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転生!底辺ドワーフの下剋上~小さな英雄の建国記~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第89話 続・王子との面会

 オーウェン第三王子と食事は、何事も会話が交わされることなく、静かな時間が流れた。


 大鼠族のヨースは食べた心地がしていない様子だったが、コウはなぜか度胸が据わった気分になって、剣歯虎のベルと食事を楽しむ事が出来た。


 デザートも勧められるままに食べ終えて一段落すると、改めてオーウェン王子が口を開いた。


「コウ、私の部下にならないか?」


 オーウェン王子は何食わぬ顔でそう切り出した。


 食事の前はコウの身の上話を聞きたがっていたので、また、その話だと思っていたコウであったが、想像の斜め上の勧誘だったので、丁度口にしていた水を噴き出し、咳き込む。


「なんだ、意外だったのか? 私はお前が気に入った。身の上話を聞いたのも、その為だ」


 オーウェン王子はコウが驚いた様子に楽しそうに告げた。


「……その身の上話を僕は何も答えていませんが?」


 コウはナプキンで口を拭うと、慎重にそう答えた。


「なら、聞かせてくれ。どこの種族の血を引き、今どこに住み、何をやっているのか。その人生に満足しているのかを……、な」


 オーウェン王子はコウがどんな人間(厳密にはドワーフだが)なのか本当に知りたい様子をみせる。


「……お仕事の話はいいのですか?」


 コウは、まだ、それでも警戒して答えない。


 ドワーフだと知れれば、態度ががらりと変わる可能性は大いにあったし、そうなると仕事の話どころではなくなる。


 ましてや相手はこの国の王子だ。


 弱みを見せていいことなどありそうにない。


「はははっ! ──頑なだな。それだけ警戒しているということは、お主の血筋がどこの種族なのかは、大方見当がつく。それでは仕事の話からしようか。──展示した作品と同じものを私用に作ってもらいたい。材料もこちらが用意しよう。そして、できることなら作っている現場に立ち会いたい」


 オーウェン王子はコウの淡々とした態度にも怒ることなく、仕事の話に変更した。


 その内容は、予想通りだと思っていたのだが、最後に想像を超える提案がなされた。


「「え? 今、なんと?」」


 コウとヨースは聞き間違いかと思って、聞き返した。


「だから、作業現場に立ち会いたい。これでも、私はそういったことに興味があってな。これまでも、いろんな現場に足を運んで、製作現場を見学させてもらっている。時には自分で作ることもあるしな」


 オーウェン王子は、先程までとは打って変わってあっけらかんとした態度で、答える。


 どうやら、こちらが素なのかもしれない。


「お、王子殿下。依頼の品を製作するのは構いません。しかしながら、『コウテツ』ブランドの職人は王都から遠い場所に住んでおります。その者を王都に呼び寄せろと?」


 ヨースは無茶な要求されたことに、また、聞き返した。


「うん? 何を勘違いしておる。私は作業現場に立ち会わせよ、と言っているのだ。もちろん、私が其方らの住む土地に足を運ぶに決まっているであろう」


 オーウェン王子は、コウ達の勘違いを正してまた、とんでもないことを告げる。


「「ええ!?」」


 コウとヨースは想定外の申し出に驚くしかない。


 なにしろコウ達の住む土地はこのバルバロス王国でも辺境の地にある。


 王子は、場所を知らないとはいえ、そこまで付いて来ると言っているようなものだ。


「……王子殿下。僕達の住む土地はこの王都からはとても離れている辺境の地です。それこそ、往復で二、三週間もかかります。その間、王宮を留守にするわけにいかないでしょう?」


 コウは当然な反論をする。


 ヨースもコウの言葉に頷く。


「そのくらいなら問題ない。過去に私は半年ほど王宮を留守にしたこともあったからな。この護衛騎士カインとアベル、側近のセバスと四人旅はよくあることだ」


 オーウェン王子はとんでもないことを、さも当たり前のように答える。


「は、半年!? いやいや、おかしいだろ。王子が王宮を半年も留守にして問題にならないわけがない!」


 ヨースが敬語も忘れて思わずツッコミを入れた。


「はははっ! それは、普通の王子の場合だろう? 私は他の王子、王女と違うからな。王宮を留守にしても困る者はほとんどいないから、安心せよ」


 オーウェン王子はヨースのツッコミに対して怒る素振りをみせることなく、慣れた様子で応じた。


「……理由はお聞かせもらえますか? 僕達としては、王子殿下を自分達の住んでいるところまで伴うことなど恐れ多いことです。あとから、誘拐などと騒がれても困りますし……」


 コウはオーウェンの言葉から普通の王子でないのはなんとなくわかったが、しっかりとした理由を聞かなければ、同意はしかねるのであった。


「私は、めかけの子なのだ。それも、母はハーフエルフであったから、異種族の血が混ざる私は、王位継承権もあってないようなもの。ほら、よく見ると耳に少し特徴が無いか? わかりづらいだろうがな。──話を戻すと、王宮に居ようが居まいが、どちらでも許される立場なのだ。──これで納得したか?」


 オーウェン王子は、すらすらと自分の立場について話した。


 まるで説明し慣れているかのようだ。


 コウは確認が取れないので、ヨースにチラッと視線を送る。


 その視線を受け、ヨースは、


「……そう言えば、王家にはお荷物になっている王子がいると噂を聞いたことがあるな……」


 と口にした。


 これには護衛騎士のカインとアベルがピクリと反応し、側近のセバスも冷たい目でヨースを睨む。


 それをオーウェン王子が制して、


「はははっ! それが私だ。だが、それでも腐っても王子。金払いは良いぞ? どうだ、見学させてもらえるか?」


 オーウェン王子はヨースの失礼な言葉も一笑して認めると、コウに再度、確認する。


「王子殿下がそこまで、話してくれたのに僕達が答えないのは不誠実ですね。それでは僕のことについてお答えします。それを聞いたうえで僕達に同行するか判断してください」


 コウはそう言うと、自分が人とドワーフのハーフで成人男性であること、住んでいる場所はダーマス伯爵領の辺境、国境線にあるエルダーロックの村であること、『コウテツ』ブランドの職人はドワーフであることなどを答えた。


「……なるほどな。コウはドワーフの血が流れていてその容姿なのか。というか私と同じ歳とは思わなかったぞ! はははっ! 同じ雑種同士、仲良くしようではないか」


 オーウェン王子は、コウの身の上を聞いて、一気に親近感が湧いたのか、そう応じた。


 そして、コウに対して『雑種』と表現したのは、どうやら自分が普段からそのように陰口を叩かれていたからのようであり、聞き慣れてしまった為か、使用することに悪気はないようだ。


「──それで、エルダーロックの村というのは初めて聞くが……、──セバス、其方は知っているか?」


 オーウェン王子は続けて疑問を口にすると、側近に確認した。


「……私も初めて聞く村の名前です。もしかして、未登録の村でしょうか?」


 黒髪、黒い瞳、黒服姿の側近セバス(二十五歳)は、その頭脳内部にある膨大な知識量をもってしても知らない名前に首を傾げるとそう疑問を口にした。


「できて半年以上経っているんですけど……。ま、まあ、王都で知られてなくても仕方がないですね。……あははっ」


 コウは自分達の村が思った以上に全くの無名であることをこの時、ようやく自覚するのであった。

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