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第20話 進化


時速300kmで風を切る。

以前ならばフィルタがかって見えたであろう景色は、今は一枚一枚の静止画のように鮮やかに目に映る。


俺たちはこれから、次なるC級ダンジョンの攻略へと向かう。

場所は隣の兵庫県である。この県には4つのC級ダンジョンが確認されている。赤穂、姫路、神戸、豊岡だ。


最も近隣の赤穂ダンジョンは基地の兵士の演習地となっているのでとばして、姫路ダンジョンを攻略することとした。

アナスタシアのテレポートで中間地点辺りまで飛び、そこからのバイク移動中に回復してもらうというスタイルをとる。


4つのC級を踏破した暁には、いよいよ大阪のB級に挑もうかと考えている。


攻略の最大の理由は勿論、アナスタシアの強化だ。

前回の攻略で、アナスタシアのレベルは10上がって60となった。俺は1つも上がらなかった。オーガどれだけ強かったんだよ。


次の理由は…。


「る…るぱ」

バックパックに収まって彼女に背負われている、この神獣ルーパーの強化だ。

顔と尻尾の先だけ外に出ているが、寒そうだ。

ファイア大好きフレアサラマンダーは、寒さには弱いらしい。

モンスター同様にルーパーにもレベルはないが、「幼体」とあったことから、恐らくは魔素を取り込む事で進化できるのではと考えている。

アナスタシアのスキル『経験値等分配』を最大限利用し、この貧弱な形態を一刻も早く脱出させなければならない。

「ごめんね、ルーパーちゃん。もうちょっとで着くから頑張ってね。よしよし」

ペットとしては大活躍中のようで、何よりだ。


寒そうなルーパーをみると車を使ってみてもよかったのだが、ちょこちょこ道路が割れてるからな、こっちのほうが確実だ。


30分ほど走ると、目的の姫路へと到着した。

駅から城へと続く大通りの中心をぶった切るように、ダンジョンが出現している。景観が台無しだ。


前回は、交互に戦ったことや、トリッキーなボスが出現したことでやや時間を食ってしまった。今回は、ルーパーを守りながら戦う必要があることくらいか。

「よし、行こう。ナーシャは、支援攻撃とルーパーのお守りを頼むな」

「ええ、任せて」

ルーパーに『バリアー』を付与してから、ダンジョンへと足を踏み入れた。


流石にレベル110とレベル60がタッグを組んでC級ダンジョンの低層に現れれば、辺りは阿鼻叫喚だ。

殆どの敵は、自在にリーチを変えられる打突と魔弾掃射により一撃で原型をなくし、脇から湧いた敵はナーシャの初級魔法で刈りとった。

モンスター達は悉く、出会い頭に千切れ飛ぶという末路を辿っている。

出来るだけ多くのモンスターを倒しながら、短時間での攻略を目指す。


第1〜3階層では特に立ち止まることもなく、第4階層までやって来た。

ここで、体力Bであるオークが出現した。

「耐久の高い相手に、試してみたい戦い方があります。少し魔力を消耗しますが、宜しいですか?」

ナーシャの提案を了承すると、ルーパー入りのバックパックを預かった。

「るぱ」

尻尾の先がふりふり揺れている。

心なしか嬉しそうだ。


ここでも中ボス的扱いなのか、広い部屋にオークは一体で佇んでいる。

彼女が単独で部屋に足を踏み入れると、すぐに気付いたようだ。

石斧を振りかざし、ブフブフ涎を垂らしながら、即座に全力で走り寄ってきた。醜悪の一言に尽きる。


今回もカウンター狙いなのかな?

あれは心臓に悪いんだけど…。


ナーシャはこう考えている。

いずれ高難度ダンジョンに挑むようになれば、傷ついた仲間を癒すヒーラーに専念する時が来る。その時絶対に自分が先に倒れないよう、緊急回避の練度は今のうちから上げておきたい。そして、攻撃手段を磨けるのも、きっと今のうちだろう…。


3メートル近いオークが目前まで迫り、焦点の合わない瞳が、下卑た表情の中でこちらの全身を舐め回すように凝視してくる。怖いし、激しい嫌悪感がする。


手に持った杖をぎゅっと握りしめると、敵の挙動から目を逸らさず、静かに2発分の魔力を込めた。


『BUFFFOO!!』


…ッ!!

横薙ぎに振るわれた一撃を、身をかがめて躱す。髪の毛が数本宙を舞う。

前進する。

懐に入られないよう、獲物を逃がさないよう、丸太のようなオークの手がこちらに向かって伸ばされる。

即座に杖を持たない方の手で『サンダー』を放ち、指向性の鈍った腕の先から横飛びで退避する。


更に前進すると、完全にオークの懐へと入り込んだ。

中身の沢山詰まっていそうな下腹へと杖を押し当てると、

『エクスアクア』!

得意の超級水魔法を、ゼロ距離で放った。


『BUGGAAA!?』

激しい水しぶきと共にオークの巨体が軽々と吹き飛ばされるのを殆ど目視する間もなく、即座に彼女は次の行動へ移った。


『エクス…』

杖に宿った残り1発分の魔力を、敵を討つための魔砲へと練り直しながら。

コンマ数秒後にターゲットが運ばれてくるであろう対角線上へと正確に『テレポート』し、2撃目を打ち放った。


『アクア』!!

オークは、全く等しい2つの超水圧に、ほぼ軸のブレのない対象方向から、激しく挟撃を受けた。


『OBU!!』

水砲同士が出会ったその瞬間より、巨体はみるみるうちに縮まり、その中身はたまらず外へ外へとプレッシャーをかけてくる。


『BU』

自慢の体力はコンマ1秒でそれに抗うことを諦めた。

ブチッとささやかな断末魔を鳴らすと、隙間を縫うように、破裂した赤い残滓のシャワーを降らせた。


彼女はスタッと地面に着地すると、太一へと手を振ってきた。

「太一さん!見てくれていましたか!?成功しましたよー!」

「あ、あぁ、見てたよ。今回もハラハラしたけど。最後のは凄い威力だったな。まさか頑丈なオークがミンチになるなんて。テレポート使いにしかできない必殺技だな」

「はい、テレポートやエクスアクアの発動練度が上がってきていたので、出来るのではと踏んでいました」

「たいしたセンスだよ。名付けるなら…『鏡蒼刹』ってところか」

「さすが太一さん、濃厚に厨二感漂うネーミングですね。これは必ずしも接敵する必要がないので、今後はあらゆるタイミングで『鏡蒼刹』を合わせられるよう練習しますね。そうすれば私だって…太一さん?」


女性は強し、だ。

しかし、年下に厨二扱いされたのが、地味にショックだった。


--------------------------------------------------


カツーン、カツーン、カツーン

俺たちはひと休憩だけ入れると、第5階層へと降り立った。

座して待つのは、おなじみの重厚な鉄扉だ。


ルーパーを背負う役目は、また彼女へとバトンタッチした。

どうも休憩中に寝てしまったようで、バックパックの中でスピスピ言っている。

一応、確実に経験値を入れるために起きていたほうがいいだろうと、角に生えてるもふもふしたピンクの毛のようなものをモシャモシャしてみると、ビクッと目を覚ました。

まんまる瞳でこちらをじとーっと見つめてくる。

『そこは…だめ』

と怒っている気がしたので、謝っておいた。

そこってなんなんだ。ただの毛じゃないのか?

微妙な疑問が残ってしまった。


ナーシャと合図をして鉄扉を蹴破ると、大広間へと侵入する。

中央には堂々と、いかにもボスっぽい奴が佇んでいる。


『ステータス閲覧』

================

ゴーレム

種族:モンスター(疑似生命体)

性能:体力A, 筋力A, 魔力C, 敏捷F, 運G

装備:なし

スキル:ロケットパンチ, ハイアースウォール, 物耐-中, 魔耐-小

================


今までの敵の中では一番巨大だな。体長10メートルはあるだろうか。

そこらで拾った金属を積み重ねて作ったような、アンバランスな鉄巨人だ。

幼体ルーパーを背負っているナーシャには後方で待機してもらい、ひとりで近づいていく。


ヴォン

50メートル程の距離まで近づいたところで、目の窪み部分に魔導を感じさせる人工的な光が灯った。

ギギギギ

っと顔の部分だけがこちらへと向く。

省エネモードだったのが、完全に起動したようだ。

プシューッと体中から蒸気を拡散させると、軋むような異音を立てながら、その巨体は完全にこちらへと向き直った。

『@#$%^&*』

完全にやる気のようだ。


はは。

いいね、そうそう、こういう奴を待ってたんだよ。


ナーシャに『念話』で合図を送ると、後方から『身体強化支援』がかかる。

更に自身の『身体強化』をかけてブーストする。


…ふぅーっと肺の中に溜まった空気を外へと追い出す。


身体の奥深くへと意識を潜らせる感覚で、『念動力』を発動する。

オーガ戦の時みたいに、筋繊維一本一本に魔力を通した刹那の支配力は出ないが…。

脳が神経経路を介さず、全身の運動器を直接魔力で扱うことを可能とした。

ギチギチと。

爪の先に到るまでの全てが、本能が訴えかける衝動を実行すべく脈動を始める。


…こういうのが相手なら、やることはひとつ、シンプルだ。


太極棍を強く握るだけで、溢れんばかりの闘気が注がれる。

思わず口元に笑みがこぼれる。


…準備は整った。が、ここまでで2秒はかかった。もっと早くやれなきゃ…


な、と!!!


『火事場の真剛力』の発動と同時に

荒れ狂う自身の身体能力を90%以上扱いこなす支配力をもって。

地空を蹴った勢いそのままに、払い上げる一撃でゴーレムの右腕をへし折った。


反応がないので、くるっと振りかぶり、右脚を薙ぎ払う。

手足ともに、鉄の皮が一枚つながった状態だ。


まだ反応がないので、敵の身体が傾きかける前に、トドメを刺すことにした。


『竜の爪』。

闘気による推進力と衝撃破が加わった必殺級の一撃を、合計3発。

横薙ぎ、袈裟打ち、兜割りに放つ。

空中で寸断された鉄塊は、さらに木っ端微塵に砕け散った。


ガラガラと地面に降り注ぐ金属片の中で太一はふわっと着地すると、全ての強化を解いた。


「ふぅ」

勝負は、始まる前に、一瞬で終わった。


-------------------------------------------------------


「全力の太一さんを初めて見ましたが、もう何と言ったらいいか…」


戦闘が終わったとの合図を受けたナーシャは、太一の元へと近づいていった。

太一はひと仕事終えたとばかりに、ふぅ、と額の汗をぬぐっている。

横には、大量の金属の瓦礫の山が、最初からその状態であったかのように積まれている。


一瞬また、「自分は必要ないんじゃないか」というような言葉が喉元から出かかるが、

既の所で、これが自分が足を踏み入れようとしている領域なのだと、自分を戒めた。


「本当に強かったです!お疲れ様でした。私もだいぶレベルが上がってきましたし、太一さんに負けないくらい、もっともっと強くなりますね」

なんとか、適切な言葉をひねり出したのだった。


「るぱるぱ♪」

そんなナーシャの内心をよそに、戦いを眺めていたルーパーは興奮したのか、少し遅れてその独特の鳴き声をあげ始めた。


「ん?なんか、ルーパー、身体が虹色に光ってないか?」

「え?あ、ほんとですね」

ナーシャがバックパックを降ろすと、ルーパーはのそのそと地面に這い出てきた。

全身が虹色にキラキラと輝いている。

ゴーレムの魔素を受けて、ついに進化が始まったようだ。


その輝きは次第に強さを増していき…


カッ


眩いばかりの光につつまれた。

ゴクリ、と固唾を呑んで見守る二人の前で、次第に光が収まっていくと。


そこには。

翼と双角がちょっと立派になったルーパーが、堂々と佇んでいた。


「るぱ!」


「おおぃ!」「…あら♪」

思わずズッコケそうになったじゃないか。

あ、ちょっとだけ四肢も立派になって、二足歩行っぽい仕草も見せるようになったな。


『ステータス閲覧』と。

====================

ルーパー 亜成体

種族:神獣(フレアサラマンダー)

性能:体力C, 筋力C, 魔力C, 敏捷C, 運C

装備:なし

スキル:火の御使い(火吸収, 火放出)

====================


使えそうなスキルが一つ増えていた。


申し訳有りません、更新途中で投稿してしまったようです!


ちなみにモンスターであれば、ダンジョン内でもアースウォールが使えます。使う機会はありませんでしたが(汗)


それと、誤字脱字報告して下さっている皆様、本当にお世話になっています!ありがとうございます。なるべくないように気をつけます。

今後とも宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ナーシャがロシア人に見えない・・・。
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