第68話 A store manager became a leader
ジロウです…。
開店時のローンがまだ20年は残っています。
店舗はもうありません…。
ジロウです…。
運だけが取り柄の私ですが…。
ラッキーおじさんというあだ名が消えないのが不幸です…。
ジロウです…。
『クリティカルヒットとかめっちゃ便利じゃん!』とかよく言われますが…。
発動するタイミングをだれか教えてください。
ジロウです…。
いろいろ紆余曲折ありました…。
えぇ、本当に色々と…。
オチはまだありません…。
ジロウです…。
ジロウです…。
…。
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…。
おっと。
どうやらうたた寝をしていたようですね。
少し疲れがとれました。
なんだかシュールな夢を見たような気がしますが、忘れました。
見上げると、ルーパー君がいました。
ルーパー君もすやすやと寝ています。
彼はふわふわとしていて、もたれると暖かくてとっても気持ち良いのです。
今私たちがいる場所には昼も夜もありませんし、壁や床は金属質で硬くて冷たいので、疲れた時にはこうしてルーパー君にもたれかかって短く眠ることにしています。
リーリャさんは…あっちで、先ほど敵から奪取した魔導銃を分解しているところですね。
彼女の頑張りには頭が上がりません。
別に誰に聞かせるわけでもないのですが。
久々に、今の私達の状況をおさらいしてみようかと思います。
現在、私たちのパーティは三人です。
炎が好物の神獣ルーパーくんと、片腕を失った金髪美女軍人リーリャさんと、運だけが取り柄の中年の私、次郎の三人で、命からがらサバイバルの真っ最中です。
舞台は、宇宙に浮かぶ謎のSF基地のような場所です。
しかも今は私がパーティのリーダーです。正直キャパオーバーもいいところですが。
日々試行錯誤、右顧左眄、孤軍奮闘、といった状況で神経をすり減らしてはいますが、まぁこれでも随分状況としては落ち着いた方です。
私たちが合流してすぐの頃は、それはそれはひどいものでした。
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『ここは…どこだ?ナーシャさん、それにルシファーはどこに行ったんでしょうか』
『ウ…グ…』
『リ、リーリャさん!ひどい怪我と出血だ。すぐに止血しないと』
『ルパ!』
『ルーパーくん、君もいましたか!ここには、この三人だけですか…。リーリャさん!』
『ゥゥ…?』
『そうか、太一君がやられてしまったから、翻訳が効いていないのか…。営業マン時代に培った拙い英会話が通じるといいですが。ゴホン。Do you understand my English, Lilla?』
『ジロウ…達者な英語だな、よくわかるよ』
『よかった。いいですかリーリャさん、ここにはヒーラーはいません。すぐに腕の処置をしないと、このままではあなたは死んでしまいます。痛みますが、いいですか?』
『あぁ…手間をかけさせてすまない。気にせずやってくれ』
『ではルーパーくん、彼女の傷の切断面をなるべく優しく焼いてください』
『る、るぱ』
ボォォ
『ぅぐ……ッッッ!!』
『頑張って…!』
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とまぁそんな感じで、当初は散々な状態から始まったものでした。
荒治療でしたが止血は出来て、前腕から先は包帯でぐるぐる巻きにしました。
彼女は出血による衰弱がひどく、手持ちのポーションは初級のみでしたが、それらを全部使い、なんとか戦えるレベルの状態まで回復してくれました。
ひとえに、彼女の持ち前の体力のおかげです。
私たちは、何とか現状について話し合うことができました。
あの日、私たちは中国S級のダンジョンマスターであるルシファーに破れました。
太一君は頭部を吹き飛ばされて…。
ただの人間なら即死でしょうが、彼は『起死回生』という常識破りなスキルを持っていたはずです。ナーシャさんが彼を逃がしていたので、きっとどこかで生きてくれているでしょう。
問題はナーシャさんです。
一緒にテレポートで逃げたはずなのに、彼女の姿はどこにもありませんでした。
一人だけ別の場所に飛んでしまったのかもしれませんが、近くにいる可能性もありました。
まずは彼女と合流することを最初の目標にしては、と提案しました。
すると、リーリャさんはこう答えました。
『あぁ、いいと思う。なぁジロウ、あんたは意外にも冷静だよな。随分と修羅場をくぐったのだろう。私はこれでも軍人だが、利き手を失っている状況だし、何よりここは私の、私たちの常識の外に過ぎる。私が主導するより、あんたの運の力にかけた方が全員の生存率が上がると思うんだ。だから、この場のリーダーをあんたにやってはもらえないだろうか』
そういえば以前、太一くんにも同じような事を頼まれたことがありました。
私は快くリーダーを引き受けることにしました。
まず私たちは今置かれている場所の把握に努めました。
このSF映画で見たような―『宇宙回廊』と呼ぶことにしましたが―明らかに地球より文明の進んだこの施設は、きっと侵略者たちがもたらしたものなのでしょう。
施設の用途はよくわかりません。ダンジョンが集めた地球のエネルギーを運ぶとか、そういう所なのでしょうか。
なんにせよ、ダンジョンのみならずこのような施設まで建造していたなんて、地球はどれほど掌握されているのでしょうか。
施設の中には機械仕掛けのガードマンがうようよしていました。
人間と見分けのつかないくらい精巧なアンドロイドや、大型の機械獣などです。
また、生物もいました。顔や尾がいくつもある虎みたいなのとか、眼が沢山あるヒクイドリみたいなのとか、そんなのです。私たちはあれらをキメラと呼ぶことにしました。
ひっくるめて、恐らく一体一体が、日本B級ダンジョンに現れた将軍に匹敵する強さはではないかと思います。
当時の太一くんが死に物狂いで倒した相手です。
私は勿論、リーリャさんですら敵う相手ではありませんでした。
そこで大活躍してくれたのが、とにかくルーパー君です。
成獣となってパワーアップしたルーパー君はあの九尾狐とも互角にやり合ったものです。戦闘力においてはこの中でぶっちぎりナンバーワンなわけです。
苦戦はしたものの、慣れない片腕で戦斧を振うリーリャさんの頑張りもあって、なんとか出会った敵を撃退していきました。
私も勿論一緒に戦いました。私自身の攻撃は殆ど通用しないため、あくまで彼女たちのアシストとして、ですけれども。
とても大きなメインの回廊は、恐らく最深部に直結する最短路なのだと思われ、私たちは最初は一直線にそこを進んでいたものですが…。
モンスターも多く、何より恐らく異物に対してのみ反応する様々なトラップや警報装置が設置されていることが分かったため、私たちは扉から脇道へと逸れることにしました。
いちどレーザー銃が霰のようにピュンピュンと飛んできた時は確実に死んだと思いましたが、先頭を歩いていたのが私でよかった。運と直感とぷるぷるシールドのおかげで九死に一生を得ました。
脇道は非常に発達していて、まるで迷路のような構造になっていました。
数日のうちに、私たちはボロボロに疲弊していきました。
強敵が徘徊する見知らぬダンジョンに、とても万全とは言い難い体調とメンバー構成、そして何よりも、水と食糧を得られるかどうかの不安がずっしりと両肩にのしかかっていました。
それでも、あのキメラを食べるのだけは、本能が全力で拒否していました。
ルーパー君も、炎を補給できない状況下で、少しずつ弱っていきました。
手持ちの水を飲み尽くした時、私たちは鮮明に死を意識しました。
薄暗い通路を、どれくらい彷徨ったでしょうか。
最後に機械獣を倒した時、ルーパー君はもう炎を吐けない状況でした。
―そんな絶体絶命の状況に至った時のことでした。
私たちは非常に幸運にも、拠点とできる区画に巡り合うことが出来たのです。
この巨大な回廊、もはや基地というべきでしょうか、ここには本当に数少ないようですが、ここの管理をする生命体がやはり存在しました。
最初の一体目である、彼…彼女かもしれませんが、彼は白衣のようなものを着ていました。恐らく研究者でもあったのだと思います。
見た目は…何といいますか、私たちと同じ二足歩行なのですが、異常に頭部が大きく、背は低く、ひ弱な体躯でした。
私たちは彼らを『リサーチャー』と呼びました。
当然、意思疎通など不可能でした。
彼はすぐに警報装置を鳴らそうとしたため、リーリャさんが気絶させた後、拘束器具で縛り上げました。辺りの探索を終えて帰ってきた時には、彼は死んでいました。
今風にいうと、頭脳にステータスを全振りした、とでもいうべき存在なのでしょうか。
なんだかとても歪な気味の悪さを感じたものでした。
しかしこの管理区画には、なんと水と食料があったのです。
太一くんが持っていた製造くんシリーズとよく似た機械です。
美味しい水と、美味しくはありませんがちゃんと有機物の、レーションのようなものが生み出されました。
火を起こす装置もあったため、ルーパー君の栄養と燃料を補給することもできました。
私たちは、抱き合って喜びました。
『ここには水も、食糧もある!やった!やった!』
『はは、ジロウ!やっぱりあんたに任せて正解だった!』
『るぱ!』
私たちはそこを拠点にして、少しずつ探索を進めて行きました。
手探りの中、私達は必死に頑張ってきたと思います。
時間の感覚は確かめようがありませんが、ルーパー君の腹時計いわく、もうすぐここに来て四カ月になろうとしているようです。
今いる拠点は、三つ目の管理区画です。
文字が読めないので何を管理しているかは分かりませんし、ナーシャさんの手がかりも未だつかめてはいませんが、監視カメラの映像にナーシャさんが映らないかと、それだけを拠り所に、区画から区画へと移動を続けています。
ところで、私達のパーティの中でこの四カ月で圧倒的に成長したのが、リーリャさんです。
敵にあまりトドメをさせない私と、進化でしか成長しないルーパー君はそれほど変わりませんが、リーリャさんは元々70程だったレベルが、今では130にまで上昇しました。
つまり私とほぼ同じレベルですね。ほっほ、若いとはすばらしい。
筋力は、ほぼ成長限界に近い水準にあるそうです。最近ではルーパー君と完全に肩を並べて戦っています。
私達の置かれた状況は絶望的ですが、決して私達は諦めていません。
諦めない限り、きっと開ける道もあるはずです。
「ジロウ、そろそろ出よう。マップを見せてくれ」
「ほいさ」
長く考えを整理していましたが、リーリャさんから声がかかりました。
そろそろ出発の時間のようです。
私はメモ帳に小さくびっしりと書き込んだマップを広げました。
ナーシャさんのマッピングスキルがない今、この自前のマップだけが頼りです。
「この拠点が見つかってから、もうすぐ…」
「るぱ」
「二週間になる。前回ここまでのエリアを掃討できたから、今日には四区画目に辿りつけるかもしれない」
「そうですね。今日は行きの時間を多めに見積もりましょう。帰ってこられなくなるリスクをふまえて、食糧は多めに持っていくことにしましょう」
「賛成だ」
「ではいきましょう」
私たちは、探索を開始しました。
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機械兵たちは一定の間隔で生産、配置されますが、キメラたちに至っては、ある程度自家繁殖に任せているようです。
したがって、一度掃討したエリアのキメラがリスポーンされたことは殆どなく、機械兵も、私達の探索速度次第では、リスポーンされるまでの間に次の区画へとたどり着けることが分かりました。
このことに気づいてからは、随分と探索効率が向上しました。
前回の探索終了地点まで、私達は殆ど接敵せずに進んでくることができました。
今日は、この空白を埋めれば、次の区画にたどり着くことが期待されます。
ピピピピッ!
敵がこちらの存在を探知したときの警報音が聞こえました。
同時に、地面から複数体のアンドロイドが射出されました。罠タイプの出現ですね。
「出ました、アンドロイドタイプが…五体です」
先頭を行く私がまず二人に情報を伝えます。
そしてすぐに後ろに下がり、ジャキンと戦斧を展開したリーリャさんが一歩前に出ました。
女性型つまり格闘タイプのアンドロイドが三体に、男性型つまり重火器タイプのアンドロイドが二体です。
「切り込む。重火器タイプは確実に仕留めるから、やり残しを頼む」
リーリャさんの目が光ったような気がしました。
るーぱー君がすぐさま炎であたり一帯を照らしてアシストします。
暗がりは、我々人間にとってはディスアドバンテージでしかありませんから。
リーリャさんは弾かれたように駆け出して行きました。
最近のリーリャさんは、踊るように敵を破壊します。
『腕力ばかりに頼っていた頃の私は、この戦斧を全く使いこなせていなかったことに気が付いたよ』
と、少し前に彼女は言っていました。
戦斧の重さを御そうとしているうちは二流。上手に振り回されてこそ一流。
ということのようです。
さすが格闘技を極めている方のコメントは違いますね。
彼女はまるで嵐の目のように、それはもう見事に敵の攻撃をかいくぐりつつ、一瞬のうちに三体のアンドロイドを八つずつに分解し、活動停止させました。
いつもながら、ほれぼれするくらいに鮮やかなものです。
残る一体は彼女に、残る一体は我々の方へと向かってきました。
あらま、私の出番ですか。
正直格闘タイプは苦手です。
重火器での攻撃はほっといても逸れていくから楽なんですが、格闘はそうはいきません。
シールドを亀の甲羅みたいに背負って、私もハンマーをかかげます。
準備完了です。
「さぁ、かかってきなさい!」
とは言ったものの、自慢のハンマーでもってしても、私の攻撃じゃ殆どダメージを与えられないので、自分の攻撃で自滅していただく必要があります。
この格闘タイプは人間の弱点を把握しているのか、顔、心臓への正拳突き、股間への蹴り、そして顎へのアッパーを随所で行います。
私の仕事は、そのアッパーカットの瞬間に少し打撃の方向をずらしてやることです。
最初はなかなか狙って出来るものではありませんでしたが。
ぶんぶんぶんと目の前で繰り広げられる攻撃は全然目で追えませんが、躱すことは意外に簡単です。なんだかんだ殆どは勝手に外れるのですから。
そら、ここで。
くるんと背を向ければ、滑ったアッパーを自分で食らってくれます。
ショートしたので、あとは自慢のハンマーで頭部をごちんごちんと叩くだけです。
おっ。
いいクリティカルが出て、トドメを刺すことができました。
「相変わらず、ジロウだけは敵に回したくないなと思うよ」
どうやらリーリャさんが最後の一体を破壊してくれたようです。
「ほっほ、私も、最近では自分が嫌な人間だと思うようになってきましたよ」
「そういう意味じゃないんだけどね」
ルーパー君は、わたしたちに経験値をくれるよう、出来る限り援護に徹してくれます。
ナーシャさんの『経験値等分配』があった頃は、そんなことはしていませんでした。
本当に神獣は賢いですね。
その後も私達は順調に障害を排除していき、ついに四つ目の区画へとたどり着きました。
「なぁ、これは…」
「えぇ、ついに見つけましたね」
探索を始めて四カ月。
私達はついに手がかりを見つけました。
モニターの一つに映っていたのは、大掛かりな装置と、様々な実験器具。
それらに囲まれて眠る、ナーシャさんの姿だったのです。




