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転生!底辺ドワーフの下剋上~小さな英雄の建国記~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第63話 精霊のお仕事

 コウの山の斜面に作る棚田の提案は、村長のヨーゼフも目からウロコであった。


 元々ドワーフの大半は農業に興味がないものが多いし、そんな知識もないから思いつきもしないものだからだ。


「……それなら、山の斜面も活用できるな……。よし、コウ。何人か人を回すから、お前の指示で早速、始めてくれ」


 ヨーゼフはそう言うと、立ち上がりコウの家から飛び出していく。


 善は急げという事だろう。


 それに、ヨサク達農業系ドワーフも、自分達の扱いがどうなるか心配だろうから、この決定を伝えれば少しは安心するだろうという判断であった。


 村長のヨーゼフは自宅に泊めているヨサクにこの事を伝えると、安堵してその案に賛同した。


 実はヨサクもこのエルダーロックの村を一日、見学して畑用に向いた土地があまりないと思っていたからだ。


 翌日には、コウの指揮の下、鉱山で出るクズ石を使って斜面に石積みを始める事になるのであった。



 棚田の石積み作業は大きな石小さな石を組み合わせて積み重ねる。


 斜面も削って整地していく。


 棚田は段々畑と違って、水はけよりも耕す土の下に粘土を入れて水が流れ出ないようにする処理も必要なので面倒だが、斜面の土には粘土も多く含まれていたので、その作業は楽であった。


 逆に上に敷く土の方が足りないくらいで、それは麓の村から運ばなくてはいけないくらいである。


 最初の数日は土運搬問題は後にして、石積みと整地作業を優先した。


 一つ一つ完成に近づくごとにヨサク達農業系ドワーフのグループは、笑顔が生まれつつあった。


 これが完成すれば、自分達の存在意義がこの村で生まれそうだと、思えていたからだろう。


 誰もこの重労働に不満を漏らす事なく、女子供も含めて自分のできる事をせっせと行うのであった。


 その数日後の夜。


 コウは村の傍にある丘まで来ていた。


 その丘は村の整地の際に生まれた土を積んでできたもので、言わば邪魔な存在だったから、ここを崩して斜面の棚田に運び込もうという事になっていた。


 ただし、棚田予定地の斜面まで距離もあるし、傾斜もきつい。


 そこに土を運び込む作業は何か月かかるかわからない話だ。


「あまり目立つ事をしたくなかったけど、ヨサクさん達に希望の笑顔が生まれてきているからなぁ。出し惜しみしている場合じゃない」


 コウは一人そうつぶやくと、土魔法を唱えてその丘の土を一部盛り上げた。


 そして、次の瞬間にはその盛り上がった土は、コウの魔法収納付き鞄に吸い込まれて消えていく。


 コウの魔法収納付き鞄は出入り口が狭いので大量の土を一気に入れる事が出来ないのだ。


 だから、土魔法で一部の土を盛り上げてそれを鞄に詰めていくという事を繰り返した。


 幸いコウの魔力は底がない。


 というか『大地の力吸収』というチートのような能力持ちのコウにとって、魔力は消費した分、大地からもらって補填している感じだから、多少の魔法使用は何でもないのである。


 そして、その日の夜のうちに、コウは村の外れの丘を消し去る事になるのだが、それに村人たちが気付いたのは、翌朝の事であった。


「ふぁ~……! 今日もいい朝だなぁ。……うん? 景色が変わった気が……。やけに視界が広がってないか? あれ……? 丘がない!?」


 ドワーフの一人が家の窓を開けて換気をする時に、その事に気づいた。


「どうしたんだい、あんた?」


 奥さんのドワーフが、夫の異変に気付いて、後ろから声をかける。


「そ、外を見てくれ! 目の前にあったはずの丘が無くなっているんだ!」


「何を言っているんだい、あんた。まだ、寝ぼけているのかい? ──嘘でしょ……? 本当にないわ!」


 奥さんも夫のわけのわからない言葉を疑ったが、一緒に窓を覗いて、いつもの光景である丘がない事に気づいて驚くのであった。


 もちろん、その丘は、コウが全て土として回収し、山の棚田予定の斜面に一夜のうちに運び込んでしまっている。


 そして、ヨサク達の方も朝一番で棚田予定地に誰よりも早く足を運んで前日までと様子が違う事に気づいた。


「ここが数か月後には、立派な棚田になるのかぁ……。完成して作物をここで作った時、この村の一員として迎えられる事になるだろう……、って、なんじゃこりゃ!?」


 ヨサク達は棚田予定地が、すでに棚田として立派な土が敷き詰められている事に、気づいて目を剥く。


 それは他のドワーフ達も一緒であった。


「こ、これはどういう事だ!?」


「奇跡だ……。奇跡が起こったぞ!」


「これなら、すぐに二条大麦が作れるかもしれん!」


 ヨサク達農業系ドワーフ達は、土が敷き詰められた棚田に興奮してその奇跡に感謝する。


 農家にとって作物を回収した時、その達成感を味わい、喜びを感じるのだが、棚田作りだけでも数か月は要するだろうと思っていたから、それまではこの村の厄介者扱いになると思っていただけに、嬉しさもひとしおであった。


「土の精霊、ノームに感謝だ! いや、このエルダーロックの村は鉱山の精霊ノッカーを大事にしているらしいからそっちにも感謝しておこう!」


 ヨサク達農業系ドワーフ達はそう言うと、棚田に向かって長い時間、拝むのであった。


 その時、前世でそれに近い発音の名前だった野架公平のか こうへいことコウは、自分の部屋のベッドでぐっすりと寝ていた。


「コウ、今日も棚田作りでしょ? 起きなくていいの?」


 部屋の扉をノックして同居人のダークエルフであるララノアがコウを起こしに来た。


「……え……、むにゃむにゃ……。 ふぁー……! もう朝かぁ……。あ、棚田は夜のうちに働き者の精霊が土運びをしたから大丈夫だよ、はははっ」


 とコウは寝起きながら、ララノアの言葉に冗談で返すのであった。

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