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第113話 限界を超えて

 グシャっと、鈍い音がした。

 オメガ……エウゴアが乗っ取った巨人の腕がへしゃげる音だ。


a()a()a()a()a()a()a()!!」

「グワァァァ!」


 次いで、足の骨が砕ける音がした。


 主はどうやら、オメガに対して烈火のごとく怒っているようだった。

 ひたすらエウゴアを打ち据えている。

 それもそのはず。言葉を失っているとはいえ、右腕ともいえる腹心が自分を襲ってきたのだ。


「ぶふ!」

 回し蹴りで顎を吹き飛ばされたエウゴアは、失神して膝をついた。

 その頭上で、頚椎から一直線に串刺しにせんと神槍が振りかぶられる。

「やらせるか!」

 振り挙げられた両腕めがけてペネト☆レイを放ち、一瞬得られたディレイの間に俺とリーリャがそれぞれ龍の爪、パイルバンカーを食らわせた。

a()?」

 意識を逸らしなんとか阻止できたエウゴアの串刺しにかわり、羽虫を振り払うように俺達に槍が振るわれる。

 

 ガキィッ


 間髪入れずあらかじめタンク要員として控えていた、ナーシャの極大防御魔法を纏ったクリスが割って入り、防御の奥義でもって槍の軌道を逸らした。

 クリスの柔剛一体はあらゆる攻撃を弾くまさに鉄壁だが、それでも圧倒的ステータスの差に耐えきれず彼の鎧の腕部分がちぎれ飛んだ。

 更に振り払われる大上段からの槍の振り下ろし。

 ギロチンのようだった。

「金剛!」

 俺と、更にクリスの金剛でなんとか第二撃、第三撃も防ぐ。

 片手で軽々と槍を振いながら【主】は片手を天に掲げた。

 空に浮かぶのは黒塊、巨大な超重力の塊。完成してしまえば辺り一帯すべてが塵一つ残らず分解されてしまうだろう。

『させるか!』

 九尾の大狐と化した玉藻が口から渾身の重力砲を放ち、何とかこれを相殺した。

 

「ハッハァ!」

 そこでようやく意識を取り戻したエウゴアが石柱で【主】に殴りかかる。

 エウゴアの敏捷では攻撃はほぼ当てられないが、当たればダメージは避けられないため、【主】も無下にはできないようだ。


「クリス」

 すぐクリスの治療にかかるナーシャ。


 戦闘が始まってもう数時間は経ったのではないかと感じる。

 実際にはまだ1分も経っていない。長い。永い。

 俺達に出来るのはエウゴアをサポートすることだけだ。

 一撃一撃がまともに受ければ即死の攻撃を、少しでもタイミングが狂えばそのまま即死に至る防御で命を繋いでいる。

 なんとか成功しているのは、初端から降神祭を敷き、攻撃のタイミングを予測し念話リンクで粒さに指示を飛ばしている店長の運補助のおかげだ。俺は未来視でなんとかなるが、他の皆はこれがなければもうとっくに死んでいるだろう。

 エウゴアは筋力こそある程度拮抗していても、敏捷がまるで追いついていない。強化されてもその差は歴然としていた。超回復した損傷がまた元通りになろうとしていた。

 俺達も当然同じ。


 次の瞬間には全滅する未来がこの眼に映りそうだ。このままじゃだめだ。

 もはや背水の陣だ。

 ……覚悟を決めるしかない。

 俺はナーシャとクリスの元に駆け寄ると――。


「ナーシャ、クリス、治療中悪いが頭の中邪魔するぞ!」

「え」

 二人の額に手を当て、スキルを発動した。


 『意思疎通』


 同時に、俺は俺の中の龍神と魔神に接続を試みる。

 今いるメンバーの中で、第四神威発現の可能性に最も近いのは俺と龍神のはずだ。

 静止した内世界に潜る。

 神社のような神殿のような、抽象的な心象背景の下、俺は二柱に謁見した。


ーーーーーーーーーー


 甲冑に身を包んだ美しい戦女神と、童の姿を模した黒装の少年。

 龍神と魔神。

 二柱を前に、俺は膝をついて首を垂れた。


「どうか力を貸してください。龍神様、俺と――人神合体を賜る、御許可を」

『――貴方に負担を強いたくはなかったけど……もうそれしかないでしょうね』

『ちょっとジェラだけど僕のほうにこなかったのは正解だね。僕と合体なんてしたら即★廃★人』

「どうか、お願いします」

『顔を上げてください、太一。貴方になら迷うことなく、私の力の全てを預けられましょう』

『僕まで呼んだ理由は?願掛け?』

「魔神様。以前やったみたいにナーシャの水神とクリスの守護神を無理矢理覚醒させて欲しい。俺の次に神人化に近いのはあいつらだ」

『君はまたエグいこと考えるね。他人の脳みそまで道連れにさせるっての』

「やらなければ全員すぐに死ぬ。強引だが『意思疎通』で二人のエス領域への門は開かせてもらった」

『君は無茶するねぇ……。信頼関係の深い二人だからこそ、か。まぁ――それならば可能だろう。もちろん君の寿命がまたぐーんと減るけど、別にかまわないよね?』

「いくらでもくれてやるから、頼む」

『ゾクゾク。いいねぇ、実に強い意思をもって刹那的だ。あぁ……与えられた役割はきっちりこなそうじゃないか、我が宿主よ』

『それでは……我らも参りましょう。敵は強大。故に振う槍の一振りにも魂を込めましょう。用意は良いですか、太一』


「いつでも」



ーーーーーーーーーー


 夢の世界から浮上した時、頭痛は消え去っていた。

 変わって全身を理力の奔流が駆け巡る。

 ――これが、第四神威――人身合体か。


 外観は……顔や身体のあちこちが鱗に覆われ、龍神様が着ていたものと同じ甲冑に身を包んでいた。

 槍の柄には銀系の織布がなびく。


 ナーシャとクリスは気を失って倒れていた。


(無理をさせてすまない……)


本来ならば禁忌の所業だが――二人なら克服してくれると信じる。


「太一、その姿――。成ったのか、雪が成功させた、第四に」

 リーリャが二人を介抱してくれていた。

「あぁ、これでもそう長くは保たないだろうが、二人も成れる可能性がある。頼む」

「それくらいなら任せてくれ。……私が神威に通じていなくてすまないな」

「お前は根っから軍人だからな。自分を信じる。それでいい」

 地を踏みしめる俺にリーリャが声をかけた。

「太一。その姿、クールだぜ」

 

 【主】との苛烈極まる戦いにより既に基地の構造物は跡形もなく消え去って辺りは更地だ。でっかいクレーターがいくつもある。

 だが、地下に生きる人たちはまだ無事なはずだ。

 両手足を捥がれて今まさにコアを潰されようとしているエウゴアの姿がある。

 

 【主】に向けて疾走する。


====================

渡瀬太一 レベル:399

加護:魔神, 龍神, 八百万神

性能:生命力イグニスⅣ, 理力フォースⅣ, 霊力スピリスⅤ, 時制力クロノスⅣ, 運S

[龍の神人化]

性能:生命力イグニスⅨ, 理力フォースⅩ, 霊力スピリスⅥ, 時制力クロノスⅪ, 運SS

【エクストラスキルー技能】龍血:魔法を斬る

====================


「疾ッ」

 すくい挙げるように銀極穂を振るった。

 フォン、と波が立つような音がして、巨大化させた俺の槍はエウゴアを掴む【主】の腕を両断した。

 腕に響く激痛。スキルのリバウンドは軽減されてない、か。

 龍の鎧のおかげか、このモードの時は飛行も自在だ。

 初めて目の前の天使は、俺のことを敵だと認識したらしい。


a()a()a()a()a()a()a()a()a()ーーーー」

「おや、なかなかハンサムになられましたね、太一ぃ」

「いいからさっさと傷を治せ」


 ぽいとダルマ状態の巨人を投げ捨て、天使は両手に神槍を持ち斬りかかって来た。


(見える)


 大幅なステータスの底上げのおかげで、未来視と超集中があれば、なんとか動きを把握することは可能だ。あとはこの身体がそれについて来られるかどうか。

 念動力を第二の神経のようにきめ細やかに全身に行き渡らせて、回避行動に専念させた。

 当たれば今でもほぼ即死の振り下ろしをぎりぎりで躱し、切り結ぶ。

 

(なんとかッ)

 

 柄をもつ手が無防備になったところを狙って、神槍を持つ手に『銀閃』で斬りかかった。


 ザクッ


 不意打ちの先の一撃は腕を切断できたのに今回は指すら切れていない。

 

 こいつの山ほどあるスキルの中に、当然のように防御の類のものもたんまりと――。


「が――っ」


 返す腕で神槍の柄を振り上げられたらしい。


(意識が……)


 意識が飛びそうだ……まずい。

 はるか上空まで打ち上げられたようだ。

 きりもみしながら、なんとか制空し下を見下ろすと――。


 空に色とりどりの大玉が浮かび上がっていた。

 8属性の極大魔法を同時撃ち……か。


 ドォッッッッッ!!!!!!!


 虹色をした圧倒的なエネルギーの奔流が視界いっぱいに広がっていく――。


「太一ッッッ」


 太一をかばうように、防御魔法が展開された。


(――碧い)


 当たれば魂ごと消滅させられそうな津波の如き魔力の波が押し寄せてくる――。

 壁が消滅しかかったとき、更に一人の人影が飛来した。


「おぉぉぉぉぉ!!!」

 漆黒の鎧を着た誰かが俺をかばうように手を突き出している。きっとクリスだ。

 この超魔法から俺をかばってくれているのだ。

 ようやく意識がクリアになった俺は彼の背を超えて飛び出した。


「消し飛べッ」

 渾身の突きを放った。

 それでようやく、虹色の魔法は空の彼方へと過ぎ去っていった。

 青い空が戻ってくる。

 【主】の恐らく気合いの入った一発を、なんとか耐えられたらしい。


「なんとか間に合ったようだな」

「太一、これ、やっぱり貴方のおかげ……なのよね?」


 おお、二人とも……。


====================

アナスタシア・ミーシナ レベル:260

加護:治癒神, 水神

性能:生命力イグニスⅠ, 理力フォースⅠ, 霊力スピリスⅢ, 時制力クロノスⅠ, 運D+

[水の神人化]

性能:生命力イグニスⅢ, 理力フォースⅢ, 霊力スピリスⅦ, 時制力クロノスⅡ, 運B

【エクストラスキルー魔法】蒼天:海と空を反転させる結界魔法

====================

====================

クリス・オーエンス レベル:215

加護:守護神

性能:生命力イグニスⅡ, 筋力SSS+, 魔力A, 敏捷A, 運C+

[守護の神人化]

性能:生命力イグニスⅨ, 理力フォースⅢ, 魔力S, 時制力クロノスⅠ, 運B

【エクストラスキルー戦技】イージス:万物を阻む盾を展開する。生命力を消費。

====================


 クリスはロボットみたいにフルアーマータイプの漆黒の鎧に身を包み、顔が全く見えない。二回りほども巨大化しており、物凄く頼もしい姿だ。

 ナーシャは、髪が青く長く伸び、碧色のドレスには胸元に水滴を形どったネックレス、肌には光る紋様、首回りには雲のような淡く薄い衣を纏っていた。……美しい。


「太一、無事!?その姿……かっこいいね」

 鼻血垂れた。

 ここが最終決戦の上空でなかったらこの姿でいられる時間をフルに使って11ラウンドくらい行きたいところだが、残念ながら1ラウンドすら使う余裕はない。


「強引に神をエスに引き入れるなどと無茶をする。おかげで助かるが……こんな不完全な神威は長くは保たんぞ」

「分かってる。だがこれが切れた瞬間が、本当のタイムオーバーだ」

「そう、じゃぁ――正念場ね」


 神人化した三人は眼下を睨んだ。

 天使は今のを防がれるとは思っていなかったのだろうか。


a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()a()――――――ッ!!!!!!!」


 また、声にならないような声で大きく吠えた。

 痛ぅ、鼓膜が破れそうだ。

 大きな血走った眼球から緑の血を吹き出しながら俺達を睨んでいる。

 ――まるで呪い殺してやらんとばかりに。


 その姿は恐ろしいの一言に尽きた。


(そんなに恐ろしく強いのに、どうしてそれ程までに何かを恨んでいられるんだ?)

 ――ふとそんな風に思った。


「ぼけっとするな、太一。来るぞ」

 フルアーマークリスに小突かれた。普通に痛いな畜生。

「がんばろう」

 女神ナーシャがそっと手を触れて治してくれた。いいぞクリスもっとやれ。

「――そうだな、頑張ろう」


 俺達は地上へと降り立った。

 さりげなく基地から少し離れた場所へと。

 エウゴアはまだ下半身が生えてきていないようで、新聞でも見るように横たわったまま手を振っている。いいからさっさと治せ。


「やるぞ!」

「おう!」「はい!」




ーーーーーーーーーー



「ミカエルは人間として死ぬことを選びましたか」


 ――そんな声がした。


 バシィッ


 間一髪、雪はシェルを抱きかかえてその場から飛び退いていた。

 バチバチと残る消滅の残渣――。


「る、ルシファー……」

 雪の声は震えていた。


「あれが……ルシファー」

 シェルは、自分が今しがた危うくこの世から消えかけていたのだとようやく認識した。


「久しぶりですね、雪。あの田舎町の小娘が、随分と立派に成長したものです」

 目の前の魔人は、涼し気な声でそう口にした。

 家族や村の皆を死ぬよりも酷い目に合わせ、自分の身体をこんな化物に変えた――張本人。


(よくもまぁ)


 雪は、思わず口元がにやけるのを感じた。


「――遭えて――会えて――逢えて――嬉しい。ルシファー」


 雪は大鎌を頭上に掲げた。


「お前を生きたまま切り刻んで皆の無念を晴らすためだけに、私はここまで生き永らえてきた」


 ドッと――雪の身体から発せられたエネルギーは膨大なものだった。

 台風のような暴風と、それを取り巻く雷鳴。

 雪の双眼は、緑と黄に輝くオッドアイとして煌々と輝いている。


「成程――。ミカエルは、そこまで貴女に惹かれて――こうなったのですか」

「エルの名を気安く発するな」

 雪の指先が風塵を伝う紫電の矢を放った。

 ミカエルの頬から一筋の血が静かに流れた。赤い血だった。


(――あえて、消滅を纏っていない)

 雪はそう思った。


「貴女の怒りはごもっとも。でもどうせ私は貴女を殺せないのですから、私を殺す前に――この施設が何を蓄えている施設であったか。それをその身で知っていただきたいのです、雪。――貴女だけには」

「何を――」


 突如として、雪の頭の中に稲妻を浴びたような衝撃が走った。


「ぐッ……お――まえ」

「ふふ、さすがは最も適正のある人類――更にミカエルの力を受け継いだだけある。これだけ膨大な情報を受けて発狂するどころか意識を飛ばさずにいられるとは。驚きです」

「雪くん大丈夫か。貴様!」


「シェル――大丈夫。……これは――そう――か」

 


「そうです。【主】――いえ母の――アイン・ツァラトゥストラの――――記憶です」



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