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第39話 決戦前夜

「太一、そっちにモンスター行ったよー!」

「はーい、まかせてー」


「太一くーん!コスパの良さそうなのが逃げちゃいましたー!」

「まかせてー」


「ルパ!ルパ!」

「わかったわかった」


・・・人使いの荒い2人と1獣だな。

まぁ有り難いことなんだけど。


現在俺たちが居る階層は、第16階層。

15階層辺りからは鉄砲のような遠距離武装を使う擬人が出現し始めた。強さ自体は大したことないのだが、今までのように猪突猛進してくるのではなく、遠巻きから撃ってくるのが鬱陶しい。

13階層では『運』を、15階層では『水属性』を弱体化する制限がかかって2人とも涙目になっていたが、中ボスであった『将軍』クラスの強敵が出ることもなく、大きな苦労なく進んで来られている。


今みんなは、手分けして俺のモンスターファーム『太一牧場』を充足させる為に頑張ってくれている。内容は、コスパの良さそうな、つまり魔力が低く身体能力が高いモンスターを見つけては弱らせるという作業だ。最後の『仕上げ』は俺自身がする必要があるのだが、追い詰めたモンスターはよく逃げ出すので、こうして俺が後を追う必要性が出てくる。


新しく龍神様から授かったスキルはスピードバフ系の奥義だった。

今はその修練をかねてモンスターを追いかけている。


=================

『龍の翼』

時を司る真龍の闘気を纏わせて、敏捷性を倍増させ、体感速度を遅くする。

発動中は『龍の爪』の効果を倍増させる。

発動中は常に体力を消費する。

=================


さらりと書いているが、このスキルは相当のぶっ壊れ性能だ。

まず『倍増』というのが破格な上に、『身体強化』や『身体強化支援』とも重複できる。

また、『超集中』と同等の体感速度鈍化作用があり、こちらも重複可能だ。

これらを全て重ね掛けした状態だと、体感速度の鈍化も相まって、もはや走る速さとかそういう次元じゃなくて、『時』を支配しているかのような感覚になる。

これが恐らく、亜神の領域に限りなく近づいた状態なんだろうなと理解できる程に。

そして極めつけが、元々強かった『龍の爪』の効果が倍増だ、倍増。


ふふふ、勝てる。

これでどんな敵が来ようとも。俺は究極のスピードとパワーを手に入れたのだ!

「ふぁーはっはっはっは!!」


「た、太一、モンスターがビックリしてあっち行ったよ」


おっと危ない危ない。

ナーシャに変な目で見られるところだった。


気合いとともに、『龍の翼』を発動させる。

未だに慣れないが、限界突破オーバードライブした時のような感覚の変容がもたらされる。


身体が羽毛のように軽くなり、器から解放されたかのように、自らの重みを全く感じなくなる。

視界の全てに焦点が合ったかのように景色が鮮明化し、起きる変化が五感でありありと感じ取られる。


今視界にわずかな変化をもたらした生物の後を追い、追い越し、振り返る。

『バトルライノス』:二足歩行型のサイの化け物。体A筋A魔E敏C運E、複数の戦技もち。

かなりの強さとコスパを誇るため、是非とも迎え入れたいモンスターだ。

じぃと観察すると、ナーシャにぼこぼこにされたのが分かる、あちこちが痣や流血だらけだ。非常に強面のモンスターなのだが、涙目で逃走中といった風体である。

・・・まだ進行直線上に立つ俺には気づいていない。


限界突破オーバードライブが、あくまで人としての俺の筋骨格系の出力を跳ね上げるのに対して、『龍の翼』は最終的なステータスの向上である。敏捷性の上昇度合いはこちらが上だ。


そこから一足でサイに接近して腹に手を沿えて・・・。

「はっ!」

勢いよく掌底を加えた。


『グォ』

全力で逃走中に、意識の外から腹部に正反対の衝撃を加えられたサイは、くの字に身体を折り曲げ、血反吐を吐きながら吹っ飛んだ。ピクピクと、虫の息だ。

あぶね、やってしまうところだった。


「俺の配下に為れ。『ハーヴェスト』」

手をかかげて唱えると、サイの身体は魔素の粒子となって吸い込まれていった。


そう、後になって分かったのだが、別に心の底からモンスターを屈服させて目をうるうるさせなくても、瀕死の状態でこのスキルを使えばゲットが可能だったのだ。どちらも道徳面では大差ないので、断然楽な後者を選択する。当然だ。


この16階層に来るまでに既に相当数のモンスターを手に入れており、店長には乗り物プラス選りすぐりの2体を側近として渡すことにしている。もともと水戸黄門が好きだったようで、「スケサン!カクサン!」とか何とか言って楽しそうである。


ナーシャはレベルが上がったことで4本まで槍を出せるようになったようだ。将軍戦で3本の融合を行った途端に失神して無防備を晒してしまったことを相当悔いており、自律2本プラス2本融合の状態を常に保つ訓練をしている。本当に真面目だなぁ。

消費が激しいので、ガブガブとビールみたいにエーテルを飲んでいる。

さすがはロシア人、いい飲みっぷりだ。でもほどほどにしようね?


そしてルーパーがいる方に目を向ける。

これまでは頭の上に乗っかってお荷物扱いだった神獣だった訳だが、一体で狩りを任せている。理由はいわずもがな、ついに成体へと進化を遂げたからだ。体長は急成長して3メートル程の大きさとなり、立派な翼も生えている。相変わらずうろこのないツルツルプニプニボディではあるが、竜と呼んでも過言ではないような外観と言えよう。卵を麻袋に入れて背負っていた頃を思うと、何だか感慨深いものがある。つい数ヶ月前のことだが。


「ルパァー!」

超広範囲に黒い炎のブレスを放出し、狙撃してくる擬人たちを一瞬でことごとく塵以下の存在へと変えていく。恐ろしい殲滅力だ。黒い炎である理由はもちろん、俺の『イン★フェルノ』を食べられるだけの器が完成したからである。


====================

ルーパー 成体

種族:神獣フレアサラマンダー

性能:体力SS, 筋力SS, 魔力SS, 敏捷SS, 運A

装備:マイルドスカーフ

スキル:火の御使い(火吸収, 火放出, 火燃焼)

====================


というか、ステータスだけを見れば圧倒的にパーティでナンバー1だ。

さすがは神獣様。これからパーティ名は『ふさふさピンク白玉と愉快な仲間達』かな。

なんにせよ、また安心して頼れる仲間が増えたわけだ。九尾戦では役に立ってもらうぞ。


あ、おいこら。コスパがいいモンスターを巻き込むなって。


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そうしてモンスターを集め、スキルを磨き、店長のL缶を最大まで貯めながら。

俺たちは万全に決戦に向けての準備を整え、ついに、第19階層へとたどり着いた。

これまでで染みついた慣習通りに、19つ目の門の攻略条件を確認する。

そこには、ただ一文のみが記されていた。


『問いに答えよ』


気配を感じて顔を上げると、鳥居の向こうに、いつの間にか一体の擬人が座っていた。

そこだけ光が当たっていないかのように全身が漆黒で覆われてはいるが、殆ど人間のような顔貌だ。ただ相変わらず、何かが違う。


「座ってくれ」

1つだけ置かれた椅子に座るよう促された。必要なかろうが一応、『意思疎通』を持つ俺が座ることとなった。鳥居の下で、擬人と向かい合う。


「まずは、ここに至るまでの事、ご苦労だったね」

これまでの擬人とは打って変わって、口に笑みをうかべながら、流暢な言語で語り始めた。

その在り様に何故だか、寒気がする。


「君たちは素晴らしい。君たちは大いなる可能性を秘めた生命体だ。前情報では、人類のステータスは、文明B、生命力E、魔力Eと、どちらかといえば文明保持種の中では、劣等種だった。だが危機において人類は、惑星と一体となって各性能を向上させ、辛うじてだが絶滅を退けている」

「…」

文明保持種?劣等種?

急に何を言い出すんだ。


「我々の創造主は、あらゆる宇宙を支配下に置いてきた。人類よりも圧倒的に優れた文明や機能を有する生命体をもね。そして星々の生命体の優れた遺伝情報を取り込むことで、我々は更に生命体としての進化を遂げてきた。だがここ数万年はそれも頭打ち、種の頭数も減る一方。だがそこで君たち人類の成長ぶりだ。特に、とある三個体で強い革新性が観測されている。

実は、1等支柱、人類で言うA級ダンジョンか、これは未だ嘗て破壊されたことがないのだが…君たちにはどうやら、その可能性が数%程度含まれるとの予測が出ている」

「…!!??おい!!!」


「質問は受け付けないよ。私は与えられた内容を伝えることしかできない。君たちに問いたいことは二つだ。真摯に解答してくれれば、その答えによらず、20番フロアへのロックを解除しよう。いいね?」

「…言え」


「よろしい。では一つ目。目の前の君に聞こう。君にとって、母星とは何かね?」

「飯食って糞して寝る場所かな」

崇高な答えでも期待していたのか?残念ながら本心だ。聞いた相手が悪かったな。


「…二つ目。君たち全員に聞こう。我々の仲間になる気はないかね?人種より遥か高みにある種族へと、特別に迎え入れようじゃないか。数々の宇宙が、我々の意のままだぞ」

「ご免だ」

「結構よ」

「すみませんが店があるので」


「……質問は以上だ。だが、君たちは遠からぬ未来で、絶望を目にするだろう。2つ目の答えは、いつでも変更して構わない。では、ご健闘を祈るよ」


そう言い残して擬人が消えた後、最後の鳥居に光が灯った。


---------------------------------------------------------


「まさかダンジョンの正体が、地球外生命体の侵略だっただなんて…」

「他にも、魔性とかなんとか。この超常の世界が、元々当たり前のように広がっていたんだな。俺、霊感とかゼロなタイプだったんだけど、いつのまにやら三個体とやらの一個体だ」

「太一はそういうの縁がなさそうだよね。…でももし私たちみたいに敵に仄めかされた人達がいるとしたら…まずいよね」

「…ああ、嫌な予感がする。無事地上に帰ったら、すぐにアレクとダン協にこのことを伝えて、人々に警告しないと。『ゲート』のことも、もはや一般公表すべきだろうな」

「ええ、そのためにも、今は生きて帰ることだけを考えましょう」

「そうね」


なにせ、いよいよ九尾との戦いだ。恐らく、嘗てないほど厳しい戦いになるだろう。

だが俺たちもここに来るまでにかなり強くなったし、念入りに準備も進めてきた。


====================

渡瀬太一(30)レベル:132(EXP+300%)

加護:魔神, 龍神, 八百万神

性能:体力SS, 筋力SS, 魔力SSS, 敏捷SS, 運D

装備:太極棍, 五行錫杖, フォースリンガー, アンダーアーマー, 祝福のカジュアル, 黒のロングコート, ウィンドシューズ, 幸運のタリスマン

【スキル】

戦技:龍の爪, 龍の翼, 火事場の真剛力, 韋駄天, 隠形, 金剛, 超集中, 威圧

魔法:初級(火氷雷風土回治), イン★フェルノ, ドレインタッチ, バリアー, 念動力, 身体強化, 超魔導, 簡易錬成

技能:ステータス閲覧, アイテムボックス, テイム, 消費魔力半減, 起死回生, 超回復, 状態異常耐性, 念話, 意思疎通

【インベントリ】

アイテムクーポン(上×10/特上×4), 装備クーポン(下×6/上×1/特上×2)

製造くん(食糧/飲料水/快適空間/ユニットバス), 何でも修理くん, カプセル(ハウス/バイク/カー),

ポーション×12, エーテル×8, エクスポーション×5, エクスエーテル×10

魔素核(小×1200/中×50/大×2)

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====================

アナスタシア・ミーシナ(24)レベル:110(EXP+200%)

加護:治癒神, 水神

性能:体力B+, 筋力B, 魔力S, 敏捷B+, 運F

装備:光魔の杖, ミスリルの小刀, 破邪のワンピース, 破邪のジャケット, 幸運のタリスマン, 水星の指輪

【スキル】

戦技:会心の一撃, 隠形, 緊急回避, ナイフの心得

魔法:初級(水雷風回治), 中級(水), 超級(回水), 水神召海七覇槍ヴィリカモリゼガルフス, 身体強化支援, 治癒系魔法全体化, 界絶瀑布, テレポート

技能:ダンジョンマップ, 経験値等分配, 状態異常耐性, 回復促進, 言語理解

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====================

田村次郎(45) レベル:90

加護:七福神

性能:体力E+, 筋力E+, 魔力E+, 敏捷E+, 運S

装備:打ち出の小槌, アンダーアーマー, ぷよぷよシールド, ミスリルの下駄, マジックタリスマン

スキル:ラッキーキャプチャー, ラッキーギフト(L缶:MAX/100%)

====================


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決戦の前に、休息をとることにした。

身体は疲労がたまっていると思うが、それよりも、全員が精神的にショックを受けていたことに気がついたからだ。

これまでは、この災厄の正体は、別次元的な、殆どファンタジーな出来事なのだろうと考えていて、どこかで他人事だった。

だが現実は、地球外生命体の仕業であると分かった。別次元の存在だとか、異世界人とかではなかったのだ。同じ世界に住む宇宙人が攻めてきたというのは、すごくリアルだ。

まして敵は、あらゆる知的生命体とイン・ビトロに異種交配し、何百、何千万年以上前から自らの遺伝子をいじくり続けてきた、正真正銘のバケモノだ。


でも大丈夫。

俺って嫌なことがあっても、寝たらリセットできるタイプなので!

2人もそうだという自信はないけど、人間、休息は大切だろう。

とりあえず寝よう!


ということで、間違って最後の門をくぐらないように最大限気をつけながら、19つの巨大な門の向こうに、久々のカプセルハウスを展開した。セットで設置した快適空間製造くんも、久々に登場したせいか、色とりどりのライトアップで出迎えてくれた。赤青黄…9色?九尾戦を意識してるとしたら、今最もうざい演出グランプリナンバーワンなわけだが、まさかね。

少しして、演出は止まった。


「はぁ~、極楽。太一が「寝よう!」とか言い出した時はどうしちゃったのかと思ったけど、やっぱり気持ちの切り替えって大事だよね…。ほんと、ああ見えてよく見てる…。はぁ、お風呂最高…」


「ユニゾンスライム君…もとい助さん。バトルライノス君…もとい格さん。そしてクリムゾンホース君…もとい馬さん。君達の働きには期待していますよ。共に太平の世を築こうではありませんか。ほっほっほ」

『Ho, Ho, Ho?』『ホォウ』『バフ』


「店長はあんまり気にしてなさそう。意外とタフだよな。さてルーパー、お前はちょっとばかり大きくなっちゃったから、この家には入れないな。最高級のカシミアでベッドを錬成してやるからな」

「ルパ!」


こうして、4人はゆっくりと身体と心を休め、決戦に備えたのであった。


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一方その頃、第20階層…。


「…遅い」


ダンジョンマスターは、やや、いらいらしていた。

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