第99話 中ボス
金属がぶつかり合うような音がした。
水っぽく生々しい音もする。
どうやら先ほどから断続的に続いていたようだ。
……次第に意識が浮上してくる。
背中にむちむちした感触……ルーパーだな。俺は上に寝かされているようだ。どうやら気を失っていたらしい。
ぼんやりと目を開くと、はるか高い天井に無数の生物が蠢いているのが見えた。
「うげ……」
急激に覚醒し、飛び起きた。
「フッ、ハァッ!」
遠くで雪の声がした。どうやら戦っているらしい。相手は…天井のアレらか。
カニのようなハサミとムカデのような多足、エビのような甲殻……を得た蟻……を巨大化させたような虫型のキメラモンスター。解析すると名前は『アハァント』というらしい。誰がつけたんだ。まぁそいつを大小不同・形態多様化させたものの群れ、そのような敵群に俺達は絶賛襲われており、雪がその露払いをしてくれているようだ。ルーパーも時折赤い炎を吐いて応戦している。
「雪!」
雪に呼びかけると、ターンターンと小気味よい音とともに軽快な身のこなしで雪が戻ってきた。
「ハァ、ハァ、兄さんようやく起きたの、よかった」
少し息が上がっている。手に持った大鎌には謎の緑の液体がべっとりと付着していた。
「るぱ!」
「すまないふたりとも、迷惑かけたようだ」
「ううん、兄さんの能力がなかったら突入すらできなかったと思うから」
ザシュッと雪が振り返りざまに大鎌を振り襲ってきた飛行モンスターの一体を両断した。言葉にするのもはばかられるがあえて言葉にするなら、極太の針を尾から生やし、先端が♡型の蚊の口器みたいなものを口や頭部から何本も生やした巨大ハエだ。解析すると『ズブズブバブ』というらしい。もう誰だよ。こんなグロの塊みたいなのを容赦なくぶった切れるマイシスターに尊敬の念を感じざるを得ないが、俺も関心してないで適応しなければならない。
雪に切られてはじけ飛んだ上半身を念動力で引っ張ってきて、俺の背丈ほどもありそうな巨大な頭部から生えた触覚を掴み根こそぎドレナージした。蚊の血を吸っているみたいでげんなりするが、補給は急務だ。
「俺はどのくらい気を失ってた?」
「1時間は経ってる」
「そうか」
時間の感覚は完全に狂っていた。魔神の最終スキルは絶体絶命のピンチをチャンスに変える力があるが、使いすぎると副作用が致命的だな。知っておいて良かった。
「虫の大群に襲われて、ドラゴン組とは途中で分断された。あいつらを分散させる意味でも、いったん別行動をとった。今は別の空洞を進んでいると思う」
いきなりチーム分断とは、第一層から相当ヘビーだな。
「雪と俺が組んで大丈夫か?向こうは限界突破者はいないだろう」
俺はそう言いながも、なんとなく雪の返答は分かっていた。
「兄さんの生存が第一に優先される。私達の任務はダンジョンの攻略だけど、そこで兄さんが死んでしまっては全てが無駄になる。無防備だった兄さんを他の誰にも任せるわけにはいかなかった」
気絶していた手前、反論のしようも無い。
「それに、これはジャンとも相談して決めた事。大丈夫、エルもジャンもステータス以上の戦闘力があるし、シェルもああ見えて器用」
「そうだな……最善の采配だと思う。ありがとうな」
全体を俯瞰しつつ、他者も思いやれる。
抜け殻同然だったこの子が、いつの間にこんなに成長していたんだろうな。
思わず雪の頭を撫でた。
「私だって、いつまでも以前のままじゃないんだから」
ちょっとムスっとした雪に手をどけられてしまった。
少し寂しいが、俺も彼女への態度を改めていかないとな。もう彼女は立派な戦友だ。
……と思ったら、どけた手は顔を赤らめた雪に握られていた。
そのうち雪はハッとして、そそくさと離れていった。
「ジャン、気をつけてな」
「太一ちゃんもね、あでゅ♡」
辺りのモンスターを一掃した後、少し留まって念話でジャンと連絡を取った。ドラゴン組は全員無事であることが確認できた。
無数の根が作ったというこの大空洞だが、たとえ行き止まりはあっても必ず階段部分で合流するはずだ。そこで落ち合うことになった。
なんとか話はできたが、同じフロアにいるにも関わらず念話リンクが繋がりにくく、何らかの阻害が働いているようだった。ここではナーシャのテレポートも使えないだろうな。
大空洞を改めて見渡してみると、壁面の見た目は土のようだが、実際に触れてみるとぐにぐにと弾性があり、思い切り殴っても傷一つ付かなかった。銀極穂で刺してみるとわずかに裂けはしたが、抜いた途端に修復されていった。
アメリカのS級と比較するとダンジョン自体も一段階ランクが上がっているようだ。さながらS+級ってところか。心して挑むとしよう。
さて、俺たちも早く再出発しないとな。
「行くか、雪、ルーパー」
「はい、兄さん」
「るぱ!」
ルーパーが翼を大きく展開し、空洞内を一気に加速した。その風切りの音に共鳴したかのように、至る所に空いた小孔からわらわらとアハァントたちがはい出て喚き出した。
「アハァァァァァン!」
「ずぶずぶばぶずぶずぶばぶ」
にしても数が多い。相手にしきれないので接触しそうな奴らだけをフォースリンガーで撃ち落としていく。
「アハァァァァァン!」
「ずぶずぶばぶずぶずぶばぶ」
「うるせぇ!」
ドパン!ドパン!
大空洞中に反響するやつらの蝉みたいにでかい鳴き声を聞き続けていると、イライラして倒さなくていい奴らまで思わず倒してしまう。
「もしかしてこのフロア全体で精神攻撃を仕掛けてきてるんじゃ……」
「ありえる。念のため私は防音の風のシールドを展開する。兄さんは攻撃よろしく」
「まかせろ」
兄妹は阿吽の呼吸で一致団結し事態に対応した。
「る、るぱ…」
モンスターの意図がある程度自然にわかるルーパーは、あれらにそんな大それた目的は一ミリもないことが分かっていた。元々ちょっと変に混ざった生物であるというだけだった。でも訂正するのも大変なので彼は口笛を吹きながら火を噴き続けた。
俺達が途中何度も袋小路にはまってUターンを要し、何十キロもの長い長い道のりの果てにようやく下の層へと続く大穴へとたどり着いた時、もうすでにドラゴン組は到着していた。
「お前たち、ルーパーより速度の劣るドラゴンに乗ってて、なんでそんなに早かったんだ?」
話を聞くと、どうやら彼らが自然に選んだ道は最短コースであり、一度もUターンすることはなかったらしい。
「なかなか面白いフロアだったわねん」
「ジャンさんがあいつらの鳴き声に合いの手を入れるのが面白くてな!」
「楽しかったねぇ、アハハァーンって」
まぁ無事で何よりだ。メンタルも大丈夫そう。
というか楽しそうだなオイ。
雪は明らかにイライラしていた。
「いて!なんで僕をつねるのさ」
爆笑していたエルが雪に八つ当たりされていた。
試しに向こうを這い回っていたアハァントを一体捕獲して意思疎通を仕掛けたところ、食べること以外まったく何も考えていなかった。ドレナージしてポイした。
すまんエル、俺が精神攻撃とか余計な事言ったせいだ、許せ。
一階層からなんだか無性に疲れたが、消費した魔力はドレナージによって全回復できた。
「大尉、ところでひとつ気になったことがありまして」
シェルが話しかけてきた。
「なんだ?」
「ちょうど広大なフロアのほぼ中央辺りだったかと思うんですが、大きな大きな筒のようなものが天井から地面に向かって伸びていました。試しに攻撃してみたのですが、びくともしませんでした」
「そうか」
ダンジョンを支える支柱みたいなものか?そういえばルシファーやエウゴアはダンジョンのことを支柱とか呼んでたな。
「分からないな。俺の銀閃か雪の消滅なら破壊できるかもしれないが、どちらも消耗が大きいし誤ってダンジョンが中途半端に崩落すれば俺たちにはデメリットしかない。ひとまず観察のみに留めよう。ジャンもいいか?」
「えぇ、妥当な判断だと思うわ」
「分かりました」
シェルもそれで納得してくれたようだった。
「……」
エルが珍しく真顔で黙っていた。
「エル、どうかしたか?」
尋ねると、彼はあははと笑みを浮かべた。
「いえ、気をつけて進まないといけませんね」
「そうだな。よし、じゃ2階層へ行くぞ」
ーーーーーーーーーーー
ザッザッザ
降り立った2階層は、一階層と同じ弾性土を外壁とした大空洞が広がっていた。全く同じように見える…が。
「少し一階層より狭くなっているのか?」
間近に壁があることに違和感を覚えた。
「そうみたいねぇ、もし一階の大穴から外周までの距離――ン、おおよそ50kmが各層ごとに短くなっていくとしたら…このダンジョンは円錐のような形をしているかもしれないわね」
「へぇ」
驚いたのはダンジョンの構造にではなく、ジャンの観察力と頭の回転の速さの方だ。
「すごい、ただのオカマじゃなかったんだ」
雪がぶっこんだ。
「そうよぉ雪ちゃん、ただ可愛いだけじゃなく逞しさも兼ね備えてこそのカマウェイッ。って失礼なレディねあたしはコカンはともかくココロはオンナよ!」
ノリツッコミしながらジャキンとポーズをとるジャンの周りで氷雪の結晶が弾けて、少年たちは惜しみない拍手を送った。
……まぁ芸はともかく参謀役として頼りにさせてもらおう。
「よし、立ち話はこれくらいにして行くぞ。ダンジョンが狭まるとしても当分は飛行で移動だ。メンバー分けは先と同じで。決して分断されないように。各々油断するなよ!」
「応!!」
2階〜4階まではさしたる変化もなく、虫型モンスターの大群がひっきりなしに襲ってくるだけ……。アハァントとズブズブバブに加えてヤメテントゥとかいう口が拡声器みたいな毒持ちのてんとう虫もどきが増えて五月蝿さと煩わしさが倍増した。
それだけといえばそれだけなのだが、気がかりなこともあった。
「兄さん、あいつら、強くなってない?」
「あぁ、なってるな」
フォースリンガーは既にかなり出力を上げさせられている。いちいち撃っていくのが面倒になり、ペネト⭐︎レイのビームで一斉に薙ぎ払った。
ステータスだけでいえばあいつら1匹1匹がもうジャンやシェルとさほど変わらない。さぞ苦労しているだろうと並走するドラゴン組に目をやる。
今まさに特大のアハァントが3体、ハサミをギャリギャリ回転させながらドラゴンに飛び掛かっていた。
「氷結盾」
ガキィン!
それを止めたのはジャンが作った氷の盾だった。
そしてー。
「多重氷結鞭」
風を切る音とギャリギャリと激しい摩擦音ともに同時に何十本ものしなる氷のムチが辺りを蹂躙し、フロア中の敵を瞬く間にバラバラにしてみせた。
「やっぱすごいですね!ジャンさんの極大魔法は!」
シェルが感動して声を上げた。
「んー実はあれ、中級と超級なの」
「え、極大魔法じゃないんですか?」
「そうよぉエコでしょ」
「へぇ、あれだけの威力をどうやって?」
エルも興味津々で尋ねている。
「んふ、結晶化させた氷の粒子を超微細化することで強度と伸縮性を跳ね上げてるのよぉ。ちょうど結晶は昔大学で専攻してたテーマでね。魔法はイメージ!構造式を工夫すれば出力は抑えられるわ。お虫ごときにあたしの超絶美技は必要ないのよ。ってヤダ昔とか言ったら非公開のお歳がバレちゃうじゃないのよ!」
頬を赤らめるジャンに理不尽なびんたを食らったシェルの頭上に??が浮かんでいた。
ジャンがあんなに強かったことを初めて知った。そういえば唯一共闘したドラゴン戦の時はアイススケートしただけで全然戦ってなかったもんな。
クリスに聞かれたら怒りそうだけどああ見えてクリスより強いかもしれない。
だが勉強になった。俺の魔法や戦技も工夫すればまだ強化できる余地があるかもしれない。
そして俺達は虫型モンスターの群れを蹴散らしながら、なんとか日が変わる前に4階層の大穴へと到達した。ジャンの読み通り、どうやら外周は正円形で、階を下るごとに等間隔に短くなっていた。一階層あたりの移動にかかる時間が短くなるのは時間がない俺達にはありがたいが、敵はだんだんと強くなってきていた。
そして、いずれ出るだろうとは思っていたが、早くも遭遇することになった。
5階層への大穴を守る様に立ちはだかっていたのは、いかにも番人といった風体で武器を持った二足歩行のクワガタみたいな奴だった。
「皆、降りろ。うかつに近づくなよ」
俺達は全員地面に降り立った。そいつはこれまでの敵とは別格の強さを感じた。
『ステータス閲覧』
==========
ヘラクレス レベル:200
種族:擬人
性能:生命力Ⅱ、理力Ⅱ、魔力B、敏捷SS、運A
装備:覇剣、黒曜殻
スキル:斬鉄剣、瞬歩、ヒートホーン
==========
恐らく中ボスなんだろうが、限界突破型だ。
すぐに全員に念話で情報を共有し、対強敵単体シフトを指示した。前衛は俺、中衛が雪、遊撃がルーパー、他3人は後衛だ。
いずれ限界突破した敵が現れるだろうとは思っていたが、まさかこんな浅層の中ボスがこの強さとは予想していなかった。
「しぶとく生き残った地表の寄生虫どもめ」
クワガタ人間はくぐもった声で言葉を発した。
擬人……か。世界各地のダンジョンでちらほら報告されているが、明確に言語を操るレベルはめったにいない。
「なぁ、俺達は急いでいるんだ。ちょっとそこを通してくれはしないか?」
一応穏便に済ませられないかどうか対話を試みてみたのだが。
ブゥン!
黒光りする鈍器の様な剣の一振りがその答えのようだった。
ビリビリとこちらまで衝撃が伝わってきた。
「【主】様が星を滅ぼした暁には我らが地上に住まい、貴様らの痕跡を跡形もなく消し去ってやるからここで潔く死ね」
対話は無理か。
しかし生きた痕跡とはまるで人間みたいなことを言う。
「兄さん、話はもういい?」
「あぁすまんな。ああいうのを地上に出すと危険だ。ここで確実に殺していこう」
「元々そのつもり」
「なにをごちゃごちゃと囀っておるか」
クワガタ人間は頭部から生やしたノコギリみたいなハサミをガチンガチンと打ち鳴らしながら武器を構えた。
多少知能があるぶん、幻獣より強いかもな。
銀極穂を取り出して……仕舞った。
あの矛のとてつもない威力と、先程のジャンの言葉を思い出したのだ。
もはやこんな浅層の敵相手に使うべき武器ではない気がする。
「『簡易錬成』」
削り取って持っていたこのダンジョンの壁のカケラを取り出して、簡素な棒を生成した。そしてその柄を思い切り地面にドンと突き立てた。
……全く変形はない。太極棍みたいに伸縮する能力なんてないが、強度だけは十分のようだ。
これは多対一のチーム戦だ。武器は折れずにいてくれればそれでいい。
くるくると手の中で棒を回し、手に馴染ませた。意外にしっくりくる。上出来だ。
「よし、やるか」
「己を愚弄しおって人間風情が!」
クワガタマンの逆鱗に触れたらしい。一直線に切り掛かってきた。
武器と武器を打ち合わせ、生まれた火花が薄暗い洞窟を照らした。
何合も撃ち合ったが、棒は折れなかった。
さすがにただダンジョンの破片から錬成しただけの棒であればすぐに折れるだろうが、今は武器そのものを変質させてある。ジャンが魔法はイメージと言ったのと同じく、戦技にもその真髄は存在したらしい。
『それでいい。それで、お主自身もまだもう一段階強くなれる』
先程から龍神様の内なる声に耳を傾けていた。
『龍の爪とは、お前が何度も撃ち合った我の槍だ。あれを錬成するつもりでその隙間だらけな棒具の骨子の隅々にまでお前の闘気を流し込め。さすれば表面を覆うだけだった今までより、よほど強い棒きれが創れるだろうさ』
「はい師匠」
「ぐぬぬぬぬそんな破片で作った適当な棒きれなどに己の覇剣が押しとどめられるとは屈辱ッだがァ己の技が発動すればそんな棒きれごときッ」
「はは、俺一人相手にそんなに熱くなってていいのか?」
「え――ぎゃあ!」
風をまとった大鎌に背中をざっくりと削ぎ落とされて、悲鳴が上がった。
雪は大鎌を肩上に背負い、緑の血を振り落とした。
「ひ、卑怯なり人間。男同士の戦いに横槍を刺すなどと――」
「エクスアクア!」「エクスライトニング!」
「ぐげぇ」
そこにシェル・エルコンビの全身感電コラボが炸裂し最後まで喋らせなかった。
「いぇーい4コンボ」
ハイタッチする二人。
「全身濡れ濡れの状態は温度を奪いやすいのをご存じ?超級――『絶対零度』」
畳みかけるようにジャンの氷魔法が血液レベルまで全身を凍らせた。
「がが……が……」
「ルーパー、溶かしてやれ」
「ルパ―!」
黒炎が吹き荒れる。
ヘラクレスの体内の氷結が解け始める頃には体表はブスブスと焼け焦げ、自慢の甲殻は熱衝撃に耐えられず見るも無残に剥がれ落ちていた。
目の前まで歩いていく。
膝をついて俺を見上げるその眼光は、完全に元の威容を失っていた。
「た……助けてくだ――」
「却下だ」
上段から思い切り振り下ろし、自慢のハサミごと叩き折って脳髄をぶちまけた。
しばらくぴくぴくと全身を痙攣させて、やがて動かなくなった。
「やったぁ!」
「あぁ、うまくいったな!」
シェル・エルコンビが喜んでいる。
このメンバーでコンボが一巡するとこうなるのは分かっていたが、想像以上に上手くいった。
卑怯というなかれ、これが人間の最大の武器、連携だ。
「ちゃんと相手してやれなくてすまなかったが、こちとら時間がないんでな」
死体に手を合わせた。
覇剣とかいう鈍器は使えるかもしれないので回収しておく。
「コアは……ないのね。本当に人間を模して作ってあるようね」
ジャンが飛び散った脳髄の中にコアの破片がないことを確認してくれたようだ。
確かに、死んだということは脳以外の場所にコアがなかったということだ。
モンスターや渡来生物の身体には必ずコアがあった。おそらく魔力から生命を創る過程でコアがあったほうが都合が良いのだろう。だからそれを捨ててまで擬人の製造に拘っていることになる。
あいつら……いやルシファーは、恐らく地球の侵略を始めた随分と初期の頃から、人間について研究を続けている。なぜだろう。ただ侵略に来ただけで、いずれ滅ぼす種族を、そこまで研究するものか?
……まぁ本人の口を割らせる日も近いだろう。
その時はさっきのアイツみたいに命乞いさせてやるからな、ルシファー。
「兄さん」
雪に服の裾をつかまれた。
……ちょっと堅い顔してたか。
いけないな、リーダーの俺がこんなに緊張しててどうするんだ。
「雪――。皆!少しだけここで休んでいこう」
「賛成~」
よく見れば、みな服も肌も虫の返り血でべとべとになっていた。
感謝をこめて雪の背をぽんと押した。
俺が何を考えているかなんてもう彼女にはバレバレな気がする。
リーダーの前に、兄ちゃんがしっかりしなきゃな。
カプセルハウスを開き、小一時間だけ休憩をとることにした。
まだまだ先は長い。
――【主】による地球再侵攻まで、あと9日――




