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旧:竹林華は俺だけを嫌っている  作者: 宇佐美ゆーすけ
第2話 初めての会話
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2話 初めての会話 ⑤




挿絵(By みてみん)



************** Masaki.C

――影鳥高校――



 クソみたいに降り続いた雨がようやく上がった。

 久々に見た蒼天の空の下、濡れない制服を着て登校する。

 ちょっと暑いが気分はいい。

 そんな6月3日。万里が竹林と話した次の日の朝。



 いつもの様に雑務があるかと思い職員室に顔を出せば、「今日は特になし」と担任から要らない子宣言を受けた。

 だったら事前に連絡をくれればいいものの、担任は俺の連絡先を知らないし、逆も然りだ。学校に教えている連絡先は実家の固定電話のみで、一人暮らしをしている俺に直で連絡が来ることはない。

 それに、わざわざ連絡先を交換した結果、ゴミみたいな用事で呼び出されるなんて未来はそう遠くないうちに訪れるであろうと容易に想像出来た俺は、担任の連絡先なんて聞かずに誰もいない教室へ向かった。

 


 教室の扉を開ける。

 閑散としているはずの教室に、予想とは相反して既に登校している生徒が居た。

 べつに、校門は開いているのだから生徒が教室に居てもおかしくなんてないのだが。

 こいつの場合は例外中の例外だった。

 

 俺より先に登校していた生徒は扉が開いた瞬間、自席に座ったまま振り返る。

 俺の顔を見るや否や、途端にそいつの顔は崩れだした。


「マッキーだああああ゛ああああ゛! ぎのうはあでぃがどねええぇええ」

「万里!? お前なんでこんな時間に!?」


 そこに居たのは遅刻常習犯だった。 

 何言ってるかわからん奴は俺の質問など聞いておらず、俺の名を絶叫しながら衝撃波が出てもおかしくないスピードで目の前にやってきた。

 

 元々、こいつもこいつでそれなりに見た目は良いはずなんだがな。

 間近で見るぐちゃぐちゃな顔は相当不細工だった。

「ぎのうは……でがみどか……ホンドにあでぃだどねえええぇえ」

「何言ってるかわかんねーよ!」


 


 15分程経っただろうか。

 ようやっと落ち着きを取り戻したそいつの話を要約すると、俺にお礼を言っていたらしい。

 そのために家の手伝いを放棄し、まだ校門が開錠もされていない時間から校門前で俺を待っていたそうだ。

 さすがに俺でもそこまで早くこねーよ。

 次の日の朝一番にお礼を言いに来たのは昨日、俺たちが万里を置いて帰ったからだろう。

 

 昨日、結局万里は午後の授業を全て欠席した。

 放課後、友則と一緒に保健室へ様子を見に行ってみれば、2人仲良くグッスリ眠っていて思わず笑ってしまった。

 万里は見事、成し遂げたんだろうな。


 ベッドで眠る竹林も、隣の丸椅子に座って上半身をベッドに委ねたこいつも、仲良くなければさすがに手を繋いで眠ったりしないだろう。

 起こすのも悪いと思い、2人を置いて俺と友則は先に帰った。


 俺はべつにお礼なんて、言われるほどの事をしたとは思っていない。

 言われたとしてもアプリのメッセージでもよかったんだが、万里は直接言いたいタイプなんだろう。

 だからこうして朝一番でお礼なんだろうな。

 まったく、こっちの台詞だ。おかげで決心できた。

 ありがとよ。口には出さんがな。



 こうした万里の行動は、俺の背中を押した。

 竹林が転校してきてからずっと言えなかった秘密。

 竹林が俺を嫌っている可能性についてだ。

 それをこいつらに話す決心をさせるには十分すぎた。

 今日、俺は2人に話すと決めた。


 まともに話せるようになった万里に向かって、

「万里、友則が来たら後で2人に話がある」

「んん? それって、()()にしてたことの話??」

「……おい。お前まさか」


 気づいていたのか、万里。こいつの直感を侮っていた。

 それもそのはず、人間竹林に効かないだけで、俺や友則、その他一般人には相変わらず通用するのだ。

「内容までは解らないよ? でもマッキーが隠し事してるのは解ってたぜいっ!」

 自慢げに親指を立てて俺に見せる。

 それはつまり、俺が秘密を隠している事にこいつは気づいたが、あえて何も言わずに俺が言い出すタイミングを待っていた。ということになる。

 


 前々から感じてはいたが、万里の直感は完璧なものではない。

 竹林を見て『心がからっぽ』と言ったり、いつ気付いたのか解らないが俺の隠し事に気付いたり。

 どうして『心がからっぽ』になったのか、どうして隠し事をしたのか。

 そういう途中の部分は一切解らないのだろう。

 数学でいう、答えは合っているけれど、途中式が無いから×みたいな状態が近い。

 本人が説明出来れば一番いいのだが、万里に説明は無理だろうな……。


 まぁ、空白があるのは大した問題ではないのだろう。

 途中式の空白を埋めるのは友則が見た情報であり、俺が繋いだ推測なのだ。


 

「まぁ、万里が気づいていたなら話は早い。そう、秘密の話がしたい」

「わかったぜい! わたしもわたしで昨日の話きいてほしいし!」


 昨日の話か。

 たしかに、ヨダレ祭りの寝顔は見たが、ちゃんと何があったのか聞いてはいなかったな。

 俺としてもその話は聞いておきたい。

 追加で何か解るかも知れんしな。

 詳しい話は昼休み、いつもの屋上集合で。という事になった。

 


 

 その後、時間が経ちワラワラと他の生徒たちが教室に入ってきた。

 万里は再び顔をぐちゃぐちゃにしつつ、登校してきた友人たちにそれぞれお礼を言って回っていた。

 万里の発した言語がお礼の言葉であると友人たちが理解するまでに、かなりの時間が必要だったのは言うまでもないが。


 

 後ろの席から話しかけられる

「政希聞いてくれよ! 万里がもう登校してるんだ!」

「ああ、今日は雪が降るな。おはよう友則」


 昨日、こいつの動きには救われた。

 万里が嘘を付いた瞬間、俺は自分のノートを無作為にちぎり、ペンを走らせた。


――友則! あいつの周りに友人たちをかき集めろ!!

――任せてくれ!


 俺がペンを走らせる間、友則は噂を広めた。

 万里が体調を崩して保健室で休む、という嘘。

 その嘘を広める度に脳は震え、正直かなりの妨害行為だったが、結果はかなりの成績を残した。

 友人が体調を崩せば人は心配する。

 そして、相手が自分の恩人であったなら、顔色をいち早く確かめたくなるものだ。

 友則の噂はあっという間に膨れ上がり、見事廊下を歩く万里の元へ友人たちを集めてみせた。

 こいつの力というのは俺や万里に引けをとらないものであると、俺は昨日再認識した。



 カバンを置いて後ろに座った友則は、大して興味も無いくせに窓から青々とした空を頬杖をつきながら眺めていた。


「……昨日はナイスファイトだったね政希。お見事だったよ」

「……お互い様だ」


 顔を俺に見せずに言ったのは、恥ずかしさもあってのことだろう。

 俺も俺で友則を見ずに言葉を発した。

 お互いこんな恥ずかしい台詞を言い合うなんてキャラじゃないしな。

 


 窓ガラスに反射して、ウヨウヨと動く目と赤面した短髪男子が見えた事は、友則には内緒にしておいてやろう。





 チャイムが鳴り、いつものようにアホみたいな連絡事項ラジオを担任が始めた。

 昨日も一昨日も似たような話を流していたが、そんな話はどうでもよかった。


……万里は昨日のうちに、こうなる事を知っていたのだろうか。

 窓際最後尾。その席は空白のままだった。

 俺としては、2人に話したその日に推測を確定させたかったんだがな……。

 今日は駄目かもしれない。



 竹林華はまだ登校していない。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に数話読ませていただきました。盛り上がってきましたねー。華ちゃんなんで来てないんやーってなってます。続きも楽しみにしてます。
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