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第23話 ××が仲間になった!


『ダンジョンマップ』によると、運の差が戦闘にもたらす効果は3つだ。


「ひぃぃぃ、死ぬっ!死ぬるっ!!はひ・・はひぃ!はひぃぃぃ!」

ベチンッ ベチンッ ベチンッ

「おぉー店長すごい。無駄だらけな動きだけど、予測頼みでちゃんと避けてる」


1つは、その場の運勢の支配により、『相手の次の行動がある程度予測できる』ということ。


溶解汁ブシャー

「はぁぁぁこれはムリーー!お?」

「今のは普通なら絶対当たっていましたけど、なぜか逸れていきましたね」


1つは、運のバリアーとでもいうべき存在が働き、防御は上がらないが『回避率が大幅に上がる』こと。ちなみにちゃんと本物の『バリアー』もかけてるので、当たっても死なないようにはしている。


そして最後の1つが・・


「そいや!そいや!そいや!そいやー!」


ゴン、ゴン、ゴン、ゴンッ!


レベルは上がっても、ステータスの低い店長の攻撃は決定打にはなりにくいのだが、

突如、清々しい程の快音が鳴り響いた。

イビルウィードは体が大きく陥没し、へなへなとダウンした。


『クリティカルヒット』が発生したようだ。相手の気の流れにおける急所『トリガーポイント』を突く、威力5倍の攻撃である。通常は発生しないのだが、運の差が大きければ、時折発生するようになる。


更に、打ち出の小槌がもつ10倍の超クリティカルも、店長が運のない敵を相手にすれば、極稀にだが発生する。通常のクリティカルと重複はしないようだが、俺の『龍の爪』と同倍率の威力の攻撃が、運任せとはいえ、消費ゼロで発動できるのだ。店長にとって、貴重な攻撃手段と言えるだろう。


「こ、このわたしが・・3階層のモンスターを、一人で倒したのか・・」


「店長、やりましたね。今後あなたのパーティでの役割は、支援、緊急時の回避、そして先読みを活かした司令塔的存在となっていくと思いますが・・それでも、店長自身だって、ちゃんと敵と戦える。それがたった今、証明されました」


次郎は、しばし自分の掌を見つめていた。


「・・ええ!」


-----------------------------------------


第4階層へと降りてきた。

かなりの時間が経過した上にナーシャの魔力も相当減っていることから、安全をとって、こいつを倒したらボスへは挑まずに地上へ戻る予定だ。つまり、本当に最後の仕上げだ。


「店長。筋力Fの店長が体力Cを倒すのは、超クリティカルを出せたとしても、非常に厳しいでしょう。ですが、ナーシャの『身体強化支援』があれば、ワンランク相当はステータスが上がるはずです。最初に少しだけ支援をしますので、諦めずに手数を狙って下さい」


「渡瀬くん・・わ、分かりました。やれるだけ、やってみます」

「田村さん・・いえ、店長さん、どうか頑張ってくださいね。『身体強化支援』」

「では、店長、ご武運を。『エアリアル』!」


ジャイアントフットを視認すると、やや指向性を調整したエアリアルを放ち、その身体に無数の切り傷を作った。

「GUOOOOO!」


あとは店長がどこまでやれるかだ。

頑張れ、店長。


次郎は右手に持った打ち出の小槌を3メートル程に伸ばし、左前腕にぷるぷるシールドを装着し、決死の表情で敵の下へと走った。

身体強化されたおかげで、いつもよりもかなり速く走れるようだ。


だんだん敵の姿が大きく見えてくる。

その顔は、怒り一色に染まっている。

4メートル級の超大型モンスター、怖くないわけがない。

というか怖すぎる。どう考えてもスパルタが過ぎる。


・・だが、あの2人についていくということは、そういうことなのだ。

これは・・これでも、本当に最低限度の試練なのだろう。

ここで逃げ出した先を想像するよりも、怖いものなどあるはずがない。

ないのだ!


「うおおおおおおお!」

敵が最初のエアリアルでひるんでいる内に、大振りに構えた木槌を、思い切り振り下ろす。


『GUUU!』

だが、軽々と上体のスウェーにより躱されてしまった。


『GUAAAAAO!』

お返しとばかりに、大木のような腕から薙ぎ払いが振るわれる。

次郎の身体はボールのように吹き飛ばされて、向こうの壁に激突する。


というヴィジョンが、ぼんやりと見えた。


「ひぃ!」

ぎりぎりのところで回避するが、腕の動き自体は、残像しか見えない。

「ひぃッ・・ひぃッ・・・ひぃッ!」

や、や、やっぱ超怖いぃぃぃ!


忌々しい、と何度も振るわれる剛腕が映し出す死線から必死に退く。

風圧やら気の流れやらが味方をしてくれるおかげか、絶望的なステータス差の中で、奇跡的な回避を成功させる。

だが攻勢に出る余裕なんてない。槌はとっくに最小まで縮めて、今はシールドを身体の前面に掲げながら、何もわからないまま、目も禄に開けられず、ヴィジョンだけで回避し続ける。


やややややっぱ、こ・・こ・・・こんなの、絶対に無理だ!

無茶無茶無茶無茶無茶!!!

イビルウィードとは全く!訳が違う!


ゴン!ゴン!ゴン!

「ひぃーーーーー!!」

『GUUUOOOO!!!!』

ノロくて矮小な存在になぜか攻撃は当たらず、激怒した大猿は激しく拳を地面に叩きつけ始めた。

地面が揺れ、割れる中、コロコロと転がりながら、ただ死から逃れたい一心で、必死に回避し続ける。


『GUOOOOOO!!!!』


「あぁ!」

『筋力強化』も加わった渾身の薙ぎ払いをついに回避しきれず、シールドの上からモロに攻撃を食らった。


あ、死・・


『ぷるん』


ぷるぷるシールドは、運に愛された男の元でその特性を大いに発揮し、敵の攻撃力の9割以上のエネルギーを、柳が風をそらすかのように受け流した。


獲った!とばかりの本気の大振りを受け流された猿は、反動でズッコると同時に、肩が脱臼したようだ。

『GIIIIIOOOOO!!!』


かたや次郎は、1割程度の力は食らったものの、数メートル転がされただけで済んでいた。

なぜか勝手に苦しんでいる敵をみて、少しだけ息をつく余裕ができる。

「ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・」


・・よく見ると。

太一の魔法による切り傷が至るところにあるが・・。

左胸の前・・あそこは特に、大きく抉れて・・肋骨が見えているのか。

・・心臓の位置。


偶然とは思えない。

最初から、唯一の討伐のチャンスは、そこに作ってくれていたのだろう。


恐怖と本能が訴えかけてくる『撤退のチャンス』

これをなんとか、より強い、それを選んだ先の未来への恐怖によって必死に呑み込むと、

「・・・!!!」

次郎は、静かに、全速力で、また目の前の暴力の塊へと向かって走り出した。


『GUUU!!』

肩が外れたままの猿は、向かってくる次郎の姿を確認すると、反対の腕を次郎へと伸ばす。


目だけは、閉じない!

自分の運を信じて、身体を軽く浮かせて数ミリの差でそれを躱すと


『ラッキーキャプチャー』!


伸び切った腕に軽く触れて、唯一のスキルを発動させた。


その瞬間

猿は、なにかに呪われたかのような、得体の知れない気持ち悪さを感じた。

次郎は、特に何も感じなかった。


が、次の瞬間より、次郎の視界は大きく切り替わった。


この猿と自分との間にある、数手先分のヴィジョンが、見える。


「ふんっ!」

やみくもに手を伸ばしてくる猿の腕を渾身のジャンプで躱すと、その腕を足場に走り出した。

振り落とそうと腕が振り払われるが、それより先に重心を落とし位置を変え、走り続ける。

振り落とせないことに驚愕する猿。

なら直接食らってやると大きく開いた口腔が迫ってくるので、その口の中にシールドを放り投げる。

ムニュッと

なんとも言えない食感に変な表情で固まった猿の大きな左耳たぶに両足をかけてぶら下がると・・


「ぞりゃ!ぞりゃ!ぞりゃぁぁぁぁぁ!!」

左胸の位置まで伸ばした木槌を、何度も何度も、全力で叩きつけた!


ゴン、ゴン、ゴン!、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン!

クリティカルが発生するたび、露出した肋骨にヒビが入っていく。


来い来い来い来い、超クリティカル来い!


『MOGAAA!!』

急所を攻撃されていることを察知した猿の腕が迫ってくるのが分かる。

耳たぶから足を放して、自然落下する。


そのまま野球のフルスイングの構えをとり。

「来ぉぉぉぉぉい!!!!」


ドゴンッッ!


『MOG!・・』

放たれた超クリティカルは、太い肋骨を砕き、中にある柔らかい心臓を、見事打ち破った。


ドサッ

「ぁいた!」

受け身もとれずに落下した次郎は、すぐさま上を見上げる。

・・口や胸から大量の血を垂れ流し、こちらを睨みつけている猿と目があった。


「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」


ふいに、ぽん、と肩が叩かれた。


「ほ?」

いつの間にか、横に太一とアナスタシアの姿がある。


「店長、お疲れ様でした。・・大丈夫。あいつ、もう死んでますから」


ズシン

そのまま猿は白目を向いて、後ろへと倒れ込んだ。


「・・・・・・ッ!!!」


次郎は、これまでの人生で一番大きかったであろう、

心から湧き出してくるような、ガッツポーズをとった。


----------------------------------------------------


ダンジョンから帰宅すると、翌日の夜になっていた。

猿の唾液でねばねばになったぷるぷるシールドを洗って、しっかりと休む。


そして、決戦の正午はやって来た。

広い修練場の中央に、用意された服装に着替えた二人が対峙している。

致命傷を負わないように、武器は刃のない鉄の剣となっている。木刀代わりだ。


「ははは、田村さん、逃げ出さなかっただけでも、十分称賛に値するよ。

だがすまない。獅子はウサギを狩るにも全力を、とはよく言ったものだ。

大空寺財閥の戦闘員総力を上げて(挙げて)、僕はこの2日間で更にレベルを上げてきた。

今や僕のレベルは40!世界的な加護者の中でも、トップクラスに入る値だ。

万に一つも、あなたに可能性は残っていないんだ。・・棄権をオススメするよ?」


一昨日までの次郎であれば、小さくなって震え上がっていたことだろう。

だが。


「そうですか、更にレベルをね。・・・それは良かった。

私も運良くといいますか、レベルを上げる機会に恵まれましてね。少しばかり君を追い越してしまっていたのが気がかりだったんですよ。同じレベルまで上がってきてくれてよかった。私のレベルもちょうど40です。正々堂々とやりましょう」


「・・・・・・は?・・・なるほど、アナスタシア様の温情をいただいた・・ってわけですか。どうりでどうりで、調子に乗っているわけだ。

・・運だけが取り柄の雑魚がこの僕に対して一人前な口を聞きやがって・・半殺しにしてやる」


『すごいテンプレな悪役の台詞。

あいつ、あんなんでよく加護もらえたもんだな。なぁナーシャ?』

『あははは。まぁ焚き付けちゃったこちらにも責任はありますかね・・はぁ』

あ、ちょっと落ち込んでる。


「それでは、両者・・構え。・・・・・・・・・始め!!」


「コォォォォォォォ・・」

大空寺は深い深い呼吸を行い、肺の中の空気を何重にも入れ替えた。

全身の皮膚が紅潮し、血流が激しく循環しているのが分かる。


「『呼応法』を発動した僕の身体能力はDランク以上に匹敵する。今や銃弾をも弾く身体だ。・・覚悟はいいか?」

「ほほ、ご丁寧にどうも。どうぞかかっていらっしゃい」


一瞬で終わらせてやると、顔を歪めた大空寺が全力でこちらに向かってくる。

鉄剣を振りかぶると、袈裟斬りに斬りかかってくる。

目で追うのもやっとのスピードだ。

その刃をまともに喰らえば、自分は一発でノックアウトするだろう。


だが、目で追える程度ならば、大きな問題はない。

あの巨大猿の恐怖に比べれば、この小さな人間の一挙一動のなんと可愛らしいことか。


見えている刃の軌道から僅かに側方へ避けると、その肩をとんっと押しながら、

『ラッキーキャプチャー』を発動させた。


得体の知れない悪寒を感じて一瞬相手が硬直している隙に、

後頭部へ向かって、慣れない鉄剣をフルスイングした。


ゴン


「っつぅ、この、まぐれで避けたと思ったら、厚かましくも僕に攻撃してくるなんて!

許さん、次はないぞ!!」


元々剣の心得があったのだろう。

口ではそう言いながらも、小さくスキのない構えに移行すると、フットワークを交えながら接近し、目にも止まらぬ速さで連続の突きを放ってきた。


だが、圧倒的な運の差を覆せるのは、技ではなく、圧倒的な能力の差のみである。

小手先の技は、すべて予測によって日の元にさらされる。


今や自分の予測と回避性能に大きな自信を得た次郎は、最小限の動きでそれらを躱していく。


「な・・なんでなんだ!!なんでおまえみたいなのが!!」


「ほほ。社会人としての、年季が。違うんですよ!!」


「うあぁぁぁーーー!」


そんなの関係あるかー!と、思わず抱いたツッコミとともに。

思わず力の籠もった大上段を放った大空寺は、決定的なスキをさらしてしまう。

次郎はそれを淡々と避けながら前進し、相手の額に向かうよう、強く、鉄の剣の軌道を合わせた。


ゴンッ!


「か・・は・・・・」

ドサ


クリティカルの乗った一撃は、大空寺の意識を昏倒させるに至った。


「それまで!・・勝者、田村次郎!」


その瞬間、会場中が湧いた。

「すげぇ回避だったな」「あの大空寺をたった2発で」「運の力って実は凄いんだな」「アナ様・・」「見直したぞ、『おめでたオジサン』!」「ヒューヒュー」


他の加護者たちに囲まれながら、次郎は、なんとか自分の中の殻を破ったことに、安堵する。


見守ってくれていた太一とアナスタシアと目が合うと、笑顔で大きなVサインを送った。


こうして聖女パーティに、運に特化した、新たな仲間が加わったのであった。

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[気になる点] 「店長、やりましたね。今後あなたのパーティでの役割は、支援、緊急時の回避、そして先読みを活かした思いますが・・それでも、店長自身だって、ちゃんと敵と戦える。それがたった今、証明されまし…
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