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【コミカライズ企画始動!】あやかしダンジョン配信記~底辺配信者の俺、妖怪の地遠野にて美少女座敷わらしと共にダンジョン配信したらバズって大変な事に~  作者: 十凪高志
第三章 妖狐と殺生石ダンジョン

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第47話 ずるいきつね

「最近変な妖怪が出るって話だったんだよ。とにかく病院だね」


 事情聴取の後、お巡りさんは言った。


 さすが遠野人、話がわかる。東京じゃこうはいかなかった。

 まあ銃突きつけられたけど、そこはいい。状況的に俺が悪いし。


「この子は妖怪なんで、遠野アニマルクリニックをお願いします」

「……狐かい、珍しいね。わかった手配する」


 本当に理解が早くて助かる。


 現場検証と救急車の手配はお巡りさんに任せ、千百合と鈴珠の所にいく。


「大丈夫か、二人とも」

「うん……ボクは。でも……」


 千百合が答える。

 鈴珠は、もう変化している力が無いのか、子狐の姿に戻っている。金色の体毛が血で染まり、痛々しい。


 だけど……。


「えらいな、鈴珠は」


 彼女は、千百合を守ったんだ。だったら褒めてやらないと。

 俺は傷に触れないよう、負担をかけないよう鈴珠を撫でる。


「なんで……」

「ん?」


 千百合が言う。


「なんでこの狐、ボクを助けたんだよ。ボクはこいつを追い出そうとしたのに。こいつもボクが邪魔だったでしょ、それでボクが出ていってようやく清々したはずだよ。

 なのに、なんで……」

「……」


 なんでって、そりゃあ。

 そんなこと……


「……たすけ、たかった、から……です」


 鈴珠が、目を開けて言った。


「……鈴珠、無理をするな」

「……ちゆ、りさま……おぼえて、ますか……?

 わたしが、わたしたちが……しゅうごさまに、たすけてもらった、とき……」

 鈴珠はとぎれとぎれに、しかしはっきりと喋っていく。

「わたし……ひどいめにあって、けがして……つめたいろうやのなかにいれられて、もうしぬ、んだって……そ、んなとき……」



 ◇


 鈴珠は、気が付けば野にたった一匹で生きていた。


 自分自身が妖狐であるという自覚、意識はある。

 だが、はたして野の狐が妖怪化したのか、妖狐の親から生まれたのか、それとも人の思い……伝承や恐怖から発生したのか、その出自はわからなかった。


 わからずともよい。

 自分は生きているという認識。自分がどういう存在であるかという知識があれば、生きていくことに不都合はない。


 妖狐は、人を騙し、化かして生きていくもの。


 多少の罪悪感はあるが、別段人を殺し喰らって生きていくわけではない。そもそも自分にはそれだけの力もないのだ。

 人を脅かし、おいていった食べ物を食べる。猟師の獲物を横から奪う。作物を盗む。生きるために、ただ必死だった。


 しかしそういう生活が長く続くわけもなく――人間に捕まった。


 そして水虎テクノロジーの手に渡り、売られることとなったのだ。

 何度も逃げ出そうとして捕まった。


 そして、自分はもう死ぬのだと半ば諦めた時――修吾たちがやってきたのだ。

 そして、鈴珠は助かった。

 しかし、傷は深く、解放されたはいいがやはり死ぬのだと思った。それでもいい。冷たい牢屋の中で朽ち果てたり、人間達の玩弄物として弄ばれて死ぬよりはよほど。


 そう思った時――鈴珠を暖かいものが包む。


『はあ、知ってる? ボクって座敷わらしだから狐が大嫌いなんだよ。不倶戴天の敵だね』


 水虎テクノロジー襲撃の同行していた少女のようだ。

 その声は自分に対する文句ばかりだった。嫌っているのがわかる。

 だけど――その声とは裏腹に、鈴珠を抱きかかえる手は柔らかく、温かかった。


『なんでボクがこんな毛玉の面倒見ないといけないわけ? そもそもボクは今は治癒能力も無いんだけど。

 まったく、ドジ踏んで捕まって、ほんと迷惑な子だよ。

 迷惑だから――』


 体には包帯が巻かれている。いつのまにだろうか。巻かれることで傷口が痛むことは無かった。


 心なしか、痛みも和らいでいる。


 暖かい。


 こんな感覚は知らない。知らないのに――とても暖かくて懐かしくて、涙が出る。


『とっとと治りなよ、ばかぎつね。死んだら埋めたりとか色々と面倒なんだから。だから――とっとと元気になりなよ』


 目をあける。


 そこには、とてもやさしく笑う少女の姿があった。



 ◇


「だから――わたしは、すずは……ほんとうにうれしくて。

 おんをかえしたくて……でもそれが、がんばったのが……あなたを」

「もういい、もういいよ! もういいから喋らないで!」


 千百合が言う。


「おいつめて、かなしませて――おいだして、ごめんな、さい……」


 哀しいすれ違いという奴だ。

 どちらも子供なのだ。妖怪であるとか、何年生きているとか関係なく――

 だから間違える。だから失敗する。

 俺だってそうだ。

 二人がなにを想い、考え、悩んでいるかわからなかった、ただのバカだ。


 それでも――


「ずるいよ、ばかぎつね。こんなことされたら、認めない訳にいかないじゃん。

 ああもう、許すよ、許すから。ボクも出て行かないから。

 だから――

 死なないでよ、鈴珠」

「……おかあ、さん……」


 鈴珠を抱きしめる千百合。鈴珠はかすかに、しかし確かにそういう。


 母、と。

 そうか、鈴珠は千百合に母親を見て、そして認めてほしくてがんばっていたわけか。


 そしてその思いは――通じた。


「ふ、ふふふ、救急車、来たよ」


 いつの間にか来ていた日狭女が言う。


「警察も、お前か」

「う、うん。呼んどいたよ、あ、あと人払いも……ね、うひひ」

「そうか。助かったよ」

「わ、私が出来るのは……そういうことぐらいだから」


 日狭女はサポート役として実に有能だと思う。


「だ、大丈夫。死の……気配、少しずつ遠のいてる。きっと……助かるよ」

「そうか」


 心配はしていない。


 鈴珠には今、幸運の女神が、座敷わらしがついているのだから。

 だから――きっと大丈夫。


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