表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/134

第73話 オメガ戦 破

 シュエが召喚した風神は、触れただけで細切れになりそうな二本の風の柱を操り、オメガの巨体へとぶつけた。


『グォォ!』


 凄いな、あのオメガが身動きすらとれていない。


 そしてあろうことか、その風の柱はだんだんとオメガの巨体を浮き上がらせた。

 風神を呼び出した雪の目は緑色に輝いており、凄みを感じさせるその表情は、意識の全てを召喚の維持に集中させていることを物語っていた。


 あの頑強余りあるオメガの体表に無数の深い傷跡を刻みながら、段々ととその巨体は空高く浮き上がっていき、二本の風の柱はアーチの頂点へと収束していった。


 そんな中、俺は、自分の中の龍神へと呼びかけていた。

 戦況が優勢なのは今だけだと、俺の直感が警報を鳴らし続けていたからだ。

 

 俺は随分と強くなった。

 あの巨人の一撃を、まがりなりにも正面からはじき返せるくらいには、強くなった。

 龍神に、力とスピードを与えてもらったからだ。

 だが、まだ足りない。

 今の俺の能力では、あいつに致命傷を与えることは不可能だ。

 俺に足りていないのは何か。


 それは、どんな相手にも通用するような、圧倒的なまでの破壊力だ。


 レベルはもう随分と上がりにくくなってきた。

 四大ステータスを限界突破させた今、俺が駆け足で強くなるためには、龍神と魔神それぞれの最後のスキルを会得するか、もしくはあの第四段階目の神威を扱う他にない。


 しかし…。


「いけぇぇぇ!」


 雪が吠えた。

 それに呼応して、雪を守るように背後に居た風神は一瞬でオメガの頭上へと移動し、凝縮した風の塊を救い取ると、その胴体目掛けて、強力無比のスレッジハンマーを振り下ろした。


『グェ』


 ズゥゥゥゥン!


 激しく地面にたたき落されたオメガは相応のダメージを負ったようで、すぐには起き上がらなかった。

 そして俺が追撃を思い立ってわずかの内に、変化は起こった。

 大技を放った風神の姿がふっと掻き消えると共に、雪が地面に落下し始めたのだ。


 俺は宙で雪を拾って、出来るだけオメガから距離をとり、用途不明のビルディング群の裏側へと身を潜めた。


「雪、ポーションだ、飲め」

「…ぅ…げほっげほっ」


 雪は朦朧としていた。

 わずかに開いた瞳の色は、元の黒色に戻っている。

 額に手をやると、かなりの熱がこもっていた。


 くそ、案の定か。


 神威の四段階目は…脳を焼く捨て身の技だ。


 ボイタタもかつて言っていた。四段階目を扱えた霊能力者は殆どいなかったと。

 この雪の様子からすると、下手をすると、扱えた人はいてもそれで命を落としたがために認知されなかった可能性もあるかもしれない。


 俺は、それでは困る。

 俺はもう二度と戦線離脱するわけにはいかない。


 雪に無理やりポーションを飲ませてから、気配を消しつつオメガの様子を伺った。

 巨人は既に起き上がっており、風神がつけた傷跡も、徐々に塞がりつつあった。


(…龍神様、応えてください)


 俺達を探しているオメガは痺れをきらしたのか、大きな声で俺達へ呼びかけ始めた。


『先の魔法は実に見事であった。だがどうした、我の傷は塞がるのだぞ、もうお終いか!』


 どうやら俺と雪の気配は察知されていないようだ。

 だが、この状態がいつまで保つか。


 今俺一人が出て行ったらどうなるか。

 戦況が改善することはあり得ない。


 最悪、時間稼ぎに徹するくらいなら可能だ。

 だが、もし店長たちがナーシャの救出に失敗したら?

 

 ただ体力を浪費している間に、俺は致命的なまでに救出のタイミングを逸することになる。

 俺はきっと、一生その選択を後悔することになるだろう。


 今俺は、こいつをここで倒すという選択しか取り得ないのだ。


 クーポン特上を使うか。

 だめだ。武器は太極棍で十分だ。強力な武器に振り回されて足元を救われかねない。 

 ならば。


(…龍神様)


『ぬ…先の風の化身は恐らく星の神。あれを使役したということは、よもや自滅したか?』


 くそ、気づくのが早い。

 デカいくせに割と頭が回るのが厄介だ。

 俺は龍神へと真摯に呼びかけ続けた。


 困った時は神頼み!

 日本人といえばコレだ。


 でも龍神はきっと、応えてくれる。

 なぜかそういう確信があった。


『我の傷はもう塞がってしまったぞ。追撃がなかったところを見ると、本当に自滅したようだな』


(…龍神様ッ)


『矮小な奴らめ。よいだろう、時間稼ぎをするつもりなら貴様達の仲間を殺しに行ってやるぞ!』


(…龍神様ッ)

(…龍神様ッ)


----------


「…ぁ」


 気が付くと、あの図太いオメガの声は聞こえなくなっていた。


 俺は何もない、ただ白い空間を漂っている。

 以前と同じだ。ならばここは俺の精神世界ってことだろう。緊急参拝成功だ。

 そして、龍神は姿を現した。

 以前玉藻に半殺しにされたときは声だけだったが、今は姿まで見える。


 龍神は、美しい銀色の竜の姿をしていた。


『太一よ…』


「はッ」


 俺はそのやんごとなきお姿に対し、首を垂れた。


『…我になんの用だ?』

「うそやん!」


 即座に顔を上げてツッコんだ。

 おっと、大変お世話になっている龍神様に対してなんと無礼なツッコミをしてしまったのだ。

 でも困っちゃうな、下々の事情も多少は知っておいていただかないと。

 こんなに必死に呼びかけている事に、だいたい理由なんて一つしかないじゃないか。


「えっと…龍神様にお目通りしたくて…?」

『冗談だ、お前の状況は把握している』


 さ、左様でしたか。

 意外とユーモラスな一面もおありなのね。

 

「ならば龍神様!俺に力をください。具体的に言いますと、最後のスキルを!そろそろ!ください!」

『ふ、ふむ。お前も言うようになったな』

「自惚れかもしれませんが、俺はあなたの最後の奥義を授かる資格を得ているのではないかと思っています」

『あぁ。お前は強くなった。資格は十二分にあるよ』

「え、じゃぁなんでこんな重大な戦いがあるのに、前もって授けてくれなかったんですか」

『…お前がここの所忙しすぎたのだ。我が最後の奥義を与えるには、試練が必要だからな。ちょっと何というか、試練するぞって言いだしづらくっての…』


 もっとまったりしてたら貰えていた筈の奥義ってなんだろう。


 まぁ俺の身を案じてくれていたってことだろう。

 龍神様は優しいのだ。


『試練は単純だ。我と一対一で戦い、見事制してみせよ』


 その言葉と共に、俺の視界は光に包まれ、思わず目を閉じた。

 

 そして次に開けた視界は、広い、古代の闘技場のような場所だった。

 俺の目の前には、長い槍を手に、軽鎧を着た銀髪の女性の姿があった。

 龍神…だろうな。背には翼が、腰元からは尾が生えていた。

 女性だったのか。


『お前と我の獲物は似ているな。ここでは魔法は一切使えない。純粋な、武と武で勝負をしよう』

「俺が負けたらどうなりますか?」

『金輪際、最後の奥義は会得できない』

「…そうですか」


 ガチャ神の説明文、最後の奥義は条件つきってちゃんと書いておいて欲しかった。

 何が何でも、負けるわけにはいかない。


 確かに魔法は使えないが、戦技は全て機能するようだ。

 俺は相棒を構えた。

 龍神も穂先をこちらに向けた構えをとった。


 俺はリーチを活かして先制の突きを放った。

 龍神の槍は早く正確で、初撃から俺の棒を絡めとろうと対の突きを放ってきた。

 なんとか手に留めたが明後日の方向にそらされた間に、心臓への第二撃がくる。

 だめだ、突きで槍と張り合う利はない。

 距離をとってから再度踏み込み、槍先が俺の頬を霞めたがぎりぎりで躱した。

 上半身の捻りだけで左の横凪ぎ、そして怯ませた一瞬で全身のバネを使った渾身の右の横凪ぎを放った。

 吹き飛ぶ龍神は、翼を広げて上空へと退避。

 するかと思いきや、前宙返りした勢いのまま突進してきた。


「うおぉぉぉ!!!」

『らぁぁぁぁ!!!」


 槍は棒を単純に改良したものだから、武術訓練でも随分と練習させられた。

 まぁそれは、あくまで対人戦においては、だが。

 異形を相手にする場合、刃など欠けてしまえばただの荷物でしかない。

 しかし、そんな事は百も承知とばかりに、龍神の槍技はとても美しかった。

 打撃には打撃で返し、俺の隙を見ては必殺の突きを放ってきた。

 龍神の動きは速く、太極棍の長さを変えて間を有利に運ぶような隙は与えられなかった。

 俺は龍神の動きに負けないように、少しずつ自分の中の無駄を削ぎ落すことに集中していった。


 ここが精神世界だからだろうか。


 俺はいつの間にか、現実世界のあらゆる苦難やしがらみを忘れて、龍神と撃ち合っていた。

 ひたすら龍神の槍使いを真似る中で、段々と俺は龍神と遜色ない速度と精度で棒を振えるようになってきていた。

 俺の身体は痣だらけだったし、龍神の鎧もまた傷だらけになっていた。


『太一。見事だ』

「え?」


 ふと、龍神が攻撃の手をぴたりと止めて、そう言った。

 

『お前に今から最後の奥義を見せる。それで奥義はもうお前のものだ』

「ん?ということは」

『我は最初からお前には奥義を授けるつもりだったよ。まぁそれはそれだ。我はお主と撃ち合ってみたかった』


 思わず笑ってしまった。

 そして出てきた気持ちは、龍神への感謝だった。

 やっぱり龍神様は優しい。

 

『本当に強くなったな、太一。だが今までこれを受けて生きていた宿主はいなかった。お前には期待しているぞ』


 そして放たれた奥義。

 本来なら耐えることなどできなかっただろう。

 そりゃそうだ。こんなの普通は耐えられない。


 俺は奥義を身に受けた瞬間、それを会得した。


 これは…。

 何て出鱈目なスキルだ。

 最高じゃないか!


 そして技を放ったダメージで硬直した龍神の元へと一足で接近した。


『…!』


 驚愕の表情を浮かべた龍神だったが、すぐに破顔した。


『くっく、そういえばお前は結構、図太い奴だったよなぁ』


 俺の防御を紙のように貫いたその攻撃を、『金剛』によって無効化した。

 試練中は卑怯かなと思ってあえて使わなかったが、もう終わったんなら、使ってもかまわんだろう。ガチャスキル様様だ。


「ご指導ありがとうございました!」


 俺の奥義を受けて、龍神の幻影は光の粒子となって消えて行った。


『あぁ。頑張れよ、太一』


----------


『矮小な奴らめ。よいだろう、時間稼ぎをするつもりなら貴様達の仲間を殺しに行ってやるぞ!』


 そう言って背を向けたオメガ。


 俺は龍神の試練を終えて、現実世界に戻ってきた。

 よかった、時間は殆ど経過していないようだ。


「兄さん…?よかった、一瞬、意識がないように思ったから…」


 どうやら雪を心配させたようだ。

 というより、この衰弱した状態でよく気づけたなぁ。


「龍神の試練を受けて、最後の奥義をもらった。あいつにも通用すると思う。あとは任せてくれ」

「わ、わたしも行く」


 俺は雪の額に手を置いた。


「に、にいさん?」

「んー、まだ熱いな。じゃぁこれ全部飲み干してから来てくれ」


 初級ポーションを20本ほど雪の前に置いた。


「はぁ…分かりました。確かに私はかなり消耗してます。回復を待ってから駆け付けますから」

「あぁ、聞き分けの良い妹で助かるよ。じゃぁな」


「たいち、兄さん」

「ん?」


 あまり聞き慣れない呼ばれ方でちょっと新鮮だった。


「ご武運を」

「あぁ」


 俺は消していた気配を戻して、オメガの元へと戻った。

 すぐに気づいたようで、巨人はゆっくりと振り返った。


『貴様か、今まで臆しておいて、よく戻ったな』

「すまんな、片方が離脱して手当てしていた。あとは俺だけだ」

『逃げ出さなかったことは褒めてやる。だが消滅の力をもった娘を欠いた今、貴様だけでは我を滅ぼすことは出来ん』

「どうかな、まだ俺は奥の手を残していたんでね」

『…ほう』


 オメガがわずかに笑った。

 ほんと好きだなぁこいつ、こういうの。


 人質とられてるこっちからしたら、うざくて敵わん。


「お前の娯楽に付き合っている暇はないんだ。味わったことがないんだろう?死への恐怖ってやつを。今から存分に味あわせてやる」

『面白い、やってみるがいい!小さな―』


 その呼ばれ方もいい加減聞き飽きたので、黙らせてやった。

 俺は『奥義』を込めた太極棍でオメガの片足を薙いだ。


 オメガはその場に転倒した。

 片足はくの字に折れ曲がっていた。


 地鳴り音と共に、すぐ眼前に巨大なオメガの顔面が降っておりてきた。

 その顔は、まるで理解できない、といった様子だ。


==========

『銀閃』

相手の防御性能を無視する。

反動で放った肢体へダメージ大。

クールタイム無し。

==========


 両腕が痛いのなんの。

 龍神が硬直したのも分かる。

 だが、馬鹿みたいに防御性能の高いこいつには、まさにうってつけの奥義だ。


 強力無比なだけあって放つこちらにも中々の負荷だが…。

 今はアドレナリン麻酔が効いてるからか、もう一発くらいならいけそうだ。


 なんのアドレナリンかって?


 そりゃ、余裕ぶっこいていたこいつをボッコボコにしてやれるからに決まってる!


 『身体強化』、『龍の爪』、『龍の翼』、『火事場の真剛力』、『念動力』

 全部載せていく。

 そして俺は大きく大上段に振りかぶった。


『待、まて』

「待つかぁぁぁ!!!」


『銀閃』


 土壇場で到達した、これが俺の物理系最高の一撃だ。

 極大化させた太極棍を思い切り振り下ろした。

 こめかみへと棍がめり込む感覚。

 あれだけ攻撃を吸収していた奴の外殻が、まるで劣化したプラスチックみたいな手応えだ。


 オメガの身体は衝撃で手毬のようにバウンドした。

 奥義を放った側頭部は、完全に粉砕していた。


『グォォォォ!!!!』


 噴水のように噴き出た血の中で、オメガはのたうち回った。

 そんなオメガの前でこう言うのもなんだが。


「いってぇぇぇ…」


 俺の両腕も、焼けただれたようにボロボロになっていた。

 上級ポーションを呷ったが、完全には治らないようだ。

 部位欠損レベルの損傷なのかもな。


 はみ出す脳漿を手で抑えながら、オメガは大きく後退した。

 加速の魔法を使っているあたり、随分と焦っているようだ。

 ただ…あのびくともしていない様子からして、コアは胸かな。


『貴様ッ、何をしたッッ』


 自慢の装甲が紙のように貫かれたのが不可解らしい。

 だろうな、向こうからしたらチートもいいところだろう。


 ただ防御を無視できても、向こうには余りある体力と、再生能力がある。

 滝のように出ていた血も既に止まったようだ。

 恐らく奴はこのダンジョン内にいる限り、無限に再生するのだろう。

 コアを潰さない限り、俺に勝利はない。


 あいつの第三の能力とやらがただの筋力強化とかであることを祈るよ。


「さっき言ったろ?死の恐怖を味あわせてやるって」


 こいつはここで、必ず仕留める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ