第83話 探索者たち
ここが遠野か。
田舎だな。しかしまあ、嫌いじゃない雰囲気だ。
ここが俺の新しい戦場か。
俺は東京からやって来た探索者だ。
名前? そのうち天下に轟くだろう。その時を楽しみにしておいてくれ。
さて、俺がこの遠野にやってきたのは、とあるダンジョンが目的だ。
この地にあるマヨイガダンジョン。幾人もの探索者たちが挑み、そして撃退されているらしい。
その話を耳にした時、俺は武者震いをしたものだ。だってそうだろ? まだ誰にも踏破されていない未開のダンジョンなんだぜ? そんな場所を踏破し、名を上げる! これは男として燃えるシチュエーションじゃねーかよ。
この先にどんな敵がいるのか。
どんな宝物があるのか。
考えるだけでワクワクするってもんだ。
だから俺はこの地にやってきた。
さあ、俺の伝説の始まりだ――!
◇
と、思ったんだけど。
考えがちょっと甘かったらしい。
なんだよ、この人の多さは。
いくら難易度高いらしいとはいえ、こんな田舎のダンジョンに、なんで百人以上の探索者がごった返しているんだよ。
しかもみんな入り口にたむろしている。
そう、入り口だ。
案内された店でジンギスカン定食を焼き加減は弱火でじっくりと注文したら、ここに通されたわけだが、そこは木張りの和風の大きな部屋だった。
そこに探索者達がいたのだ。
知っている顔もある。
どうやら有名な奴もいるみたいだし、中にはテレビで見たことのあるような奴もいた。
「おお、あれは……!」
探索者たちが騒ぎ始める。
「『教授』だ!」
「【鑑定】スキルと【解析】スキルでダンジョンの謎を暴く……プロフェッサーDこと、ドクター・宗近健吾!」
「あの人は……」
「『氷結の悪役令嬢』だ!! 【氷雪】スキルを操る大富豪のお嬢様、氷月財閥の氷月アイリ!!」
「あっちには『雷鳴の剣聖』がいるぞ!【電撃】スキルと剣術を組み合わせた戦闘スタイルで知られる、天才剣士、鳴神光一!!」
「おおっ、『違法棲息者』だ!」
「ダンジョンに現れては住み着く謎のホームレス、藤堂ハジメがマヨイガダンジョンを次の住処に見定めたのか!?」
「『迷宮農家』だ! 【農耕】スキルでダンジョン内に畑を作って作物を育てる、野菜の伝道師、鈴木大地!」
「マヨイガダンジョンも耕す気か!!」
「あちらには『豪腕戦車』だ! 【怪力】スキルで鉄壁の防御を誇るタンク役、マッスル・マサシ! 」
「彼がいる限り、このパーティは無敵だと噂される、筋肉集団、ザ・マッスルズのリーダー!!」
「【テイミング】スキルを駆使してもふもふの獣系モンスターを集めている『柔獣蒐集家』の水無月ユミナさんまでいますよ!」
「まさかあの妖狐鈴珠ちゃんに目をつけたのか!?」
「逃げて鈴珠ちゃん鈴珠ちゃん逃げて!」
「おーっと!」
「こっちには【窃盗】スキルで『迷宮怪盗』の名を欲しいままにしている海藤カナタがいるぞ!」
「 ここでは一体何を盗もうというのか!?」
うわぁ。
なんか有名人ばっかじゃん。
よくもまあこんなに集まったものだ。
……自信無くなって来た。俺、場違いじゃないか? そんなことを思っていると、さらに探索者達が湧きたった。
「おお、今日のマヨイガダンジョン攻略の発起人!」
「チャンネル登録200万人越えの美少女インフルエンサーにしてA級探索者!!」
「【聖歌】のレアスキルで攻防自在!」
「『聖なる歌姫』藤見沢夕菜だああああああッ!!」
「そして彼女を守護するのは! 協会の用心棒!」
「A級探索者の『東西の守護者』東西ブラザーズこと東雲優斗と西園満月だああッ!!」
おお、これが本物の藤見沢夕菜か。俺も配信は何回か見た。生は初めてだな。
確かに可愛い。でもそれ以上に凄いオーラを感じる。
彼女を中心にして何か特別な空間が形成されているかのような錯覚すら覚える程だ。
その存在感は圧倒的で、周囲の視線を一身に集めていた。
なるほど。
この子と一緒にダンジョンに入れるなら、そりゃテンション上がるよな。
俺だってそうだもん。
……。
うん、俺脇役でいいや。
こんな連中がいる中で華々しく活躍できる気がしない。
「うわ、たくさんいるなぁ……皆さんどうしたの?」
「おいおいお嬢、これたぶんあんたが原因だぜ?」
「え、なんで?」
「マヨイガダンジョンを攻略すると動画で宣言していたでしょう。あの後直行したならともかく、SL銀河ダンジョン攻略で時間を取られましたからね。その間に、動画を見た人たちがやってきたんですよ」
「あー、なるほどぉ……じゃあみんな応援に来てくれたの? ありがとう、一緒にがんばりましょー!」
「おー!!」
夕菜ちゃんの言葉に、探索者たちが沸き立つ。
探索者達の意志が一つになる。流石だな。
カリスマ性ってやつか。
「それでは皆さん、これよりマヨイガダンジョンを攻略します!」
「「「おお~!!」」」
その時、明かりが消えた。部屋の中が闇に包まれる。
「なんだ!?」
「どうした!?」
みんながざわめく。そして……スポットライトが一段高い壇上を照らす。
そこにいたのは、一人の少女だった。十歳ぐらいだろうか。
和服の黒髪の美しい少女だ。
「おお、千百合ちゃんだ!」
「マヨイガダンジョンのマスコット!」
「座敷わらしの千百合ちゃんが出たぞ!」
……座敷わらし? 妖怪って奴だよな。遠野には妖怪が出ると聞いてたが……。
そして彼女が口を開く。
「人の子らよ、よくぞマヨイガへの道を訪れた。妾は座敷わらしの千百合、そなたらを案内すべく主より遣わされた……」
「いつもの喋り方でいいよー!」
「無理矢理のじゃ言葉使っててかわいー!」
「配信の時みたいにボクって言ってー!」
探索者達が声を上げる。
「……初めての人もいるんだよ!? ちょっとはかっこつけさせてくれてもいいじゃん。……はあ、わかったよもう。
えっと、改めまして、ボクは座敷わらしの千百合。
なんか今日はいつもよりマヨイガを目指す人たちが多いので、いっそのこといつもみたいにバラバラじゃなくて、みんなまとめて対応した方が盛り上がるんじゃないかなーって、そんな話になりました。
というわけで、こっちもみんな揃ってるし、シュウゴもここにいるから、総力戦……やっちゃいましょうかー!」
座敷わらしがそう言う。その言葉に探索者たちは拳を突き上げた。
「やってやるぞー!」
「今度こそ攻略してやるー!」
その言葉に、座敷わらしがにんまりと笑う。
「いいぞいいぞー!
みんなー、マヨイガに行きたいかー!?」
「おーっ!」
「それじゃあ……かかってきなさい人間たち! 妖怪が全力で歓迎してあげるよー!」
そして、マヨイガダンジョン攻略が始まった。




