第31話 大事変
シャーン シャーン シャーン
7つの勾玉を収め、7つの門をくぐり、次の階層へとやってきた。
第8階層だ。
『平安ノ門』『制限:雷属性攻撃 威力半減』とある。
この制限にも、特に大きな支障はない。
実は俺は、密かに特訓していたことがある。
『イン★フェルノ』のダンジョン内での実用化だ。
現状、俺は魔法による範囲攻撃を、ナーシャに頼り切りな状況だ。
それによって、今のうちのパーティは『アタッカー3、特殊サポーター1』で始動しているようなものだ。
このままではあまりにも安定性がない。
今後乱戦となった場合、崩壊してしまう可能性がある。ナーシャには、万能型(アタッカー兼サポーター兼ヒーラー)として、一歩下がっておいてもらいたい。
…余計無茶振りな気もするが気にしない。彼女はできる子。
とにかく、戦略的に俺が先制の範囲魔法攻撃を担当する必要性は高いと思われる。
地上において、B級に挑むまでの期間、随分練習してきた。
ラックドインプを倒した際の、ナーシャの『界絶瀑布』での閉じ込め作戦を真似たものだ。
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はい、今日の3分クッキングのお時間です。
ここは人が誰も寄り付かない採掘跡地です。
鉄を含んだ岩山が、目の前に豊富に広がっています。
それらを使って、『アースウォール』で何重にも岩のドーム状の壁を作りましょう。
厚さは数メートルですね。材料はタダなので、たくさん作りましょう。
まだまだ貼りますよ。十重くらいにします。
少しだけ穴を開けとくのがミソですね。
そして貼った壁ぜんぶに『バリアー』のヴェールをかけます。
これはだいぶ頑丈そうですよ。
あとは、火をくべるだけです。ぽいっとリズムよく放り込みましょう。
その後は、急いでドームを閉じ…
カッ!
ッッッドォーーーン!!!
「うわぉぉぉぉぉッ」
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自分の魔法で何度ふっとばされたことか。
練習した岩山地帯は地形が大きく変わり、岩肌は炭化して真っ黒になっている。
最初の加護スキルがこれって、やっぱ魔神様頭おかし…いえ、なんでもありません。
とにかく練習の甲斐あって、魔力コントロールはかなり上達した気がする。
黒い火が炸裂した後の、熱の範囲の絞り込みが随分出来るようになった。
一度だけ、全力で範囲を絞った数メートル大の『黒球』を相応の魔力で形成したことがある。
おや熱くないぞと手を近づけたら、一瞬膨張した瞬間に指の骨が溶けてしまった。
部位欠損なんて、オーガにぶたれた時もしなかったのに!
念話119番してナーシャの超級治癒魔法で治してもらったが、新たなトラウマになった。
恐らく、威力だけなら、この魔法は魔神スキルの中で最強なんじゃなかろうか。
もっと使い勝手の良いやつが早く手に入ることを、切に祈るが…。
今はこいつでやっていくしかない。
8階層のフィールドへとやって来た。
7階層よりも、さらに整然と整備された町並み。
家と家の間にはまっすぐな道が走り、大勢の擬人が行き交っている。
飯屋なども盛況なようで、中であいつらが調理している雰囲気が出ているが、茶色い団子状の食糧が、ただダンジョンの床からこんこんと湧き上がっているだけのようだ。
のっぺらぼうの集団が、ぐちゃぐちゃと団子を手づかみで無心に食べている食事の光景は、あまり思い出したいものでもない。
同心円状に広がる生活エリアの北方エリアには、立派なお城がそびえ立っている。
世に名高い、平安京の大内裏だろう。
もどきだが、このダンジョンのことだ。人間以外はおおよそ精密に再現されているのだろう。
教科書でも見られないようなものを実際にお目にかかれているかと思うと、少しワクワクする。
「ほほぉ~、ほほぉ~!」
「日本らしい、優美で剛健な建造物だね」
店長もナーシャも、圏外のスマホでパシャパシャと写真をとっている。
十分資料を残しておいてくれ。
なぜなら、そんな歴史的建造物レプリカを、今から俺が木っ端微塵に吹き飛ばすからだ。
というか、消滅させる。
少しドキドキする。爆弾魔みたいでやばいかなこの感覚。
7階層みたく、目立って警報が鳴っては台無しなので、2人で店長を挟んで気配を消して、道の端をこっそりと進んできた。恐らく、全ての敵が城の中に控えている状態だろう。
「気配とやらを察知はできませんが、きっと今なら全員に当てられる気がしますぞ」
「『界絶瀑布』は貼らなくてもいいの?」
「大丈夫、あれだけ城が大きくて庭が広いから。周りの区画には及ばせないよ」
フィールドごと壊滅させれば恐らく住人全員でそれなりの経験値になるだろうが…人もどきとは言え、悪意のない者たちを大量殺戮するのは、さすがに気が引ける。
制御に特化した五行錫杖を構える。シャンッと小気味良い錫輪の音が響いた。
『イン★フェルノ』と唱えて、全魔力の1/5程を杖の先端に収束させる。
狙いは、城の中心の、真上だ。爆風は消して…。
凝縮された黒い小さな火の玉が勢いよく放たれた。
いち早く危機を察知したのか、下級将軍が先程同様に屋根の上に躍り出てくるが、もう遅い。
「弾けろ」
カッ
将軍の頭上数メートルの位置で、凶暴な殺戮魔法の火の芽が、破裂した。
ッドォォォォォン!!!
巨大な黒い炎の波が瞬く間に全てを飲み込もうと膨れ上がるが、想定した範囲内に制御する。
1キロメートル大の超巨大黒球が、一瞬で目の前に現れた。
大内裏を囲う黒炎の塊は、時折メラメラとコロナを発生させるが、こちらまでは熱は及んでこない。熱の封じ込めもまずまずだ。
よし、これくらいの範囲内であれば、制御できるな。
数秒に渡って燃焼させたのち、炎を消した。
優美な城は跡形もなく消え去っており、更地となった黒ずんだ地面には、8つの勾玉が無傷で残されていた。『念動力』でまとめてパシパシっと回収する。
「…今までと同じ食事のエネルギーでこの破壊現象を起こせる太一くんの身体って、ほんと、なんなんでしょうね」
「うーん。そうだな。ハイブリッド人類なんてどうよ」
「太一はどちらかというと…ミュータント人類?」
「ひでぇな。名前的に、好きだった亀人間のアニメを思い出すよ」
「ふふ、ごめんね。でも本当に、頼りにしてるよ。ただ太一、地上ではまだもう少し…」
「目立つな、ってんでしょ?ナーシャは心配性だなぁ。『力』の予言なんて、ナーシャ以外知らされてないだろうし。知られたとして、誰に狙われるでもないだろう」
「うん…。そのはずだけどね。まぁ、私達のとっておきにしとこうよ、太一は!」
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太一たちがダンジョンに潜ってから、はや数日が経過していた。
その頃、地上では。
「ジーザス…。世界はほんとに、どうなっちまったっていうんだよ」
アレクは、超緊急の対応に負われていた。
まさか、彼らが潜っている間に、こんなに早く地上の情勢が激変するとは思っていなかった。
というよりも、これは、聖女パーティがB級に挑んだタイミングを狙われた可能性が高いか。
知らせようにも、太一の魔力節約のために念話のリンクをオフしているので、こちらからは知らせられない。
まぁ、今はどのみち攻略に集中してもらう他にない。
せめて自分だけでも地上に残っておいて、本当に良かった。
地上は、これでますます安全な場所ではなくなった。
彼らが戻ってくるまでに、少しでも事態の収拾に務めなければ。
…あの少女。
チャイナの山村で保護した、家族や隣人をモンスター化され、片腕を機械化された哀れな少女。
雪という名前のようだが。
身体の免疫反応による高熱と重度の精神ストレスにより、収容した病院では完全に錯乱していた。
それはもう、見ていられない光景だった。
だが、彼女には、もう一つの事実があった。
風神という、最高位の神の加護を授かっていたのだ。
彼女だけが、製造者不明の魔導機械による生体改造を受けていたのも、それが理由だったのだろうか。
その他の魔導機械の製造者は…あのエウゴアという教祖であった。
恐らくは、今回の事変の、首謀者でもある。
雪の身は、徹底して秘匿・保護しなければならない。
現在はブラジルにある巨大なダン協本部の基幹医療用区画に運んである。
僕が精製した医療用魔導機械も導入し、鎮静の上で徹底した全身管理がなされている。
無事に目が覚めたら…つらいと思うが、自分の身を守れるくらいには強くなってもらう。
そして出来ることならば、自分の意志で、僕たちに協力してくれることを、祈っている。
アレクは、思わず鈍色の空を見上げた。
少しだけ目を閉じる。
至る所で鳴り響く銃声や機械の駆動音、そして人々の悲鳴が耳に入ってくる。
再び、眼下に広がる光景に目を向ける。
そこには、『モンスターと人間による』襲撃を受けて、壊滅したナーシャの故郷の姿があった。
アレクは愛銃を手に取り、仲間とともに、次の戦場へと向かった。
友人がキャラデザを描いてくれました!
今回はアレクです。イケメンマッチョ最高。
彼はまた地上の最前線で頑張ってます。




