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わたしはダミアンに告白して失恋したことにされていました

 わたしは体を起こした。どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。

 今までの暗い気持ちが嘘のように心がすっと軽くなった。

 きっとわたしの具体的な未来が露わになってきたからだろう。


 わたしは部屋を出ると食堂まで行くことにした。ちょうど入り口でフランツに遭遇する。

 そして、お互いに言葉を交わさずに笑みを漏らした。

 わたしたちはルトを観光して、昨夜帰宅したのだ。


 もう少しだけ頑張ろう。

 決意を新たに食事を終え、学校に向かうことにした。


 昇降口を通りかかると、大きな声が耳をかすめた。


「クラウディア様が? そんな」


 わたしはその言葉にドキッとして振り返った。

 そのとき、幾人かと目があい、彼らはわたしから目をそらす。


 噂の的となることは珍しくない。だが、妙な違和感があった。

 わたしは問い詰めることもできずに、自分の教室に行くことにした。


 教室に入ると、室内が一気に静まり返った。

 誰もわたしと目を合わせようとしなかった。いや、ただ一人を除いては。

 なぜかあれだけわたしを避けていたダミアンがわたしをじっと見つめ、得意げに微笑んでいた。

 まさか、わたしが彼を攻撃したことが周りに知られてしまったのだろうか。

 わたしは嫌な汗が肌を伝うのを感じながら、自分の席に着いた。


 親しく話せる友人は多い。

 興味本位の視線の理由を聞ける相手がわたしにはわからなかった。


 昼休み、わたしは教室を出るとため息を吐いた。

 クルトと付き合っていると噂されたときは、すぐに原因がわかったが、今回はそうはいかない。

 一体何を囁かれているのだろうか。


 誰に聞けば本当のことを教えてくれるだろうか。

 今まではレーネがその役割を担ってくれていたが、彼女を頼るわけにはいかない。

 クルトに聞いてみようか。彼だったら、教えてくれそうな気がした。

 クルトと極力接点を持つのは控えていた。そうしないとレーネが気分を害するのではないかと思ったためだ。だが、今はそうしてもいられない。わたしへの悪評は、他の人に迷惑をかけてしまう心配があるのだ。


 わたしがクルトの教室に行こうとしたとき、背後から声をかけられた。

 立っていたのはパウラだ。

 彼女はわたしと目が合うと、目を背けた。


「クラウディアはダミアンのことが好きだったんだね」

「え?」


 思わず驚きの声が零れ落ちた。

 クラスメイトの奇異な視線の答えにも気づいた。


「違う」

「そうなの? クラウディアがダミアンに振られたともっぱらの噂だよ」

「わたしが好きなのはフランツなの。ダミアンじゃない」


 パウラは目を見張る。彼女は優しく微笑んだ。


「そうだったんだ。まあ、確かにおかしいと思ったんだけどね。あんなにかっこよくて優しい人が近くにいるのに、それを差し置いてダミアンだってね。ダミアンもかっこいいけど、あの人には劣るよね」

「そうだよ。誰がそんな噂を流したんだろう」

「さあ。わたしも今朝聞いたの。ただもう広まっているから、収まるのを待つしかないよね」


 パウラは大げさに肩をすくめた。


「そうだね」


 ダミアンのことを快く思ってはいないが、表立って否定するのはどうも気が引ける。

 レーネやドロテーが彼のことを好きだと知っているから尚更だ。

 ダミアンの耳に入り、彼が否定してくれるのを望むしかないだろう。

 みんな頑なにダミアンに失恋したと言われているわたしの耳に入らないようにしているのだから。


「じゃあ、わたしは教室に戻るね」


 そういったパウラと別れ、わたしは一人でゆっくり過ごすことにした。


「何がなんだか」


 レーネとしてプレイしていたころならともかく、今のダミアンを好きだと思うはずがない。

 わたしはふっと思い出した。甘恋でクラウディアがダミアンを好きだという噂が流れていたことを。


 思わず顔をしかめてしまっていた。

 そろそろ授業が始まる。

 浮かない顔で教室に戻ろうとしたとき、ドロテーが立っているのに気付いた。

 彼女は目に涙を溜めていた。

 そんな彼女に反応する前に、彼女は自分の手を握った。


「ごめんね。クラウディアの気持ちを考えなくて。これからはクラウディアには相談しないようにする」


 彼女はわたしの噂を信じてしまっていたのだ。


「違う。わたしはダミアンのことなんて」

「ごめんなさい。思い出したくもないよね。ただ、いてもたってもいられなくて。本当にごめんね」


 ドロテーはそう言い残すと、聞く耳を持たずにかけていく。

 わたしは頭を抱えた。


 何かもうめちゃくちゃだ。わたしはダミアンのことをどうとも思っていないのに。

 誰かが流した噂が、もう現実のものとなり流布していた。

 わたしは自分の席に座った。


 ーネも全く無反応だ。きっと彼女は思っているのだろう。

 だから、クラウディアは自分の恋愛を邪魔したのだ、と。

 誰かが言ってくれないと、否定する機会も与えられない。

 下手に行動を起こすことで、クラウディアがデマを流したという話につながるのはどうしても避けたい。


 フランツと一緒に北の地でしばらく暮らすのもいいのかもしれない。本当にこれだとゲームの結末と形だけは一緒になってしまうが、それはそれだ。ダミアンに失恋したなどと噂を流されるのは嫌だが、この重苦しい時間を過ごすよりは気が楽な気がした。

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