さよなら日常、こんにちは非日常
拝啓、父さん、母さん。月日が経つのは早いもので、お二人が不慮の事故でこの世を去ってから数ヶ月が経ってしまいました。借家だったあの家はあの後、1ヶ月も経たずに心無い家主さんに追い出されてしまいました。まぁ、当然といえば当然なのですが・・・保護者も居ない未成年の人間に世間はとても冷たかったです。
でも捨てる神ばかりではありませんでした。23軒目にして不動産屋さんがついに未成年でも貸してくれる物件を見つけてくれました。ちょっと問題ありのマンションのようなアパートでしたが、そこで私たちは新たな生活をスタートさせました。
少額ながらも掛けておいてくれたお二人の事故の保険金と加害者からの賠償金で暮らして行く生活にもだいぶ馴染んだ今日この頃、お二方の覚えめでたき品行方正の我が弟は......
「それ、ロン! ダブル役満ッ!!」
――たいへん立派に道を踏み外してしまいました。
「げッ?! 嘘だろ章生。俺ただでさえ負けてんのに。」
――あの艶やかな黒髪は今ではすっかり痛んでしまった金髪に......
「泣き言は受け付けないから、さっさと出すもん出せよ、彼方。」
――左右の耳には軟骨も含めると計6個のピアス。そのうえ章生は――...
「...あぁ、ハコテンだ。」
――彼方と呼ばれた若干涙目の少年と、
「ぎゃはははは...」
――下品に笑う少年。
「黙れ、健人。」
そして冷たいながらも知的な感じの腹黒少年らと共にいつのまにやら暴走族になっていました。しかも総長と言う立場だそうです。更に信じられないことにチームの強さは上位に入るそうです。何位かなんてそんな恐ろしいことは聞きません。ええ、聞きませんとも。
「...かなちゃん、かなちゃん。今日の昼メシなぁに?」
空気を読まない彼らの仲間のミチルが、勉強中のあたしの肩に顎を乗せる。重いし痛いし退けてほしいんだが、
「...そうだねぇ、今日は夕べのシチューが残ってるからラザニアかグラタンにするよ。」
「やった! 俺グラタンがいい! グラタンッ!!」
「あー、はいはい。グラタンね。」
そして父さん、母さん。あたしは何時の間にやら彼らの食事係さんにされてしまっていました。




