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転生!底辺ドワーフの下剋上~小さな英雄の建国記~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第56話 伯爵の思惑とそれを阻む者

「それで、うまく貯水池に毒を放り込んだのだな?」


 ダーマス伯爵は、側近の報告を再度確認した。


「部下からはそのように報告を受けています。毒は呪詛系のものです。ドワーフごときではどうにもできず、神聖浄化の為に教会の司祭に泣きつくのも時間の問題かと」


「今度こそは水浄化の為の契約を結び、定期的にお金を出させるのだ。相手はドワーフ、干からびるまで搾り取るぞ」


 ダーマス伯爵はニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「ですがよいのでしょうか?」


 側近は急に水を差すように質問をする。


「何がだ?」


「あの土地は元々、隣国との国境沿いという事で紛争の原因になるから、廃坑、廃村にしたのですよね? いわば、暗黙の了解のもとに現在は緩衝地帯扱いになっています。だからこそあちらも、国境を接する山脈地帯には人を入れないようにしていると聞いておりますが」


「緩衝地帯と言っても、こちら側は我が領地だ。売っても問題はないだろう。それにあそこを買って住み着いたのはドワーフであって人ではない。もし、問題になったら、それを理由に土地を取り上げ、ドワーフは追い出せばよいだけだ。それまでは奴らから金を搾り取り、稼がせてもらう。わははっ!」


 ダーマス伯爵は、衝撃の事実を口にすると、高笑いするのであった。



 ドワーフの新天地であり、そして、国境沿いの緩衝地帯にある実は問題が多いエルダーロックの村。


 みんな、国家間の摩擦になりかねない土地に住んでいるとは思わず、今日も村の発展の為に過ごしていた。


 井戸に続き、再度の水の汚染問題も解決したコウは、イッテツの経営する鍛冶屋で仕事をしていた。


 そう、コウとイッテツのブランドである『コウテツ』の商品を製作しているのだ。


 そこには発注している大鼠族のヨースがいる。


「聞いたぜ、コウ。また、大活躍だって? 呪詛系の毒を浄化できるなら、新たな商売が出来そうだ! 一時的に浄化するのなら、その辺の教会の神官でも可能だが、呪詛系の毒は質が悪くてな。教会でも上位の司祭クラスの人間しか完全に浄化するなんて普通は不可能なんだぜ?」


 大鼠族のヨースはその灰色のモフモフの毛を揺らしながら、詳しく説明する。


「そうなの!?」


 コウはララノアが想像以上にすごい事をしたようだと、ヨースの説明でようやく理解した。


「呪詛系の毒は入手するのも大変なんだが、さっきも言ったように、普通の浄化魔法では一時的にしか浄化できないから、悪質な利用のされ方をされる事が多いんだ」


「悪質な?」


「ああ。例えば、誰かが金持ち相手にこの毒を盛って、浄化魔法で一時的に助けるとするよな? あとは想像できるだろう? 浄化魔法で定期的に浄化しないと苦しんだ末に死ぬ事になるから、お金を毎回支払って毒を浄化してもらうという商売が成立するんだ」


「……そんな酷い事を?」


「あ、俺が商売になると言っているのは、その困っている相手を助けるという意味だぞ? こっちが毒を盛ってどうこうという話ではないからな? 俺だって商売人としての誇りがある。そんなクズみたいな商売するかよ!」


 大鼠族のヨースは、自分の誇りがあるから、しっかり弁明する。


「だよね。ヨースならそう言うと思ったよ。でも、そんな危険な毒がこの村の貯水池に放り込まれるなんて……」


 コウは眉をひそめてそうつぶやく。


「呪詛系の毒はそもそも入手が非常に困難で国も危険視しているものだ。だから、入手できるのは貴族くらいなものさ。あ、だが、以前いた土地のマルタ子爵ではないな。あの子爵はすでに俺達大鼠族の情報網で周囲から信用を失い、追い詰められている。復讐する暇もないくらいにな」


 ヨースは自慢げに胸を張る。


 そう、ヨースが裏で動いたから、コウ達ドワーフを追い詰めたマルタ子爵は破滅したようなもなのだ。


「そうなると、毒を盛ったのは、やっぱりこの地の領主ダーマス伯爵……、という事だよね?」


 コウは消去法で答えを出す。


「まあ、そうなるだろうな。一難去ってまた一難だけどさ、それも乗り越えたんだから問題ないんじゃないか? あとはこっちでもダーマス伯爵の動向は警戒しておくよ」


 ヨースはそう言って、大鼠族の全面支援を約束する。


「……二人とも、話すのは構わんが、手を動かせ!」


『コウテツ』ブランドのツルハシの仕上げを行っていたイッテツがコウとヨースを注意した。


「イッテツさん、すみません!」


 コウは慌てて炉に平箸ひらばし突っ込むと赤くなったツルハシの先端を取り出して、金床に置くと魔力を込めて金槌で叩く。


「邪魔したね、イッテツの旦那。今日は様子を見に来ただけだから、約束の納品日にまた来るよ」


 ヨースはイッテツのところまで行くと、そう声を掛け、買ってきたお菓子の袋を傍の机の上に置く。


「いつも悪いな」


 イッテツは甘い物好きだから、ヨースが顔を出す時は差し入れで持ってくるのだ。


「なーに、俺は『コウテツ』ブランドで儲けさせてもらっているからな。これくらい安いもんだよ! ──じゃあな」


 ヨースは荒っぽい言葉遣いとは不釣り合いなかわいい声でそう応じると、イッテツとコウに手を振って出ていく。


「コウ、それが終わったら、ヨースのお土産でも食って休憩に入りな。今日の残りは俺の仕上げ作業だけだからな」


 イッテツはそう言うと、一足先にヨースの持ってきた包みを解いて中身を確認する。


「お? これは噂に聞くハチミツ入りの飴か。──ヨースめ、良いものを買ってきたな」


 どうやらヨースの差し入れは高級なお菓子だったのか、イッテツは嬉しそうにそうつぶやくとその黄色く透明な丸い一粒を口に頬張る。


 そして、余程おいしいのか、恍惚とした表情になっていった。


「……コウ、残りは持って帰っていいからな。ララノアも喜ぶだろう。彼女も毒の浄化で大活躍した当人だから、食べる資格がある」


 イッテツはそう言うと、また、一粒摘まんで頬張り、恍惚とした表情で、飴を味わうのであった。



 こうして、コウは同居人のララノアと共に、エルダーロックの村に今後も貢献していく事になる。

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