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第71話 オメガ戦 序

 一本道のS級ダンジョン、その遠位端に位置する区画は、ひとつのコロニーとなっていた。

 そこは地球のエネルギーと座標を『主』へと送る基地局としての役割を担っていた。

 ここを潰せば、超大型転移門である『ゲート』の発現を大きく阻害することができる。


 太一たちはそこまでの詳細は分からない。

 巨人の奥に見える大型のジェネレータを破壊すれば、きっと神様を解放できるのだろうと考えた。

 これまでダンジョンマスターを倒さなければ出現しなかったダンジョンのコア部分が最初から露呈しているのは初めてだった。恐らくは常に稼働していなければならないタイプのものなのだろうと思った。


(だが…そこまで甘くはないよな)


 巨大なオメガの石柱が眼前に迫る。

 鈍い紋様を帯びたその荒い岩肌に触れないよう、『韋駄天』のステップで余裕をもって躱す。

 そして遅れて襲いかかる暴風に足元を救われないよう、宙に作った足場で前へと進む。


 オメガの攻撃を避けることは今のところ問題ない。当然、雪も同様だろう。

 当たれば大ダメージは避けられないが、今の俺の体力なら即死ということはない気がする。

 雪も回避不能となれば神威で防御するだろう。


 オメガの身体を駆け上がると居場所を知られるだけなのでそのまま宙を蹴って浮上し、最大化させた太極棍で首筋へと全力の回旋撃を加えた。

 上体が僅かにゆらぎ、最低限のダメージは発生していることが分かる。


 攻撃の反動で宙に浮いたところを、石柱による反撃が迫る。

 その最も隙ができる一瞬に、すかさず雪は消滅の力でオメガの体表を縦横無尽に削っていく。

 

 俺はバリアーを全開にして、迫る石柱をなんとか太極棍でいなして回避した。

 先ほどから続く一連の攻防を終えて距離をとると、また自然と雪と合流した。


「ふぅ、ふぅ。兄さん、どう?」

「はぁ、はぁ。俺の攻撃も通じてはいる。雪は?」

「ノロマだから問題なく削れる。息が上がってるのは、ただの能力による消耗だから」


 そう言って雪はポーションを何本か接種した。追加で渡しておく。

 俺の打撃がわずかに通用することで奴に隙が作れるのは大きい。雪に攻撃がいく頻度が減らせているように思う。

 もっとも、既に攻撃力に関係するスキルは全て発動してあるが。


「焦らずいこう。ナーシャの救出はもう始まったんだから―」


 そう言いかけたところで、オメガが口を開いた。


『良い。今まで戦ってきた小人たちの中で、貴様らは最も骨がある』


 そして、俺達がつけた傷口から、ボコボコと肉芽のようなものが生えてきた。

 まさか。


「くそったれ、再生かよ」


『ここでは我は三つの能力を使う。一つがこれだ。そして…』


 奴の足元に魔法陣が浮かんだのが見えた。

 直感だが、あれは―。


「雪、退避と防御!」


 先ほどまでとは段違いのスピードで移動したオメガの石柱が、既に頭上から迫っていた。


(加速系の魔法ッ)


 俺と雪はバラバラにそれを躱した。

 振り下ろされた石柱は頑丈なS級ダンジョンの床を粉砕し、金属片が弾丸のように飛来してきた。

 俺はバリアーで防ぎ、雪は風と体躯で悉くを躱した。


 そして迫る横凪ぎの追撃は、俺を狙ってやってきた。

 速い。


(耐えてくれよ、相棒!)


 太極棍の表面を全開の『龍の爪』の闘気で覆って、それを迎え撃った。


「うおらぁぁッッ」


 ガギィィン!!


(かっ…は)


 先端を極大化した太極棍で、石柱を頭上へと弾き返した。

 背骨がバラバラになりそうな衝撃が足先から頭蓋にまで響き渡る。

 

 巨人は一瞬驚いたような表情をして。

 すぐに満面の笑みを口元に浮かべた。

 

『良いぞ!小さき強き者よ!さぁもっともっと撃ち合おう!』


(次そのまま受けたら背骨が砕ける)


 奴は雪よりも俺のようなタイプが好みらしい。こりゃロックオンされたな。

 普通撃ち合いってのは、お互い攻撃が相手に届くからやるもんだ。

 俺がこいつの攻撃を馬鹿正直に受けることに、なんのメリットもない。


 次撃はあえてそのまま食らった。

 弾丸のように吹き飛ばされて、俺は星になって消えた。


 …その前に、空中で静止した。

 『金剛』のおかげでノーダメージ。だがこれで5分間は防御の切り札を失ったことになる。

 

 そこで空から大きな怒声が響き渡った。


「デカブツ止まれェ!!!」


 空で雪がキレていた。


 そして突如、大きな気配が出現した。

 更にその気配は、急速にこの空間一体を支配し始めた。


『ほう…?』


 それを捨て置きならないととったのか、オメガは俺を追う足をとめて、雪へ向き直った。

 

「はぁ、はぁ…雪?」


 声のした方に、雪の姿を確認した。

 彼女の背後に、吹き荒れる風を纏った巨人の姿があった。


(初めて見たが、これがそうか)


 雪が、風神を召喚していた。


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