第98話 魔境へと続く道
今日は妙に早く目が覚めた。高層ビルの東向き窓の向こうの空もまだ薄暗い。気怠いベッドの上で顔だけ横に向けると、ナーシャの姿はない。リビングダイニングの方から良い匂いがしたのでむくりと身体を起こし、誘われるようにそちらへ向かった。
淡く白い蛍光灯の下、黒いセラミックのおしゃれなキッチンで、ナーシャは一つに結った長い髪をふりふりさせながら、どうやら朝食を作っていた。
「あ、太一も起きたんだ。ちょうど良かった。今コーヒー淹れるね。濃いめ?」
「ありがと。ほどほどで」
「わかった」
「いつから起きてたの?俺が気づかないとはやるね」
むふ、と含む様な笑い顔。意外といたずら好きなところもある。そういや最初に彼女と出会った時も不意打ちをくらったのを思い出した。
「……ついにダンジョンも最後だね。感想は?」
世間話のように、同じ調子でそう聞いてきた。
「……そうだな、本当に色々あったからな。人類の数は半分にまで減ってしまったけど、仲間達が誰一人欠けることなくここまで来れたのは奇跡だ。そして、このまま最後まで上手くいくと信じてる」
「最後まで……。うん、そうだね。きっと大丈夫。太一は凄いよ。雪ちゃんも私も、店長さんやリーリャも、ミサイルの時も、太一が助けてくれた。太一ならきっと何とかしてくれるって、今や皆がそう思ってる」
「……はは、少し前なら期待しないで欲しいと、それだけだったと思うけど、今は……そうだな、英雄も悪くないなと、何というか振り切ってきた感じかな」
「すごいや、私とは大違い。はい、神碧水で作ったモーニングコーヒー」
「君は最初から、十分にやってきたさ。ありがとう。はぁ…うま……」
世界一豪華な蒸留水で丁寧に淹れてくれたコーヒーだろうが、味覚オンチな俺には普通に美味いコーヒーだ。
「太一、今までと違ってS級化したダンジョンの情報は一切ないのは話したよね。経験値等分配は付与できるけど、マッピング補助は出来ない。技術部が開発したマッピング機器はあるけど、十分気をつけてね」
「あぁ、油断したりしないよ。それにアレクから借りたとっておきもあるし、いざという時は試してみるさ」
「…必ず帰ってきてね」
「もちろんだ。ナーシャも、何があっても絶対死ぬなよ。生きてさえいれば、戦いが終われば楽しいことが沢山待ってるんだから」
「うん、私は絶対死なないよ。……ね」
「ん?」
何か今、含みがあったような。
「なんでもないよ!お互い頑張ろうね!」
「あぁ、頑張ろう」
朝食を食べて、身支度を整える。
アイテムボックスの中に手を入れると、不思議と整理整頓された一覧が頭に浮かんでくる。アレクに魔素核の殆どを提供して容量に余裕ができたところに、十分な食糧を詰め込んである。速やかな帰還が望ましいが、最悪長期戦になる可能性もあるからな。
「はい、これも入れておいて」
ナーシャが焼きたてのアップルパイを手渡してくれたのでそれも仕舞い込んだ。シェル以外は甘党なメンバー構成なので喜ばれるだろう。
「ありがとね」
「食べられるくらい余裕があることを切に祈ってるわ。あ、ルーパーちゃんも起きてきたみたい」
「るぱ」
眠たそうな目を擦りながら我が家の聖獣がやってきた。普段は大型犬サイズに小さくなってくれているが、寝るとたまにこうして元のサイズに戻っている。
「お前も今日からダンジョンだぞ。しゃきっとしろよ」
「るぱ」
「黒炎は昨日イヤというほど食わせたからな、存分に活躍してくれよ」
「る、るぱ」
最後の方は満タンにしすぎたのか本当に嫌がっていた気もする。今朝はツノのフサフサがいつにも増してフサフサだ。
ルーパーは炎は食べ飽きたのか、いつものようにガスコンロには向かわず、ナーシャの袖を引っ張って出してもらった上質な魔獣肉を座ってむしゃむしゃと食べ始めた。
そうして我が家で過ごす幸せな時間はゆっくりと過ぎて、出発の時間がきた。ルーパーもいつの間にかお気に入りのスカーフを巻いていて準備万端といった感じだ。
……何となくだが、もうこの部屋でこうして過ごすことはないだろう。そんな気がする。
「じゃ、行ってくるな」
「行ってらっしゃい、太一。八百万神様のご加護がありますように」
ナーシャは笑顔で見送ってくれた。
きっと加護があるだろう。当の神様の目を覚ましに行くわけなんだから。
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「点呼!イチ!」
「二」
「さぁーん♡」
「よーん」
「ごごご、ごっ」
「ろぱー」
俺、雪、ジャン、エル、シェル、ルーパーの六名が揃っていることを確認した。本日未明より、S級攻略班はこのメンバーで作戦行動を開始した。
「渡瀬大尉!ご一緒に作戦行動させていただき光栄です!ただ、し、しし、質問があります!」
「なんだシェル」
「は、すみません!その、さささ、寒いのですが、これはいつまで続くのでしょうか!」
「あぁ……まぁその反応が普通か」
進化したタイチカーファイナルが猛スピードで上空を飛ぶ中、あえて突入感を出すためにいろいろオープンにしてみたのが良くなかったらしい。不評のようなのでまた隔壁を閉めた。改めて外気温メーターを見ると-100℃になっていた。高度1万キロではあるが、確かに随分と低温だ。
実際今年の冬は猛寒となった。ダンジョンが地下で奪ったエネルギーが地表を焼き猛暑を作った夏とは一転し、殆どのダンジョンが討伐され空洞だらけになった地球は、太陽からの熱を保持出来なくなっているのではと言われている。
「まぁもうじき突入して否応にも暑くなるから我慢しろ。ジャン、着陸前に、入口までの氷のレール作り頼んだぞ」
「お安い御用♪」
「え、まさか車体ごと突入するんですか?」
シェルがいかにも怖気づいている。
「そうだが?安心しろ、俺のバリアーがあればまぁ、お前の首の骨が折れる程の衝撃にはならないさ……たぶんな」
「安心どころかむしろ余計怖いんですが」
「シェルしゃきっとして。ポセイドン倒して随分レベル上がってるんだから、ちょっとやそっとで死にはしない」
「あ、はい」
雪がカツを入れると、彼はびしっと襟を正した。
「リーダーが慌てているのをみると僕が安心するよ」
「なんだとぉー」
すっかり元通りのようだ。この三人は息ピッタリって感じだな。リーダーが突っ込まれ役という珍しい関係性だが、元々の能力もバランサーなので丁度いいのかもしれない。お互い信頼は厚そうだ。
「うーん青春ねぇ」
ちょっとうっとりした表情のまま、ジャンは時折上空に紛れ込んだワイバーンや、飛ぶアザラシやムカデといった風貌のラプラス、スカイセンティピードなどの飛行モンスターを一瞥しただけで撃ち落としていた。魔法制御がかなり正確なのが分かる。
ただ、シェル・エルを含めた彼らは限界突破したステータスがなく、【主】との直接の戦闘は厳しいだろうな。エルに関しては敏捷がもうすぐだから、SSS +になった時点で宝玉を使うとするか。シェルには回復に専念してもらうのが良いかもしれない。
目的地が間近に迫ってきたため、大きくタイチカーの高度を下げていく。分厚いおぼろ雲の中に突入し、少し機体が揺られながら飛ぶこと数刻、次第に雲が途切れるにつれて、ロシアS級の全貌が見えてきた。かつて挑まんとしたA級の面影はそこにはなかった。ダンジョン進化の際の膨大なエネルギーの余波でできたクレーターの側には巨木が立ち、一帯に影を落としている。中国S級から伸びてきた根が作ったと思われる木だ。三重に巻きついた根が細くも一直線な長い幹となり、そこから無数の枝葉が派生した様子は一見美しくもあるが、巨大な門を守るようにそびえ立つ様子は、俺たちには不気味なものでしかなかった。
飛行モンスターが一斉にこちらに目掛けて飛んできた。その数1万体は下らないだろうか。ここからはイナゴの群れのようだがそれら全てS級モンスターだ。アメリカS級の時より遥かに激しい歓迎である。
「どど、どーしましょうか!」
「ゾゾ、流石にアレは厳しそ〜」
「る、るぱ」
「3人は待機」
焦るシェルとジャン、ルーパーを自制させた。
反面、雪とエルは落ち着き払っている。褒めてはいない。遠距離攻撃が不得意なので端から丸投げしてるだけだ。
まぁこんなこともあろうかと、離陸前にこの機体にはナーシャの『界絶瀑布』を纏ってもらってある。水神と通じた今の彼女のバリアーは、俺の全力のイン★フェルノにも一回は確実に耐えてくれるだろう。
「くく、久々にぶっぱすとするか」
五行錫杖に大きめの魔力を込めて、門一帯を焼き尽くすようターゲットした黒炎を放った。
破裂の瞬間を待ち望むかのように黒く点滅する炎の炸裂弾が先頭集団めがけて飛翔し、弾けた。
ッドン!
大きな影が空を覆い、遅れて衝撃と熱波が押し寄せてくる。機体がぐらぐらと揺れた。
「うわぁぁ…」
ナーシャの水の防御壁がじゅうじゅうと音をたてて蒸発していく様子は初見だと恐怖だろう、流石のエルも声を漏らした。俺が完璧にあれをコントロールできればこんな手間もいらないんだが、それはもう諦めている。
「……」
シェルは口をぱくぱくさせて絶句している。そしてその横でルーパーも並んで口をぱくぱくしている。昨日あれだけ食べたのにもう腹が減ったらしい。
しかし、さすがレベルアップしただけあって爆炎の迫力には更に磨きがかかった気がする。
「全滅かな?さすが馬鹿げた威力だね」
雪からお褒めの言葉もいただき、気分が良い。
だが煙幕が晴れてくると、そこに俺の期待する光景はなかった。
「なにぃ?」
1匹残らず消し去るつもりで放ったのに、消えたのは手前半分程で、門の周りには無傷のモンスターが大量に生き残っていた。
「あの木が犯人のようねぇ」
足と腕を組んでジャンが指差した先には、あの巨木の姿があった。どうやらあれを中心に特殊なバリアが展開されたらしい。木を解析してみたところ、遠距離攻撃からモンスター達を守るための仕組みのようだ。案の定、あれも立派な敵だったわけだ。
「どうする太一ちゃん、ツッコむの?それともくるりんぱするの?ちなみに私はツッコむのが好みよ」
……このまま減速せずにツッコむと約5000体の飛行モンスターを斬っていく必要がある。流石に皆反応しきれないだろうしバリアーもまず保たない。最悪墜落する。とはいえ着陸して順次倒していくのは時間ロスが甚だしい。
うーむ。
少し悩んだが、使うしかないか。
これが二度目となる。初っ端から奥の手を切りたくはなかったが、今はそれだけ困難な状況だと判断した。
「このままツッコむぞ!皆接近戦の準備。ノルマは1人500匹だ!」
再びタイチカーの隔壁をオープンにして、足場を用意した。
「げぇぇぇ!さ、さすがにこの速度じゃ無理ですよ!反応しきれません!」
「大丈夫だシェル。すぐにみんな『遅くなる』」
「なにが!って、まさか…いきなり例のやつですか」
「そうそのまさか」
雪以外は初めましてだな。
固有結界を展開する感覚は不思議なものだ。世界を思うがままに塗り替えていくような全能感を覚える。現にこの能力には圧倒的な力があった。
現状最後のスキル『時奪陣』は、俺を起点とした円の中にいる味方の時間の流れを加速させ、敵の時間の流れを減速させる。それは生物・非生物を問わない。対象数と発動時間が増えるほど消費魔力が増え、効果が切れた後は『時間のペナルティ』が課される。幸い寿命が縮むことはないが、奪った時間だけ、切れたあとの俺の時間が大きく減速するのだ。
要は使い所を誤ると致死的な隙を晒す諸刃の剣ということだ。
「『時奪陣』展開」
俺にしか見えない不可視のドームが貼られるやいなや、玉藻以上となった自慢の魔力がすごいスピードで削られていく。数はさほど変わらないのに核ミサイルの時とは比較にならない消費量だ。生物のほうがより消費が大きいということなんだろう。
そしてついにモンスターの戦闘集団と接触した。向こうからすると、急にこちらの車の速度が跳ね上がったように見えているだろう。先頭が俺とジャン、両翼が雪とエル、後翼がシェルとルーパーの布陣となっていて、ジャンには既に車体をレールに乗せてダンジョン入り口までのかじ取りを始めてもらってある。だから露払いが俺の仕事だ。
まずは反応できず明後日の方向を向いていたラプラスの頭を左手で鷲掴みにして体力と共に魔力を根こそぎ奪取し、ミイラにして投げ捨てた。
そして右手には新たに得た武器を持った。
頼れる相棒たる太極棍をベースに、装備クーポン特上で改造したものだ。太極棍はナーシャ同様に生き別れた後奇跡的に再開した恋人みたいな存在だったので、乗り換える気はさらさらなかった。なので装備クーポン特上に『進化』機能を見つけた時は思わず飛びついたものだ。
そうして太極棍を柄として先端に巨大な刃が融合された俺の新兵器、名は「銀極穂」。槍というよりは薙刀や矛に近い形状かもしれない。
以前から特にオメガや【主】といった巨大な相手にいつまでも打撃のみでは分が悪いとは考えていたし、龍神の技は槍をベースに生み出されていることを知ったので、斬撃および刺突を主軸に取り入れることを決めたのだ。
ちなみに巨大化できる太極棍の性能はそのまま刃にまで引き継がれている。
「だありゃッ!」
ブゥン!
掛け声と共に巨大な矛を前方の群勢めがけて一閃。
奥義どころか戦技も使わずに、それで20体近いモンスター達がバラバラになって落ちていった。
驚くほど軽い感触だった。
「S級モンスターの群れをスキルも使わずに屠っちゃうなんて、太一ちゃんゲロヤバね」
「どうも」
装備クーポン特上の性能を全振りした穂先の切れ味は半端ではなく、俺の皮膚でさえも容赦なく切り裂く。棒はああ見えて片手では十分に扱いづらい武器だったのだが、よく切れる矛は片手で十分な殺傷力がある。
「よし、どんどん行くぞ!」
――――――――——
「ギャギャギャギャ!!!!」
機体は飛行モンスター群の塊を掻き分けて進み続けた。
S級ダンジョンは明確に太一達の侵入を拒絶しており、モンスター達の抵抗はかなりのものだった。太一の結界の外側から回り込んで両翼に攻撃を仕掛けきた頭数はかなりのもので、雪とエルは必死にそれらを撃退していた。
逆に後方から追随してくるほど高速飛行できるモンスターは殆どいなかったため、シェルは右翼の雪の側に、ルーパーは左翼のエルの側に、それぞれ遊撃として加わった。
「わははははははは!!!!」
「雪くん、君のお兄さん、やっぱ相当やばい人だね」
十メートルはあろうかという巨大な矛を残像を残しながら嬉々として振り回す太一によってバラバラになったモンスターの残骸が宇宙ゴミのようにスローモーションで後方に流れていくのを見ながら、シェルは能面のような表情で雪に言った。
「ふぅ、ふぅ、そんなの当たり前じゃない。兄さんは出会った時からずっとバケモノよ。それよりシェルあなた楽そうでいいね。私ちょっと休むからあと宜しく」
「え、雪くん私、援護役なんだけど…」
「じゃポジションチェンジ。困ったら援護するからがんばって」
「ひぇぇぇ鬼ぃぃぃ」
「るぱおーーー!」
ルーパーは貯めに貯めた黒炎を広範囲に掃射し、相当数の敵を撃破していた。
太一の魔力が強化されるにしたがってルーパーがストックした炎も強化されるためだ。
「へぇさすがは神獣、神々が残した忘れ形見か」
意味深につぶやきながらエルが雪と同様に援護に任せて楽をしていると、ルーパーはジト目で彼を見つつ、後ろ脚で彼の脇腹をこづいた。
「いて。ひどいなぁ僕は持久力ないからこれでも随分頑張ったほうなんだけど」
エルがにへら、と得意のゆる美形スマイルを浮かべたが、ルーパーは機嫌が悪そうなままモンスター群を撃退し続けた。
「ひょっとして僕、嫌われてる?まぁ君のご主人様、なんだかんだ献身タイプだもんね。仕方ない、もう少し頑張りますか」
そう言うと、エルは大口径の魔導拳銃を両手に構えると、両腕のみに雷を纏った。
「雷纏・レールガン」
―ジジッ―
騒音が著しいその場では誰にも聞こえない程に静かな音で、魔導徹甲弾は極超音速で瞬く間に連射された。
「うん、やっぱり文明の利器はいいね」
一人だけ上機嫌なエルの静かな殺意の視線上でモンスター達が胴体に風穴を空けてぼとぼとと落下していく中、それを見ていたルーパーは一人、いつになく険しい目つきで炎を吐き続けた。
――――――――——
「見えた!」
展開した足場は既にボロボロになっていたが、皆の奮戦のおかげで、なんとか車体が損壊する前に入口を視界に捕えた。今となってはその隣に寄り添うようにそびえ立つ大木が憎々しいったらありゃしない。
「ジャン!」
「アイアイ!行路修正おもかじいっぱーい!」
既にジェット噴射は切ってあり、ほぼ摩擦のない氷のレールを以てジャンがフェイクを交えて行路を次々と変更し、その上を慣性によって爆走する車体はまるで芸術的な軌道を描きながらモンスターの一団を巧みに躱していた。
一寸先はレールのないジェットコースターの上を重力と遠心力に正面衝突しながら滑走するタイチカーの上で、もはや乗員は恐怖と酔いと時折飛んでくるブレスのダメージなどで、とてもモンスターの相手どころではなくなっていた。
「皆もう少し耐えてくれ!あと少しだ!」
「太一ちゃん、突入するわ!」
「よし!『バリアー』全開!」
超魔導でブーストしたバリアーが、俺に残された最後の予備魔力だ。門に突入するまでは、なにがあっても時奪陣だけは切らすわけにはいかない。
門をゴールキーパーのように守る大型の地上モンスター達の最後の一団は、正面突破する他ない。氷のレールごと車体を超バリアーで保護して、ついに車体は門へと向かって体当たりのように突進した。
ガガガガガガガガガガッッ!!!
「-------ッ」
皆声にならない声をあげた。
俺の体力の半分を誇るバリアーもみるみるうちに削られて薄くなっていき、ついに俺にだけ聞こえるバリンッという嫌な音をたてて破られた。
車体に残されたエネルギーを全て隔壁シールドに回した。
あとは相棒を信じるのみだ。
ガガガガガガガガガガッ!!
ガガガガガガッ……ガガガ。
…………。
「……音がやんだ」
声を発したのはシェルだった。どうやら無事生きているらしい。
確かに音は聞こえなくなった。
あたりは真っ暗だ。どうやらライトすら点かない程、車体はエネルギーを使い果たしたらしい。
手動で隔壁を解放すると、わずかな光が車内を照らした。
「皆、大丈夫か?」
全員の無事を確認してから、俺ひとり、外に出た。
「あ……」
タイチカーのフロントにある動力部分は真っ二つに裂けていた。
これはもう、なんでも修理くんでも直せないだろうな。
ガチャでもらった神アイテムの一つだったが、ついに壊れてしまったか。
「よく頑張ってくれたな……。皆、出てきてくれ!」
寂しい気持ちを振り払い、皆に声をかけた。
全員が車外に出て、ダンジョン内部の有様を目にした。
「ここは……なんて大きな……」
雪が呟いた。
「……大空洞」
ジャンのその表現がしっくりきた。
それほど桁違いに大きな空洞が、眼前に広がっていた。
「いいか皆、ナーシャのダンジョンマップで得た大まかな概要のおさらいだ」
圧倒される気持ちはわかるが、呆然とはしていられない。
「ここは中国S級から伸びた根が元々あったダンジョンを掘り進めた穴だ。元々ロシアA級は50階層から成るダンジョンでありその階層に変わりはないが、一階一階の広さは望外に拡張されており、ロシアの国土の半分ほどに匹敵すると思われる。タイチカーは壊れたが、徒歩では攻略に時間がかかりすぎる。……出ろ」
俺はドラゴンを召喚した。
「ここからの移動手段はルーパーとドラゴンだ。俺達は速やかに帰還する必要があるが、ダンジョン内は何が起きるか分からない。気を引き締めて……へ……」
……あ、やばいやつきた。
「へ……へにゃ」
「あれ、渡瀬大尉?」
「太一ちゃんどしたの?具合わるいの?膝枕する?」
「お兄さーん?」
「だ……れ……が……お……に……い……さ……ん……だ……」
皆が早口すぎて聞き取りづらい。あと視界がぐるぐるして気持ち悪い。
「時奪陣のペナルティ……。でもあの時よりだいぶ酷いわね。兄さんはしばらく使い物にならないけど、先を急ぎましょう。私と兄さんはルーパーに、ジャン、エル、シェルはドラゴンに乗って。ここは魔境。気を引き締めていきましょう」
なんだかよく分からないけど、みんな忍者みたいな動きでドラゴンにのって行ってしまった。
あら、あらら。
「だめだめね。兄さんがこんな状態になったの、ブラジル基地で兵隊さん達と特訓していた頃以来かな。ふふ、かわいい」
なんだか雪に背負われてほっぺたぷにぷにされている気がするけどよくわからん。
そこはかとなく気持ち悪い。
「ルーパー、飛んで!」
「るぱ!」
うぇ、ちょっと吐きそう。
「……ホント、使いどころは気を付けないとね」
こうしてS級ダンジョン攻略班は、内部での作戦活動を開始した。
――【主】による地球再侵攻まで、あと10日――
ステータス一覧
New!!
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渡瀬太一(31)レベル:330(EXP+300%)
加護:魔神, 龍神, 八百万神
性能:生命力Ⅲ, 理力Ⅲ, 霊力Ⅳ, 時制力Ⅲ, 運A
装備:銀極穂, 五行錫杖, フォースリンガー, アンダーアーマー, 魔導軽套改一式, 幸運のタリスマン
【スキル】
戦技:龍の爪, 龍の翼, 銀閃, 火事場の真剛力, 韋駄天, 隠形, 金剛, 超集中, 威圧
魔法:初級(火氷雷風土回治), イン★フェルノ, ペネト☆レイ, 時奪陣, ドレインタッチ, バリアー, 念動力, 身体強化, 超魔導, 簡易錬成
技能:ステータス閲覧, アイテムボックス, テイム, 消費魔力半減, 起死回生, 超回復, 状態異常耐性, 念話, 意思疎通
神威:龍神Lv.3, 魔人Lv.3
【インベントリ】
アイテムクーポン(特上×3), 装備クーポン(特上×1)
製造くん(食糧/飲料水/快適空間/ユニットバス), 何でも修理くん, カプセル(ハウス/バイク)
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アナスタシア・ミーシナ(24)レベル:235(EXP+200%)
加護:治癒神, 水神
性能:体力SSS, 筋力SSS, 霊力Ⅱ, 敏捷SSS, 運D
装備:光魔の杖, ミスリルの小刀, 魔導軽装改一式, 幸運のタリスマン, 水星の指輪
【スキル】
戦技:会心の一撃, 隠形, 緊急回避, ナイフの心得
魔法:初級(水雷風回治), 中級(水), 超級(水回), 水神召海七覇槍, 原初回生, ホーリーソーン, 身体強化支援, 治癒系魔法全体化, 界絶瀑布, テレポート
技能:ダンジョンマップ, 経験値等分配, 状態異常耐性, 回復促進, 言語理解
神威:治癒神Lv.1, 水神Lv.3
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渡瀬 雪(17) レベル:230
加護:風神
性能:体力SS+, 筋力SS+, 魔力A+, 時制力Ⅲ, 運C+
装備:死神之鎌, 魔導短刀, 黒の法衣, 風のブーツ, 風神の首飾り
【スキル】
戦技:反物質的掌打撃
魔法:風魔法(初~超級), 風魔法剣, 風来陣
技能:なし
神威:風神Lv.4
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田村次郎(45) レベル:200
加護:七福神
性能:体力C+, 筋力C+, 魔力C+, 敏捷C+, 神通力Ⅱ
装備:打ち出の小槌, アンダーアーマー, ぷよぷよシールド, ミスリルの下駄, マジックタリスマン
スキル:降神祭
神威:なし
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リーリャ・グラジエヴァ(25) レベル:205
加護:男神
性能:体力S, 理力Ⅱ, 魔力C+, 敏捷A, 運F
装備:大戦斧、略式ハルバード改一式, 魔導銃、魔導軽鎧改一式
スキル:MMM, POG
神威:男神Lv.1
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玉藻前 レベル:260
種族:妖怪(九尾狐)
加護:猫神
性能:生命力Ⅱ, 理力Ⅰ, 霊力Ⅲ, 時制力Ⅱ, 運A
装備:血吸扇、御伽装束
【スキル】
戦技:しっぽではたく
魔法:初級~超級(火水土風氷雷光闇無)
極大級:終末流星群, 六式季葬, 憤怒の舞, 黒化粧
技能:魔力耐性-強、ステータス閲覧、閲覧阻害、状態異常耐性、言語理解
神威:不可
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アレキサンダー,D,R,S,オリヴェイラ(31)レベル:255(EXP+250%)
加護:製造神, 銃神
性能:体力SSS+, 筋力SS+, 魔力S+, 敏捷SSS+, 運D
[紫電纏い時]生命力Ⅲ, 理力Ⅱ, 霊力Ⅰ, 時制力Ⅱ, 運B
装備:リバレット, ボディアーマー, 魔導軽鎧改二式, 盾式遺物, 紫電, 幸運のタリスマン
【スキル】
戦技:マシーナリー, LRバリアー, 隠形, 超集中, 銃の心得
魔法:初級(火雷回), リーサルウェポン, アーティファクト
技能:魔導機械生成, アイテム生成, ステータス閲覧, 鑑定, 飛行, 状態異常耐性, 物魔耐性小, 言語理解
神威:製造神Lv.4, 銃神Lv.3
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クリス・オーエンス(33) レベル:190
加護:守護神
性能:生命力Ⅰ, 筋力SS+, 魔力B, 敏捷B, 運D
装備:マージナルフィスト, 魔導スーツ, 魔導重套改一式, 魔導シールド
【スキル】
戦技:ゼロ・インパクト, 金剛, 柔剛一体, 瞬歩
魔法:なし
技能:物魔耐性-中/小, 状態異常耐性, ステータス閲覧
神威:守護神Lv.3
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ジャンマリオ・ガブリエーリ(非公開) レベル:190
加護:女神
性能:体力S+, 筋力S+, 魔力S+, 敏捷S+, 運D
装備:ポイズンダガー, パラライズウィップ, マジカルラブリーステッキ, 魔導極薄スーツ, マリアのジャケット
【スキル】
戦技:バッド・ギフト, 隠形, ナイフの心得
魔法:初級(氷,風), 中級(氷), 超級(氷,回), エターナルフォースブリザード
技能:状態耐性, 魔法耐性-中
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オナリン・ソサ(22)レベル:160
加護:獣神
性能:体力B, 筋力B, 魔力SS, 敏捷A, 運D+
装備:魔導改一式(銃、短剣、スーツ)
【スキル】
戦技:ゲイル・クロウ
魔法:初級(土,風), ソリド・テイム, ジディ・ビースト
技能:物理耐性-中
神威:獣神Lv.1
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シェル・アディティア(20) レベル:155
加護:ヴィシュヌ神
性能:体力S, 筋力A+, 魔力SS, 敏捷S, 運D
装備:スダルシャナ・チャクラ・A、魔導杖、魔導軽套
【スキル】
戦技:カース・ナラク
魔法:水魔法(初~超級)、回復魔法(初~超級)、蓮華陣
技能:なし
神威:なし
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三鷹イマヌエル(17) レベル:145
加護:雷神
性能:体力A, 筋力A, 魔力A, 敏捷SSS, 運D
装備:魔導短刀, 魔導銃, 魔導軽装
【スキル】
戦技:雷切
魔法:雷魔法(初~超級)、雷纏
技能:なし
神威:雷神Lv.4
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ルーパー 成体
種族:神獣フレアサラマンダー
性能:体力SS, 筋力SS, 魔力SS, 敏捷SS, 運A
装備:マイルドスカーフ
スキル:火の御使い(火吸収, 火放出, 火燃焼)
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