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第35話 レッツテイム

第11階層に到達した。後半戦だ。

立ち並ぶ11門の鳥居の下を歩き、最後のそれに刻まれた文字を確認する。


『室町ノ門:一の魂を捧げよ』

『モンスター解禁』


猫神様の言う通り、このフロアからはモンスターが出現するようだ。

擬人は無理だが、モンスターであれば俺の『テイム』で配下にできるはず。

『テイム』成功の条件はわかっていないが、積極的に狙っていきたい。

そして、倒すべき擬人の数がリセットされている。

面倒がなくて良いが、それだけ敵の強さが上がっていることが予想される。

気を引き締めていかないとな。


セーフティーゾーンを抜けて、敵勢区画に入る。

一面廃墟のようなステージだ。

ダンジョンで廃墟というのもおかしいか。要は作りが一気に雑になったのだ。小学生が捏ねた粘土よりは上等だが、俺が3Dレンダリングソフトで捏ねたポリゴンの方がややマシ、といった感じ。

文化的な再現は辞めたらしい。

まぁダンジョン側の都合なんてどうでもいいけど、大和神様が泣いてそうな気はする。

特に城のようなものもない。モンスターに混じって散発的に擬人が出現することが予想される。


隣に歩く2人を見る。

ナーシャ…レベルはついに100になり、出会った頃はCであった魔力は今やAである。さらに格好良い名前の極大魔法を覚えたこともあってか、表情には自信が漲っているようだ。頑張れば、単体でオーガをも倒せる強さになっているかもしれない。


店長…経験値補正のない店長のレベルも80までは順当に上がり、出会った頃はGであったステータスは、まぁ今もEではあるが、派手な身体能力ブーストを得たことで、こちらも自信というか、ニヤニヤが止まらないようだ。L缶の運用に大きな期待はしているが…一度は足元を掬われそうだな。まぁ体力Bなら即死はしないだろう。フォローはナーシャに任せた。


あとは俺の肩にのってるルーパーだが、特に変わった様子はない。

猫神様に何かを授かったみたいだけど、喋れるようになったりもない。

九尾とやらと戦うまでには、こいつにも進化しておいてもらいたいところだ。


「九尾、か。日本の大妖怪だっけ。妖怪なんて、本当にいたんだね。妖怪達は地球がゲートの侵略を受けるようになってから、魔素を吸い取られて激減した。人類が文明を築き繁栄してこられたのは、ある意味ゲートによるおかげな一面がある。代わりにゲートがダンジョンを介して作った人工魔導生命体がモンスターで、今最も人類を脅かしている存在である。嘘みたいな話だね」

「イン★フェルノとかいって黒炎を操る太一くんがすでに冗談みたいな存在ですしね」

「人を変態魔法使い呼ばわりすな。ロシアにも有名な妖怪とかいるの?」

「ふふ、私は詳しい訳じゃないけど、妖怪というか精霊って言い方をするね。水の精ヴォジャノーイにルサールカ、家の精キキーモラなんてのはよく聞くかな。ロシアのA級ダンジョンにも出るのかな」

「どうでしょうな。B級ならともかく、A級は国とかの括りを超えたものみたいですし」


そうこう話していると、廃屋からモンスターと思しき気配を感じた。

1…2…3体。

「モンスターだ。えーと、『スライウルフ』体筋B、魔D、敏B+、運E。風爪、パラライズファング。だって」


俺の分析を聞いたとたん、ズオッと、店長の体を淡く金色に輝くオーラが取り囲んだ。

髪の毛が黒くてぺちゃんこなままである事を除けば、スーパータイヤ人みたいだ。

魔力消費によるラッキーギフトを発動したらしい。


「ふふふふ。B、Bね。つまりは強化した私と互角!ついに来ましたか、私の時代が!」


そう言い残して、店長はギャウっとミスリルの下駄を踏み鳴らして、飛び出していった。

わがままボディそのままなだけに違和感しかないが、今までとは全く別人の動きだ。


おー、と思わず拍手して送りだしてしまったが。


「いや殆ど互角だろうけど、相手は3体って言ったじゃないか」

「ううん、太一、言ってないよ」


一瞬2人で顔を見つめあった後、急いで店長を追いかけた。


「ほぇぇぇぇぇ!!」


狼3匹に取り囲まれて既にピンチそうだが、店長は頑張っていた。

ぷるぷるシールドを掲げて接触対象を制限し、打ち出の小槌を伸ばして刺突攻撃を繰り返している。

2匹にはラッキーキャプチャを当てて運をデバフしたようで、殆どの攻撃が当たらないか盾で受け流せているが、1匹からはガリガリと引っかかれて傷だらけになっている。


ガブッ

「んぎゃッ」

あ、噛まれた。


「店長さん、加勢しますよ。『ヒール』、『エアリアル』」

「はぅ、ナーシャさん!かたじけない。あれ、なんかしびれる」


ナーシャがうまく3匹を浮かせたタイミングに合わせて、『フリーズ』で足元を凍らせ、『念動力』で3匹を完全に拘束する。


「あの、ナーシャさん、しびれ…る…きゅ…あ…」

「勝手に飛び出した罰です。店長さんはそこでちょっと寝ててください」


ナーシャ手厳しい。まぁ同意見なので放っておく。


『グルルルル!』『グルル!』『グルア!』

スライウルフ達を見ると、口角から紫の麻痺毒を垂れ流しながら、牙を剥き出しにして威嚇してくる。正直可愛くはない。

だが、ここはペットショップではない。ダンジョンだ。

俺は今から愛を込めて、この哀れなモンスターたちを太一牧場というヘヴンへと招致するのだ。


作戦はシンプルに4段階だ。

まずはフェーズⅠ、対話だ。なんといっても俺には、彼らと対話できる手段があるからね。


『やぁ、ワイルドなワンちゃんたち。俺は太一。わるい人間じゃ…』

『ジャクショウナルニンゲンガ!』『クラッテヤル!クラッテヤル!』『ホドケェェェェ!』


「太一、なんて言ってるの?」


よーし早速フェーズⅡへ移行だ。

『威圧』。


『グルオオオオオ!』『ナマイキナ!ナマイキナ!』『キャウンッ』

効いた奴もいたが、他の2匹はさらに荒れ狂いだしてしまった。


『シネニンゲン!』

いちばん攻撃的な発言をしていた1匹が、俺に向かって紫の毒液をペッと飛ばしてきた。

当然避ける。

そして反射的に魔銃で撃ち返した結果、頭が吹き飛んでしまった。


「あ…太一」

「た、たいひはん」


「ふぅ、早いがフェーズⅢに移行だ。やむを得ない形で圧倒的な戦力差を見せつけたわけだが、どうだ?」


『グルアァァァァァ!チクショウ!』『ギャウン!ギャウン!』


うーん、モンスターの心がわかると、こういう野獣系モンスターのテイム活動は心が痛むな。オフしとこう。そして全然目がうるうるする気配がない。


仕方ない、最終段階、フェーズⅣ。テーマは、「絶望」だ。

次に反抗的だったモンスターも、魔銃で撃って絶命させる。

これでダメなら、あとはライフがピコンピコン言うまでボコっていくのみだが…どうだ?


残った一匹の目をじぃっと見つめる。

しばらく見つめあっていると、次第とモンスターの瞳がウルウルとしてきた。

『意思疎通』がなくとも、直観で感じる。

今こいつはこう言っているはずだ。「僕のことを仲間にしてください」と。


「いい子だ。お前は太一牧場の栄えある一匹目の住人だ。歓迎するぞ。『テイム』」


-----------------------------------------------------


実際のモンスター捕獲は結構、リアルだったわけだが。


「あはは、いい子いい子」

「かわいいですなぁ」

「ハフハフハフ」


とりあえず、テイムしたスライウルフは、とてもかわいいワンちゃんへと変貌していた。

最初からこうだったら、きっと対話もできただろうに。

まぁそんなモンスターいねぇか。


残念ながらステータスの補強効果等はないようだが、効果が永続するだけでも、非常に有用だ。

また、最初の一匹をテイムしたことにより、スキル『テイム』の新たな機能が発現した。

『ハーヴェスト』と『グレージング』。

効果としてはそのまんま、収牧と放牧だ。

俺の魔力の分だけ異次元牧場が広がっており、そこにテイムしたモンスターを収牧できる。

収牧したモンスターの魔力分だけ、容量を使うようだ。魔力Dのスライウルフであれば、何百体でも収納できそうである。

つまり、収納してストックするためのモンスターであれば、低魔力かつ高身体能力を備えたモンスターが最もコスパが良いわけだ。

さらに、牧場の容量を使っても、俺の最大魔力自体を圧迫することはないようだ。


これは、かなり今後が楽しみなスキルだな。

殆ど、「召喚術士」になったようなものだ。

いざという時のためにも、今後条件の良いモンスターに会ったら沢山テイム、ストックしておきたい。

店長がライドするには小さすぎるので、とりあえずスライウルフには牧場でのんびりしておいてもらうことにした。


その後もちょこちょこモンスターに遭遇したが、高魔力系のモンスターばかりだったので、とりあえずは倒しておくことにした。


そして、大きな広場のエリアで、このフロア唯一の擬人と対面することとなった。

ナーシャが、すっと前にでる。


「ここは、私にやらせて」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話が進むテンポが良い [気になる点] 九尾って中国の妖怪ですよね? [一言] 気になって調べてみたら九尾はやはり中国神話に登場する生物だそうです。
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