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第48話 スカイ・ブリーフィング

「ほっほ、こんにちは、リーリャさん」

「ハイ、ジロウ。ようやく貴方ともお話ができて嬉しいわ」

今、聖女パーティは軍用高速輸送機に乗り込んで、空の上である。

モスクワからノヴォシビルスクまで3000キロメートル、約2時間の旅となる。

アイテム工場のおかげで手持ちのエーテルには大分余裕ができたが、ナーシャの負担軽減のため、大きな戦闘の前は、なるべくテレポートでの移動を避けることにしている。

それにナーシャのテレポートは、イメージが浮かぶ景色や人のいる場所にしか移動できないしな。

「私は日本語しか喋られませんからねぇ。太一くんのスキルさまさまですね」

「そ、そうね。別々の言語で喋っているのに通じ合っているのが凄く不気味ではあるけど…タイチあんた、まさか私が寝ている間に、頭の中に変なモンスターでも植え込んだんじゃないでしょうね」

「人をなんだと思ってるんだ…。『念話』と『意思疎通』をリンクさせて皆を繋いでるんだよ。戦闘中の連携にも有用なはずだ。聖女パーティも多国籍になりつつあるし、俺が死なない限りは効果が切れないようになってる。あ、1回なら死んでも大丈夫だけどね」

もしゃもしゃと食事をしながら、気だるげに太一は答えた。

(うーん、ピロシキうまい)

観光ができないならせめてと、モスクワ基地内の食堂で買い込んできたものだ。

聖女割引きで安かったので、大量に買って、残りは熱々のままアイテムボックスに収納してある。後で作って持ってきたボルシチごと兵士たちに配ってあげよう。

「ふぅん、さすが選ばれた1/3の人は違うわね。あと、私はあくまで今回の作戦で一時的に共闘するだけだからね」

Tシャツにホットパンツというラフな格好に着替えたリーリャが、抜群のプロポーションを誇る長い足を惜しげもなくぶらぶらさせながら答える。

この細くて綺麗な足に騙されて、何人の男たちが泣かされてきたんだろう…。

「あとさ、その『聖女パーティ』ってどうにかならないの?ナーシャもさ、いつまでも『聖女とその一行』のお頭みたいに呼ばれるの嫌じゃない?」


ダン!


「そう!よくぞ言ってくれました!!」

急に勢いよく立ち上がったナーシャが、リーリャの両手を握りしめた。

「名前!考えましょう!私達のパーティの!リーリャ、なにがいいと思う!?」

(ナーシャ、そんなに嫌だったのか)

「よ…よっぽど嫌だったんだね…。そうだなぁ、うーん」

リーリャはえーと、と指を口元にあてて考え出す。

「パーティに名前なんて考えもしませんでしたね。ちなみにリーリャさんのパーティの名前はなんて言うんですか?」

店長が参考までにと聞いているが、完全に興味本位だな。

「私は少尉に出世する前は、ブラッドアクシスっていう小隊の隊長だったんだけど…由来は、アレクさんから譲り受けた、この子にあやかったの」

そうしてリーリャが背中にかついでいた太い鉄塊を取り出すと。

ジャキンッ!

それはリーリャの魔力に反応して展開され、瞬時に漆黒の巨大な戦斧バトルアックスへと変貌を遂げた。

(おお…恰好いい)

アレクは銃専門だから、ここまでの近接武器は作れないはず。恐らくはクーポン武器、それもかなり上位のものだろう。こいつを譲るなんて、元から相当この子に目をかけていたんじゃないか、アレク。

「アレクからもらったって言ったね。彼のこと尊敬してるの?」

「あたりまえよ!彼ったら、恰好いいし、強いし、おまけに荒廃した町を一気に要塞都市に建て直してくれて。本当に、魔法使いみたいだったんだから」

(ははーん)

思い出を語る彼女は、完全に恋する乙女そのものだった。

これは…勧誘に使えるな。クク。

「ふふ、そうだったんだね。でもそれじゃぁ、うちのパーティがあやかるものといえば…」

「やっぱり、八百万神様でしょうかな」

「なるほど…となると」


しばし考えた結果。

「スピリッツオブエイトミリオンズ、なんてどうかな?」とナーシャ。

「長いなぁ、チームガチャでいいんじゃない」と俺。

「それもちょっと砕けすぎかと…。レスキューアース隊なんていかがです?」と店長。

「るぱ…↓」とルーパー。趣味が昭和の戦隊物ぽいとのことだ。何故お前が昭和を知ってるんだよ。


全然決まらない。

ていうか何で決戦前にチーム名決めなきゃならんのだ。もう黙ってピロシキ食わせろよ。具が零れ落ちそうなんだ。

「まとまらないわねぇ…。そうだ、貴方達の最終目的、『ゲート』とやらを封じることなのよね、詳細非公表の」

「ええ、そうだけど…?」

リーリャがまとめようとしているが、なかなか厳しいだろうな。

「それにちなんで…『ゲートバスターズ』とかどう?」

「「「いいね!!」」」


一瞬で決まった。

「るぱ♪」


--------------------------------------------------------


 新生ゲートバスターズを載せた飛行船は、ロシア上空を東へ東へと向かって飛んだ。

窓の外に見える景色は、俺の強化視力でも殆ど全てが静止した銀世界に映ったが、シベリア鉄道を走る列車だけが、凍える息を吐きだすように懸命に、その玄関口であるノヴォシビルスクへと向かっていた。

あの広大な国土を横断する一本のか細い線路を守ることが、この状況下でどれだけ大変なことかは想像に余りあるが、それでも失うわけにはいかない、重要なライフラインなのだろう。

今まさに、戦場へと向けて、大量の魔導兵器と兵士達を輸送しているのだから。気配からは、数千人といったところか。

恐らくは、俺達が失敗した後の後釜なんだろうな。さすがはリーリャパパ、口では宜しく言いながら、きちっと第二ラウンドも見据えていたわけだ。まぁ将官は、そうでなくちゃな。


「うしっ」

バシっと両の頬を叩いた。気合が入る。

なんとしても、彼らが一人も死地へと向かうことなく、この戦いを終結させるんだ。

そのためには…。

ついに生命体の殻を破った、己が魔力(霊力へと名を変えた)へと意識を向ける。

視界が暗転し、目に映るのは、吹き荒れるドス黒いマグマが、限界ギリギリのところでせき止められている光景。近くに寄ると、感じるはずのない熱さがある。それを感じることへの恐怖を覚えて、思わず目を開けた。

(はは、色んな意味で、早く他のステータスも開放しなきゃな。だが…)

思わず口元がニヤける。

このマグマを、何千ものA級モンスター共にぶちまける光景を想像すると、鳥肌が立ちそうだ。


 そして、離陸してから2時間が経過した。

 「で、でかい!これは瀬戸基地並か、それ以上ですぞ!」

再び窓の外を見やると、このはるか遠くから店長の目でも視認できるほど、大きな大きな鉄の壁がそびえ立っていた。

そしてその向こう側から、夥しい程の、生と死の気配を感じた。 

『皆さん、要塞の最西端を捉えました。これより先は教会の警戒区域に入るため、当機は引き返します。ミッションスタート。ご武運を』

オペレーターのアナウンスが鳴り響き、大きなドアがスライドし、空へと開かれた。

俺達はこの真下に広がる森林の中へとダイブし、門外の凶徒共をなるべく無力化しつつ、門内へと侵入することになっている。西側の第1層にはノヴォシビルスクの街が広がり、中央の第2層には軍事基地があり、東側の第3層にA級ダンジョンの入り口が鎮座するという。それら全てを鉄の壁が覆っており、面積だけでいえば瀬戸基地など比較にもならない、超広大な要塞だ。第3層の内部は元々は厳重に武装防備されてモンスターを封じ込めていたはずだが、今では武装集団が内側から操作したせいで、殆ど壊滅しているという。

まだ第2層で踏みとどまっていると良いが。

街にまでモンスターが雪崩れ込んでいた場合は…。

「太一!はやくいくよ!」

「ひぇ、た、高い。ルパちゃん、頼みましたよ」

ルーパーは機外へと躍り出るや、ぼんっと元の成龍の姿へと戻った。

「へぇ、あの白いのがこんな巨大な龍になるなんて。ほんと、面白い世の中だね」

俺を除く全員が、ルーパーの背に飛び乗ったようだ。


ダンッ

機外へと飛び出して、フリーフォールに身を任せる。

目を閉じれば、冷たく心地よい突風が、はるかなる異国の匂いを運んできてくれたような気がした。

(あぁ、気持ちいいなぁ)

何も考えず、ずっと永遠にこうしていたくなる。そんな開放感。

だが次第に落下するにつれて、人と化物の血が入り混じった粗悪な風が、大気に混じり始めた。

覚悟を決めて、目を開ける。

今から相対する人間達は、一人も生かしてはおけない。

まぁ、そう大した覚悟でもないか。

もう俺だって、立派な化物なんだから。

「それじゃぁいっちょ、やるか!ルーパー、遅れんなよ!」


空を蹴って、太一は地上へと急降下した。

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