エピローグ イチャイチャが連鎖して、みんな幸せになりました
中学校の生徒会と打ち合わせをした、帰り道。
俺と優愛は顔から火が出そうな恥ずかしさを抱えて歩いている。
というのも卒業式の桜の下でイチャイチャしてたら、生徒会の人たちに『他の生徒たちの教育に悪いので……』と気まずそうに注意されてしまったからだ。
正直、めちゃくちゃ恥ずかしい。
高校生なのに中学生に注意されるって。
しかも内容がバカップルだったからだなんて。
どっからどう見ても新たな黒歴史の誕生である。
で、お嬢様も歩きながら頭を抱えていらっしゃる。
「あ~、このわたしとしたことがっ。真広とイチャイチャしてると、なんでこうブレーキが効かなくなっちゃうのかしら……!?」
「まあ、恋人同士ってそういうものだから……」
「この件が噂になってウチの生徒会にも届いたらどうすればいいのっ!? 三上会長や唯花さんの耳に入ったら……っ」
「あー、まあそれは大丈夫だと思うよ……?」
「なんで言い切れるのよっ」
たぶん噂が届くことはあると思う。
30分ぐらいイチャイチャしてたから、生徒会の人たちだけじゃなく下校中の生徒にも見られたりしてるだろうし。
ただ、たとえ三上会長や如月先輩の耳に入ったとしてもあまり問題じゃない。なぜなら、
「こないだ、文化祭の打ち合わせで三上会長の母校の生徒会長くんが来たの覚えてる?」
「ああ、唯花さんの弟さんね。わたしは庶務の仕事で途中からの合流だったけど」
「うん、その弟さん。初対面の挨拶で開口一番、俺になんて言ったと思う?」
「? なんて言ったの?」
「すごく申し訳なさそうな顔で『ウチの義兄と姉がいつも所構わずイチャイチャしてすみません……』って」
「あー……」
優愛、一瞬で納得顔。
そうなのである。
三上会長と如月先輩はいつも所構わずイチャイチャしている。なんなら呼吸するよりイチャイチャしてる方が多いんじゃないか、ってくらいだ。
だから俺と優愛が多少イチャイチャしてたところで、それは平常運転。すべて世は事もなし、である。
「なんにも解決になってないけど、なんだかぜんぶ解決したような気がするわ……」
「でしょ?」
「あと弟さんが若干不憫ね」
「それはそう思う」
弟さんにも恋人がいたらいいな。
そしたらお義兄さんとお姉さんがイチャイチャしてても多少は気が紛れるだろうし。
あ、でもひょっとすると、とっくにいるかもしれない。なんか分からないけど、三上会長と如月先輩のイチャイチャって連鎖するし。
正直、俺と優愛も普段から上級生のイチャイチャっぷりを浴びてることで影響されてる気がしないでもない。
あ、そうだ。
イチャイチャが連鎖するといえば……。
「優愛、ぜんぜん関係ない話していい?」
「なあに?」
「まあ、まったく関係ないってわけじゃないんだけど……」
隣を歩く彼女へ視線を向け、俺は口を開く。
「ウチの両親、ヨリを戻すって」
「えっ!?」
素っ頓狂な声を上げ、優愛が足を止めた。
「ヨリを戻すって……真広のおばさまとお父様が!?」
「うん、そう」
俺も合わせて立ち止まり、ただただ苦笑。
ちなみに中学の頃から面識があるせいで、優愛はウチの母さんを今も『おばさま』呼びしている。逆に父さんは婚約者になってから会ったから『お父様』呼びらしい。
最近は『そろそろお母様呼びにしたいわ……っ』って言っているけど、まあそのうち機会があるだろう。
それはともかく、優愛が驚くのも無理はない。
そもそも俺と『藤崎さん』が急接近したのは、ウチの両親の不仲がきっかけだった。しかも付き合ったイブの日に両親は離婚して、そのまま現在に至っている。
いや至っていた……か。
「なんか最近、俺に隠れて2人でコソコソ会ってたみたい。で、来週、役所に結婚届を出して再婚するって。父さんもウチに帰ってくるらしいよ」
「な、なんでいきなりそんな急展開になってるの……?」
「いや急展開っていうか、じりじりそういう感じにはなってたみたいなんだ。なんていうか……」
俺は苦笑いで頬をかく。
「俺たちを見てて、気持ちが再燃しちゃったんだって」
「へ?」
優愛の目が点になった。
うん、そうだろうなぁ。
俺も昨日、リビングでそうなった。
「なんて? 『俺たち』って……わたしと真広ってことよね?」
「うん、もちろん。つまり息子が彼女とイチャイチャしてるのを見て、昔を思い出して……って感じらしいよ?」
「え、ええー……」
最初は母さんの方だったらしい。
まあ、休みの日に優愛がしょっちゅう家に来てるから、そうだろうと思う。
まず母さんが俺たちのイチャイチャに当てられて、父さんもこないだ俺と藤崎グループのレストランにいった時に偶然優愛に遭遇し、母さんから息子たちの話を聞くようになって……最終的に気持ちが再燃。そんな流れだそうだ。
「待って、正直すぐには飲み込めないわ……だって中学生の時、おばさまとお父様の離婚を阻止しようとして、わたしたち色々頑張ったわよね? それで駄目だったのに、普通に何も考えずにイチャイチャしてたら復縁って……」
「優愛、今の状況にぴったりのことわざがあるよ?」
「え、なに?」
「北風と太陽」
「あ~……」
無理を通そうとして色々するより、ポカポカ温めた方が上手くいくこともある。っていうことなのかもしれない。
「なるほどね……勉強になったわ。そうね、一周回って本当に勉強になった気がする。どっちかと言うと、わたし、北風側だし」
「あ、自覚あったんだ」
「こら、どういう意味よー?」
「いやほら、お嬢様は勢いあるし、エネルギーに溢れてるし」
「言っとくけど、あなたもたまにメチャクチャするし、どっちかと言えば北風側だからね?」
「え、そう?」
「そうよ」
「じゃあ、まあ俺たちは2人揃ったら太陽ってことかなぁ。少なくともウチの両親で実績あるし」
「ま、それならいいんじゃないかしら? ……っと、あ、そうだ」
歩きだしかけたけど、その途中で何かを思い出したように優愛は足を止めた。
そして、じぃーっとこっちを見てくる。
「え、なに?」
「……こないだ、唯花さんから教えてもらったことがあるの」
「如月先輩に?」
「そ。本当は週末に真広の家に行った時にでもしてあげようと思ったけど、せっかくだから今してあげる」
そう言うと、優愛はちょっと屈んで手招きする。
「秘密の話をするから耳貸しなさい」
「耳?」
秘密の話ってなんだろう?
お嬢様の優愛が言うくらいだから……もしかして藤崎グループの何かかな?
でも株とか経営の話をされても俺には分からないし……あ、でもそもそも如月先輩が教えてくれたことなんだっけ?
そんなことを考えているうちに優愛が耳元で囁いてきた。
「いい? 真広」
果たして、藤崎グループの社長令嬢・藤崎優愛が口にする秘密とは――。
「……すーき♡」
「――っ!?」
秘密でもなんでもなかったーっ!
不意打ちにめちゃくちゃ狼狽えてしまい、俺は赤くなった顔を押さえる。
一方、優愛はしてやったりのイタズラ顔。
「どう? 太陽の温度、上がったかしら?」
「め、めちゃくちゃ上がったけどさ……!」
恐ろしい。
如月先輩、なんて技を優愛に伝授してくれるんだ。
危うく心臓が口から飛び出るところだった。
「って、優愛も顔真っ赤じゃん!」
「う、うるさいわね~」
勝ち誇ったイタズラ顔をしつつも、優愛の頬っぺたはイチゴのように赤くなっていた。
「唯花さんみたいな可愛い系の感じ、慣れてないんだから仕方ないでしょっ」
「……うーん、でも思い返すと、今のすごく良かった気がする。えっと……もう一回してもらっていい?」
「は、はあ!? 何言ってるのよ!? いいけどっ!」
「いいんだっ!?」
そうして、帰り道でまたイチャイチャしてしまう俺たちなのでした。
………………。
…………。
……。
ちなみに。
この後もイチャイチャは連鎖して、幸せはスパイラルして、太陽の温かさはどんどん大きくなっていき……三上会長の卒業後、我が校初のダブル生徒会長が誕生したりするのだけど、それはまた別のお話――。
ご愛読ありがとうございました!




