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第120話 神域


 【ゲート】の向こう側は、天の川のような回廊だった。一面、見渡す限りの星の海。

 それはワープ空間にもかかわらず、果てが見えない程に長く続いていた。

 途中から状態異常無効のスキルが発動した。宇宙空間となったようだ。


『大丈夫か?ルーパー』

「るぱ」


 太一達は一本道をひたすらに進んだ。

 入り口はとっくに見えなくなっていた。

 どれくらい進んだのかも分からない。


『ほらルーパー、食事の時間だ。前みたいにならないよう、ゆっくりよく噛んで食べるんだぞ』

「るぱ、るぱ」


 太一は黒い太陽を顕現させると、そっとルーパーの口の中に放り込んだ。


「る、るぱぁぁ!!」

『そうかそうか、そんなに美味しかったか』

 涙目になりながら、ルーパーはもぐもぐと咀嚼した。さすがに刺激が強かったらしい。

 しばらくすると、ルーパーの気配が変わった。

 

「…ふぅ、ごちそうさま、ご主人」

『ん?お前、喋れるようになったのか?』

「うん、ご主人の新しい炎がすごくって、なんだか頭まで冴えわたってきちゃった」

『はは、そりゃいいな。この先長くなりそうだから、話し相手がいてくれて助かるよ』

 確かに自慢のタテガミがふさふさになっている。

 それだけでなく、見渡すと翼が燃えたり牙が伸びたりと、随分様変わりしていた。

「また炎食べさせてね」

『あぁ、魔力が余ってたらな。その状態はどれくらい保つんだ?』

「うーん……1年くらい?火吐いたり燃えたりしたら……1カ月くらいかな」

 結構燃費が良かった。

 これからは出来るだけ常にこの状態で居てもらおうと太一は思った。


『なぁルーパーお前、怖くないか?』

「なにが?」

『今から行く所には、強い強いお化けがいるんだ。俺達はこれからそいつと戦わなくちゃならない』

「知ってるよ」

『ひょっとしたら、痛い痛い思いをするかも』

「うん。でもボクご主人と一緒なら、なんでもいいよ」

『……そっか。オヤツ食べるか?』

「じゃがりこちょーだい」

『商品名まで覚えてたのか……」


 ――そうして二人は星の海を飛び続けた。


『見えてきたみたいだ』

「でぐち?」

『多分な。出口であれば、通ったらすぐに破壊するからな』

「はーい」


 ――そして彼らは【ゲート】を潜り抜けた。


 そこは、宇宙空間だった。

 だがそこは、太一の知っている宇宙ではなかった。


 まず目に入ったのは、虹色に強く光を放つ、太陽より遥かに大きな恒星。

 それが余りにも明るいので、宇宙である筈なのに、暗くない。むしろ辺り一帯が白みがかって見える。

 そして色彩豊かな惑星の数々がその周りを取り囲み、道路網のように天の川がそれらを繋いでいる。

 千里眼で覗くと、その地表には明らかに文明を感じさせる構造物の数々が見えるが、生物の気配は一切感じられなかった。

  

「キレ—な場所だね、ご主人」


 そこで太一は、ここがルシファーが『神域』と呼んだ場所で間違いないと判断した。


『……もう迷わないと決めたんだったな』


 太一は、【ゲート】の出口を、消滅魔法で完全に破壊した。

 しばらく待っていたが、加護が失われることはないようだった。

 それが、アナスタシアとの繋がりが生きている何よりの証拠だった。



 ――ドクン



 ――ドクン



 ――ドクン




 ――今の衝撃で、呼び覚ましたのかもしれない。

 地球で戦った時とは比べ物にならない程に――強大な——力の気配。


『構えろ。来るぞ、ルーパー』

「うん」


 そして【ゲート】が有った場所で、膨大なエネルギーが炸裂した。


『近ッーーーー』


 ジュッーー。

 


ーーーーーーーーーー


『っは!開戦早々さっそく死んでしまった』

 ゲートが有った時空の割れ目に潜んでいたとは迂闊だった。

 そういう狡猾な頭も働く相手であるということは、知れておいて良かった。


「だいじょぶ?、ご主人」

『大丈夫だ。お前は無事だったのか』

「うん、ボク熱を生む攻撃全般、吸収できるから。今のでまた強くなれたよ」

『……良かった。お前は死んだら二度と生き返れないからな……。『時渡法トキワタリ』で、お前が『死に確』した時点で自動的に俺の中に格納するように設定しておいたぞ』

「わかった」


 そして、天使は降臨した。

 どこかアインの面影を残した、プラチナブロンドの長い髪をなびかせた美しい天使だった。

 大きさは、地球を襲った頃よりも随分と縮んでいた。

 だが見た目とは裏腹に、圧縮された圧倒的な力が、濃密な死の気配を振りまいていた。


e()


 【アイン】の指先が向けられたかと思うと、次の瞬間には消滅の光が太一の頬を掠めて消えて行った。

 火燃焼によるブースト回避を成功させたルーパーの背を蹴って、太一は鳴神で天使へと接近した。


『いきなりか。随分と嫌われたものだなッ!』


f()


 【アイン】の全身から炎が放たれ、太一は全身黒焦げになりながら、なんとか生きてその長く美しい髪の先に触れた。


『グラーキア』


 体力を奪って九死に一生を得た太一は、再びルーパーの背に乗って距離を取った。


『龍仙功』


 【アイン】から奪ったばかりの膨大なエネルギーが力として定着する前に、無理矢理に潜在能力として身体に馴染ませる。

 太一は迸る力のままに銀極穂を握り――。


i()


 突如として空間から現れた衛星ほどもある巨大な氷塊の小さな枝に、太一は串刺しにされた。


『ぐふっ』


 だが例え内臓が全部潰されようとも、今の太一の生命維持には何ら支障はない。

 槍で氷を切り払い、太一はまた【アイン】へと接近を仕掛ける。


「るぱおーー!」

 ルーパーがとっておきの黒炎ブレスを放ち、牽制してくれた。

 だが【アイン】は避けるまでもなく、簡易の防御壁でそれを易々と防いでみせた。  


ーーーーーーーーーー


『っは!』


 気が付けばまた太一は死んでいた。

 ルーパーは……太一の中に格納されていた。


『よかった』


 太一は鳴神を発動したまま、美しい小惑星の物陰へと避難した。

 千里眼で【アイン】を注視する。

 どうやら太一の姿を見失い、探しているようだった。

 鳴神は隠形の最上位版でもあるため、そう簡単に見つかることはなさそうだ。


『ふぅ――』


 太一は短く息を吐いた。

 想像していたより遥かに、力の差は歴然としていた。

 あれを滅することが出来るくらい強くなるには――どれくらいこの綱渡りな戦いを続けていけばいいんだろうか想像もできなかった。


 ゾクッ


 次の瞬間、猛烈な悪寒がした。

 輪廻転生のクールタイムまで、まだ20秒も残されている。

 

e()g()


 ドーーーーー。


 

 ブラックホールだった。

 全てを粉砕する、極重力の塊。

 それが静かに神域全体を飲み込んだ。

 

 危うく消滅しかけた太一だったが、『時渡法トキワタリ』で極限までタイミングを研ぎ澄まして発動した真金剛により、なんとか超範囲攻撃を退けた。


 避難していた美しい小惑星は、今のでバラバラに砕けてただの石礫――宇宙のゴミへと変わっていた。まったくもって出鱈目な威力の攻撃だった。


『出ろ、ルーパー』

 太一は宇宙ゴミに姿を隠しながら、永遠のように長く感じる輪廻転生のクールタイムを終えたことを確認し、ルーパーを召喚した。

「るぱ」

 がくっ。

 格納してしまうとバフが切れてしまうのは唯一の欠点だった……。

『食え、炎だ』

「るぱ。―んまんま」

『あの激ヤバ破壊天使にどうにか接近して力を奪うパターンを、これから何万通りも考えていく必要がある。いいか?』

「うん、なんだか詰め将棋みたいで楽しそうだね」

『そういやお前、意外と得意だったよな。まぁそんな感じだ』

「じゃあさじゃあさ……」

『ふむふむ』


 太一とルーパーは、互いに知恵を練りながら、時には突貫しながら――。

 綱渡りのエネルギー奪取作戦を仕掛け続けた。



 ――『神域』とは、その名の通り、『創造神』達が作った楽園だった。

 生命神イグニスが殺された後、【アイン】がそこを拠点としたことで、彼/彼女らはどこかへと霧散して消えた。

 とはいえ、さすがは創造神たちが造った領域だけあって、神域は少々の損壊であれば修復する作用を持っていたのだが――。


 楽園は、【アイン】と太一達の戦いによって、少しずつ崩壊を来し始めていた。


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