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学校を去ったクラウディアの気持ちがわかった気がしました

 わたしは本を閉じると、ため息を吐いた。

 ダミアンとのことでわたしがなすべきことは終わった。あとは学園祭が終わったらどうすべきかを考えないといけない。


 わたしが他の学校に行きたいといえば、お父様は力になってくれるだろう。

 叔母様の説得はしないといけないけれど、きっとそれもうまくいくはずだ。

 なぜなら、この世界の出来事はわたしの知っている甘恋そのものなのだから。


 ドアがノックされ、返事をする。

 フランツが顔を覗かせた。


「お時間があるなら、出かけませんか?」

「どこに?」

「ルトに」


 その場所の名前は知っていた。だが、地理としての知識よりもフランツがそこの孤児院に引き取られるはずだったという話が脳裏を過ぎった。

 彼にとって何か特別な場所なのだろうか。

 ルト地区に足を踏み入れるのは初めてだ。


 家でじっとしているよりは心も晴れるだろう。

 わたしはフランツの申し出を笑顔で受け入れた。

 お父様たちには話をしてくれていたようで、わたしの準備が整うとすぐに家を出ることにした。

 学校は明日も休みなので、わたしたちは泊りがけででかけるようになった。どうやら宿の手配もフランツとお父様がしてくれているらしい。


 わたしたちは駅まで送ってもらうと、そのまま汽車を待つことにした。そして、入ってきた汽車に乗り込むと、お父様が手配してくれた個室にフランツと入ることにした。


 ここから半日かけてルト地区に到着する。汽車が着くころにはもう日が完全に落ちているだろう。


「着くまでお休みになられますか?」

「平気よ」


 わたしはフランツの優しい言葉に、目を細めた。



 日が沈んだ頃、大きな、それでいて人気のない駅に到着した。わたしはフランツとともに駅の外に出た。

 改札口のところに年配のあごひげを蓄えた、黒のスーツを着た男性の姿があった。

 彼はジャックという名前を名乗り、わたしたちと目が合うと、深々と頭を下げた。


「クラウディア様ですね。アレックス様やイマル様にはお世話になっております。そして、フランツ様もお久しぶりです。今からご案内いたします」

「様をつける必要など」

「何をおっしゃいます」


 男性はそう優しく会釈をした。

 フランツはどこか恥ずかしそうに微笑んでいた。


 彼は駅の外に停めていた黒の車にわたしたちを乗せると、車を運転し始めた。


「クラウディア様がルト地区にやってこられたのは初めてですよね」

「はい」

「静かな町ですから。今日はわたしの家に泊まってください」


 わたしは確認のためにフランツを見た。

 彼は首を縦に振った。どうやらその予定だったのだろう。

 わたしは彼の予定を受け入れた。


 その車が止まったのは町を離れた人気の少ない場所に着いてからだ。

 車を降りると、壮大な土地が目の前に広がっていた。その奥にある山に太陽が沈みかけていた。

 わたしは辺りを駆け抜ける風から髪の毛を守ろうと髪の毛を手で押さえた。


「ここは?」

「アレックス様が少し前にこの土地を買い取りました。ここに学校を作ろうという案があるんですよ。分校という形でね」

「分校? 初めて聞いたわ」

「今のところは予定でしかありませんから。誰でも意欲があれば学べる場所にしたい、と。意欲があっても学べる環境があればその人の人生が変わることもあるでしょう」

「そうね」


 お父様と叔母様らしい話だ。

 国でも屈指の名門の家でありつつも、周りからの信頼されているのはこうした考えをしているからだ。

 ただ、疑問もある。


「なぜあなたがそんなことを知っているの? この学校に携わるの?」

「その予定です」


 フランツはそういうと優しく微笑んだ。


「ここはフランツにとって特別な場所なの? お母さんの亡くなった後、ここで暮らす予定だったのよね」


 彼は頷いた。


「僕の母親には好きな人がいたそうです。彼女はここでその好きな相手によく会っていた、と。もっとももうここは誰も住んでいませんが」

「その人はフランツのお父さん?」

「いえ、違いますよ」


 わたしは口を押えた。


「ごめんなさい」

「いえ、気にしていません。母には悪いですが、こうして生まれてきて、クラウディア様に会えたことを何よりも嬉しく思っています。だから、クラウディア様さえよければ、ここで二人で暮らしませんか? あなたは少し時間をおいて、また学校に通えばいい」


 クラウディアは逃げたわけではなかったのだ。今の学校に通うのではなく、クラウディアとしての幸せに生きる道を模索したのだろう。それも一つの選択肢だ。拒絶された今の状況で、レーネとはもう関わらないほうがいいかもしれない。


 わたしはどれだけ幸せなのだろう。

 今まで暗い気持ちでいたからだろうか。視界がかすむ。


「だからといって結婚してくれと言っているわけではなくて」


 フランツは慌てた様子でそう口にする。困惑していると思ったのだろう。

 彼と結婚してくれと言われても、きっとわたしはノーとは言わないだろう。わたしも彼を好きなのだから。きっと今回のレーネの件がなければ、彼への好意を自覚することもなかった。


「ありがとう。少しだけ考えさせて。今は学園祭もあるし、それが終われば前向きに考えるわ」

「分かりました。クラウディア様のもっともよいと思える選択肢を選んでください」


 フランツは優しく微笑んだ。



 わたしたちはジャックさんの家に泊めてもらい、翌日ルトを観光して街を後にした。

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