54話 決着
いつも当物語を楽しみにして下さる方々へ。
恐縮ですが、話の展開が気に入らなかったため、誠に勝手ながら、53話を修正いたしました。
お手数ですが、ご確認くださいますよう、よろしくお願いいたします。
加えて、修正に伴い、当54話に修正前の53話の内容が一部含まれる流れとなっております。
ご了承ください。
剣が発した嫌な音を聞いて、テフランだけでなくアティミシレイヤも動き出す。
「アティさん。少しの間、押さえておいて」
「任された。だが、早めに復帰してくれ」
アティミシレイヤが連続攻撃に切り替えることで、告死の乙女の狙いを自分自身に強制的に固定させる。
「援護します!」
ファルマヒデリアもフォローに回り、魔法で告死の乙女を攻撃していく。
だが事前の説明通りに、ファルマヒデリアとアティミシレイヤの連携は思うようにいかないようで、
二人が奮闘してくれている間に、テフランは破断した剣の状態を見る。
先ほど杖の一撃を受けた場所が歪み、その影響で刃の中央部分に大きな亀裂が走ってしまっている。
しかし美味い具合に、魔法紋のある位置に亀裂はかかっていないため、魔法の発動には支障はないようだった。
安心して戦線に復帰しようとして、テフランは剣に違和感を覚えた。
(待て。なにか剣身が変だ)
深く観察すると、剣身に刻まれた魔法紋の周辺、その金属の色がくすんでいる。
嫌な予感を感じたテフランは、爪でくすんでいる縁を引っ掻いてみた。
すると、まるで錆びているかのように、触れた場所の金属がパラパラと細かく剥がれた。
(これは――魔法紋による変異劣化!?)
魔法紋には、魔法を使用すればするほど、周辺部位に劣化を及ぼす反作用が備わっている。
体に刻まれていれば、肌や肉が変容して出血を強いる。
そして道具に刻まれていれば、いまのテフランの剣のように、強度が下がる結果となる。
(考えてみれば、この剣はいままで色々と酷使してきたしな)
アティミシレイヤの従魔化、人造勇者との戦い、その他強い魔物との戦闘、そして今回の黒と金の髪を持つ告死の乙女戦。
テフランとしては大事に使ってきたが、これだけの戦いを経れば、剣の寿命がきてもおかしくはなかった。
(剣がこの調子なら……)
テフランは自分の鎧の胸元に触れ、魔法紋がある付近を指でなぞる。
こちらは剣とは違い、指に剥離した金属の粉はつかなかった。
しかし、告死の乙女からの斬撃や杖で打撃をあえて受けた場所には、見逃せないへこみや傷がついている。
(剣だけじゃなく、鎧の寿命も近い。長々とは戦えない)
かといって、ここで逃げる選択は選べない。
そんなことができるほど、告死の乙女という存在は甘くないと、ファルマヒデリアとアティミシレイヤを通して、テフランは悟っていた。
そして戦いの情勢が、テフランが抜けたことで、一気に告死の乙女に傾いている状況を見て、テフランは思う。
(これはもう、あの告死の乙女を倒すことは諦めるしかない)
そう思いながらも、テフランの顔には緊張と決意が満ちていた。
(三人で生き残るには、短期決着が必須――つまり、あの告死の乙女に口づけして、従魔化するしかない)
一歩間違えれば、テフランは肌が振れるほど接近しようとしたところで、殺されてしまいかねない。
しかし、ここで日和って状況を長引かせても、剣と鎧の限界を機にジリ貧な状況に陥ってしまう。
(なら、命を懸けて、生を拾わなきゃな)
テフランは腹を括ると、チャンスが訪れるまで耐えてくれと、限界が近い剣と鎧を撫でてから、ファルマヒデリアとアティミシレイヤが支えてくれていた戦線に復帰した。
テフランの剣の不調は、ファルマヒデリアとアティミシレイヤも分かっている。
そのため、テフランが戦線に復帰した際、そのことを考慮して連携を組み立てようとしていた。
だが、理解していたのは二人だけではなく、敵対している告死の乙女もだった。
そのため、戦い方が先ほどまでと変化することになる。
剣はアティミシレイヤを押えるために使い、魔法はファルマヒデリアに放って牽制し、衝撃による武器破壊を狙える杖のみでテフランを攻撃する。
テフランは不安のある剣でどうにかいなし、苦慮の呻きと共に声を放つ。
「くっ、やっぱり学習されているよな!」
次々に振られてくる杖に、テフランは真正面から受けないように心掛けながら、受け流していく。
しかし一撃防ぐごとに、剣から小さく破断の音が発生する。
剣の寿命は、もう何分もないかのような予感があった。
それでも、テフランはじっと機会を待った。
(戦闘可能時間が少ないことは、魔法紋の過剰使用で体から出血がある、告死の乙女も同じだ。ここは剣が折れる前にどうにかするんじゃなく、剣が折れた後こそが勝負)
二度の告死の乙女を従魔化した経験から、テフランは勝負所を予想し、焦りのない顔で粘り強く防御を続ける。
そんなテフランの様子のお陰で、ファルマヒデリアとアティミシレイヤも、なにか策があるのだろうと察した。
そして二人は、テフランが動き出したときに確実に対応するべく、心構えを固める。
三人の思惑が重なる一方で、告死の乙女はひたすらにテフランを排除しようと動く。
その行動は、まるでテフランの剣さえ折れば、勝負に勝てると確信しているかのようだ。
(最初に剣から異音がした際、俺は戦列を離れた。そのときにこの告死の乙女は、『俺は武器を失えば逃げる』と間違った学習したんだろうな)
予想を立てつつ、テフランは待っていた機会が訪れたことを察知する。
告死の乙女が杖を振り下ろしてくるこの瞬間、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは次の行動に移ろうと一瞬の間を取っていた。
いま動けば、動きに二人が追従してくる。
そうテフランは確信し、迫ってくる杖に、あえて剣をぶつけた。
限界にきていたテフランの剣は、打たれた衝撃で真っ二つに折れる。
(ここだ!)
折れた先が空中を回転しながら飛ぼうとする光景を目の端に入れながら、テフランは体を前に投げ出す。
目標とする告死の乙女の顔は、手を伸ばせば届く位置にある。
その場所へテフランが体を運ぶまで、ほんの数秒――三歩進める時間さえすればいい。
しかし、それだけの時間があれば、告死の乙女が再攻撃するには十分である。
「…………」
無言だが、武器を振るう呼吸を、告死の乙女が放つ。
アティミシレイヤを押えることに使っていた剣が、テフランの胴体へ振るわれる。
刃が衣服に触れる寸前、急停止。
アティミシレイヤが伸ばした腕を、剣の根本に『噛み込ませる』ことで受け止めたのだ。
この攻防で、テフランが一歩進む時間が消費された。
浪費した分を取り返すように、告死の乙女は杖でテフランを攻撃しようとする。
だが既に、テフランは杖の攻撃圏の内側に入り込んでしまっていた。
そのうえ、いま告死の乙女が杖を振った際、腕がとる軌道の上に折れた剣を掲げている。
幸いなことに剣の魔法紋は辛うじて機能しているため、杖を振って残った刃に触れた瞬間に、告死の乙女の腕は切り裂かれてしまう。
そうなれば、握力を失い、テフランに杖を当てることはできなくなる。
告死の乙女が行動を取りやめる間に、さらにテフランが一歩進む。
もう息がかかる距離。
告死の乙女は杖を手放して、テフランを殴りつけて下がらせようとする。
そこに上空から刃が飛来し、告死の乙女腕に突き刺さった。
その刃は、ファルマヒデリアが魔法で飛ぶ方向を変えた、折れ飛んだテフランの剣の前半分。
突き刺さった威力で、告死の乙女の腕は無理やりに下げさせられ、テフランを殴ることはできなくなった。
これで、さらに一歩、テフランが進む。
もはや、テフランと告死の乙女の顔の間に空間はない。
テフランが顔からぶつかるように、告死の乙女の唇に口づけした。
歯が合わさった音が軽く響くが、テフランは唇を押し付けたまま、相手の首筋に抱き着く。
こうして、口づけによる告死の乙女の従魔化は始まった。




