第37話 乱戦
11門の連なる鳥居をくぐり、第12階層へと転移した。
真っ先に文字を確認する。
『戦国ノ門:百の魂を捧げよ』
『騎乗擬人の乱』
・・・百ときたか。
思ったより早い段階で乱戦がやってきてしまったな。
まだ太一牧場にはスライウルフが1匹だけだから、召喚には期待できない。
「なぁ店長、見ての通りの総力戦が予想されるんだが、L缶はどれくらい溜まってる?」
「L缶は25%ですな。1ランク分の運バフ効果が5分間です。まだ発動すべきじゃないでしょう」
「分かった」
店長には、乗りづらいだろうがスライウルフを召喚して騎乗してもらう。乱戦な上、乗り物がスライウルフでは役不足だ。中途半端に身体機能を上げるのは危険だから、基本は通常の運主体モードでいてもらい、回避に専念しながらデバフをかけていってもらう。
ルーパーにはバリアーを張って俺が背負う。事しがみつきにおいてはルーパーの能力は大したもので、俺が全力で動いてもそうそう振り落とされないから安心だ。
「早く成体に進化してくれよ」
「るぱ!」
いい返事だ。
ナーシャに至っては、もはや全く心配無用だ。
先程の戦いで収納した槍だが、消耗した部分以外はそのまま魔力に再還元されたらしい。
なんて取り扱いの良い極大魔法なんだ。ジェラス。
ナーシャの魔力の全快を待ってから、敵性区画への門をくぐり抜けた。
フィールドは、一騎打ちの時と同じく、草原が広がっている。
恐らくは上級武将クラスの敵もいると思われるが・・・その前に、視野を埋め尽くすほどの大量の騎乗した擬人侍たちが待ち構えていた。
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下級武将 レベル:MAX/50
種族:擬人
性能:体力B+, 筋力A, 魔力C, 敏捷B, 運F
装備:刀, 長槍, 重鎧, 重盾
スキル:ブレイクラッシュ, 瞬歩, ハイファイア
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オネストホース
種族:モンスター
性能:体力B, 筋力B, 魔力G, 敏捷A, 運G
スキル:なし
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レベルはまちまちだが、こいつらの組み合わせが約100対か。
さらに騎乗していない下級武士の雑魚も多数入り混ざっており、大軍だ。
一騎打ちの時の反省を活かして、既に俺は五行錫杖に魔力を収束させ終えてある。
大群に対して打ち込む爽快感だけは、この魔法はぶっちぎりだな。
「今回は俺が先手をもらうぞ。『イン★フェルノ』」
ボンッ。
敵集団の中心地点へと打ち放った。
ぽかんと見上げる兵士たちの合間に着弾するや否や、範囲を絞った極大魔法は、それでもけたたましい爆裂音とともに広範囲に死の黒炎をばらまいた。
爆心地にいた数十体が消し炭になったようだが、馬を盾にして生き残った奴もいれば、周辺部には盾を翳して無傷だった奴も多い。
生き残った奴は全員、雄叫びを上げながら一斉にこちらへと押し寄せてきている。
死への恐怖なんてものは持ち合わせていなさそうだ。
隣のナーシャを見ると、既に自律駆動の神槍を2本召喚し終えており、彼女を守るようにつかず離れず浮遊している。手には杖を持っており、自身の魔法プラス自律攻・防で戦うスタイルのようだ。隙がない。
ナーシャに目配せし、『身体強化支援』を全員にかけたのを確認すると、俺は杖をアイテムボックスにしまい、敵陣へと突っ込んだ。
「さぁお前等、戦闘特化型の恐怖を味あわせてやるぞ!」
『念動力』でファンネル化させた二挺拳銃を『超魔導』コーティングした弾丸でフルバーストさせる。細切れになった雑魚達の死体を飛び越え、落馬してパニックになった騎兵たちの元へと接敵し、闘気を纏った太極混で各個撃破にかかった。下級武将達はある程度は攻撃を受け止めてくるが、いずれも数合を打ち合うことは叶わず、棒を受けた身をくの字にして絶命していった。
昔よく遊んだ無双シリーズをやっている気分だ。
時折ルーパーも背後に向けて火炎を放ち、下級武士たちを火達磨にしていった。
アナスタシアはゆったりとした動作で敵陣へと向かう。遠目から神槍の脅威に気づけなかった騎兵たちが獲物を見つけたとばかりに押し寄せてくるが、彼女の領域内に侵入した途端、飛来した槍により2~3体の首がまとめて宙を舞った。武士たちは遠目から弓を掃射してくるが、それも悉くが彼女を守護する鈍槍によりはたき落とされる。何も戦いのフォームをとっていない人間に近づこうとするだけで仲間の首がどんどん飛んでいく状況に、擬人たちにようやく困惑が伝播しだした頃。
「私は純粋な魔法使いですから。近寄れない時点で、もうあなたたちに勝ち目はないですよ」
そう呟きながら、ナーシャは杖をくるりとふりかざし、超級魔法により殲滅を開始した。
店長は、押し寄せる下級武士たちの攻撃を、圧倒的な運とスライウルフのスピードで余裕をもって回避、防御し、どんどんと運を奪っていった。
「ほいっ!」
包囲網を抜け、ヴィジョンにより安全を確認すると、瞬間的に身体バフを発動して下級武士へ攻撃を加え、希にだがクリティカルが乗ると撃破にも成功した。ヴィジョンによる戦略的な圧倒的優位に身体強化手段が加わったことで、店長は自分の手数が何十手にも広がっていくのを実感していた。こと運において自分に比肩する存在は未だなく、相手の能力を問わずしてこの戦略は有効であった。隙をついて、下級武将のデバフ化にも成功させていった。さすがにこれらを倒すことは叶わないが、自分に期待されている仕事は討伐ではなく、デバフとL缶溜めだ。
「やれる!やれます!さぁさぁ踏ん張り時ですぞ、ワンちゃん!」
「ヘッへッへッへッ…」
ノリノリな店長とは対照的に、好き勝手に動く重い荷物を載せたスライウルフは全く余裕などなかった。
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3人それぞれが三面六臂の戦いを見せて、騎乗兵士たちの殆どが討伐された頃、強大な殺気が放たれた。
『2人とも!ボスが出そうだぞ、一旦戻れ!』
『ええ、これは…過去最高クラスね』
『もう戻っております!』
念話により3人は入り口へと集結した。
それぞれが顔の見える距離まで集まったところで、戦果を一言として報告する間もなく、突如として粉塵や兵士たちの死体を巻き上げながら、巨大な竜巻が発生するのが見えた。
それはみるみるうちにこちらへと迫ってくる。
『界絶瀑布』
ナーシャが極大防御魔法を張り、3人の周囲と外界を遮断した。
一瞬にして訪れた静謐な空間で、3人はようやく一息つくことができた。
「ナーシャありがとう。あれは超級風魔法か。相当広範囲だな、無差別か。店長、L缶は?」
「75%です。十分使用に足るでしょう。合図をくださればいつでも」
「ナイスだ。ナーシャは魔力を回復しておいて。俺が前衛をするが、自律防御は絶やすな。もし隙があれば、融合槍の強烈なやつを頼む」
「分かった。解除するわ。3…2…1…」
不可侵の水のヴェールが解除されると、兵士たちの死体の山のてっぺんに、一体の鬼が座っていた。
『ステータス閲覧』
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将軍 LV:MAX/200
種族:擬人
性能:体力SS, 筋力SS, 魔力A+, 敏捷S, 運D
装備:ミスリルの大太刀, ミスリルの小刀, 鬼の甲冑, 鬼の面
スキル:空破斬, 無拍子, 韋駄天, 身体強化, 超魔導, エクスフリーズ, エクスエアリアル
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うそだろ、魔力以外のステータスは全部あっさりと負けてるじゃないか。かなり強くなったと思ってたのに、一体どれだけ強くなれば無双の日々がやってくるんだろうか。無拍子とかいう危険な香りがする奥義スキルもあるし、とにかく2人には絶対に近づけさせないようにしないと。
はぁ、つい最近までただのコンビニのバイトだったっていうのに、すっかり刺激的な戦い漬けの日々だよ。敵の情報を『念話』で2人に伝達した。
「ルーパーを頼む。ナーシャは援護を」
ルーパーは店長に託しておく。店長の隣でスライウルフが可哀そうなほどにやつれている気がするが、もうちょっと頑張っておくれ。
あいつに『イン★フェルノ』を打ったところで、相当広範囲にしないと、恐らく着弾の寸前にかわされるだろうな。2人の居るこの場所では使えない。それに対してあの風魔法はやっかいだ。やばいオーラを振りまいているあの鬼には近づきたくもないし、今すぐ回れ右をしたいところだが…前衛としての俺の仕事を全うしなければな。
自分に死をもたらし得る相手に対して、自分の持ちうる全てを結集して相対するためのスイッチを入れることには、そろそろ慣れてきた。これはオーガ戦の時に初めて味わった感覚で、あれ以来、あの時以上に死を意識したことなどなかったが、ずっと奥底で研ぎ澄ませて、磨いてきた感覚だと思う。
平和な日本で暮らしていた頃には、ダンプカーにひかれそうになったとしても、自覚することはなかっただろう。
ふぅ、と自然に漏れた吐息が、小さく肺の奥に残った生暖かい空気を外へと締め出す。
代わりに吸い込んだ冷たい空気が、脳をどこまでも冷却させていくのを意識しながら。
俺は鬼を目掛けて、わき目もふらずに駆けだした。




