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転生!底辺ドワーフの下剋上~小さな英雄の建国記~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第76話 展覧会事務局の扱い

 コウ一行は王都へ早めに到着できることになった。


「これが王都かぁ……。何もかも大きいね……」


 コウは王都の玄関口である大きな城門の前で、剣歯虎のベルに跨ったまま呆気に取られる。


「城門で驚いていたら身が持たないぜ? 王都は国の中心だからな。当然、その規模はなんでも大きなものさ」


 馬車の御者を務める大鼠族のヨースが知ったような口ぶりでコウ達を諭す。


「私も初めてだけど、こんなに大きいのね」


 ダークエルフのララノアもコウと同じように驚く。


「でも、村の鉱山よりは全然小さいわ」


 村長の娘であるドワーフのカイナは、来る前に想像の比較対象にしていたと思われる鉱山を口にした。


「山のようにでかいとは言ったが、本当に山と比べるなって!」


 大鼠族のヨースがカイナの素直さに呆れてツッコミを入れる。


「そうなの? でも、お陰で想像より小さかったから、驚かずに済んだわ」


 カイナはそう言うとクスクスと笑う。


 そうこうしていると、馬車は城門を潜る。


 続いてコウもベルに跨ったまま通過しようとすると、門番に声をかけられた。


「少年、ちょっといいか? その跨っているのは剣歯虎か? 首輪を確認させてもらうぞ」


「あ、はい」


 コウは呼び止められるとは思わず、驚いて返事をした。


 実際、城門をいろんな種族や馬車が素通りしていたので、自分も問題ないと思っていたのだ。


「……魔物使い(テイマー)ギルドの正規の従属の首輪のようだな。それではくれぐれも王都内ではこの首輪を取らないようにしてくれ」


「はい!」


「──それにしても少年、よくこの魔獣をテイムできたものだな。剣歯虎は『山の殺し屋』なんて呼ばれる獰猛な魔獣だぞ。それに、白い毛並みは珍しい。突然変異……、いや、亜種か? とにかく危険な魔獣だから、絶対首輪を外す事だけはしないでくれよ?」


 門番はそう言うと、コウに行って良しとばかりに手を振る。


 コウは頭を下げると、ベルに跨ったまま、大きいトンネルのような城門を潜るのであった。



 城門の向こう側は、雑多で喧騒に包まれた世界であった。


「……凄い。いろんな人がいっぱいいるや……」


 コウはベルに跨ったまま、その中に入っていく。


「おーい、コウ! こっちだ!」


 すると先に城門を潜ったヨース達がコウに手を振って声をかける。


 コウは一瞬、あまりの人の多さにその声を聞き取れなかったが、ベルが「ニャウ!」と鳴いて、ヨース達の馬車の方向に体を向けたので気づく事が出来た。


 そして、コウの意思を汲んだかのように、ベルはヨース達の馬車に駆け寄る。


「王都の門番に声をかけられるのはよっぽどのことだからコウが止められて俺も内心焦ったんだが、大丈夫だったか?」


 ヨースも未経験の事だったらしく、汗を拭く素振りを見せながらコウを心配した。


「うん、ベルの従属の首輪の確認だけだったよ」


「へー。ベルって王都でも門番が気にする程なのか!」


 ヨースはこの自分にとって元天敵であったベルが、かなりの魔獣であるようだと驚く。


「うん、なんかベルのことを『山の殺し屋』って呼んでた」


 コウもそう言われるのは初めてのことだったので、ヨースに教える。


「そんな異名が付いているのかベル。でも、悪い魔獣ではないよな?」


 ヨースは今やコウの魔獣としてベルを警戒していなかったので、ベルのことはコウのペットと認めていたから、異名に驚きながらベルに聞く。


「ニャウ!」


 ベルはヨースに返事をするように鳴くと、顔をヨースに擦り付ける。


「人懐っこいよな、お前」


 ヨースはそう言うと撫でて応じるのであった。



 コウ一行は、こうして安全に王都入りすると、まずは『軍事選定展覧会』事務局が設置されている場所に赴き、そこで手続きを済ませると、今回の展示参加者に用意された宿屋の場所を聞く。


 コウやララノア、カイナにとっては王都の地区名を聞いてもさっぱりだったがそこはヨースである。


 場所と宿屋名を聞いただけでピンときたようで、


「『星の海亭』か……。なるほど、そういう扱いか……」


 とヨースは納得したようであった。


 ヨースが御者を務める馬車は用意された宿、『星の海亭』に向かう。


「ヨース、ちなみに僕達の扱いってどういう感じなの?」


 コウがヨースの意味深な言葉に対して質問する。


「うん? ああ、さっきのか? 今から行くところは良い宿屋さ。俺なんかは普段泊まることはない宿屋だ」


「へー、じゃあ、僕達良い扱いなんだね!」


 コウが嬉しそうに応じた。


 コウ達は異種族だから、差別に慣れている。


 だから、当然、安宿を用意されていても別に驚かないのだが、良い宿屋を用意されているということは、そういう評価ということだろうから喜んだのだ。


「早とちりするなよ。俺は大鼠族で行商上がりのぽっと出だぞ? その俺が普段泊まっている宿屋なんてたかが知れているに決まっているだろ。それと比べての話さ。今回、『軍事選定展覧会』に出展するブランドレベルで考えると、評価は下の方ってところだな」


 ヨースはコウに水を差すと、現実を突きつけた。


 そして、続ける。


「でも、安心しな。俺の予想なら、今回出展する無名ブランド連中の中で、うちは確実に目立つし、それどころか有名ブランドも度肝を抜かれるはずだから、この扱いをして後悔するのはあっちさ」


 ヨースは不敵な言い方をすると、展示会開催中お世話になる宿屋へと到着した。


「──でも、十分いい宿屋じゃない?」


 ララノアが馬車から降りて、そう評価する。


「そうね。ここまでの旅で一番良い宿屋かも」


 カイナも同意して頷く。


「はははっ! 俺達の基準が低くて良かった。──主催者側はきっと、『展示会に呼んでやったが、お前達のレベルはまだ、この程度だ、勘違いするなよ!』という現実を突きつけるつもりで用意したのだろうから、他の商会だったら悔しがるだろうな」


 ヨースはみんなの反応が前向きなので、相手の狙いを覆したであろうことを笑って喜ぶ。


「宿屋って結局、雨露をしのげて、安全にぐっすり寝られれば問題ないから、無駄に豪華でも困るし、このくらいが丁度いいと思うけどなぁ」


 コウも前世を含めて庶民かそれ以下の生活を送ってきていたから、贅沢を知らない。


 だから、人並みの扱い受けられれば何も不満はないのであった。

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