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【コミカライズ企画始動!】あやかしダンジョン配信記~底辺配信者の俺、妖怪の地遠野にて美少女座敷わらしと共にダンジョン配信したらバズって大変な事に~  作者: 十凪高志
第五章 挑戦者たちとマヨイガダンジョン

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第91話 戦いは続く

 戦いは続いた。


 西園山VSぬるぬる坊主海。


「やれやれ……私は格闘は苦手なのですが……」


 ぬるぬる坊主、西園に襲い掛かるがぬるっと滑って転倒。


 ……。


 勝者、西園。


「なんでしょうね、このそこはかとなく馬鹿にされた感は」


 ごもっとも。まあくじ運がよかったということで。


 そして次。


 アイリ山対雪んこ海。


「ふっ……こんなかわいらしいお子様相手に本気を出すのも大人げないですわ。華麗に手加減してさしあげますわ!」


 あ、負けフラグだ。


 案の定。


 始まると、アイリ御嬢様は氷漬けになった。


 勝者、雪んこ。


 相撲勝負で探索者側、初の敗者である。

 お嬢様は凍り付いたまま、脱落者ルームへと没シュートされていった。


 鈴木山対ぬっぺふほふ海。


【農耕】スキルによってぬっぺふほふから大根が採れた。


 戦いは続いた。


 この相撲部屋の後も、攻略は続く。


 泥田坊の待ち構える中、田んぼ全力疾走レース。

 迷宮農家鈴木大地が、肥料になるなら本望だとサムズアップしながら泥の中に沈んでいった姿は感動的だった。


 お決まりの迷路もあった。

 キチクを見習って壁を壊して進もうとしたら、迷路の壁がぬりかべだったりした。

 そうでない場所でも壊そうとしたら天井舐めが舐めようとして来るので断念せざるをえなかった。


 迷路の先にはまた扉があった。

 開けると、そこには無数の人形があった例えるなら巨大な藁人形。


 それらが一斉に踊りかかってきた。

 そしてダンス勝負になった。


「なんなんだよ!これ!?」


 そう叫ぶしかないような光景だった。


 戦いは続く。

 攻略は続く。


 しかし……


 戦いが続く中、疑問が浮かんだ。

 ここのダンジョンマスター、キチクの存在だ。


 彼は元々ダンジョン探索者であり配信者だ。

 配信者という者は、えてして自己顕示欲の権化であり、サービス精神の塊だ。


 そんな人間が、姿を現していない。

 これだけのネームド探索者が集まるのだ。ダンジョンマスター側として配信したら、撮れ高も凄いことになるだろう、なのに彼は姿を現していない。

 沈黙を守ったままだ。


 ダンジョンマスター、キチク。


 彼はいったい、何を考えているのか。


 名だたる探索者達をここに集め、何を目論んでいる……?



 ◇


 さて、今頃探索者達はみんなマヨイガダンジョンの攻略を頑張っているんだろう。

 そんな時、この俺菊池修吾は何をしているかというと……。


「いや、本当すんませんでした」


 岩手県盛岡市にある、ダンジョン探索者協会岩手支部に招致されていた。


 そして謝っていた。

 謝ってばかりだよなあ、俺。


「今回に限ってはキチクさんが謝る必要はないですよ、今回に限っては」


 そう言ってくれるのは東雲さんだ。東京から急ぎやってきたとのことだ。

 しかし今回に限っては、と強調されるといつもは俺が謝るべくして謝っているようじゃないか。だいたいそうだけど。


「……改めて、SL銀河ダンジョンの攻略、お疲れ様ですキチクさん。おかげで最悪の事態は回避できました」


 廊下を歩きながら東雲さんは言う。


「……まあ、最悪じゃないにしても、かなりやっちゃってしまった気はしますけど……」


 俺は言う。

 ダンジョン化を食い止めるに留まればよかったけど、SL銀河をぶっ壊してしまったからな……。


「ああ、あれですか。ええ、気にしていませんよ、私は。全く、全然」

 嘘だな。

「そりゃまあ、各方面からそりゃもあチクチクチクと責められましたけどね。でも今回の事は記録も取れてますし、大規模ダンジョン災害対策特別措置法が適応される案件ですから、まあ弁償は国の予算から出ますし」

「そうなんですか」


 その法律が何なのか知らないけど助かった。


 ありがとうございます、大人になったらちゃんと税金払います。

 いや、大人になったらじゃなくて、税金払わなきゃいけなくなるほど収入入るようになったら、だっけ?

 あとで勉強しておこう。


「じやあ俺は無罪放免って事ですよね」


 そうもいかないんだろうけど。


「そうもいかないんですけどね」


 やっぱり。


「私みたいに事なかれ主義の保守派ばかりじゃないですからね。あのダンジョンを、死者の国との直通の道を手に入れることが出来れば国家の利益になった、人類の躍進になった、だの五月蠅い人たちが案の定出て来て文句たくさん言ってきてるんですよ。それで現場や裏方がどれだけ大変な目に合うか、偉いだけの人たちは全くわかってないんです」


 東雲さんはぷりぷりと怒っている。


 確かにあのダンジョンは有益かつ効果的に使いこなすことが出来ればとてつもないものだったのかもしれない。しかし無理に決まっていると俺も思う。

 人間の欲望ってのは限りないからな。


「それを潰されたとあって、怒り心頭の人たちが、この件の責任をキチクさんに取らせようとしてる動きもあります」

「……マジっすか、弁償っすか。いくら払えと」

「いえ、単純な弁償ではなく……“キチクの所有するマヨイガダンジョンを没収し国の管理下に置け”とか……」

「無理っすね」

「はい、でしょうね」


 無理である。


 マヨイガは意思持つ家であり、つまりマヨイガダンジョンは意思持つダンジョンだ。そう考えたら確かに是が非でも欲しいと思うだろうが……意思を持つ家なだけに、俺の“所有物”などではないのだ。俺とマヨイガはしいて言うなら仲良しさんである。


 そう、仲良しさんでしかないのだ。


 俺が勝手に誰かや国に対してマヨイガの所有権差し上げますなんて言ってしまえばどうなるか。絶交されるだろう。そしてマヨイガはまた姿を消す。


「“は? 何故無理なのだダンジョンマスターなのだろう、それともそのキチクという奴は自分の所有物を支配出来ていないのか、それでマスターと言えるのか、スキルを磨け”とかなんとか……」

「いや、俺スキル無いっちゅーねん」

「“私を馬鹿にしているのか、ダンジョンに潜ってスキルの発現しない人間がいるはずないだろう!” ですって」

「……悪かったな、不適格者で」


 それほざいてた偉い人一発ぶん殴りたくなってきた。


「……まあそんな感じで何も知らずに思い込みと浅い知識だけで無茶言って来るえら~い人と、ちゃんと現状を理解して予測できる人たちが喧々諤々、あーでもないこーでもないと」

「……お手数かけます」

「それで、おそらくですが……マヨイガダンジョンではなく、キチクさんが国に……つまり協会所属になる感じで、話が決着するんじゃないか、と」


 そう東雲さんが言って来る。


 それはつまり……そうか、そういうことか。


「就職先のお世話してくれるってことっすね」


 これは朗報だ。進路に悩まなくて済む。


「……い、いえ、まあそうとも言いますけど……」

「冗談ですよ」


 俺は笑う。


 そう、要するに俺は……国に首輪をつけられるということだそうだ。

 まあ、確かに三つもダンジョン壊したら流石に、無罪放免自由の身、ともいかないということだ。


 ……今の俺なら、自由になろうと思えばなれるけどな。


 ひたすらマヨイガにただ引きこもればそれで済む。食って寝て遊ぶだけならマヨイガで生きていける。


 まあ、そんな人生、つまんないけど。


「でもまあ、条件次第ならそれも悪くないですよね。優斗さんや満月さんだって協会直属のエージェントなんでしょ?」


 流石に首輪つけられた境遇ではないだろうけど。


「はい、それはそうですね」

「俺はダンジョン探索好きだし、配信もさせてもらえるなら問題ないかな。あ、なるべくホームは遠野、せめて岩手がいいけど……まあ交通費が経費で降りるんならいっか」

「……ポジティブなんですね、キチクさんは」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず。現状把握して適切な判断を冷静に下せれば、大抵のことはどうにかなりますし。

 それによっぽどの無茶言われたら、マヨイガに引きこもってほとぼり冷めるまで隠れられる、そう思ってたら別に、ね」


 そう考えたら悪い事ばかりではないだろう。


 それに協会直属ともなれば、一般に公開されてないダンジョンに潜る事も出来るかもしれない。そう考えるとむしろワクワクするね。


「……全く。私の心配を返してくださいっていいたくなりますよ、はあ。

 でもそれなら話はスムーズに進むでしょうね。

 こじれない事を祈りますよ、私としては」

「任せてください」


 俺は言う。


 俺だって面倒ごとはごめんだ。とっととこの話を終わらせて、俺はマヨイガに戻りたいからな。


 なんたって俺は、今回のラスボスなんだから。

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[一言] お前がラスボスしたら誰も勝てんやろがい!
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