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第116話 目醒め

「ただいま、兄さん」


 そんな雪の声が聞こえた時、俺はいよいよ幻聴でも聞いたのかと思った。

 それくらい、俺たちは限界ぎりぎりだった。

 三人ともが超強化されたにも関らず、【主】に与えられたダメージは僅かで、それも瞬く間に元通りとなった。

 片や俺もクリスも何度も手足を吹き飛ばされ、ナーシャに再生してもらっては玉砕を繰り返した。頼みの綱だったオメガ……の姿のエウゴアも、攻撃力を超強化する第三スキルまでは地上では使えなかったようで、こちらも防戦一方だった。


「遅くなってごめん」

「雪?」

「うん。なんとか、ダンジョンは踏破したよ」

「そうか……見事に、やってくれたな」

「うん。なんとかね。――あれが【主】か……」

 雪は、ダンジョンに入る前とはまるで別人に見える。

 見た目は変わらないのに、一気に一回りも大人になったような気がする。

「ちなみに今【主】と戦ってるオメガは、中身は……エウゴアだ。すまない、いろいろあって共闘している。だが数分も保たないだろう」

「そう」

 雪にとってルシファーの次くらいに憎い相手のはずだが、彼女は動揺した様子すらなかった。

 くそ、いろいろと話しを聞きたいのだが、今は時間がない。

「なにせよ、よく帰ってきてくれーー」


 その時、俺は突然激しい頭痛に襲われた。


「ッ!」

 そして頭痛は収まらず、どんどん酷くなっていく。意思疎通を酷使したときの比ではない。


 本当に頭が割れそうだ。



「太一!」

 アナスタシアは様子がおかしくなりうずくまった太一に駆け寄った。

「大丈夫だよ。いよいよ目覚めるんだね。最初にこの計画を始めて以来、一切表舞台に姿を現さず眠り続けていた――『八百万神』が」

「が……ぁ……」

 太一は雪が何を言っているのか全く聞こえなかった。ただただ、何か頭の中に認識できないくらい膨大な情報のようなものが雪崩れ込んできていた。


「……雪?お前、なにか、あったのか」

 クリスがいつになく心配そうに尋ねた。

「……いや、大丈夫。全部終わったら話すよ、クリス。クリスもアナスタシアも、もう神威の維持が限界でしょ。後は私とシェルが引き継ぐから」

 シェルが頷く。彼の手に握られている短剣は、尋常ではない存在感を放っていた。

 太一は気を失って地面に倒れこみそうになり、アナスタシアはその体を支えた。

「太一……」

「もうすぐ覚醒が始まるわ。きっと兄さんにとって相当な負荷だと思うから、二人は兄さんを安全なところに連れてって。大丈夫、時間ぐらいは稼げると思うから」

 ーーそう言って、雪は姿を変えた。

 陣風と雷鳴が彼女を取り巻き、オッドアイの双眼が溢れんばかりに輝いた。

 二柱同時の神人化だった。


====================

渡瀬 (シュエ) レベル:255

性能:生命力イグニスⅠ, 理力フォースⅠ, 魔力SS, 時制力クロノスⅤ, 運A

[風雷の神人化]

性能:生命力イグニスⅦ, 理力フォースⅩ, 霊力スピリスⅢ, 時制力クロノスⅩⅤ, 運SSS

【エクストラスキルー戦技】鳴神:音だけを残して空を翔ける極高速移動術

=====================


 圧倒的な強さだった。

 元々はただの人間の子供であった雪に、運命の奔流がその身の上に折り重なり続けた結果、一時的ではあるが、彼女の力は亜神の域へ達しようとしていた。


a()a()……a()a()a()…………a()a()a()a()a()a()a()a()


 その時、雪に気が付いた【主】が吠えた。


o()o()o()o()o()o()o()!!」

「あーれぇーー」

 【主】は手に握りしめていたダルマ状態のエウゴアを勢いよく投げ捨てた。

 そして歓喜の叫びに震えた。一目見て雪が適合者と判ったのだ。


「アナスタシア!シェルも!」


 雪の一言で、アナスタシアは口の端を結び、皆を連れて即座に転移した。

 シェルは小高い丘の上で蓮華陣を発動し、四属性の強固な結界を築いた。

 

【主】は雪に向かって手を伸ばした――。


「誰が捕まるか」

 雪は地上最速となったスピードでそれを易々と躱した。

「『銀雷ギロチン』」

 すれ違いざまに研ぎ澄まされた雷の刃を振るい、腕に横一紋の切創が刻まれた。

「魔法じゃやっぱ切れないか。あんまり近寄りたくはないけど――!」

 風魔法剣と消滅を二重掛けした大鎌を担ぎ、また雪は一筋の雷のように飛んだ。


 ヂッッ


 その姿は目にも留まらない速さで、空気が灼けるような音だけを残した。


 ドンッ

 切断された【主】の前腕が地面に落下して跳ねた。

 砲身を焼き尽くして活動を停止している『主砲』を除くと、初めてこちらの攻撃が『主』の身体に欠損レベルのダメージを与えた瞬間だった。


a()a()a()a()a()a()a()…………!!!」


 傷の痛みか、雪に明確に拒絶された心の痛みか。

 【主】は空に向かって慟哭した。


「消滅で作られた傷はすぐ再生できないでしょ。――その首を切り落として、孤独から解放してあげる」


 すると、【主】の身体から噴水のように流れ出た大量の緑がかった血の池が、みるみるうちに液体から流動体へと変化を始めた。傷口の血を止めるように、その腕にすり寄っていく。

 まるで宿主の危機に自らスキルが反応したかのようだった。

 血の池からは無数の鞭のような触手が生まれていく。

 そして鞭は一斉に雪に襲い掛かった。


「ちっ、リシェルのスキルか」


 雪はなんなくそれを躱すが、当たればただでは済まないことは明白だった。

 うかつに【主】には近寄れなくなった。


 ――その時、シェルが剣を振りかぶった。

 その宝剣には、たった一つの超魔法が刻み込まれていた。

 それを放つのに必要な魔力は、ミカエルの全生命エネルギーを集約してようやく一発きりという。

 極大級を超え、それもまた神界の域に達する、究極級の魔法だった。


秘法宝雷剣ウルティマ・スパーク

 

 ォン


 指向性の超高エネルギーは空気を灼き電離現象を引き起こし、一塊のプラズマとなって【主】を襲った。

 それは一瞬だが彼女を気絶させるほどのすさまじい威力であり、伝った超高圧電流は血の池を瞬時に血の岩へと焼き固めた。


「ありがとな……エル」とシェルは呟いた。


 雪は、無防備となった【主】の首を、消滅をまとった大鎌で切断した。





ーーーーーーーーーー


『太一、太一』


 ここは――。

 時間の流れが遅い。

 ――精神世界か。


『太一、聞こえてるかい。久しぶりだね』


 とても懐かしい声だった。

 最後にその声を聞いたのは、もう遥か昔のように感じる。

 思えば、この声から全ては始まったのだ。


 ――そして今その声の主は、実体を伴って俺の目の前に現れていた。


「あなたが…………八百万神様、ですね」


『そう、ぼくが『八百万神』だ』

 ……龍神や魔神と対面する中で、八百万神はどんな姿なんだろうとずっと想像していたが……。

 なんというか、想像していたよりも。


「割と、普通の見た目なんですね」


 八百万の神なんていうからぐちゃぐちゃのおどろおどろしい感じかと思いきや、アプリから聞こえてきてたコミカルな口調そのままの、こじんまりとした人型の神様だった。


『まあぼくのベースは人間だからね。ただ、この星に神々が産まれるために星と融合してたから、この姿をとるのは随分と久方ぶりだ。あ、敬語は使わないで。君と僕の仲じゃないか』


「はぁ、なんだか凄いん……だな。ベースが人間とは?」


『絶滅した先代の人間、その魂1億人分から作られたのが僕さ。そして【主】はその最後の生き残りだ』


「先代?――【主】が元は……人間?」

 途方もない話になってきた。

 【主】が実は宇宙人じゃなくて、元はこの星のはるか古くからの先祖だと。

 そして……八百万神と【主】は知り合いなんだろうな。それもきっと――親しい間柄の。


『うん……君には伝えたいことが山ほどあるんだ。でもその前に、まずはお礼と讃辞の言葉を君に伝えたい。太一……よくここまでやって来てくれたね。君が頑張ったお陰で、ぼくは再びこうして顕現できた』


 八百万神様にも色々と事情があるようだな……。

 そして俺はどうやら、見事にその思惑通りに動いていたということになるのだろう。


「……まぁスムーズだったのは最初だけで、その後は翻弄されっぱなし、まわりに助けられっぱなしだったけどね」


『そんなものさ。人は一人では生きていけない。そして君は今回の冒険を通じて、そのことが誰よりもよく分かっている。それが――これから君に課せられる使命にとって、何よりも大事なことなんだ』


「使命……か。俺は、これから何をすればいいんだ」


『もちろん一番大切なことは【主】と戦って地球を救うことだ。だからそのための力が必要だ。まずは君に、ぼくの本当の加護を授ける』


 ととと


 小走りに走ってきた八百万神がすっと俺の胸に手を当てた。

 触れられた掌は滾る程に熱く、大きな大きな脈動が俺の全身へと伝わってきた。

 そして改変が始まった。


「これは……俺のスキルが……」


『ぼくが君のステータスを【主】なみに爆アゲ!してあげることは残念ながらできないんだけど、その代わりに、君が使いこなしてきたスキルたち全部を最高レベルに昇華してあげる』


【全スキルが改変されました】

====================

戦技『龍仙功』 龍の爪・龍の翼が統合。全潜在能力を引き出し、武具を強化する。生命力を消費。

戦技『銀極閃』 銀閃が進化。相手の防御性能を無視し、あらゆる魔法防御をも打ち破る。被損:中。

戦技『真剛力』 火事場の真剛力が進化。常に筋力2倍。1秒間だけ筋力5倍、クールタイム1秒。

戦技『鳴神』 韋駄天・隠形が統合。音だけを残して空を翔ける極高速移動術。生命力を微消費。

戦技『真金剛』 金剛が進化。常に体力2倍。1秒間だけ無敵・敏捷半減・クールタイム5秒。

戦技『並列思考』 超集中が進化。演算処理高速化、並列処理可。生命力を微消費。

戦技『重覇』 威圧が進化。威圧感+超重力を与え続ける。無重力でも使用可。生命力を微消費。

魔法『初級~極大級魔法(火風土氷雷回治)』

魔法『天★照(アマテラス)』 イン★フェルノが進化。火属性究極級魔法。疑似太陽を創生・破壊。

魔法『月☆詠(ツクヨミ)』 ペネト☆レイが進化。無属性究極級魔法。月をも穿つ消滅の光。

魔法『時渡法トキワタリ』 時奪陣が進化。時の加減速を操作、危機察知、運上昇、ペナルティ無。

魔法『グラーキア』 ドレインタッチが進化。相手の体力・魔力を吸い取り、己の力に還元する。

魔法『界絶』 バリアーが進化。無属性究極級防御魔法。貫通攻撃・神威・消滅に耐性をもつ。

魔法『念法力』 念動力が進化。強力無比のサイコキネシス、自己操作、千里眼、運上昇。

魔法『超身体強化』 身体強化が進化。体力・筋力・敏捷2倍。

魔法『求導者』 超魔導が進化。魔力消費を3倍にすることで2倍の威力の魔法を放つ。

魔法『錬成』 簡易錬成が進化。素材と魔力からアイテム、魔導機械、魔導武具を生み出す。

技能『解析』 ステータス閲覧+鑑定。

技能『ディメンションボックス』 アイテムボックス・修理くん・製造くんシリーズが統合。収納物が自動で補修される。美味しい飲食物とユニットバス付き快適空間結を生成。

技能『ソリド・テイム』 テイムが進化。魔力を消費するテイム。魔物の保有制限がない。

技能『神性魔導回路』 消費魔力半減が進化。魔力消費量が5分の1になる。

技能『輪廻転生』 起死回生が進化。死亡時半快蘇生。クールタイム1分。

技能『自己再生』 超回復が進化。体力消耗・被損が直ちに回復される。

技能『状態異常無効』状態異常耐性が進化。状態異常にならない。宇宙空間に適応可。

技能『思念伝来』 念話・意思疎通が統合。???。他己の無意識領域における存在強化。

====================


 これは……すごい。

 今の俺でもすぐには使いこなせないくらい、超豪華スキルのオンパレードだ。

 強いし、速いし、それに相当しぶとい。

 これなら――ステータスが遥か格上の相手にでも勝てるだろう。


『そしてもう一つ君に、とっておきのプレゼントがあるんだ。……おいで』


 八百万神様が指をパチンと鳴らした。

 すると、どこからか、大きな白い龍が現れた。


「あ……」


 見たことのない荘厳たる姿のその龍は、しかしどこか見覚えがあった。

 それはきっと、綺麗な桃色をしたタテガミをしているからだ。

 解析するまでもなかった。


「ルーパー!」

「ルパァァ!」

 俺はルーパーに思い切り抱き着いた。

 あぁハスハス。ハスハス。

 すごく懐かしく感じる。もう死んでしまったかと思っていた……。


『【主】の放った火の超高エネルギーに身体が耐えきれず魔素レベルまで分解されていたけど、それでもこの子はちゃんと生きてたんだ。ほんとは長い長い歳月をかけて生まれ直したんだろうけど、拾い集めて再生させることができた。これから先の君の戦いを助けるのに相応しい神獣になっただろう』


====================

ルーパー 幻獣体

種族:神獣フレアサラマンダー

性能:生命力イグニスⅤ, 理力フォースⅤ, 霊力スピリスⅤ, 時制力クロノスⅤ, 神通力フェイス

スキル:火の御使い(火吸収, 火放出, 火燃焼, 火成長)

====================


「立派になったなぁ、ルーパー」

「るぱ」

「色々とありがとう、八百万神様。――しかし、雪がこのまま【主】を倒しちゃうんじゃないか」

『さっそく千里眼で覗いたんだね。でも無理さ。雪ちゃんに【主】は倒せない。億を超える魂をその身に取り込んだ彼女は、殆ど不死身で、不滅だ。助けに行ってあげて』

 彼女――、不死身――か。

 最初に【主】が地上に現れた時に見えた映像と、目の前の神から伝わる感情が、繋がった。

 そうか。

 この神が、俺にさせたいことが、なんとなくわかったような気がする。


「わかった、すぐに行く」

『――君は聡い子だね。後で全部話すから。まずはようやく得たその力を、思い切りぶつけておいで』


「了解。じゃぁ、行ってくるよ」


『うん。――――を宜しくね、太一』




ーーーーーーーーーー



「――私じゃ、あんたは殺せないのね」


 雪に首を切り落とされた【主】は、しかし頚のない状態でそれまでと同様に動いた。

 雪は、その手に捕らえられてしまった。


a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()!!!」

「兄さん――」


 ベキベキベキボキボキボキ


「雪、くん――――」

 シェルは表情を失った。


 【主】指の隙間から、とめどなく赤い血が流れ落ちていく。

 雪の髪は黒色に戻り、頚を垂れてピクリとも動かなくなった。


 そしていつの間にか、当り前のように主の首から上は再生されていた。


「雪くん!雪くん!くそッ」

 シェルは宝雷剣を振るったが、魔力が空になった剣はそれに応えてはくれなかった。


 【主】は握りしめていた手をゆっくり開いた。

 血まみれのぼろ雑巾のようになった雪が、その掌の上に横たわっていた。

 

 【主】は、大きく口を開いた――。



 

現在のステータス New!

====================

渡瀬太一 レベル:399

加護:魔神, 龍神, 八百万神

性能:生命力イグニスⅥ, 理力フォースⅥ, 霊力スピリスⅦ, 時制力クロノスⅥ, 神通力フェイス

装備:銀極穂, 五行錫杖, フォースリンガー, 宝套一式

【スキル】

戦技:龍仙功, 銀極閃, 真剛力, 鳴神, 真金剛, 並列思考, 重覇

魔法:初級~極大級(火風土氷雷回治),

天★照(アマテラス), 月☆詠(ツクヨミ), 時渡法トキワタリ, グラーキア, 界絶, 念法力, 超身体強化, 求導者, 錬成

技能:解析, ディメンションボックス, ソリド・テイム, 神性魔導回路, 輪廻転生, 再生, 状態異常無効, 思念伝来

神威:龍神Lv.4, 魔人Lv.4, 八百万神Lv.4

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