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第25話 つかの間の日常


アレクが中国の山間部で人知れず奮闘している頃。


太一たちは、引っ越しをしていた。


「ナーシャ。ナーシャの荷物、部屋に置いとくよー」

「はーい、ありがとうございます」


ルーパーも店長も加わり、さすがに太一のマンションでは手狭になったからだ。

ではどこに移り住むかというと。

まぁ、さすがに基地の中だろうということになった。

店長の家族もいる中で、あえて外の市街地に家を構える意味もない。

ただし、ナーシャたっての要望で、中枢区画でも魔導兵区画でもなく、生活区画に住むこととなった。ここであればナーシャの顔を知る人は殆どいないため、気兼ねなく生活できるということだった。

幸い広大な都市要塞であり、土地もまだまだ余っている。

主要道路からはやや奥まった、静かな土地と家を借りられることとなった。

白を貴重として開放感のある、2階建て、軒なしの家だ。


新しい家電や家具は、客足が遠のいて困っている地元のホームセンターで購入してきた。電気自動車もある程度普及してきてはいるが、石油のない生活はまだまだ人々の生活に大きな影を落としている。


「店長はこの狭めの部屋でいいんだったね」

「はい、家族の住むマンションにもちょこちょこ顔を出しますから」


--------------------------------------------------


店長は、パーティーに加わった後すぐ、俺に「敬語をやめて下さい」と言ってきた。

「このパーティの実質のリーダーは太一くん、君でしょう。つまり君は私の新しい上司である訳だし・・なんといっても、恩人ですから」とのことだ。

恩人と言われる程のことはしてないというか、むしろ決闘するよう仕向けたりジャイアントフット討伐を無茶振りしたことを恨まれているかと思ったが・・まぁ丸く収まったみたいで良かった。


あの後、俺たちは豊岡と神戸のC級を難なくクリアした。


ナーシャのテレポートは、攻略を進めた地点までであればダンジョン内でも飛べるようで、豊岡ではすぐにボス戦となった。

ナーシャに「店長さんにも、あなたの本気を見せて上げて下さい」と言われたので、姫路戦と同様にフル強化でボスを瞬殺した。店長は漫画みたいに目玉が飛び出していたとのことだ。


神戸では、フレアスライムという燃える巨大スライムが出てきた。火耐性と物理耐性が強く俺はやや相性が悪かったが、発動タイミングに磨きがかかってきたナーシャの鏡蒼刹ラッシュで、これまたほぼ瞬殺で倒すことができた。

敵に触れもしなかった店長は見学状態でしょぼくれていたが、大丈夫、店長はとっておきだから。


得られた装備は、それぞれナーシャと店長の防具として渡してある。


そして協議の結果、やはり赤穂は残しておこうということになった。

つまり、現状で岡山-兵庫においてやることは終わった。

ついにB級へ挑む時がやって来たというわけだ。


多くのモンスターが闊歩しているダンジョンの間近にテレポートするのは危険であり、退路を確保する意味でも、俺たちが挑戦する日は多くのダン協戦闘員とタイミングを合わせての突入予定となっている。

部隊の隊長らとともに、『ダンジョンマップ』によるB級ダンジョンの攻略についてのブリーフィングも済ませた。ナーシャは俺の実力については何故か徹底して公表しないようにしており、あくまで聖女パーティは『従者二人+一匹』という扱いだ。

なので、当然部隊としても突入部隊に加わる提案をしてきたのだが。

レベル80相当の実力者であり、C級を既に3つ落としたナーシャが、「突入部隊は私達だけで行きます」と固辞するので、彼らもそれ以上強くは言えず、渋々了承した。


そうして決行の日までしばし休息をとることとなったため、引っ越しを済ませておこうということになったわけだ。


--------------------------------------------------


引っ越しが落ち着くと、店長は早速家族と過ごすために家を空けることとなった。


怠惰な神獣ルーパーは俺の部屋ですぴすぴ寝ている。

今、俺とナーシャは久しぶりに2人きりだ。

リビングで、ナーシャが淹れてくれた紅茶を呑んでまったりしている。

新居のことや、開発の進む町並みについてしばし雑談する。


一息つくと、少し、風に当たりたくなった。


「ねぇナーシャ、ちょっとばかし、ドライブにでもいかない?」

ナーシャをデートに誘ってみる。


「えぇ、いいですね。どこか目的でも?」

「特にって所はないけど、少し風に当たって、ついでに・・例の『座標』でも拝んでから帰ろうかなとさ」


ナーシャは少しハっとした表情になったが、「いいかもしれませんね」と了承してくれた。


バイクに跨って、2人で海岸沿いを走る。

今は2月初旬で、今年は例年よりもかなり冷え込んでいる。

温暖な県南部であっても氷点下の気温となっており、冷たい風が当たる。

ただ、2人にとっては不快に感じる程のものでもない。


王子が岳の展望台に登る。

モンスターが出るこのご時世だから、夜の展望台は貸し切り状態だ。

ベンチに座って、ナーシャに温かいお茶を差し出す。


岸壁には、いつからそこにあるのか分からないが、人の顔のような模様がある名物岩が佇んでおり、海の方を向いている。

そいつが眺めている方向を、2人とも、同じ様に眺めた。


「ちょうどあのへんが、『座標』になるよな」


「そうですね。S級を全て駆逐した暁には、あのあたりに『ゲート』が現れるのでしょう。

・・ゲートも、大きいのでしょうかね」


「どうだろう、何となく、空間の割れ目のようなものを想像してるよ」


「私もです。・・B級を攻略した後は、最短でいけば、あとA級が3つと、S級が2つ。5つのダンジョンを攻略すればゲート・・ですか。近いような、遠いような、ですね」


「・・きっと、あっという間さ。

ところでさ。店長が俺に敬語をやめてくれって言ってきたんだよ。上司だからってさ。俺も堅苦く話すのが苦手だから、2つ返事でオーケーしちゃったよ。

ナーシャは気遣い屋だから俺にも丁寧だけど、そろそろ砕けてくれてもいいんじゃない?なんといっても俺、『聖女様の従者』なわけだしさ」


「もぉ、太一さんは聖女ってワード禁止って言ったじゃないですか!あの言葉を聞くの、もううんざりしてるんですから!」


「・・ぷ」

「・・ふふ」


「あははは。分かった。うん。・・今後ともよろしくね、太一」


彼女の年相応な笑顔を初めて見た気がして、ドキッとした。

ま、まったく俺ってば、30にもなってチェリーメンタルなんだから・・!


「じゃぁ仲良しになった記念ということで。

ずっと前から、太一に聞いてみたかったことがあるんだ。

・・太一は、なんでわたし達が神様に選ばれたんだと思う?」


「ん・・?なんでって。たまたま、こつこつ働いたからでしょ?」


「うん・・そうかもね。じゃぁ、その前。『スキルガチャ』のサイトに辿り着いたメンバーは、本当に全員、たまたまだったのかな?」


「え・・そりゃ・・。俺なんか、しょーもない目的のために何百回TABキーを押したことか。あれがたまたまじゃないなら、なに・・」


「そう、私も、『今思うとどうでもいい』目的で、あの時はとりつかれたように画面にのめり込んだ。

・・私ね、勘違いかもしれないんだけど。・・『八百万神』に、会ったことがあるような気がするの」


「え!?会ったことがある?あのガチャキャラにってこと?

あれって、地球の神様の集合体なんでしょ?俺たちが会ったことがあるなんて・・」


「ないはず、だよね。

・・ちなみに、この前アレクに聞いたんだけど。アレクも、アレクが仲間にした『ガチャ勢』の仲間たちも、『幼い頃に両親と死別』してるらしいんだ。太一も、私もだよね」


「両親を亡くした子供が選ばれたってこと?そんな子供、世界中に沢山居る気がするけど」


「うん・・。

実は、太一のご両親が亡くなった事故のこと、調べさせてもらったの。その時ご両親は海外にいらしたんだってね。事故というか・・テロに遭われたと聞いたわ。その時、『太一もそこに一緒に居た』みたい。そして、現在確認できている『ガチャ勢』全員が、『当時両親が亡くなった現場に居合わせていた』ようなの」


「・・・」

両親の死因や事故の場所については、実はこれまでちゃんと聞かされたこともなかったし。

自分で調べようとも、してこなかった。


「事実に大した意味はないかもしれない・・けど。ひとつ、仮説を立てるとしたら。

『私達全員が、当時両親と一緒に亡くなった。でも、来る地球の危機に抗うための存在として選ばれ、生かされた』のかもしれない」


「・・・」


「もう少しだけ、ごめんね。

私の両親は、私が幼い頃に車の事故に巻き込まれて、橋から落ちて、溺死した。

私、当時の記憶が少しだけ、残っているの。

冷たい水の中に投げ出されて。流されて。苦しい。そんな断片的な記憶。

でも、その後で、誰かの声を聞いた気がしたの。

気がついた時には、岸辺で大人たちに助け出されて、病院に担ぎ込まれた」


「その声っていうのが・・」


「うん、あのガチャキャラの声に、似ていたような気がしたの。

・・気のせいかも知れないけどね。死に瀕した子供を選んだ意味も、ちゃんと働いた人だけ最後までガチャを引かせる、なんて線引きもよくわからないしね。

・・ただ、いつか、全てが終わったら。もう一度あの変な神様と会って話がしたいなぁって」


そう言って笑う彼女の頬には涙がひとすじ、伝っていた。


俺はなんだか無性に寂しいような気持ちになって、気がつけば、彼女を抱きしめていた。


---------------------------------------------


ナーシャから離れると、「帰ろっか」と声をかけた。


彼女は俺の頬にキスをして、

「太一、ありがとう。当時のこと・・初めて人に話せたの。少し、楽になった気がする」と言った。


帰りのバイクの上では、色々な事が頭の中をよぎり、考えがまとまらなかったが。

親のことやガチャキャラ神のことはさておき。


これだけは確定事項だ。

俺は完全に、彼女に惚れた。


これからは、あらゆるものから彼女を守るためにも、強くなるのだ。


・・た、ただ、さっきのは義理。義理キスだ。

勘違いしないようにしないと!

キスの文化が違うからね!男同士でもブチューと挨拶する文化だとか聞いたことあるような。

はぁ。生殺しとはこのことか・・。


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そうして、生活区画での平和な数日はあっという間に過ぎ。

最初の目標である、大阪B級ダンジョンに挑む日がやって来た。








挿絵(By みてみん)

友人がアナスタシアを描いてくれました♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは確かに聖女だわw
[一言] カワイイヨ『何でも修理くん』 『口ニ入ラナイモノハ直スノ大変ナンダゾ』 (でもあなたの頼みならやってあげないこともないんだから!)
[気になる点] ロシア人名アナスタシアの愛称は、ナスチャが一般的です。
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