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王女様は意外な頼みごとをしました

 わたしが裏口のドアを開けると、王女様が目を輝かせた。その背後には渋い表情を浮かべたロミーさんの姿があった。

 秘密裏に連れてきてほしいと懇願されたわたしは、彼女を裏口から家の中に招くことにしたのだ。


「行ってくるわ」


 溢れんばかりの笑顔を浮かべる王女様とは違い、ロミーさんは複雑そうに王女様を見ていた。

 わたしは王女様の願いを聞き遂げると、彼女と別れ、教室に戻った。ダミアンがわたしを睨んでいたようだが、もう気にすることはない。王女様も何かあれば自分に言ってくれと言っていたのだ。


 ロミーさんが王女様がわたしの家に行きたいと聞いたのが放課後のことのようだ。王女様は複雑そうな表情を浮かべたロミーさんと待ち合わせ場所に現れ、ロミーさんがわたしと王女様を送ってくれたのだ。ロミーさんはその間、採算に渡り説得を繰り返していたが、王女様は効く耳を持たなかった。


 わたしも連れてくるのはいいのだが、誰にも見つからずという意味が分からず仕舞いだ。

 裏口を占めると、木々のたち並ぶ小道に入る。王女様は目を輝かせながら、辺りを見渡している。そんな彼女と一緒に家に到着した。


 わたしはドアを開けると彼女を招き入れた。今、家にいるのはカミラだけで、幸いほかの人たちは出かけてしまっていた。カミラも庭掃除をしているため、しばらくは家に戻らないだろう。


 彼女は家の中に入ると感嘆のため息を吐いた。


「どこに行きますか?」

「食堂と、クラウディア様のお部屋に行きたいです」


 わたしは即答した彼女を連れて、食堂まで行く。

 食堂はがらんとしていたが、王女様はそんなものでも楽しそうに眺めていた。

 どこに彼女の興味を引く要素があるのかわたしにはよくわからなかった。


「何か召し上がられますか?」

「いいえ。今食べると夕食が入らなくなってしまいますので」

「わたしの部屋に行きましょうか」


 彼女は二つ返事で頷いた。

 だが、階段を上がった時、彼女は辺りをきょろきょろと見渡したのだ。


「ヘレナ様?」

「ごめんなさい」


 ヘレナ王女はいつものはきはきとした様子とは違い、どこか歯切れが悪かった。

 しっかりしているといってもまだ彼女は幼い少女なのだ。だからわたしは優しく彼女に告げた。


「なにかあれば言ってください」

「ここにはクラウディア様と同じ年の男の人が住んでいますよね」

「フランツのこと?」


 ヘレナ様は首を縦に振る。


「その方の部屋をほんの少しでいいので見てみたいんです」


 フランツが学校に来たときにでも見たのだろうか。

 わたしはいいとも悪いとも言えずに固まってしまった。

 そもそも彼は家を明けているし、家の主の娘とはいってもフランツの部屋を無言で出入りすることは今までなかったのだ。


「それは本人の許可が得られないことには」

「ヘレナ王女?」


 カミラの声が聞こえ、わたしは思わず振り返った。

 カミラは唖然としたようにわたしたちを眺め、王女はささっとわたしの王女はわたしの陰に隠れた。

 カミラが王女を知っていてもおかしくはない。だが、今の様子だと王女もカミラを知っているように思えてならなかったのだ。


「どうしてあなたがこんなところに」

「わたしが招いたの。いろいろあってこんな形に」


 カミラは王女様を見ると、腰に手を当てた。


「ここはクラウディア様の家ですから、クラウディア様が構わないのならアレックス様たちには伏せておきます。王女様がご迷惑をかけませんでしたか?」

「迷惑というか、フランツの部屋に入りたいというの。でも、本人は家にいないし、まずいよね」


 カミラが王女様を一瞥した。

 王女様はびくりと肩を震わせた。


「部屋に入れるくらいならいいんじゃないでしょうか。わたしから後ほどフランツに言っておきます。きっと彼は嫌がらないと思います」


 王女様の表情がぱあっと明るくなった。

 フランツとカミラは仲がいいとは思う。そのカミラが言うならいいんだろうか。

 わたしはカミラに判断をゆだね、彼女を少しの間だけフランツのへやにあげることにした。


 扉が閉まるとカミラは短く息を吐いた。


「今日、学校で何かありましたか?」

「さっきは省略してしまったのだけれど、ダミアンからお金を要求されて、ヘレナ様が助けてくれたの。それで丸く収まりそう」

「そうですか」


 カミラはほっとしたような笑みを浮かべた。


 王女様は少ししてフランツの部屋を出てくると、わたしの部屋を覗き、わたしの家を後にしたのだ。



 翌日、レーネは無事にクルトに誕生日プレゼントを渡し、どうやらクルトもかなり喜んでくれたようだ。

 王女様がこの家に来て、フランツの部屋に入ったことはカミラがフランツに伝えていた。わたしもその場面を見ていたが、フランツは困惑を露わにしていたようだ。どうやらフランツもカミラ同様王女様と知り合いのようだ。それもかなり親しい印象だ。


 なぜそう思ったのかと言えば、フランツがわたしに話をしたとき、こう尋ねたのだ。


「ヘレナがクラウディア様に迷惑をかけなかったか?」、と。


 わたしはそのことがひっかかりながらも、迷惑どころか彼女に助けられたと伝えた。成り行き上ダミアンとのやり取りを話すことになった。フランツは一連の流れを聞き、不快そうな表情を露わにしていた。

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