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第66話 狂祖

久々の胸くそ展開です…。

「くそ。あの忌々しい奴らめ…ッ」


 とあるS級ダンジョンの内部で、人知れず怒りを漏らす男がいた。

 男の名はエウゴア。

 一番最初に人類を見限り、侵略者を受け入れようとした人間。

 また、カルト教団、奉魔教会の教祖でもある。


 彼の計画では、彼の理想に賛同しない人類はとっくに絶滅している筈だった。

 そうして彼が神と称える『主』の細胞を受け入れた人類が地上を制圧した暁には、褒美として地球は消滅させず、統治を任せてくれると約束してもらった。

 自分は、地球にとっての救世主となるはずだった。


 計画が大きく狂ったのは二点。

 一点は、彼が最も警戒する人間、アレキサンダーを殺し損ねたことだ。

 無理を言ってルシファーに協力してもらい、ロシアで聖女パーティを全滅させてもらったというのに、己があそこでアレキサンダーを殺せなかったために、あの後も壁は建造され続け、結果として人類はまだ3/4程が生存していた。奉魔教会の教徒も増えてはいるが、未だに対ダンジョン協会を信じる者が大半だ。


 もう一点は、ワタセタイチとかいう男の存在だ。

 つい最近まで、人間であそこまでの戦闘力をもった存在がいることなど知らなかった。

 まさか、オメガを追い返すなどと…。

 どうやらルシファーの実験体となった少女を上手く利用したそうだが。それにしても規格外の戦闘力だ。間違いなくクソ忌々しい『ガチャ勢』だろう。

 今まで目立っていなかったのは、おそらくアレキサンダーが存在を秘匿していたからだ。

 

 おかげでゲートはまだまだ開かない。万が一にもS級ダンジョンが破壊されることなどはないだろうが、それでもB級以下のダンジョンは着実にダン協によって潰されている。


 エウゴアのメンツは丸つぶれだった。


『はぁ、エウゴア、君も分からん奴だな。…元は同じ『ガチャ』を引いた仲間じゃないか』


 かつてアレキサンダーに言われた言葉が、ふと頭をよぎった。


「あぁぁぁぁぁああぁあぁぁあ!!!!!!あいつ!!この私を!!見下しやがって!!!!!」


 ガガガガガガガ!!!


 エウゴアは、怒りにまかせてあたり一面に銃を乱射した。

 無数の実験器具とともに、傍に控えていた何人もの教徒たちは、一瞬で挽肉と化した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 エウゴアが与えられた『研究室』の壁は、魔弾の乱射にも、しかし傷ひとつついていなかった。

 それもまた彼を無性に苛立たせた。


 彼は度重なる失敗から地上制圧の任を解かれて、別の任務を与えられていた。

 それは、この目の前で寝かされている『検体』から、ある一つのスキルを抽出すること。

 

「…まぁいい、お前が生き残ってくれていたことが、私にとってただ一つの幸運だったよ」


 それは『テレポート』というスキルだった。

 

 『主』が他の惑星を取り込むために、このスキルは非常に有用なものだった。

 これを取り込むことができれば、『ゲート』などという面倒な手順も必要がなくなる。

 数えきれない程のスキルを所有する『主』も、肉体の完全な空間転移の能力は所持していなかった。

 これを上手く『検体』から分離できた暁には、特級支柱のマスタークラスへの進化を約束されていた。

 彼はそのために、『主』の生成した機械から生体改造を受けて、解析系・生体操作系の一通りのスキルを与えられていた。

 

 だがスキルを与えるには、代償を伴う。

 彼の身体は性急な改変により歪な鎖で構成され、ちぐはぐの状態になっていた。

 当然、その精神にも既に変調をきたし始めていた。


 エウゴアは、瞼を閉じて静かに眠り続ける『検体』の頬に触れた。


「ハハハ、うるさくしてごめんなぁ。お前だけは私の味方、もとい私の女神だよ。無事にスキルが抽出できた暁には、お前に『主』の美しい細胞を混ぜ合わせて、もっともっと美しくしてやる。そうしたら、そうだ!私の妻にしてやろう!光栄に思うがいい。ヒヒヒ、もうすぐだからなぁ!」


「…なぁ、アナスタシア」




 ―あの日、アナスタシアは、全員で日本の基地に帰ろうとした。

 しかし干渉を受けたテレポートは空間を彷徨い、彼女は一人、ここ、S級ダンジョンの深層へと飛ばされた。

 一緒に飛んだはずの仲間たちの姿は、どこにもなかった。


 S級ダンジョンの中ではテレポートは使えない。


 しばらくの間、彼女は必死で仲間を探し続けたが、とうとう捕えられ、身体解析の結果、『主』にとって有用と判断され、眠らされた。


 そうしてもう何か月もの間、頭部に取りつけられた無数の電極によって眠らされ続けていた。

 

 だが、彼女は時折浮かび上がる微かな意識の下で、信じていた。

 きっと太一が、みんなが助けにきてくれると。

 そうして時間を稼ぐため、無意識でも解析に抗い続けていた。



「アハハハハハハハハハハハ!!」


 エウゴアの乾いた笑い声は、だだっ広い研究室で誰に響くこともなく、空虚に消えていった。

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