけではなかった。


 様子がおかしい。

 知ってる竹林さんじゃない。

 焦って……いる……?


 周りをキョロキョロと何度も確認する顔は、彼女特有の肌白さなんてなく、瞳のように赤かった。

 

 焦り、というより……恥ずかしい?


 いつもの竹林さんとはまるで違う。

 表情は、初日に見せた笑顔、走り去る苦悶に満ちた顔ともかけ離れている。

 それでも、近い何かを感じた。

 この感覚は……。


 別人竹林さん……?

 

 もちろん、“よく似た人”という意味ではない。

 間違いなく竹林さんと同一人物だが、中身が違う。


 僕が別人と感じるということは、きっと人形化(ドール)を解いた竹林さんだ。

 驚いた。こんなところで彼女に会うなんて。

 でも、驚きは1つではなかった。

 さっきから本棚に向けて手を前に出したり、引っ込めたり。

 そして再び周りを見渡している。

 

……あれ、この光景知ってるかも。


 3年くらい前。

 僕と政希でジャンケンをして、負けた方がとある本を買い、大人になる。

 そんな勝負をした。

 負けた政希は偶然にも、今の竹林さんと同じ行動をしていた。

 顔を赤らめ、キョロキョロ見渡し、本を取ろうと手を前に。

 羞恥心が勝り、手を引っ込める。この繰り返し。

 デジャヴ。


……僕は今、とんでもない秘密を知ってしまったのかもしれない。


 しばらく見守っていると、大人林さんは結局諦めて、逃げるように本屋を後にした。

 僕は物陰に隠れ、キャンキャン鳴くマイケルをヨシヨシしてその場をしのいだ。


 今、彼女に話しかけるのは絶対にダメだろう……。


 とんでもない秘密を目撃してしまったのかもしれない。

 昔から、見たくもない、知りたくもない事を知ってしまう機会は多々あった。

 ま、まぁ……女性もいろいろあるよね……。

 今回の1シーンは、僕に新たなトラウマを植え付けた。


 スマホが振動したのはこのタイミングだった。



 着信。

 相手は待ちに待った奴からだった。


 今かぁ……。正直、聞く気分じゃないなぁ……。


 さっきまで上機嫌だったはずなんだけどな。

 ゲンナリは人の行動力を下げると聞くけれど、どうやら本当みたいだね。 


 まぁ、背中を押した身としては、聞かない訳にもいかないだろう。

 ゲッソリした表情で、僕は電話に出た。


「や、やぁ政希さん」

『友則……今どこだ?』

「えっと商店街だけど……政希だよね?」

『ああ』


 電話の相手が政希であるか疑うほど、政希の声はヘンだった。

 夜通しカラオケではしゃいだ万里が次の日、こんな感じのガラガラ声だったな……。


「声がなんだかおかしいけど、どうしたの?」

『そっちは後だ。詳しくは万里含めて3人で話す』

「ん? うん」


 報告を聞く気分ではなかったけれど、もったいぶられるのは話が違う。

 すごく気になる……。

 万里含めて3人で話すということは、きっと政希は動いたのだろう。

 それくらいは確かめてもいいよね。

 

「竹林さんと話したのかい?」

『そうだ』

 

 ガラガラとしつつも堂々たる受け答えだった。

 政希は突き止めたのだ。

 背を押した成果はあったようで何より。

 げっそりした顔にもすこし元気が戻ってきた。


『で、友則。商店街で何をしてるんだ?』

「え? えっと、散歩だよ。マイケルの散歩に来てるんだ」

『……それだけか?』

「……もちろん。それだけそれだけ!」


 結果だけ言えば、それだけではなくなってしまったんだけどね……。

 大人林さんの話は……内緒にした方がいいだろう。

 誰にでも知られたくないことはあるはずだ。

 

『……電話越しだと、さすがに震えはしないな……。」

「な、何の話?」

『誰かさんが()ついてるんじゃないかって話だ』

「んげ」

『なにか見たな。竹林関連か?』

「ななななな」


 これ……とってもマズい気がする。

 駄目なんだ。この話は……『大人林さん』は絶対に漏らしたらいけない秘密なんだ!

 引いてくれ政希……!

 いつもみたいに短めに「まぁ、いい」とか言って引いてくれ……!


『まぁ、いい』

「……!」


 引いた……!

 助かった!

 守った、守ったよ大人林さん!

 知ってしまった人間の勤めだ。僕は生涯この話を守り通すと誓うよ!


「直接問いただす」

『直接問いただす』

「――ッ!」


 後ろから、コンマ2秒遅れて同じ声が右耳から聞こえてきた。

 恐る恐る振り返ると、男が1人、僕を見下ろしていた。


……終わった。


「まッ、政希さん……ご機嫌、麗しゅう……?」

「言え」


 裏返った僕の声にツッコミも入れず、要件だけ端的に伝える政希。

 圧がとんでもない。目力だけで押しつぶされそうだ。

 思わず目線を反らす。


「僕は何も見てないよ……?」

「震えたぞ」

「……何も知らないよ」

「わざとやってんのか」


 どうしよう。

 この人全然逃がす気が無い。

 あぁ、急にマイケルが走り出して「マッテーマイケルー」とか言いつつ逃げられないかなぁ……。

 

 脳内では体力の無さを度外視した計画が立案され、お偉いさん達が決議中。

 これ以上逃走案を考えることは時間の無駄みたいだ。

 逃げるのは不可能だろう。

 ならば、別のアプローチで……!


「知らない方がいい事もあるとおもうよ……?」

「いいから話せ」

 

 言語道断。問答無用。

 そんな4字熟語がプリントされたTシャツを、今度政希にプレゼントしようと思った。

 

 降参だ。

 

「竹林さん……大人目指してるみたい」

「……? あぁ、なるほど」


 あああぁあぁぁああ。

 言ってしまった。


 こんなやんわりな比喩表現でも、共に大人を目指していた僕と政希なら伝わるだろう。

 伝わってしまうだろう。


……こうなったからには政希にも罪を被ってもらおう……!


「いいか政希、知ったからには生涯絶対漏らすなよ! 絶対なんだからな!」

「うるせーよ」

「うるせーじゃないよ!」

「いいから聞け」

「……うん?」


 何としても口封じをしなければならない僕を差し置いて、政希は「こっちは万里交える前に、2人で解決しないとな」と呟く。

 解決も何もないだろう。

 このことは忘れるしかないのだ。

 

 そう思っているのは僕だけのようで、政希は立案してきた。


「友則、俺とじゃんけんをしろ」

「……え?」

「負けた方が大人になれ」

「え!?」

 

 政希は実に腹立たしいニヤニヤ顔で僕に提案した。

 驚く僕をスルーして目的を話す。



「あいつの無実を証明してやるよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ