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お知らせ&おまけ

突然のことで、大変に恐縮ですが、

敵性最強種が俺の義母になってしまいましたは、89話で第一部完。

第二部の開始は、未定とさせていただきます。


このような判断に至ったのは、

当方がこの物語で書きたいものごとは、全て書き終えてしまったと気付いたためです。


これ以上話を展開しても、下手な引き延ばしになりかねないと考え、

とりあえずここで、物語はいったん終わりとさせていただく判断をいたしました。


ですが、何もかもがこれで終わりというわけではありません。

書籍版も発売していますし、

それに関連して、コミカライズのお話が来ております。


詳しい話はまだまだこれからのようで、もしかしたら立ち消えになる可能性もあります。

本決まりになりました際には、活動報告に書かせていただきますので、一読くださいますよう宜しくお願い致します。



あと、近日中に新しい物語を書き始める予定です。

書きたい物語は、いくつかありますから、その中から一つか二つを選んで連載する予定です。

こちらも、連載開始となりましたら、ご一読くださいますようよろしくお願いいたします。


それでは、長々と失礼しました。


以下、プロット段階だったらこの物語は、こうして締めくくられる予定だったというものを、少し端折りながら物語として書いてみました。

二部始めたら、たぶん違った結末になると思いますが、一応は捨てられた結末の一つという感じにお受け止めください。

物語中止のお詫びにもなりませんが、お楽しみいただけましたら幸いです。



『72話 対策探し の途中、襲撃者を組合に引き渡す前で、分岐』



 テフランが襲撃者たちを渡界者組合に引っ立てようと歩いていると、やおら周囲がバタバタと足音で騒がしくなった。


「もしかして、待ち伏せ?」

「そのようです。完全に囲まれてしまっています」


 ファルマヒデリアからの警戒の呼びかけに、テフランは襲撃者を繋いでいる縄をアティミシレイヤに渡し、鞘に入った剣の柄に手を置く。

 それから間を置かず、ワラワラと周囲に人だかりができた。

 誰も彼もが食い詰めた渡界者らしく、汚れた身なりと錆が浮いた武器を手に持っている。


「おい! 悪いこと言わねえから、その別嬪さんたちをこっちに渡せ!」

「渡せば、怪我なく坊主は帰ることができるぜ!」


 武器を向けての身勝手な言い分に、テフランは怒りを感じた。


「そう言われて、素直に従うと思ったのか!」


 テフランが剣を抜き放つ。

 だが、囲んでいる人たちは余裕顔だ。


「へへっ、いいのかよ、俺たちを殺してよお」

「こちとら明日をも知れない身だ。罪を犯して奴隷に落ちようと構わねえが、お前さんは有望な渡界者なんだろう。町中で人を殺すっていう、大罪を犯していいのかなぁ?」


 正当防衛であっても、人を殺したとあっては査問と判決を受けねばならない。

 そのため罪に問われる可能性もあり得るため、囲んでいる人たちが言っていることには一抹ほどではあるが、真理だった。

 罪を犯すかもしれないという事実から、テフランが持つ剣の切っ先が揺れた。

 その不安を見てとって、囲んでいる人たちは優位に立つことができたと考えた。


「ほら。別嬪さんを渡せば良いんだって」

「そうすりゃ、お前だけは怪我なく帰れるんだぞ」


 早く早くと囃し立てる奴らに、テフランは黙ったまま剣を鞘の中に戻してしまう。

 その行動に、テフランの心が折れたと考えた周囲の人たちは、一様に下卑た笑みを浮かべる。

 しかしその表情ができたのは、テフランが前に歩き出すまでだった。


「殺すのが問題なら、殴り倒してやるよ。そっちは武器を持っているんだ。そっちを殴り倒しても、こっちは防衛行動として罪に問われない!」


 固く拳を握りながら迫るテフランに、取り囲む人たちは少し怖気づいた表情をする。

 しかし、自分の手にある金属製の武器に目をやると、ほぼ全員がテフランを馬鹿にする笑みを浮かべた。


「へへへっ、獲物がそっちから飛び込んでくるなんて楽でいいや」

「腕に覚えがあっても、そっちは素手。この人数の武器持ちと戦って、無傷でいられると考えるなんて、目出度いやつだ!」

「うるさい。さあ、かかってこいよ」


 テフランの手招きに、囲んでいる人たちが一斉に襲い掛かってきた。

 大人数が迫ってくるという迫力。

 だが、テフランは気にした様子はない。


(アティミシレイヤとの訓練の方が、何倍も怖いし厄介だ)


 テフランは冷静に、最初の相手が振り下ろしてきた剣を、一歩後ろに下がって避ける。

 相手の剣先がテフランの金属鎧の表面をなぞり、少しだけ甲高い音が響く。

 ギリギリで避けきったテフランは、大きく一歩前へ踏み出し、斬り損ねたことに唖然としている相手に拳を叩き込む。


「ぽぎょぅ!」

「うわっ、あぶねえ!」


 吹っ飛んできた仲間に危うく武器を刺しそうになり、数人が足を止めて慌てて武器を上へと掲げる。

 包囲の一角の連携が崩れたのを見ながら、テフランは次の相手の攻撃を避けながら、足払いをしかけた。


「どえっ――あぶあぶ、踏むなこら!」


 倒れた人の上に、後続の人が迫り、危うく踏みつぶされそうなところで、そちらの進行も止まる。

 上々の滑り出しに、テフランは好調さを感じ取る。

 だが同時に、やはり人数差が圧倒的だという事実も受け入れざるを得なかった。


(ここはあえて傷を負って、武器で斬りつけられた、っていうこちらが武器を使っていい理由を作った方がいいな)


 そう考えたとはいえ、不用意に攻撃を食らうわけにもいかない。

 テフランは素手で攻撃してくる人たちを捌き、そして殴り倒しながら、傷を受けても大丈夫な攻撃を取捨選択していく。

 そして、その機会は早々に訪れた。


「こなくそー!」


 破れかぶれに放たれた一発の突き。

 攻撃の鋭さはなく、その切っ先には錆や汚れがない。

 かすり傷をあえて負うことができる攻撃であり、その刃で傷を受けても病気になる心配はない。

 テフランはそう判断すると、あえて一瞬対応を損なったように見せかけて、寸前で避ける。

 相手の切っ先が、テフランの二の腕の袖を破り、その下にある皮膚に傷をつけた。

 傷――といっても、せいぜいが薄皮を一枚斬られただけ。

 傷口からの出血も、にじむ程度で、唾を付けなくても、指先で拭っただけで血が止まりそうなほどの軽傷だった。

 とはいえ、袖口も敗れているため、怪我の具合以上に立派な傷に見える。


「よくも、やったな」


 テフランは思惑通りに事が進んだため、腰から剣を抜こうとする。

 その瞬間、背後に異様な気配を感じ取り、慌ててその場から横へと跳んで逃げた。

 退避した後に後ろを確認すると、笑顔のまま怒りのオーラを滲ませる、ファルマヒデリアがそこにいた。


「身勝手な言い分だけでなく、テフランに傷を負わせるだなんて、いい加減にしてください」


 ファルマヒデリアは片腕を上げると、そこに魔法紋を浮かばせた。

 手袋を透過して光る魔法紋の輝きに、襲撃者たちも驚きを隠せない。


「おい、待て! 町中で魔法をぶっ放してみろ! 剣で斬りつけたよりも大きな罪に――」

人間そちらの都合など、知ったことではありません」


 ファルマヒデリアは魔法紋が浮かぶ手を振り、石礫を空中に出現させると、指で弾くような音と共に敵対者たちに礫を射出した。

 次々に体に着弾し、肉を抉り、骨を砕く。

 一通りすべての礫が射出し終わると、そこには地面に倒れて血を流す人の群れができていた。


「痛ぇ、痛ぇ、よぉ……」

「足が、足が動かねえ。感覚もねえ」


 悲痛な声を上げる彼らを無視し、ファルマヒデリアはスッキリした顔をテフランに向けた。


「これで一安心ですね」

「町中で魔法を使うなんて! すぐにこの場から逃げるよ!」


 テフランは慌ててファルマヒデリアの手を取ると、アティミシレイヤたちについてくるようにと身振りする。

 しかしその行動は、一歩遅かった。


「騒ぎがあると聞いてみたら、なんだこの惨状は!?」


 驚きの声を上げる人の声。

 テフランがそちらに顔を向けると、町の警備の制服を着た人が数人立っていた。

 向こう側もテフランに気付いたようで、ほぼ全員が顔を向けてきていた。


「よりにもよって!」

「待て、そこの四人!」


 テフランは大慌てで逃げ出す。向かう先は迷宮だ。


「警備は町を守ることが仕事だから、迷宮の中に逃げちゃえば追ってこない!」

「ですがテフラン。こちらは悪いことをしていないのですから、逃げる必要はないのではありませんか?」

「俺たちを狙う人が多くいるんだよ。警備の人たちや権力を持った人に通じる人がいるかもしれないでしょ!」

「ああー、それもそうですね」


 納得した顔のファルマヒデリアに、テフランは腹立たしく感じながら、迷宮の中へと飛び込んだのだった。





 テフランたちは、適宜休憩を入れつつも、急いで迷宮の奥へ奥へと進む。

 そして、一定以上の実力を持つ渡界者だけが来れる地区に着くと、そこで休憩することにした。


「ああー、これでしばらくはショギメンカの町には帰れないな……」


 期待できるのは、事情を知っているため組合長のアヴァンクヌギが、弁護してくれることだけだろう。

 深刻な事態になったことに、ファルマヒデリアもようやく反省する気持ちになった。


「申し訳ありませんでした。テフランに任せようとは思っていたのですが、我慢できず……」

「いや、俺が怪我を負ったことに動揺したんでしょ。やり方はまずかったけど、心配してくれたこと自体にはお礼をいうべきだった。ありがとう、ファルリアお母さん」

「そう言ってくれて、ホッとしました」


 微笑みが戻ったファルマヒデリアは、料理を作り始めた。

 その横姿を見ながら、テフランは他の二人に意見を求める。


「それで、これから俺たちが取る道は、二つしかない。一つ目は、迷宮の中にこもって、しばらくしてから出ていくこと。二つ目は、迷宮の奥へ行き、そこから別の国へと行く道を辿ることだ」

「町に愛着があれば一つ目を、なければ二つ目にすればいいのではないか」

「んっ。それがいい」

「愛着があるかどうかか――育った町だから、あると言えばあるけど……」


 テフランも渡界者である。そしてショギメンカは初心渡界者の町として有名な場所。

 実力が上がれば、自然と町を出ていくような考えもあったので、離れることに寂しさを覚えても、忌避するという感覚はない。


「俺としては、別の国に行ってもいいんだけど……」

「なにはともあれ、決めるのはテフランだ」

「んっ。決定、従う」


 選択を委ねられて、テフランは一層困ってしまった。

 そこに助け舟を出したのは、料理を作っていたファルマヒデリアだった。


「あの町から離れてもいいと言うのでしたら、もう一つ、行く候補がありますよ」

「候補って、他の国でもなく、ショギメンカでもないって、そんな場所がどこにあるんだよ」


 まるで謎々のような発言にテフランが眉をしかめると、ファルマヒデリアは地面を指した。

 テフランはその指先を辿って下を見るが、そこのは変哲もない地面があるだけだった。


「地面――いや、それより下。地底世界っこと!?」

「その通りです。テフランの夢、だったんですよね。地底世界に行くことは」

「それは、俺が自分の実力で行くことに意味があるんだよ!」

「まあまあ。とりあえず、地底世界の一歩手前まで行ってみませんか。地底世界には、行かなくてもいいですから」


 ファルマヒデリアは何か企んでいる様子だったが、テフランはその提案に揺れた。

 なにせ、地底世界直前の区画は、人間は誰も到達できていないとされている場所だからだ。

 そこの情報はまったくなく、未知の区画。

 どんな魔物がいるかも、どんな罠があるかもわからない。

 そんな場所を見に行ける機会を提示されて、渡界者が興味を抱かないはずがなかった。


「で、でも――」

「どうせ迷宮内にいるか、他の国に行くかなんですから、暇つぶしに少しばかり寄り道しても良いと思いませんか?」

「う、うーん。じゃあ、少しだけ。でも、地底世界は入らないからね!」

「わかっています。その一歩手前まで、案内するだけですから」


 ファルマヒデリアはテフランが乗り気だと見ると、否定意見がないかをアティミシレイヤとスクーイヴァテディナに視線で確認。

 二人とも、テフランが良いのならと、頷き返した。




 地底世界一歩手前までの旅路は、人間の尺度で考えたら破滅的に困難だった。

 人類未踏の区画など、神殿を思わせる内装の通路なのに、そのそこかしこにどれほど鍛えれば倒せるかわからない魔物と、対処を誤れば即死級の罠の数々。


(こんな場所、まともな神経では一日も居られない)


 テフランは背筋に冷たいものを感じる。 

 だが、それらの魔物や罠に比しても、より危険な存在がテフランの身近に侍っている。

 ファルマヒデリアたちだ。


「人が来ない場所というだけあって、魔物の敵意が高めですね」

「暇をしていたところに、絶好の獲物がやってきたのだ。一念発起して襲い掛かってきても、仕方があるまい」

「でも、面倒」


 テフランが死を覚悟する魔物を、三人は軽く魔法で殲滅してしまう。

 人だと解除どころか発見が難しい通路の罠も、弱い攻撃魔法を歩いていく場所へ先にまくことで、先に誤作動させて無効化している。

 あまりの楽勝ぶりに、テフランは頭痛がしてきた。


「こんな攻略の仕方を知ったら、人間がダメになりそうだ」

「でも、私たちの力はテフランの力でもあります。ですので、なんら恥じることはないと思いますよ」

「命がけで告死の乙女に従魔化を実行したんだ。胸を張って、我々の力に頼るといい」

「んっ。私たち、テフランのしもべ。主、しもべ、使うの、当然」

「それはそうなんだろうけどさ……」


 渡界者として考えるなら、使える者は何でも使うのが当然。それが仲間の実力なら、いわずもがな。

 しかし、テフランの青い感性からすると、ファルマヒデリアたちの力を借りて迷宮を攻略することは、とてもズルいと感じてしまうのだ。


「……三人の力だけで迷宮を進むのは、今回一回きりにする」


 そのテフランの判断に反論するかと思いきや、ファルマヒデリアは笑顔で受け入れた。


「はい、今回だけですね。重々、承知しております」

「なーんか、怪しいんだよなぁ……」


 テフランが白い目を向けても、ファルマヒデリアは笑顔のまま。

 そうこうしているうちに、地底世界へあと一歩のところまでやってきた。


「ここが、一歩手前の場所?」


 テフランが疑問視したのは当然のこと。

 なにせ、その場所は大きな安息地で、中に一人、告死の乙女が立ち佇んでいたからだ。


「あの告死の乙女を倒せば、地底世界に行けるってこと?」

「いいえ。倒さなくても、あの奥の壁面が扉になってまして、あれを開ければそこが地底世界です」

「へー、そうなんだ……」


 テフランはつい何も感じていないような口調を出してしまったが、視線はファルマヒデリアが指す壁面に釘付け。

 地底世界が気になっている様子が隠せていない。

 ファルマヒデリアはその様子に微笑むと、安息地の中へと入っていってしまった。


「ちょっと、ファルリアお母さん!?」

「大丈夫です。挨拶するだけですから」


 ファルマヒデリアは心配いらないと身振りし、大部屋中央に立つ告死の乙女に近寄った。

 そして二言三言交換すると、本当に何事なく戻ってきた。


「なにを話してきたの?」

「世間話と、テフランのことですね」

「俺のこと?」

「はい。テフランは三人の告死の乙女を配下にした猛者。この先に行く資格は十分にあるんじゃないかと尋ね、それが私の判断ならと許可をもらいました」


 テフランは相槌を打とうとして、話の流れが変なことに気付く。

 その疑問を口にする前に、アティミシレイヤとスクーイヴァテディナが左右からテフランの腕を抱え込んだ。


「わっ。ちょっと、何するんだよ!」

「さあ、テフラン。夢を叶える時間だ」

「んっ。旅立ちのとき」

「なにを言って!?」


 テフランが上げた声は、ゴリゴリと岩を擦り合わせるような音にかき消された。

 音がする方向を見れば、大部屋の奥の壁面が開いている。

 奥にあるのは、なにもない小部屋。

 その光景を見て、テフランは目を丸くする。


「もしかして、ここに地底世界があるっていうのは、嘘だったの!?」


 告死の乙女に反逆されたと、テフランは慌てて暴れるが、アティミシレイヤとスクーイヴァテディナに抑えられて逃げだせない。

 そしてそのまま、小部屋の中へと投げ入れられた。


「うわあああああああ――って、あれ?」


 テフランの姿は、小部屋の中の空中に浮かんだまま。一向に地面に落ちる気配はない。

 どうしてかと理由を考えようとして、それより先に地面に輝く魔法紋が現れた。


「この模様、どこかで――あっ! 転移罠の魔法紋!」


 細かい模様は違っているが、大まかな印象は転移罠のものに似通っていた。

 どういうことかとテフランがファルマヒデリアたちに視線を向けると、三人とも寂しそうな表情をしていた。


「これが地底世界へ通じる転移の魔法――いえ、正確に言うのでしたら、別の世界に跳ぶ魔法です」

「そして、我々はこの身に魔法紋が多量にあるため、その魔法は通用しない」

「だから、バイバイ」


 三人の言葉に、テフランはハッとする。


「まさか、ファルリアお母さんが、俺が体に魔法紋を入れることを拒んだのって!?」

「はい。テフランの夢が地底世界だと知り、この転移の魔法に悪影響がでないようにという配慮です」

「迷宮に挑ませたくないって常々言ってたのは!?」

「テフランが危険だからが第一ですが、テフランが夢を叶えた際には、私たちは主と別れなければいけませんから」


 語られた理由に、テフランが愕然としていると、小部屋の魔法紋が段々と輝きを強め始めた。

 転移まで時間がないと知ると、テフランはファルマヒデリアに必死の顔を向ける。


「こんな別れなんていやだ。どうすれば、こっちの世界に戻ってこれる?」

「向こう側でも同じように、迷宮があるはずです。そこを踏破すれば、こちらの世界に帰ってこれます」

「じゃあ、俺が返ってくるまで、待っててくれるよね!?」

「そうはいたしますが、それほど長い時間は待てません。なにせ、迷宮の大転換が起これば、迷宮内にいる告死の乙女は消滅し、新たに生まれ変わることになりますから」

「ってことは、今年はもうかなり経ったから、三年以内に地底世界の迷宮を踏破しなきゃいけないってこと!?」


 テフランは呆然としたが、すぐに表情を引き締めた。


「わかった。三年以内に戻ってくる。だから待ってて!」

「はい、お待ちしておりますね、テフラン」

「テフランならできると信じている。また会える日を楽しみにしている」

「了解。またね」


 そう言葉を交わした後すぐに、小部屋の魔法紋が強く輝き、テフランの姿はその光の中に掻き消えるようにして消滅した。






 テフランが目を覚ますと、目に入ってきたのは異様な光景だった。


「太陽の向こうに地面がある」


 顔を横向かせると、地平線がゆっくりと上向きにカーブを描いている。

 視線で辿ってみると地面は上空へと軌道を取り、やがて反対側の地平線へと続いていた。


「大きな球の内側にいるみたいだ」


 呟きながら体を起こすと、寝ていた場所はどこかの平原。

 草の色は緑ではなく、すべてが青色だった。


「本当に地底世界に来たんだ……」


 テフランは自分の夢が――半ば無理やりだったとはいえ――かなったこと、それと目新しい異世界の姿に感動を覚えた。

 しかし、すぐにその気持ちはしぼみ、新たな目標が心を支配した。


「よしっ。じゃあ元の世界に戻るため、地底世界の迷宮に行ってみるとするか」


 テフランは立ち上がると左右を見回し、街道を発見する。

 その上まで移動すると、轍が太い方向へ向かって、一歩一歩歩き始めたのだった。



以上、第一部完。

第二部再開未定。


いままでのご愛顧、有り難うございました。

次の作品、投稿しましたさいには、是非ともよろしくお願いいたします。

近日中に公開します!

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