第33話 店長覚醒
第9階層の鳥居を潜る前に、新たに得たスキルやステータスを確認しておくことにした。
オーガクラスの中ボスと数百の武士を倒したことで、力量差のあったアナスタシアと次郎は特に大きくレベルが上昇していた。新しいスキルを得た次郎に加えて、アナスタシアの水系攻撃魔法は、極大級に至っていた。
「それで、店長さんの新スキルってどんなものだったの?」
かなり尖った存在である店長の新スキルに、2人の関心が集まる。
「えーっとですね。名前はラッキーギフトというもののようです。効果としては…」
ついに得たものは、待望の運支援魔法である。
まず、元々授かっていたラッキーキャプチャーが進化し、敵から奪った運の一部が『L缶』に蓄積されることになったのだが、それを消費することで効果が発動する。
店長を除くパーティ全員の運バフ+店長自身の身体機能バフという驚異の効果だ。
L缶の容量25%につき、運、体筋敏ともに1ランクずつのバフがかかる。
つまり100%貯まれば4ランク分であり、ナーシャの運はGからC、俺の運はEからAに、店長の体筋敏はEからAになるということだ。5%で1分の持続効果があるため、5分ごとに1ランクずつ効果は減弱していくが、最大20分間持続するということになる。L缶使用での発動では、一度発動すれば途中での解除は不可能であるため、出来るだけ最大まで溜めてからの発動が有利である。発動時のみ常時魔力を消費する。
L缶を使用しない発動も可能だが、その場合はパーティへの効果はなく、店長の運を下げた分だけ、最大3ランク分の身体強化効果がある。つまり、店長は体筋敏B・運Dになるということだ。ランクに応じて、発動中は常時店長の魔力を消費する。
これは、めちゃくちゃ使えるな。
というか、店長がついに覚醒したと言っても過言ではない。
…七福神やばいな。元の身体機能に加護がある人間が使ったら、もはやチートだっただろう。
今までの店長の身体機能だと敵には殆ど近づくこともできなかったが、これで身体強化して敵をどんどんデバフしつつL缶を溜めていき、強敵戦で使用するという戦法が可能となったわけだ。
きっと、この先ステータスで敵わない強敵との戦いで、大きな切り札となってくれることだろう。
まぁ注意点としては、店長には運が下がった状態での回避ダウンに十分気をつけてもらう必要があることくらいか。
現状の3人のステータスはこうなっている。
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渡瀬太一(30)レベル:119(EXP+300%)
加護:魔神, 龍神, 八百万神
性能:体力S, 筋力S, 魔力SS, 敏捷S, 運E
以下同様
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アナスタシア・ミーシナ(24)レベル:100(EXP+200%)
加護:治癒神, 水神
性能:体力B, 筋力C, 魔力A, 敏捷B, 運G
装備:光魔の杖, スラッシュナイフ, 破邪のワンピース, 破邪のジャケット, 幸運のタリスマン, 水星の指輪
【スキル】
戦技:会心の一撃, 隠形, 緊急回避, ナイフの心得
魔法:初級(水雷風回治), 中級(水), 超級(回水), 水神召海七覇槍, 身体強化支援, 治癒系魔法全体化, 界絶瀑布, テレポート
技能:ダンジョンマップ, 経験値等分配, 状態異常耐性, 回復促進, 言語理解
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田村次郎(45) レベル:80
加護:七福神
性能:体力E, 筋力E, 魔力E, 敏捷E, 運A
装備:打ち出の小槌, アンダーアーマー, ぷよぷよシールド, ミスリルの下駄
スキル:ラッキーキャプチャー, ラッキーギフト(L缶:0/100%)
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ナーシャの極大魔法は、とても極大魔法っぽい名前だった。
何と比較してとは言わないけど。
神水で生成された七本の槍を召喚し、投擲する以外にも自在に操ることができるらしい。
一回で殆どの魔力を消費するらしいので、現状実戦で扱うにはじゃばじゃばエーテルを飲む必要がありそうだが。アイテム工場が稼働するまでは、大目(多目)に補充しとかなきゃな。
それと…
「なぁナーシャ、俺の魔力SSになったんだけど、これどこまで上がるんだろう」
「んーと、『ダンジョンマップ』によると、『人間の限界ではステータスの上限はSSSまでだが、一つでもその限界を突破すると亜神の領域に至り、新たなステータスと共に別次元の強さが得られる。なおバフによりその限界を突破することはできない』だって」
へぇ…じゃぁもう少しで俺の魔力は成長の頭打ちを迎えるわけか。
亜神、ね。つまり突破したら、種族変わるってことか。
ぜひとも突破してみたいもんだが、突破の条件は書いていないとのことだ。なんだろうな。
ちなみに亜神になっても、人間の子孫残せるんだろうか。
誰とって?そりゃ…。
「太一、なんだか顔がニヤけてる」
「いや、変なことは考えてないよ!」
「…ん?変な太一」
あぶないあぶない、ちょっと意識が桃色な世界にいきかけてた。
少人数パーティでの恋愛はご法度だろう。今は余計なことは考えちゃダメだ。…少なくとも、S級をクリアするまでは。
一通り確認を済ませてから、大きな勾玉を捧げて、9つの門をくぐった。
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シャーン
第10階層に飛んだ。
…筈だったのだが。
「は?」「ふぇ?」「ほ?」
3人揃って、目の前の光景に驚く。
3人揃って、驚きのあまりハ行しか出てこなかった。
現地リポーターとしては全員失格だ。
見慣れてきた赤い鳥居が1本も存在しない。
鳥居どころか、洞窟でもない。
俺たちは今、浅層と同じように、周りを鬱蒼とした森に囲まれている。
だが明らかに浅層と異なるのは、1軒の立派なログハウスが目の前に立っていることだ。
ログハウスには、『猫の喫茶店』という看板が立てられてある。
煙突からは煙がもくもくと立ち上っており、なんだか美味しそうな匂いが漂う。
…胡散臭さ満点な訳だが。
気配察知を飛ばしても、辺りからは、擬人はおろかモンスターや動物の気配さえ感じられない。
ぐぅぅぅぅ
ちょうど、静かな森に店長の腹の虫の音が響き渡った。
そういえば、攻略を急ぐ中で、まともな休憩は殆どできていなかったな。
3人で顔を見合わせると、恐る恐る、木製のドアを開き、中へと入っていった。




